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乙女ゲーム編
怯える牙
しおりを挟む乙女ゲームでのヘルリは、幼い頃半人狼化した状態で悪役令嬢であるシャルティに従者として拾われ、最終的に聖女に救われるまで人狼化できる犬として飼われていた描写があった
隷属の首輪を付けられ、命令に従わなければ鞭を打たれる存在、それがヘルリ.ラジエ
人狼化する恐怖と痛みにより精神を支配されていた哀れな悪役令嬢の被害者…
そんな彼を、心ごと救う聖女は…首輪を付けられ飼われているヘルリを見て涙を流し、こんな事は間違っていると唯一公爵令嬢であるシャルティに立ち向かった心優しい存在
隷属を強要している首輪に初めて触れた人物、その首輪が外され人狼化したヘルリが暴走するが一切怯える事なく彼を優しく抱き締め、人狼という存在事受け入れた人物…
聖女の優しさに触れ、心に温もりも与えられたヘルリは自らの意思で人狼化を解除し、聖女に心惹かれ…想いを寄せる
悪役令嬢に形は仕えながらも、時折聖女と触れ合い…愛する聖女の為に、最終的に悪役令嬢の所業の証拠を掻き集め断罪する
その序章が起きてしまったのもしれない
シャルティのみに課せられた課題、図書館という場所にヘルリを連れて行く違和感に気付き、急いでおれも図書館へ向かうが、その途中マイケルに抱き抱えられたシャルティに遭遇した
何があったと聞くと、図書館に着いた途端反応が鈍くなり、気絶するように今は眠ってしまったと…これから保健室に行くのだと言う
ヘルリはシャルティが探していた本を持って後から合流すると…マイケルはそう答え保健室へ向かった…
シャルティも心配だが、ヘルリが気になって仕方ない…
ゲームでの展開を必死に思い出すが聖女と二人で図書館に居るような、そこで人狼化して聖女を噛む描写しか思い出せなくてゾッとした
幼い頃出会ってから訓練で殆ど人狼化をコントロールできて…突発的に暴走する人狼化がヘルリにかなりの苦痛と痛みを与えるのが分かってから、おれはそんな事にならないようにって…鎮静化の魔術を組み込まれた魔石をあげたんだ
乙女ゲームのシナリオとしてヘルリが人狼化したらそれは苦痛を伴う物なんじゃないのか?いくら聖女に救われるからって…あんなに泣き叫んで痛いと怯えてた事をさせたくない、ヘルリをおれはそのままに出来ない
マイケル達と別れ必死に図書館へ向かい走り始めた頃、図書館への連絡通路で悲鳴が聞こえた
……………ヘルリは多分そこにいる
今は二階、図書館への通路まで階段を降り進むなんて時間の無駄だ…窓から飛び降り、土魔法と水魔法を混合した足場を生成し地面までショートカットして悲鳴の聞こえる方へまっすぐ向かう
おれが必死に進む方向から走ってくるのは青褪めた顔の男子生徒、泣きながら走る女子生徒だ…そんな人と何人もすれ違う
学園でしていい顔じゃない、護られた学園でする顔じゃない………!!!!
「ヘルリ!どこだ、ヘルリ!!!」
走りながら叫ぶが返答は勿論無い、だが、地面に道しるべのように滴る真っ赤な血の跡を見つけ、背筋が凍った
ヘルリは、誰かを襲ったのか…?
幼い頃の出来事、実の父を、周囲の人を斬りつけ、傷付けてひたすらに逃げていた哀れな少年の姿を想像してしまう…
ヘルリは凄く優しいいい子なのに…望まぬ人狼化魔法の後遺症にすら笑顔で乗り越えようって頑張るいい子なのに…そんなヘルリが人を傷つける筈が無い…!おれ達と過ごしたヘルリはそんな奴じゃない!!
シナリオ通りに聖女に救われてたら…ここにこんな血の跡は出来ない、なら…なぜ?ヘルリは聖女に救われる事を望まなかったって事なのか?なんでこんな事に………わからない、でもおれはヘルリを探さなきゃ…
そう思い、血の跡を追った
ひたすら続く血痕は、まるで人気を避けるように校舎裏の方へ続いている
古い倉庫の扉が少し開いていて、その中に血の跡は続いていた…僅かに啜り泣くような声が聞こえる…まるで幼い頃出会った時に泣いてた時のヘルリの声…
驚かさないようにゆっくりと倉庫に入ると、物陰に身を隠すように涙を流しながら、自分の腕を強く噛み…人狼化した苦痛に耐えるヘルリがいた
ボタボタと床に流れているのはヘルリの血、噛みちぎるほど強く腕を噛んでいるんだろう…
ヘルリは人を襲うなんてことやっぱり無かった
おれが倉庫に入ってきた事に気付いたのかヘルリはこちらを向き、更に涙を流す…その表情はおれより年上なのに幼くて、ごめんなさいと嫌わないでと言ってるような悲痛な泣き顔だ…
先ほどすれ違った生徒から恐らく教員に連絡が行くだろう…その前に…
「ヘルリ」
名前を呼び、ヘルリに近づくとガタガタと震えているのが分かった
更に歯が腕に食い込むのかボタボタと床を濡らす血が増え傷口が痛々しく広がってるのが見える
そこまでして、自分を傷付けてまで人狼化で生まれる凶暴性を抑えつけて、昔の父親を傷付けたあの日の行為を繰り返したくない気持ちが伝わってくる…うん、優しいおれの知ってるヘルリだ…
頭を抱き寄せるように、おれよりも身長が高く、体格のいいヘルリを抱きしめる
逃げなくていい、震えなくていい…おれはお前が優しい事誰よりも知ってるんだよ?
「あの日みたいな人狼化しちゃう程、大変な事があったんだな…でも人を襲わないで一人で耐えてここに来たんだよな…
偉い、すごいよヘルリ…流石おれの従者だ
今じゃなくていい、何が起きたか話してくれ…おれはヘルリの主なんだろ?従者の悩みはおれの悩みだ
ヘルリは優しくてかっこよくて…人を大切にするいい子だ…それは誰よりもおれが知ってる大丈夫、大丈夫だから…」
学園入学の年齢だからこそできる事、水魔法をヘルリの血が流れる部分に展開し止血試みる
食い込んだ牙触れ、おれの手を噛むように誘導しつつ口を開けさせ傷付いた腕にラップのように水魔法を纏わせ、軽く凝固させ血を止める
おれの手を噛むわけではなく、舐めるように小さく泣くヘルリは小声で「ごめんなさい」と言う
そして、そのまま子犬みたいに眠るように気を失ってしまった
わしゃわしゃと優しく髪を撫でていると、おれがプレゼントした鎮静の魔石とヘルリが自ら初めて欲しがった…宝物だと喜んでたチョーカーがボロボロになっている事に気付く…まるで外から壊されたようなそれはヘルリの宝物を破壊するそれに思えた
元々ヘルリが優しい子だから…誰も傷付かず、暴走なんて事にならなかった事だけが救いか…
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