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乙女ゲーム編
守るべき境目
しおりを挟むおれの腕の中で力なく眠るヘルリを抱きしめ、痛々しい皮膚の抉れた腕を止血しつつ何故こうなってしまったのか考えていると
背後から誰かが走ってくる気配があった
「そこにいるのはルディヴィス…か!?………この血は…いや、その男はお前の従者だな…?一体何があった」
「先生…」
昨年、イグニスを一緒に運んでくれたおれ達のクラス担任…ラッジ先生が事情を聞いてくる
きっと人狼化したヘルリを見て混乱した生徒から化け物がいる助けて…とか言われて来たと思うが、ラッジ先生は他方の言い分をちゃんと聞いてくれるいい先生だ
血濡れのおれと、まだ人狼化が解けきってないヘルリを見ても初見で化け物から離れろなんて言わないんだから…
「おれの従者が…何者かに外部から魔力の侵食を受けました…学園に事前に報告している通りヘルリの身体には幼い頃から人狼化魔法が歪に付与され続けています
自分の意思では暴走なんてしない、それはおれが保証します…なのに、こんな状況に陥ったのは外部からの影響があったからです
先生、このチョーカーと闇の魔石…これを壊した人を見つけてくれませんか…?
自信に戒めをしてまで人狼化しない為に付けていた物が壊されていました」
「………………わかった…幸い生徒は誰も怪我をしていない、とりあえずお前の従者を保健室に運ぼう…落ち着いてからでいい、詳しい話を聞きたい
」
ヘルリが腕を怪我している事を伝えると、何かを察してくれたようだった…
………………………………
……………………
……………
ラッジ先生と共に保健室へ、ヘルリを運び込むとそこにはマイケルが居た…そしてベットに寝かされたシャルティも
血塗れのおれとヘルリを見てマイケルは酷く驚き謝罪してきたが、マイケルが悪いわけじゃない…
ヘルリの治療を保険医に任せ、ラッジ先生はサングイス公爵家に連絡を取ってくれると言う
学園内で公爵家の従者が暴走しかけるのは確実に事件だからだ
迎えの馬車に医師の同乗を依頼してくれる間、マイケルと状況の確認をした
ベットで眠るシャルティは命に別状はない、しかし催眠魔法に掛かった様に、時々夢を見ているような意味不明の寝言を呟き、深い眠りに付いているのだと言う…
眠りにつくシャルティの頬を優しく撫で、その寝言を確認する、おれならその意味不明な言葉がわかると思ったから
しかし、呼ばれるまでシャルティは一言話さなかった…まるでおれに隠すように先程まで同じような時間を空け呟いていたという言葉は聞けなかった
そのうち、ヘルリの治療も済んだ様で、保険医がおれ達を呼ぶ
シャルティの隣に寝かされたヘルリは耳がまだ人狼のままだが手は人に戻っており、包帯を巻かれ一目で怪我人とわかる状態になっていた
「ルディヴィスくん…大変でしたね…
従者の彼も命には別状ありません、しかし何か外部から魔力の負荷を受けた為か彼に植えつけられた人狼化魔法が更に歪んでしまっているようです…
彼のように、幼い頃植えつけられた歪な魔法は暴走しやすいですが、これまでそんな兆候は無かった…今回のは、外部からの力に精神的負荷でも掛けられたようなそんな状態からの暴走だと思います
ゆっくり休ませてあげて下さい、………………なんだか昨年のイグニスくんの時を思い出しますね?
そんなに悲しい顔をしなくても大丈夫ですよ、ルディヴィスくんが側に居れば安心するでしょう」
保険医の先生はそう言って、ベッドの近くに椅子を準備しておれとマイケルに紅茶を淹れてくれた、とにかく落ち着きなさい、と
そこまで混乱していたのかひどい顔をしていたのか分からないが、一口飲んだ紅茶はすごく温かくて…心が穏やかになった
落ち着いてくると考えてしまう事、それは乙女ゲームではこんな展開じゃ無かったって事だ
もう既にシャルティの性格が違う状態と虐げられてないヘルリの時点で違うのは違う
けど、おれ的には普通に聖女と出会って過去のお父さんとの確執だったり…心の辛さだったりを聖女に救われる可能性も考えていたんだ
だからこそ聖女に出会って恋をしたら応援しようと思ってた…なのに…
恐らくこれは、乙女ゲームの強制力が働いた結果なのかもしれない…シャルティが操られたように図書館にヘルリ誘ったのはシナリオでのイベントを表現する為、そう考えるのが自然だ
だが、そのイベントで何かが起きた…乙女ゲームで聖女を噛むような描写はあったが、現実のヘルリの性格じゃそうはならなかった筈だから
壊されたヘルリが宝物と言っていたチョーカーと抑制魔法を付与された闇の魔石、外部からの魔力の影響、怯えるように逃げ隠れていた人狼…
図書館で、あの場所で出会ったのは聖女の筈だ
聖女は攻略対象であるヘルリ達を幸せにしてくれるんじゃ無いのか…?
……………もしかしたら乙女ゲームと違うヘルリに動揺したのか…?でも…ゲームの設定を知っていたらヘルリがどんな身体かわかるはず…シナリオって言うんだからおれと同じ転生者かと思ったけど違うのだろうか…
わからない、わからないけどこれだけは言える
皆に聖女に救われてハッピーエンドを迎えてほしい
ゲームのスチルでは本当にみんな幸せそうな素敵な結末を迎えていた…シャルティを含む悪役令嬢サイド以外は…
シャルティも皆もおれは大事だ…もう悲しい事件が起きないように、影から守るのも、乙女ゲームの記憶があるおれの使命なんだろう
聖女が攻略対象者に接触する場面、イベント…その記憶をもっと思い出してサポートに回ろうと、そう思った
けど、今回の事は犯人がわかったらしっかりと抗議する、それが従者を持つ主の仕事だから
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