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3 魔法学校の聖人候補
517 研究者メイロード
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517
「やっぱりこういうのってお互いに有益であることが必要だと思うんだよね」
今日は魔法学校で行われることになった研究発表会に向けての有識者会議、というやつを行なっている。具体的には、出場が有力視されている学内の研究者や魔法科学系の同好会の代表の方々に、この初めての試みに関する意見を聞き、運営の参考にしようというものだ。
実行委員会が煮詰まっているとオーライリに言われ、私が入れ知恵し、こういった会議を提案させたのだ。
おかげで実際の研究者の意見をいろいろと知ることができ、必要なもの必要ないもの、時間の配分など様々な点について改善点が浮かんできた。そしてその中で、研究者たちからひとつの要望が出てきた。
「研究の発表ができることは嬉しい限りですが、時間のかかる研究もありますし、自分たちの努力の結晶なので、すべてを公に開示するのはちょっと抵抗もあります」
つまり、概要はいいとしてもその詳細なデータといった地道に積み上げてきた情報を一般に開示するのは、情報を一方的に提供することになり、不平等だというのだ。なるほど確かにその通りだ。審査員に開示するのは構わないが、もし他にも開示するというなら、他の研究者の間だけに留めてほしいということらしい。
(なるほど、ギブ・アンド・テイクってわけか。こちらの情報の代わりに他の研究者の情報もよこせ……っと)
考えてみれば当然の要求かもしれない。多くの魔法研究者の研究内容は自分の魔法使いとしての実力を高めるためのものだから、研究を評価されたいという思いと同等に、それをむやみに知られたくないという思いもあるのだろう。
結局、研究発表時の〝概要〟は一般に公開するが、それ以上の詳細な研究成果のやり取りは、研究発表をして成果が認められた者の間に限られる、ということになった。
さらに、彼らの研究に興味を持った生徒たちが彼らに教えを請うことはできるが、その場合の取捨選択権は研究者に一任され、いかなる場合も拒否できる、と決まった。
だが、この決定によって私の〝色々な研究者の発表を見て《白魔法》復活のヒントを探しちゃおう!〟計画が頓挫する可能性も出てきてしまった。発表会で概要を聞いて興味を惹かれても、このままではそれ以上踏み込めない可能性が出てきてしまったからだ。
普段は地蔵のように何も発言せず静かに微笑んでいる私も、さすがにここでは発言せざるを得なかった。
「あ、あの、研究発表会への生徒会役員の参加は認められるのでしょうか?」
私からの意外な質問に、実行委員はしばらく議論していたが、いかなる場合も学業優先という学校の方針から、生徒会そして実行委員も可能ならば研究発表会への出場は許可される、と正式に決まった。これには、審査に関しては生徒会は一切関わらず先生方のみによる協議によって決定される、と決まっていた点も大きいだろう。実行委員だからといって何も有利な点はないので、問題なしとなった。
オーライリは会議のあとニコニコとしながら私に
「どんな研究発表をなさるんですか?」
と目を輝かせて聞いてきた。
「えっと、まだなんにも決めてないんだけどね。一応聞いてみただけよ」
実際、今日の会議を受けて急遽考えたことなので何も決まっていない。ただ、研究発表会である程度の水準を満たす研究成果を披露しないと、他の人の研究の詳細を知ることができないのは確かなので、ともかく出場できるかどうかを確認したかっただけだ。
「メイロードさまが出場されるとなったら、皆気合が入りますよ。まだ在学中の聴講生に、研究者が負けたら大恥ですからね。きっと探りを入れてくる人たちもいると思いますので、お気をつけくださいね」
オーライリはそういうが、スパイ活動に関してならこちらの方がよほどプロだし、グッケンス博士の研究棟に忍び込めるような人は魔法学校でもそうそういないと思う。そういう意味では、私にはどこでも忍び込めるセーヤとソーヤがいるから、気になった相手の研究室へと忍び込んで、覗き見することはわけない。でも、ここはやはり敬意を表して正攻法で行きたいし、直接研究者本人の話も聞きたい。
相手にちゃんと研究者として認めてもらってこそ得られる情報もあるだろうし、まだ半年ほど余裕があるから、その間に何かひとつ発表できるよう研究してみることにしよう。
(とりあえず、この間の魔石と銀の骨の研究をしてみようかな)
「やっぱりこういうのってお互いに有益であることが必要だと思うんだよね」
今日は魔法学校で行われることになった研究発表会に向けての有識者会議、というやつを行なっている。具体的には、出場が有力視されている学内の研究者や魔法科学系の同好会の代表の方々に、この初めての試みに関する意見を聞き、運営の参考にしようというものだ。
実行委員会が煮詰まっているとオーライリに言われ、私が入れ知恵し、こういった会議を提案させたのだ。
おかげで実際の研究者の意見をいろいろと知ることができ、必要なもの必要ないもの、時間の配分など様々な点について改善点が浮かんできた。そしてその中で、研究者たちからひとつの要望が出てきた。
「研究の発表ができることは嬉しい限りですが、時間のかかる研究もありますし、自分たちの努力の結晶なので、すべてを公に開示するのはちょっと抵抗もあります」
つまり、概要はいいとしてもその詳細なデータといった地道に積み上げてきた情報を一般に開示するのは、情報を一方的に提供することになり、不平等だというのだ。なるほど確かにその通りだ。審査員に開示するのは構わないが、もし他にも開示するというなら、他の研究者の間だけに留めてほしいということらしい。
(なるほど、ギブ・アンド・テイクってわけか。こちらの情報の代わりに他の研究者の情報もよこせ……っと)
考えてみれば当然の要求かもしれない。多くの魔法研究者の研究内容は自分の魔法使いとしての実力を高めるためのものだから、研究を評価されたいという思いと同等に、それをむやみに知られたくないという思いもあるのだろう。
結局、研究発表時の〝概要〟は一般に公開するが、それ以上の詳細な研究成果のやり取りは、研究発表をして成果が認められた者の間に限られる、ということになった。
さらに、彼らの研究に興味を持った生徒たちが彼らに教えを請うことはできるが、その場合の取捨選択権は研究者に一任され、いかなる場合も拒否できる、と決まった。
だが、この決定によって私の〝色々な研究者の発表を見て《白魔法》復活のヒントを探しちゃおう!〟計画が頓挫する可能性も出てきてしまった。発表会で概要を聞いて興味を惹かれても、このままではそれ以上踏み込めない可能性が出てきてしまったからだ。
普段は地蔵のように何も発言せず静かに微笑んでいる私も、さすがにここでは発言せざるを得なかった。
「あ、あの、研究発表会への生徒会役員の参加は認められるのでしょうか?」
私からの意外な質問に、実行委員はしばらく議論していたが、いかなる場合も学業優先という学校の方針から、生徒会そして実行委員も可能ならば研究発表会への出場は許可される、と正式に決まった。これには、審査に関しては生徒会は一切関わらず先生方のみによる協議によって決定される、と決まっていた点も大きいだろう。実行委員だからといって何も有利な点はないので、問題なしとなった。
オーライリは会議のあとニコニコとしながら私に
「どんな研究発表をなさるんですか?」
と目を輝かせて聞いてきた。
「えっと、まだなんにも決めてないんだけどね。一応聞いてみただけよ」
実際、今日の会議を受けて急遽考えたことなので何も決まっていない。ただ、研究発表会である程度の水準を満たす研究成果を披露しないと、他の人の研究の詳細を知ることができないのは確かなので、ともかく出場できるかどうかを確認したかっただけだ。
「メイロードさまが出場されるとなったら、皆気合が入りますよ。まだ在学中の聴講生に、研究者が負けたら大恥ですからね。きっと探りを入れてくる人たちもいると思いますので、お気をつけくださいね」
オーライリはそういうが、スパイ活動に関してならこちらの方がよほどプロだし、グッケンス博士の研究棟に忍び込めるような人は魔法学校でもそうそういないと思う。そういう意味では、私にはどこでも忍び込めるセーヤとソーヤがいるから、気になった相手の研究室へと忍び込んで、覗き見することはわけない。でも、ここはやはり敬意を表して正攻法で行きたいし、直接研究者本人の話も聞きたい。
相手にちゃんと研究者として認めてもらってこそ得られる情報もあるだろうし、まだ半年ほど余裕があるから、その間に何かひとつ発表できるよう研究してみることにしよう。
(とりあえず、この間の魔石と銀の骨の研究をしてみようかな)
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