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乙女ゲーム編

帰宅と看病

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ヘルリの治療が済んだ後、暫くするとサングイス公爵家の馬車が迎え来た、公爵家お抱えの医師同伴の元馬車に乗り込み、先生にも状況を詳しく伝える為、自宅に一緒に来てもらう

シャルティを出来たらヘルリも自分で連れて行きたかったがおれはどちらかというと貧弱体型の為、マイケルと先生にお任せし、共に馬車へ乗り込む

シャルティとヘルリの寝息は聞こえるが、誰も会話をせず、沈黙が続く馬車の室内…いつもは楽しいはずの通学経路が酷く悲しい物に思えてならなかった…



「ルディヴィス…!二人は無事ですか!?」

「母様、ただいま戻りました…二人は一応無事ではありますが…まだ、わかりません…」


サングイス公爵家に到着すると母様が入り口まで迎えに来てくれていた、おれの返答に心配そうな顔をし使用人へ指示を出し二人を部屋に運ぶ
父様はこの時間まだ仕事で王宮にいる、父様には後ほど報告するしか無いだろう
眠ったままのシャルティとヘルリ…目が覚めた時おれが知ってる二人だといいな…そう思えてしまうのは遭遇した相手がおそらく聖女で、乙女ゲームのシナリオだから…


シャルティが言っていた寝言が気になる…悪役令嬢としての運命までも強制力で決めつけられてしまっていたらどうしたらいいかわからない


「ルディヴィス、二人は命に別状はないんだ…安心しなさい、ゆっくりと休めばそのうち目を覚ます
公爵夫人、突然の訪問申し訳御座いません
学園内でシャルティ嬢は催眠のような状況に、更にルディヴィス…ご子息の従者に対して何者かが魔力による干渉をされた可能性があります

血濡れの服を見てある程度察しが付くと思いますが、人狼化してしまう事態が起きました
ですが、自らの腕を噛み、なんとか耐え抜いた…その様な状況…これから詳しい話をしたいと思います、よろしいですか?」

「も、もちろんですわ、応接室で話しましょう
旦那様には既に使いを出しています、後ほど帰宅した際には同様の説明をお願いします…」


母様と共に応接室に全員が移り、今日放課後あった出来事を何一つ隠さず説明する
シャルティについてはおれもマイケルも理解が追いついていない、しかし催眠魔法にでも掛かった状態は説明が付かず先生の方で詳しい人に聞いてくれる事になった
ヘルリについては、おれが昨年学園に入学する際、従者の過去について人狼化魔法について事前に説明し同伴可能な許可も貰っている
幼い頃事には確実に禁忌だが、成長しても余程親しいか信頼関係がない限り医師以外で他者に干渉する魔力の行使を行うことは滅多にない

ヘルリが同意し魔力の干渉を受けたのか、それは確実に違う、魔力の侵食で壊されたチョーカーと魔石がそれを物語っている

おれが斜め上に魔力を使う生徒な事も先生は知っている、直接魔力を注ぐことでヘルリが辛い思いをするなら外から鎮静剤を塗るように魔力で守ってあげることは出来ないか…そんな気持ちから闇の魔石を作りプレゼントした時に相談した相手がラッジ先生だからだ…


状況の確認とおれがヘルリを見つけた時の状況、そのどれもが知らない相手の魔力の干渉を受け、人狼化魔法が暴走し、自身の腕を噛んでまでその状況を乗り切ろうとした…そう思う事しか出来なかった

直前までマイケルはヘルリと会話している訳だし全く暴走するような精神状態でも無かったと援護してくれる
結果、先生はヘルリに非はなく何者かの通常なら考えられない魔力干渉による事故として調査をすると約束してくれた
シャルティが悪役令嬢となる世界だったらこの場でシャルティが悪者になってしまった可能性も考えると少し怖い…


ラッジ先生が学園に戻ると同時に父様と何故かレオンハルト殿下、マイズ、イグニスまで帰宅し今日、皆と別れた後の状況を説明する事になった


「怪しい女の仕業かもしれない」


そう言ったのは誰だったか…怪しい女もそう言えば居たよな…と思いつつ、今回は聖女が犯人だと思うなんておれの口からは言えなかった
乙女ゲームのシナリオを知っているがそれだけだ…国に、国民に大切にされる聖女を証拠もなしに犯人だと言うのは流石におれが狂人だと思われてしまう…

暫くの話し合いの後、学園と協力して父様の部下達も調査に参加すると言ってくれた事が嬉しかった

魔力干渉を行った相手には然るべき対応をするから安心しなさいと、いつの間にか泣いていたおれは父様に慰められ、ついでに本来ヒロインが泣いてる時に攻略対象者が掛ける台詞シリーズで、レオンハルト殿下達にも慰められた…


「ぼく、女子じゃないんだけど…?」


って慰めのセリフがヒロイン様でおかしくて、そう言ったら、皆笑ってくれて…張り詰めた空気が少しだけ穏やかになった



その日の夜、シャルティとヘルリはおれの知る二人のまま目を覚ました…
放課後の事をぼんやりとしか覚えてないシャルティと、記憶が飛び、宝物を奪われた悲しみ以外、何が起きたかわからなくなっているヘルリ
二人が無事でよかったけど楽しい筈の学園でこんな辛そうな顔をしてしまう事が辛い…




……………………
……………
………


夜になり、レオンハルト殿下達も帰宅し数時間が経った頃、長い夢を見ていた気持ちになっているシャルティは直に回復し、迷惑をかけたと謝り日常生活に戻ったが、ヘルリには回復するまで時間が必要な状態だった

おれよりも年上で身長も体格もいいけど、ヘルリだってまだ未成年、それに幼い頃の人狼化の件で心は少し子供のまま成長している
大人びいた話し方を心掛けていても内面は中身が社畜のおれからしたらすごく幼い存在…それがヘルリ


「ヘルリ、今日は、ぼくの部屋で休もう
久々に寝るまでブラッシングさせて?」

「……………はい」


少し悩んだ表情をしたが、素直に頷き一緒に部屋に入る、別にやましい意味のない一緒の部屋で休もう発言に父様や母様はヘルリのメンタルケアをおれに任せてくれる眼差しで送り出してくれた


自らの意思で人狼化する場合、痛みはない、突発的になる場合も外的要因がない場合は痛くないと前に話してくれたヘルリは、おれの願いを聞いてブラッシングの為に幼い犬耳と尻尾、手足の少年の姿に変化する
これは、ここに迷い込んで来た時の姿…
基本的に此処での生活を幸せだと受け入れてくれるヘルリでも時々、前の生活を思い出しどうしようも無く不安になって精神的に暴走の気配を感じる時に、助けて欲しい気持ちが溢れるとなる姿


幼いヘルリを抱っこし、膝に乗せお腹に腕を回して抱きしめる
シャルティと一緒に怖くないよおれ達攻撃した時と同じ格好だ、人は不安になる時、人の体温で落ち着く事もある…これもそれだ

ゆっくりと髪を耳を撫で、手ぐしでブラッシングしていく…今日は怖かったね、宝物壊されて悲しかったねと子供に言い聞かせるみたいに話しかけると、ヘルリの肩が震え泣き出したのがわかった


「………っ、ぅう………ルディヴィス様…ごめんなざい…ボク、ボク………ぅ゙ぁ゙ぁ゙………大事なのに、まもれながっだ………従者なのに、化物じゃい゙のに…ボク、ぅ゙ぅ゙ぅ゙っ………ごめん、なざいっ………っ」


「大丈夫、ヘルリが悪くない事はぼくが誰よりもわかってる…どうしていいかわからないほど不安で悲しかったのに人を傷付けない事をちゃんと選べて偉いよ、人狼化したヘルリの事だってぼくは大好きなんだよ?
ヘルリはいい子だ、今も昔も優しくてかっこよくて素敵なぼくの従者…今度は壊れないように頑丈な魔石とチョーカープレゼントしてあげる

あ、経年劣化って知ってる?物は何もしなくてもいずれ壊れるんだ、壊れる度ヘルリが泣いてたらぼくも悲しい…だから、壊れるその度ぼくはヘルリが欲しいなら何度でもプレゼントするよ?」




自分を責めないで、いっぱい泣いて、スッキリして、またぼくの従者をして欲しい



そう伝えると、ヘルリは何度も頷いておれの頬を舐めてくる…まるで幼い子犬みたいな反応で愛おしくて擽ったくて…
ヘルリを守れる主でありたいとその日、おれは深く思ったんだ












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