上 下
31 / 147
学園編

私の騎士とは

しおりを挟む




「長時間及ぶ激しい運動の疲労と脱水、さらに魔力の枯渇で気絶してしまったんですね…ルディヴィスくんが彼を見つけてくれて応急的に水分補給までしてくれて助かりました
治癒魔法は掛けたのでもう大丈夫ですよ、後は側にいてあげてください」


白衣に身を包んだ男性がベッドに横たわるイグニスに毛布を掛けつつおれに話しかけてくる
この男性は学園の保険医だ、乙女ゲームにも確かサポートキャラでいた気がする…好感度を教えてくれる先生…だったか?
名前はなんだっけ…先生と呼ばれていた気がする



鍛錬場で気を失ったイグニスを、身長の差もあり一人では運べず、教員を呼びに行ったりと色々あって現在
保健室まで連れてきてくれた先生は運良くおれの担任だったため、イグニスが心配だと言い1限の授業を免除し付き添って良いと言ってくれた


眠るイグニスを見る…乙女ゲームの攻略対象者…
ゲームでは負け知らずの脳筋キャラだったような気がするのに…このイグニスは脳筋には思えない




「先生、イグニスはいつもあんな感じにお兄さんから鍛錬を受けているんですか…?」


「気絶する程までの鍛錬は今回が始めてですね…これまでも朝の時間に互いに自主鍛錬を行っているのは知っていましたがここまでとは…
元々家族仲もあまり…よくは無いんです…けれど学園で問題を起こすほどではなかったんですよ?

もしかしたら、騎士科の間での噂を鵜呑みにしてしまったんでしょうか…

来年殿下がご入学されるのにまだ側近候補を決めていない、それまでに成果を上げれば側近になれるなど言う噂を信じる生徒もいるんです
教員がいくら噂だと言っても信じない子も…………ああ、すいません…噂話などルディヴィスくんに話す内容では無かったですね…」



飲み物を取ってきますと保険医の先生は部屋を出ていく…騎士科の噂、レオンハルト殿下の側近…ゲームのストーリー……………私の騎士…



『私の騎士…………?』





ズキリと頭が軋む痛みに視界が歪む
なんだ?今の違和感…おれは何を忘れている?イグニスは…ゲームでのイグニスは脳筋キャラだったけどそれ以外に何があった…?
悪役令嬢の側にいた彼、いつの間にかレオンハルト殿下の側にいた彼……………何故殿下の側に居たんだ…?
思い出せ…思い出せ……………





…………………
…………
……


『お兄ちゃんおかえりー!冷凍庫にあったアイスあれで全部?足りないんだけど!もっと買っておいてよねー
あ、今暇?暇だよね?仕事しかしてないんだもん!ほら見てみて!新しいキャラいい感じに攻略してるんだー!

このイケメン、なんと未来の近衛師団長!彼ね可哀想なキャラなんだよ~お兄さんに嫌われてて、お父さんにも才能も無いぼんくら?って呼ばれててね!
ひっどい扱いされてる不幸なキャラ!

でも、見た目が良いからって魔力測定の日に悪役令嬢に金で騎士契約させられちゃうの!悪役令嬢の騎士として聖女に剣を向けて泣いちゃうシーンとか可愛いんだよ~!でねでね!その後も前も凄いの!殿下と協力して男の友情とか聖女に命を捧げますとかいっぱ………ねぇ……………お兄ちゃん?

ちょっとなんでお風呂行こうとしてんの?



…………ちょっと!話聞いてる…!?』







思い…出した
イグニス.バイゼルが何故…私の騎士と呼ばれてるか…


てか、この乙女ゲームさ、聖女に全部救わせる設定にする為に至る所重くしすぎじゃないか…?馬鹿なの?可哀想な子大好きとか危ない性癖の人しかいないの?
人のアイス全部食いやがったクソ妹は確実に馬鹿だとは言える…


そうじゃない…アイスはどうでもいいだろう?おれ………現実逃避したくなるほど思い出したくない記憶に目眩がする
なんでおれは…あの乙女ゲームを妹のプレイを無理矢理見せられるだけじゃく自分でちゃんと攻略しなかったんだろう…って後悔してる



今、目の前で気絶し倒れ眠っているイグニスは…本来、悪役令嬢の騎士として魔力測定後…契約を結ばれバイゼル家に居ないはずなんだ…
本当は悪役令嬢に付き従う騎士としてこの学園に入学する…だからあの酷い鍛錬を受けることも無い筈だったんだ…

乙女ゲームで、レオンハルト殿下の側近として側にいたのも、確か騎士として悪役令嬢の非道な行いを身近で知ってて、聖女との出会いを通して互いに悪役令嬢を断罪する戦友になったから…



おれが乙女ゲームの世界を変えたが為に、今…イグニスはこんな目に合っている
実の兄へ対してのあの怯え、それは日常的に何かしら精神的か肉体的かのストレスがあったのだろう



でも、その原因を作ったのは…おれだ…



シャルティを不幸にしたくない、無駄死にさせたくない、出来れば他の皆も不幸にしたくないとこれまで動いてきた事が…知らぬ場所でシナリオが変わり、人を不幸にもしていた可能性が出てきてしまった
これまでの行動が間違って居たとしてもおれはシャルティを救いたかった…けれど…でも…
このイグニスという存在は悪役令嬢の騎士になるのと家にいるのどっちが幸せだったのだろう…





おれの行いが、彼から選ぶ選択肢を奪っていたのだとしたら…





目頭が熱い、視界が歪み、知らずに涙が溢れてくる
喉が引く付くように痛い…おれが泣いていい場面じゃ無いからだ…
ごめん、ごめんよ…イグニス…
おれが、おれがお前を不幸にしたかもしれない、もしそうだったら…ごめんなさい…ごめんなさい…………




「…………っ、……なぁ…なんで泣いてんだ…?」




知らぬ間に、閉じられていた筈のイグニスの目が開いていた…ゲームと同じ薄黄緑の瞳でおれを見てくる…真っ直ぐに…


その視線が、おれには耐えきれなかった




「ごめん…ごめん………!」



「………え、おい!?」




それだけ言って保健室を飛び出したのは覚えている
どうしていいか分からなくて…イグニスが呼び止めたような気がしたけど止まれなくて、分からなくて、おれはどうしたら良かったんだ…って
走って走って…走って………





自分というおろかな存在を消したくて必死に逃げてしまった








しおりを挟む
感想 140

あなたにおすすめの小説

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...