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第6話 すれ違い
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まだ少し歩くからと、結局北杜さんは私にマフラーを貸してくれた。
仄かに香る洗剤と北杜さんの匂いに頬が赤くなった気がするが、全ては寒さのせいだと内心で言い訳をする。
(寒くないかな、大丈夫かな)
冷たい風が吹いているので心配になるが、北杜さんは平気そうな顔でこちらを見ている。
心なしかどこか嬉しそうだ。
北杜さんに連れて来られたのは、会社から少し離れたところにある駐車場である。
会社の人に見つからないようにと配慮してくれたのだろう。
(私が二人の関係は内緒にしたいからと頼んだから)
車が見えてきたところで私は北杜さんにマフラーを返そうとしたが、止められた。
「まだつけてて。俺は大丈夫だから」
そう言って笑顔を浮かべる北杜さんに、いつも勘違いしてしまいそうになる。
この人は本当に私の事を好きなのではないかって。
「北杜様、深春様。お帰りなさい」
待っていてくれた運転手の瀬尾さんがドアを開けてくれる。
「ありがとうございます、瀬尾さん。このような寒い中待たせてしまってごめんなさい」
「いいえ。大丈夫ですよ。お二人を見かけてから車を降りましたので、そこまで寒くはありません」
にこにこと笑顔を絶やさない瀬尾さんとは、何度か顔を合わせている内にこうして気さくに話してくれるようになった。
私にとっては実の血縁の人よりも、断然親しい存在だと思っている。
本当の親族はお世辞にも良い人とは言えないから。
「深春も瀬尾さんも早く乗ろう。今日は一段と冷えるからな」
北杜さんに言われ私はすぐに車に乗り込む。
私が乗らない限り、瀬尾さんは乗れないもの。
ここで躊躇って、瀬尾さんまで風邪をひかせるわけにはいかないわ。
「暖かい……」
暖房で温まった車内は居心地がよく、つい気が緩んでしまう。
「深春、シートベルト」
「は、はい」
言われた時には既に彼は手を伸ばし、私の分までかけてくれる。
(顔が近い!)
急に彼の顔を近くで見る事になり固まってしまう。
「あの、子供ではないので自分で出来ます。だから次は遠慮します」
そう伝えるが、北杜さんは意地悪く微笑むばかりだ。
この人は本当に油断ならない。
少しぼうっとするだけでもこの有様だ。
「では出発しますよ」
瀬尾さんもくすっと笑ったような気がしたが、私はもう何も言わない事にした。
だって何を言っても揶揄われるだけなんだもの。
◇◇◇
そうして食事に来たのは半個室のあるお店であった。
値段を見るにリーズナブルなところである、何だか意外だ。
「会社帰りだし、畏まった席はまた今度な」
そう言って様々な料理を注文していく。
私の倍はありそうだけど、この量を食べ切れるのだから北杜さんは本当に凄い。
その割にあまり無駄なお肉がついていないのが羨ましいなぁ。
「こっちも食べてみる?」
どうやら見過ぎてしまったようで、勧められてしまった。
「いえ、大丈夫です」
(人のものを欲しがる食いしんぼに思われてしまった)
その後は羞恥で俯いて食べるようになってしまった。
食事も終わり、少し落ち着いた頃、北杜さんはようやく本題を口にした。
「深春、もうすぐ約束した日が来るよね」
「は、はい」
声が上擦る。
「その、本当に俺でいいかな」
真面目な表情と声に、私は姿勢を正す。
「ええ。北杜さんさえ良ければ」
そう答えれば何だか微妙な表情となる。
「そこに君の意思があればいいのだけど……」
意思か……どうだろう。
好きと伝えれば優しい北杜さんはきっと受け入れてくれる。けれど本気ではないだろう。
嫌いと言えば恩返しが出来ないし、央さんを悲しませてしまうだろう。
「もちろん私の意思です」
選択が出来る権利は私にはないに等しい。
北杜さんが私を嫌いになるその時までは隣に居させてもらおう。
仄かに香る洗剤と北杜さんの匂いに頬が赤くなった気がするが、全ては寒さのせいだと内心で言い訳をする。
(寒くないかな、大丈夫かな)
冷たい風が吹いているので心配になるが、北杜さんは平気そうな顔でこちらを見ている。
心なしかどこか嬉しそうだ。
北杜さんに連れて来られたのは、会社から少し離れたところにある駐車場である。
会社の人に見つからないようにと配慮してくれたのだろう。
(私が二人の関係は内緒にしたいからと頼んだから)
車が見えてきたところで私は北杜さんにマフラーを返そうとしたが、止められた。
「まだつけてて。俺は大丈夫だから」
そう言って笑顔を浮かべる北杜さんに、いつも勘違いしてしまいそうになる。
この人は本当に私の事を好きなのではないかって。
「北杜様、深春様。お帰りなさい」
待っていてくれた運転手の瀬尾さんがドアを開けてくれる。
「ありがとうございます、瀬尾さん。このような寒い中待たせてしまってごめんなさい」
「いいえ。大丈夫ですよ。お二人を見かけてから車を降りましたので、そこまで寒くはありません」
にこにこと笑顔を絶やさない瀬尾さんとは、何度か顔を合わせている内にこうして気さくに話してくれるようになった。
私にとっては実の血縁の人よりも、断然親しい存在だと思っている。
本当の親族はお世辞にも良い人とは言えないから。
「深春も瀬尾さんも早く乗ろう。今日は一段と冷えるからな」
北杜さんに言われ私はすぐに車に乗り込む。
私が乗らない限り、瀬尾さんは乗れないもの。
ここで躊躇って、瀬尾さんまで風邪をひかせるわけにはいかないわ。
「暖かい……」
暖房で温まった車内は居心地がよく、つい気が緩んでしまう。
「深春、シートベルト」
「は、はい」
言われた時には既に彼は手を伸ばし、私の分までかけてくれる。
(顔が近い!)
急に彼の顔を近くで見る事になり固まってしまう。
「あの、子供ではないので自分で出来ます。だから次は遠慮します」
そう伝えるが、北杜さんは意地悪く微笑むばかりだ。
この人は本当に油断ならない。
少しぼうっとするだけでもこの有様だ。
「では出発しますよ」
瀬尾さんもくすっと笑ったような気がしたが、私はもう何も言わない事にした。
だって何を言っても揶揄われるだけなんだもの。
◇◇◇
そうして食事に来たのは半個室のあるお店であった。
値段を見るにリーズナブルなところである、何だか意外だ。
「会社帰りだし、畏まった席はまた今度な」
そう言って様々な料理を注文していく。
私の倍はありそうだけど、この量を食べ切れるのだから北杜さんは本当に凄い。
その割にあまり無駄なお肉がついていないのが羨ましいなぁ。
「こっちも食べてみる?」
どうやら見過ぎてしまったようで、勧められてしまった。
「いえ、大丈夫です」
(人のものを欲しがる食いしんぼに思われてしまった)
その後は羞恥で俯いて食べるようになってしまった。
食事も終わり、少し落ち着いた頃、北杜さんはようやく本題を口にした。
「深春、もうすぐ約束した日が来るよね」
「は、はい」
声が上擦る。
「その、本当に俺でいいかな」
真面目な表情と声に、私は姿勢を正す。
「ええ。北杜さんさえ良ければ」
そう答えれば何だか微妙な表情となる。
「そこに君の意思があればいいのだけど……」
意思か……どうだろう。
好きと伝えれば優しい北杜さんはきっと受け入れてくれる。けれど本気ではないだろう。
嫌いと言えば恩返しが出来ないし、央さんを悲しませてしまうだろう。
「もちろん私の意思です」
選択が出来る権利は私にはないに等しい。
北杜さんが私を嫌いになるその時までは隣に居させてもらおう。
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