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学園編
私の騎士とは
しおりを挟む「長時間及ぶ激しい運動の疲労と脱水、さらに魔力の枯渇で気絶してしまったんですね…ルディヴィスくんが彼を見つけてくれて応急的に水分補給までしてくれて助かりました
治癒魔法は掛けたのでもう大丈夫ですよ、後は側にいてあげてください」
白衣に身を包んだ男性がベッドに横たわるイグニスに毛布を掛けつつおれに話しかけてくる
この男性は学園の保険医だ、乙女ゲームにも確かサポートキャラでいた気がする…好感度を教えてくれる先生…だったか?
名前はなんだっけ…先生と呼ばれていた気がする
鍛錬場で気を失ったイグニスを、身長の差もあり一人では運べず、教員を呼びに行ったりと色々あって現在
保健室まで連れてきてくれた先生は運良くおれの担任だったため、イグニスが心配だと言い1限の授業を免除し付き添って良いと言ってくれた
眠るイグニスを見る…乙女ゲームの攻略対象者…
ゲームでは負け知らずの脳筋キャラだったような気がするのに…このイグニスは脳筋には思えない
「先生、イグニスはいつもあんな感じにお兄さんから鍛錬を受けているんですか…?」
「気絶する程までの鍛錬は今回が始めてですね…これまでも朝の時間に互いに自主鍛錬を行っているのは知っていましたがここまでとは…
元々家族仲もあまり…よくは無いんです…けれど学園で問題を起こすほどではなかったんですよ?
もしかしたら、騎士科の間での噂を鵜呑みにしてしまったんでしょうか…
来年殿下がご入学されるのにまだ側近候補を決めていない、それまでに成果を上げれば側近になれるなど言う噂を信じる生徒もいるんです
教員がいくら噂だと言っても信じない子も…………ああ、すいません…噂話などルディヴィスくんに話す内容では無かったですね…」
飲み物を取ってきますと保険医の先生は部屋を出ていく…騎士科の噂、レオンハルト殿下の側近…ゲームのストーリー……………私の騎士…
『私の騎士…………?』
ズキリと頭が軋む痛みに視界が歪む
なんだ?今の違和感…おれは何を忘れている?イグニスは…ゲームでのイグニスは脳筋キャラだったけどそれ以外に何があった…?
悪役令嬢の側にいた彼、いつの間にかレオンハルト殿下の側にいた彼……………何故殿下の側に居たんだ…?
思い出せ…思い出せ……………
…………………
…………
……
『お兄ちゃんおかえりー!冷凍庫にあったアイスあれで全部?足りないんだけど!もっと買っておいてよねー
あ、今暇?暇だよね?仕事しかしてないんだもん!ほら見てみて!新しいキャラいい感じに攻略してるんだー!
このイケメン、なんと未来の近衛師団長!彼ね可哀想なキャラなんだよ~お兄さんに嫌われてて、お父さんにも才能も無いぼんくら?って呼ばれててね!
ひっどい扱いされてる不幸なキャラ!
でも、見た目が良いからって魔力測定の日に悪役令嬢に金で騎士契約させられちゃうの!悪役令嬢の騎士として聖女に剣を向けて泣いちゃうシーンとか可愛いんだよ~!でねでね!その後も前も凄いの!殿下と協力して男の友情とか聖女に命を捧げますとかいっぱ………ねぇ……………お兄ちゃん?
ちょっとなんでお風呂行こうとしてんの?
…………ちょっと!話聞いてる…!?』
思い…出した
イグニス.バイゼルが何故…私の騎士と呼ばれてるか…
てか、この乙女ゲームさ、聖女に全部救わせる設定にする為に至る所重くしすぎじゃないか…?馬鹿なの?可哀想な子大好きとか危ない性癖の人しかいないの?
人のアイス全部食いやがったクソ妹は確実に馬鹿だとは言える…
そうじゃない…アイスはどうでもいいだろう?おれ………現実逃避したくなるほど思い出したくない記憶に目眩がする
なんでおれは…あの乙女ゲームを妹のプレイを無理矢理見せられるだけじゃく自分でちゃんと攻略しなかったんだろう…って後悔してる
今、目の前で気絶し倒れ眠っているイグニスは…本来、悪役令嬢の騎士として魔力測定後…契約を結ばれバイゼル家に居ないはずなんだ…
本当は悪役令嬢に付き従う騎士としてこの学園に入学する…だからあの酷い鍛錬を受けることも無い筈だったんだ…
乙女ゲームで、レオンハルト殿下の側近として側にいたのも、確か騎士として悪役令嬢の非道な行いを身近で知ってて、聖女との出会いを通して互いに悪役令嬢を断罪する戦友になったから…
おれが乙女ゲームの世界を変えたが為に、今…イグニスはこんな目に合っている
実の兄へ対してのあの怯え、それは日常的に何かしら精神的か肉体的かのストレスがあったのだろう
でも、その原因を作ったのは…おれだ…
シャルティを不幸にしたくない、無駄死にさせたくない、出来れば他の皆も不幸にしたくないとこれまで動いてきた事が…知らぬ場所でシナリオが変わり、人を不幸にもしていた可能性が出てきてしまった
これまでの行動が間違って居たとしてもおれはシャルティを救いたかった…けれど…でも…
このイグニスという存在は悪役令嬢の騎士になるのと家にいるのどっちが幸せだったのだろう…
おれの行いが、彼から選ぶ選択肢を奪っていたのだとしたら…
目頭が熱い、視界が歪み、知らずに涙が溢れてくる
喉が引く付くように痛い…おれが泣いていい場面じゃ無いからだ…
ごめん、ごめんよ…イグニス…
おれが、おれがお前を不幸にしたかもしれない、もしそうだったら…ごめんなさい…ごめんなさい…………
「…………っ、……なぁ…なんで泣いてんだ…?」
知らぬ間に、閉じられていた筈のイグニスの目が開いていた…ゲームと同じ薄黄緑の瞳でおれを見てくる…真っ直ぐに…
その視線が、おれには耐えきれなかった
「ごめん…ごめん………!」
「………え、おい!?」
それだけ言って保健室を飛び出したのは覚えている
どうしていいか分からなくて…イグニスが呼び止めたような気がしたけど止まれなくて、分からなくて、おれはどうしたら良かったんだ…って
走って走って…走って………
自分というおろかな存在を消したくて必死に逃げてしまった
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