利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
300 / 840
3 魔法学校の聖人候補

489 愛を騙る魔術

しおりを挟む
489

「グッケンス博士でも抗える自信がないって……すごい魔法なんですね」

博士によれば《幻惑魔法》では、相手のリソースを引き出すことで、拒絶反応なく気づかれぬうちに相手を取り込んでしまうという。

つまり相手のイメージの中にある理想像や母や恋人といった具体的なイメージ、そういったものをキャサリナに投影させ、リアルな〝虚像〟をキャサリナの上に重ねてしまう。そこにさらに《魅了》を使うことで、その人間が過去に感じた別の人間への愛情や好意をキャサリナへの好感度とすり替え、上書きしてしまうのだ。しかも、かなり強烈に。

この相手のリソースから情報を引き出しながら、徐々に《幻惑魔法》を仕掛けていく様子は、傍目からは、ただおだやかに思い出話でもしているようにしか見えないため、誰も《幻惑魔法》にかけられていることに気づけない。
こうして《幻惑魔法》にかかった状態になっていても、周囲は単に話をしているうちにキャサリナのことをその人がとしか思わないし、周囲に対しても同じように《魅了》を発揮することで、彼女に対しての疑いを抱かせないよう巧妙に細工もできる。

「この術はな、愛するものを失った強い喪失感を経験したことのある者には、中々に抗いがたい効力を発揮することがあるのじゃよ」

複雑な表情のグッケンス博士を見て、私にも博士たちが《幻惑魔法》との直接対決を避けようとする気持ちがわかった。

(博士にもサイデムおじさまにも、きっとそうした深く愛した相手とそれを失った悲しみがあるんだな、きっと……
それにつけ込まれてしまうかもしれないと思うほど、大事な人を亡くしたことがあるんだね)

「わかりました。キャサリナの《幻惑魔法》は、私が防ぎます。任せてください!」

それにセイリュウが、キャサリナの魔法に絶対引っかからないというなら、今回はそれを利用しましょう。

その前に……まずは、おじさまを標的にすることを諦めさせましょう。それから、キャサリナをどうしても大金が必要な状況に追い込んで、なんとか《傀儡薬》を売るところまで追い詰めます」

私は博士と打ち合わせた後、ドール参謀にもお願いをするための手紙を書き、セーヤに内々に配達を頼んだ。この方が《伝令》より確実で早い上、絶対に他の人の目に触れずに済む。それに私の超速《伝令》は、絶対驚かれるので、それはそれであまり使いたくないのだ。

(ドール参謀にも、このぐらいの協力はしていただかないとね)

しばらくすると、セーヤは大事そうにいくつかの箱を抱えて戻ってきた。

「ルミナーレ様からのご伝言です。

〝夫が、メイロードに危ないことをさせているのではないかと、気が気ではありません。
どうか、気をつけて。私たちにできることなら、なんでもして差し上げますから、いつでも遠慮なく申し出てくださいね〟

とのことです。全部持って行かせようという勢いでしたので、取り敢えずこちらだけお借りしてまいりました」

どうやら、私の願いごとのせいでルミナーレ様にも、ご心配をおかけしてしまったようだ。今回のことは、極秘なのできっとドール参謀はご家族にも何も話されてはいないはずだが、それでもルミナーレ様は何かを察しておられるのだろう。

私は〝このたびは、急なお願いにもかかわらず、快くご協力をしていただき、ありがとうございます。私は元気です。いまは忙しくしておりますが、近いうちにまたお会いできる日を楽しみにしております〟というカードを添えたお菓子とチョコレートの詰め合わせを贈り、感謝のメッセージを送った。

これで細工は整った。

(ではサイデムおじさまと一緒にパーティーに出る算段をつけなくちゃね)

私はおじさまの執務室へと行くため《無限回廊の扉》を使い、イスのマリス邸へと向かった。

いきなりサイデム商会の隠し扉から出ることも可能なのだが、一応おじさまの予定も考え、まず《伝令》で面会予約をしてから訪問する。

警戒厳重なはずのサイデム商会の中枢部にいきなり出現すると、周囲の人がかなり驚くので、よっぽどのことがない限り、突然飛び出ることは自重しているのだ。サイデム商会内の顔見知りの方たちは

〝メイロードさまのやることだから……〟

っと、生暖かく見守ってはくれるのだが、それに甘えてこの特別な移動法に慣れすぎるのはやはりよろしくない。できる限り隠しておきたいことなのだから、人の目に触れる場所での使用は控えたほうがいい。

私はセーヤが用意してくれた馬車に乗り、サイデム商会へと向かった。

《帝国の代理人》への、軍部からの極秘ミッションへの協力を依頼するために。
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。