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2 海の国の聖人候補

340 小料理屋マリス開店

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〝さん〟づけなど他人行儀だとセイカさんに強硬に主張され、セイカと呼ぶことになった。年上を呼び捨てって、あまり好きじゃないけれど、本人の希望なので仕方がない。

「そうそう、それでこそ一緒に冒険する〝仲間〟ってものよねー」

夕食時にやっと起きてきたセイカは、私の作った夕食をたっぷり食べながら、楽しそうにしゃべっている。

背も高く、スレンダーで快活。綺麗な青い瞳のセイカは、本当に美しい女の人だ。冒険者らしい服装も似合ってはいるが、着飾ればそこら中の男性が声をかけてくるに違いない。

「これはシド帝国の料理なの?美味しい。すごく美味しい!」

今日の夕食は、あまり時間がなかったので作り置きの惣菜を中心に、海鮮の鍋料理をメインにした。
おばんざい屋さんのように、ずらりと料理を並べたので、なんだか小料理屋感がすごい。

入り口に暖簾をかけたくなる雰囲気だ。

料理は《無限回廊の扉》の中で保存されているので、どれも作り立てのままの美味しさ。
イカと大根の煮物に葉野菜のゴマ炒め、豆腐の味噌漬けとぬか漬け盛り合わせ、蓮根とエビのすり身と大葉のはさみ揚げ、などなど。

鍋料理はシンプルに〝ちり鍋〟
野菜とお魚をさっぱりポン酢で頂く。ポン酢はこの辺りで取れる柑橘を使った自家製、なかなかいい香りだ。沿海州は柑橘の種類が多いのでとても助かる。

「えーと、これは私の創作料理……というか、シド帝国の伝統料理ではないことは確かです。大陸の素材も沿海州の素材も取り入れた(そして召喚した素材も使った)モノなので……」

私の説明に納得したのか、頷きながら、すごく美味しそうにセイカは豪快に食べそして呑んだ。

「中々の酒豪だのう……」

若干呆れ気味に、やっと合流したグッケンス博士がセイカを見る。

そういう博士だって全くグラスを置かないのだから、私の周りには酒飲みしかいないらしい。

とにかく、みんなの酔いが回る前に、打ち合わせをしておこう。
ダンジョン内での動き方は、エントたちの住んでいたダンジョンの時と同じスタイルで挑もうと思う。
あのダンジョンの時もそうだったが、基本的な考え方として、まず私は戦わずに済むのなら極力戦いたくはない。だから今回も、できる限り〝隠れてコソコソ移動〟と決めている。

とはいえ、とにかくスピード重視だった前回とは異なり、今回のミッションは調査だ。ダンジョン内部の状況の詳細を確認するという作業もやらないわけにはいかない。ある程度は魔物達とも戦ってみる必要はあるだろう。

「それについては、博士と僕で十分だと思うから、後方支援を頼むよ」

セイリュウはあっさりとしたものだ。グッケンス博士もそれで良いらしく頷いているし……
私としても、この百戦錬磨の2人が敵わない相手になど勝てる気がしない。ここは海千山千の2人に魔物との戦闘はお任せし、防御とナビに徹することにした。

「地図と盾は私がしっかり受け持ちますので、ご存分にお願いします」

セイカはスピード重視の攻撃系水魔法の使い手とのことなので、2人と一緒に攻撃に回りたいそうだ。

水系の魔法は爆発系の魔物退治には相性が良いそうなので、いい戦力になってくれると思う。

「まかせて、まかせて!」

本人も自信満々やる気充分のようだし、早速明日には1階層の様子を見に行こうと決めた。

美味しい料理とお酒で充分英気を養ってもらって、明日のためにちょっと早めに店じまいとした。
セイカは、よっぽど楽しかったのかちょっと飲み過ぎみたいだったけど、まぁ異世界酒は躰に良いみたいだから大丈夫でしょう。

青い髪の美人さんセイカは、最初セイリュウの眷属なのかと思ったが、そうでもないらしい。ちょっと謎だけど、ストレートで気持ちの良い物言いをする人だし危険はなさそうなので、様子を見ようと思う。

私も少しだけ片付けをして、明日に備えて魔石風呂で疲れを取る。

(私はお酒で英気を養えませんからねー、残念!)

長い移動があったせいか、思ったより疲れていたらしく、お風呂で寝てしましそうになった。
半寝の状態でセーヤに髪を乾かしてもらい、しっかりヘアケアをされ、セーヤお手製の可愛らしいナイトキャップをつけて就寝。

「ありがとう、おやすみセーヤ」
「おやすみなさいませ、メイロードさま。どうぞ良い夢を……」

セーヤはそう言ったが、疲れていたらしい私は夢を見る間もなく、落ちるようにすぐ眠りについた。
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