蕾令嬢は運命の相手に早く会いたくて待ち遠しくて、やや不貞腐れていました

しろねこ。

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第8話 異議申し立てと証拠

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 ライフォンとオニキス様の打ち合いはほぼ互角、に見える。

 ダメージを負ったように見えないからそうなんだと思うのだけど、私にはどちらが優位なのかわからない。

 でも長く続いているという事は、いい試合なのだろう。

 浮かぶ汗や表情が変化してきていた。

 疲れが蓄積されてきたのだろう、そんな時にオニキス様が上段に大きく構える。

「うっ?!」

 ライフォンが呻き、動きが止まる。

「危ない!」

 防御の姿勢も取れぬままに、オニキス様の木剣が勢いよく振り下ろされた。


 ◇◇◇


 結果としてオニキス様の木剣は半分程の所で折れた。

 ライフォンに当たる直前、突如地面から出てきた太い木の根によって攻撃は遮られ、それによって吹き飛ばされたようだ。

 これは恐らく女神の加護。花の女神というけれど、その力は植物全体に及ぶので、このような事が出来たのだろう。

 ライフォンにこのような魔法の力はない。

「卑怯者め! 負けそうだからとそのような力に頼るとは!」

「くっ」

 オニキス様の怒号にライフォンは反論も出来ずに呻く。

 確かに負けそうになっていたライフォンを庇い、女神様が力を貸すなど、公平ではない。

「このような不正を行うものが花の乙女の婚約者とはな」

 自身を貶める言葉だが、ライフォンは言われるがままだ。

 女神の力で助けられたのは事実だから何とも言えないのだろう。

(でも女神様が手を出すなんてするかしら?)

 多少怪我はするだろうけど、命の危機というものではない。

 それなのにこうして力を貸すなんて、何だかおかしいわ。

「お待ちください」

 ざわめく中で静かに手を挙げて発言したのは、アルだ。

「試合の途中に妙なことがありました。それのせいでライフォン様は妨害され、あのような事になったようですけど。どなたか心当たりはありませんか?」

 より一層ざわざわしてしまう。

 えっと、どういう事かしら?

「何の事だ。妙な事をしたのはライフォン殿だろう、それともこの国ではそのようにして言いがかりをつけて、都合の悪い事は隠蔽するつもりなのか?」

 オニキス様は眉を顰め、アルを睨む。

「オニキス様の後ろから誰かが光を放ち、ライフォン様の視界を遮っておりました。それ故にライフォン様は防御が遅れ、女神様の加護が発動したようです」

 オニキス様の後ろに、彼の側近達がいる。

 視線は一気にそちらに移った。

「あなた方、何かしましたね? 女神様が思わず干渉してしまうような程の事を」

 アルが問い詰めるが、側近達は当然だが首を振って否定する。

 妨害していたとしても否定しただろう。

「オニキス様、この者達の身体検査を要求します。不正を行なった可能性がありますからね」

「何を言う、たかが平民が。それにこんな手合わせ如きで――」

「平民であろうと関係ありません。それに、たかが手合わせ如きで花の女神様が力を貸すものですか、何かがあったと、そう考えた方が自然な事です」

 もしも本当にそうであれば大変なことだ。

 国が認める花の乙女のパートナーに、他国の貴族が手を出した。

 それも王族の側近がなんて……話は学園の中だけ収まらないだろう。

 下手したら国同士の話し合いになるのでは?

「まぁ疚しくなければ身体検査をしても問題ないでしょう。さぁ」

 アルの詰め寄りにオニキス様は口元を歪ませた。

「貴様如き平民に指図される謂れはないな、断固として拒否をする」

「では私が要求します。彼らの身体検査をぜひ」

 私は手を上げて、真っすぐに殿下を見つめた。

 その提案は意外であったのだろう、皆が驚いていた。

「ヴィオラ嬢までそんな事を……」

 オニキス様も私にそう言われるとは思っていなかったのだろう、酷く戸惑っているようだ。

「花の女神様と、そして義弟となるライフォン様の名誉がかかっていますのでね。何もなければアラカルト家として正式な謝罪を行います」

 私は覚悟を決めてそう言った。

「何を言うんですかヴィオラ様」

 まさか私が矢面に立つとは思っていなかったようで、アルも戸惑っている。

「あら、アル様が言ったのですもの。間違いなわけないでしょう?」

 大きい賭けではあるけれど、短い期間でアルの為人はわかったつもりだ。

(アル様は根拠もなくそんな事を言わないわ)

 それにライフォンの様子がおかしかったのもある、オニキス様側の人間が何かをしたと考えればしっくりするわ。

「誤りであったとしたら、その際はグラッセ家からもお詫びをします。ですからあの者達を調べてください」

 ライフォンもそう言うので、学園の教員は応援を呼び、別室にて彼らの身体検査を行う。

 オニキス様は僅かに苛立たしそうにしており、クラスメイト達は何も言わない。

 沈黙が広がっていた。

(何も出なかったらどうしよう)

 今更ながらそんな事を思ってしまった。

 家の名を勝手に出してしまったし、私に乗ってライフォンも家の名を賭けている。

 もしも冤罪だったとしたら……カミディオン国相手への賠償を、貴族の二家で出来るだろうか?

「大丈夫ですよ」

 尻込みし震える私に気づいたのか、励ますようにアルが笑いかけてくれる。

 不思議とその笑顔に安心感を覚えられた。

(一体アルって何者だろう)

 あの木の根を花の女神様の力だとすぐに気づいたし、こうして王子様相手に臆することなく会話も出来る。

 間違っていたら、殺されてしまう可能性だってあるのに。

 それなのにアルの言葉を信じて、意見に乗っかってしまった私も、我ながらどうかしているのだろうなと思った。

(こんな短時間の付き合いしかないのに信じるなんて、本当に何でかしら)

 何とも妙な事である。

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