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2 海の国の聖人候補
324 味噌蔵防衛線
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324
「……というわけで、魔法使いを使った妨害工作とその対処法についてお伺いしたいんです」
波の音を遠くに聴きながら、野外で食べるご飯がとても気持ちいいので、最近はマホロの別荘で食事をする日も増えている。特に、今日のように海産物メインだと尚更だ。
夕食はマホロ魚市場で最高の素材を厳選した、豪華な具材満載のバラちらしをメインに、お吸い物にお漬物、お惣菜数種。汁物は大きな貝を使ったおすまし。おつまみに焼きハマグリ風の貝焼き、仕込んでおいた酒盗も出してみた。新鮮な魚がいくらでも手に入る沿海州に来たら絶対作ろうと思っていた一品だ。
調味料としても使えるので、たっぷり仕込んである。
日本酒とみりんが必要なので《生産の陣》は使えないのが残念だが、この世界の材料だけで作る酒盗もどきにもそのうち挑戦してみよう。
案の定、すっかり私の作る和食に慣れ親しんでいる酒飲み達は、ご機嫌で酒盗を楽しんでいるようだ。
チーズと合わせたものも、好評。満足そうな博士たちが羨ましい。私も早くキュッとイケる年齢になりたいものだ。
お酒は、話の邪魔にならないよう低アルコールの〝嘉美心 木陰の魚〟を取り寄せた。フルーティな気配がありながら魚にも合う絶妙なバランスの日本酒だ。
話が終わったら、もう少し度数の高いものを出そうと思う。
「また面倒ごとに首を突っ込んで……と言ったお説教は耳にタコができるほどされてますので、そこは端折って下さいね」
私の制止の言葉に苦笑しながら、グッケンス博士は色々とアドバイスをしてくれた。
「名前が分かれば、魔法学校の卒業履歴からある程度相手の素性や属性情報は取得可能だ。
だが、今のところまだそれはできてないようだな。特に属性情報は相手の得意技を推測する上で極めて重要だ。まぁ、それさえ分かれば手の内は想像がつくからな」
確かにその通りだ。
その魔法使いに近づいて《鑑定》すれば、名前はすぐに分かると思うけど、相手の力量が判らない状態で私が近づくのは、皆反対だそうだ。相変わらず過保護だと思わないでもないが、確かに今の段階ではそうかも知れない。
「相手の力量を知らず、己を危うくすることは最も愚かなことだ。今は待ちなさい」
グッケンス博士の言う通りだ。ぐうの音も出ない。
気持ちは焦るけれど、今は妖精さん達からの情報をおとなしく待つことにしよう。
今、私にできる対策としては、味噌蔵の周囲に侵入者感知の結界を貼り、それが反応したら、いつでも私かセイリュウが現場に向かえるようにしておくことぐらいのようだ。
今回蔵周辺に巡らせた《感知の結界》には、博士から伝授してもらったかなり高度な《迷彩魔法》が施されているため、たとえ相手が手練れの魔法使いでも掻い潜られる心配はない。
(相手がグッケンス博士以上の凄腕だったら、そもそも私に勝ち目ないけどね。まぁ、そんなハイレベルな魔術師がこんな情けないヨゴレ仕事に加担するとも思えないから、この結界で確実に捉えられるはず)
ひとまずこの防衛線があれば、侵入者の情報を取りこぼす危険はない。
「魔石を使わずこの結界を維持するならば、出来るだけ毎日魔力を補充しておくようにな。
付与した《迷彩魔法》は高度で強力なのはいいいが、維持には結構な量の魔力がいる。この点からあまり実戦向きではないのだがな……まぁ、お前ならこの程度の範囲の結界維持、苦にはならんだろうから使ってみるがいい。しっかり網を張っておくことだ」
蔵に私がいる間は《索敵》も併用して、ガードはガッチリ固めておくことにする。
もしもの時のために、ポーションもストックを増やして、働きに来ている人たちにも一応用心を怠らないよう、それに不審なことがあったらすぐ知らせてくれるよう話しておいたほうがいいかもしれない。
町の人たちを不安にさせたくはないけれど、今回は西と東の巨大味噌蔵建設自体が、マホロでかなり大きな話題になっているし、既に不確かな情報が錯綜している。
ならば、信頼できる情報元から正確な情報を共有しておいた方がいいだろう。
ありがたいことに、この西ノ森の町の人たちはエジン先生の味噌蔵に期待してくれている。
味噌蔵食堂や宿泊施設の建設も始まり、雇用も増え町の雰囲気もとてもいい。
それにつれ、東の味噌蔵への対抗心も出てきているようで、皆さんやる気に溢れているのだ。
〝東の里よりいい味噌を作ろう!〟
を合言葉に、一丸となって仕込みをしてくれた。
モチベーションの高い労働者ほどありがたいものはない。
仕込み予定は前倒しとなり、最初の大規模味噌造りは、もう熟成を待つばかりだ。
少ししたら、第二陣の仕込みも始まる予定。
その間に、味噌料理のための料理人を育てなければいけないし、屋台の準備も待っている。
私の正直な気持ちを言えば、できれば妨害など気にせずに、ずっと準備だけに専念させてもらいたい。
そうできればみんなでワクワクしながら、楽しく味噌の完成のその日に向かっていける。
でもわたしの願いも虚しく、最初の蔵出し味噌が出来上がる予定の10日前の深夜、遂に侵入者感知のための結界に反応が出てしまった。
何者かの侵入を知らせる警報のベルがけたたましく鳴っている。
私は眠い目をこすりながらマホロの別荘のベッドから起き上がり、一度顔を洗って気合を入れた。
セーヤとソーヤもいつの間にか、後ろに付き従っている。
「よし、いこう!味噌蔵を守るよ!」
《無限回廊の扉》を開け、私たちは味噌蔵へ向かった。決戦だ。
「……というわけで、魔法使いを使った妨害工作とその対処法についてお伺いしたいんです」
波の音を遠くに聴きながら、野外で食べるご飯がとても気持ちいいので、最近はマホロの別荘で食事をする日も増えている。特に、今日のように海産物メインだと尚更だ。
夕食はマホロ魚市場で最高の素材を厳選した、豪華な具材満載のバラちらしをメインに、お吸い物にお漬物、お惣菜数種。汁物は大きな貝を使ったおすまし。おつまみに焼きハマグリ風の貝焼き、仕込んでおいた酒盗も出してみた。新鮮な魚がいくらでも手に入る沿海州に来たら絶対作ろうと思っていた一品だ。
調味料としても使えるので、たっぷり仕込んである。
日本酒とみりんが必要なので《生産の陣》は使えないのが残念だが、この世界の材料だけで作る酒盗もどきにもそのうち挑戦してみよう。
案の定、すっかり私の作る和食に慣れ親しんでいる酒飲み達は、ご機嫌で酒盗を楽しんでいるようだ。
チーズと合わせたものも、好評。満足そうな博士たちが羨ましい。私も早くキュッとイケる年齢になりたいものだ。
お酒は、話の邪魔にならないよう低アルコールの〝嘉美心 木陰の魚〟を取り寄せた。フルーティな気配がありながら魚にも合う絶妙なバランスの日本酒だ。
話が終わったら、もう少し度数の高いものを出そうと思う。
「また面倒ごとに首を突っ込んで……と言ったお説教は耳にタコができるほどされてますので、そこは端折って下さいね」
私の制止の言葉に苦笑しながら、グッケンス博士は色々とアドバイスをしてくれた。
「名前が分かれば、魔法学校の卒業履歴からある程度相手の素性や属性情報は取得可能だ。
だが、今のところまだそれはできてないようだな。特に属性情報は相手の得意技を推測する上で極めて重要だ。まぁ、それさえ分かれば手の内は想像がつくからな」
確かにその通りだ。
その魔法使いに近づいて《鑑定》すれば、名前はすぐに分かると思うけど、相手の力量が判らない状態で私が近づくのは、皆反対だそうだ。相変わらず過保護だと思わないでもないが、確かに今の段階ではそうかも知れない。
「相手の力量を知らず、己を危うくすることは最も愚かなことだ。今は待ちなさい」
グッケンス博士の言う通りだ。ぐうの音も出ない。
気持ちは焦るけれど、今は妖精さん達からの情報をおとなしく待つことにしよう。
今、私にできる対策としては、味噌蔵の周囲に侵入者感知の結界を貼り、それが反応したら、いつでも私かセイリュウが現場に向かえるようにしておくことぐらいのようだ。
今回蔵周辺に巡らせた《感知の結界》には、博士から伝授してもらったかなり高度な《迷彩魔法》が施されているため、たとえ相手が手練れの魔法使いでも掻い潜られる心配はない。
(相手がグッケンス博士以上の凄腕だったら、そもそも私に勝ち目ないけどね。まぁ、そんなハイレベルな魔術師がこんな情けないヨゴレ仕事に加担するとも思えないから、この結界で確実に捉えられるはず)
ひとまずこの防衛線があれば、侵入者の情報を取りこぼす危険はない。
「魔石を使わずこの結界を維持するならば、出来るだけ毎日魔力を補充しておくようにな。
付与した《迷彩魔法》は高度で強力なのはいいいが、維持には結構な量の魔力がいる。この点からあまり実戦向きではないのだがな……まぁ、お前ならこの程度の範囲の結界維持、苦にはならんだろうから使ってみるがいい。しっかり網を張っておくことだ」
蔵に私がいる間は《索敵》も併用して、ガードはガッチリ固めておくことにする。
もしもの時のために、ポーションもストックを増やして、働きに来ている人たちにも一応用心を怠らないよう、それに不審なことがあったらすぐ知らせてくれるよう話しておいたほうがいいかもしれない。
町の人たちを不安にさせたくはないけれど、今回は西と東の巨大味噌蔵建設自体が、マホロでかなり大きな話題になっているし、既に不確かな情報が錯綜している。
ならば、信頼できる情報元から正確な情報を共有しておいた方がいいだろう。
ありがたいことに、この西ノ森の町の人たちはエジン先生の味噌蔵に期待してくれている。
味噌蔵食堂や宿泊施設の建設も始まり、雇用も増え町の雰囲気もとてもいい。
それにつれ、東の味噌蔵への対抗心も出てきているようで、皆さんやる気に溢れているのだ。
〝東の里よりいい味噌を作ろう!〟
を合言葉に、一丸となって仕込みをしてくれた。
モチベーションの高い労働者ほどありがたいものはない。
仕込み予定は前倒しとなり、最初の大規模味噌造りは、もう熟成を待つばかりだ。
少ししたら、第二陣の仕込みも始まる予定。
その間に、味噌料理のための料理人を育てなければいけないし、屋台の準備も待っている。
私の正直な気持ちを言えば、できれば妨害など気にせずに、ずっと準備だけに専念させてもらいたい。
そうできればみんなでワクワクしながら、楽しく味噌の完成のその日に向かっていける。
でもわたしの願いも虚しく、最初の蔵出し味噌が出来上がる予定の10日前の深夜、遂に侵入者感知のための結界に反応が出てしまった。
何者かの侵入を知らせる警報のベルがけたたましく鳴っている。
私は眠い目をこすりながらマホロの別荘のベッドから起き上がり、一度顔を洗って気合を入れた。
セーヤとソーヤもいつの間にか、後ろに付き従っている。
「よし、いこう!味噌蔵を守るよ!」
《無限回廊の扉》を開け、私たちは味噌蔵へ向かった。決戦だ。
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