悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ

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学園編

鍛錬場で

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そういえばこの学園への登校は通学、又は遠方からくる生徒がメインだが寮暮らしを選べる

辺境伯や地方の貴族は距離的に寮暮らしを選ぶ場合もあるが基本は通学が多い、おれも勿論通学一択
何故なら、シャルティが毎朝いってらっしゃいしてくれるのである
天使かな?まじでうちの妹可愛すぎて困る


乙女ゲームの世界だからなのだろうか…通学での交通整備はかなり進んでおり馬車が混むということも無い
そこは素晴らしいと思う
実際通学し始めて既にそれなりの期間が過ぎた…満員電車に揺られた通勤を思い出すと圧倒的快適馬車の旅に日々楽しさしか湧いてこない…


勿論学園の調査も大丈夫、しっかりとメモに書き起こし、知ってるイベントの場所、それが起きたてあろう月と日、時間を書き込み来年役立てるつもりだ

似通った世界だといい、たとえゲームの世界だと認してもそれぞれが自分の意思で判断できるといいな…、シャルティを断罪する可能性があるレオンハルト殿下達との現在の関係が好きなんだよ…本当にいい奴なんだ…ゲームの強制力とかあったらまじで困る



未来は誰にも分からない…ほんとそうだなって改めて痛感する日々
楽しくも不安な日々、その中で、試験も近いしかなり早く登校して優等生っぽく図書館に寄ろうと考えた日、おれは新たな攻略対象者と思われる存在を見つけた



「ふざけているのか!イグニス!貴様は何を鍛錬してるのだ!そんな事ではバイゼル家の品位を疑われるだろう!」


鍛錬場の方から怒りにも似た声、それが叫ぶ名前に聞き覚えがあった
イグニス.バイゼル…攻略対象者の名前と同じ…近衛騎士団長の息子だ…………え?既に学園にいるの?なんで怒鳴られてるんだ…?

ゲームでのイグニスはどんな感じだったか思い出しつつ、まだ人気も少ないそんな時間に何をしているんだろうと鍛錬場を覗いてみることにした
この魔法学園には貴族科と騎士科があるが鍛錬場を使うのは主に騎士科だ
イグニスは騎士科に在籍していたのか?とそんな事を考えながら覗き見してみると………思った以上に修羅場だった



地面に倒れ込む黒髪の少年…それを怒鳴るのは同じ黒髪の上級生と思われる人物だ
ネクタイの色で学年がわかる…怒鳴っている奴は今年卒業を控える最学年の先輩…
なら、地面に倒れているのがイグニスなのか…?


「立てイグニス、バイゼル家に相応しい存在になる為には寝ている場合じゃない!
オレは今年で卒業になってしまう、来年にはレオンハルト殿下が来るというのに近衛騎士になりたくはないのか!?
軟弱なお前のままでいいと思っているのか!!!」



倒れてるのがイグニスでした
え、怒鳴ってるのはイグニスのお兄ちゃん…?
レオンハルト殿下の近衛騎士になるのがバイゼル家の誇り的なそんな展開…?
家族の問題な気がする、ここでおれが口出しして良いものか…とても悩む

しかし、その悩みはイグニスと思われる黒髪の少年の様子を見て吹っ飛んでいった
立てと言われ、必死に這いつくばりながら立とうとするが顔色が悪い、上手く立てず地面に何度も倒れる…まるで激しい目眩や脱力感があるような…

よく見ると衣服の色が大きく変わるほどの汗、立てない程の疲労…目眩…脱力感…………激しい長時間に及ぶ運動と言うなの鍛錬…………脱水症状……………




脱水症状!?!下手をすれば命に関わる状況
家の問題とかどうでもいい、おれはイグニスと思われる少年に向かって走り出していた



「イグニス!」



本当にイグニスだとかなんて関係ない、とりあえず意識の確認をしたかった
手に水の魔術を展開する、空気中の水分を集めその中にいつもシャルティの為に持ち歩いている飴と塩を混ぜ込み簡易的な経口補水液を作る

上級生、イグニスの兄と思われる存在が急に現れたらおれに驚いているがそんな場合じゃない
地面に倒れ込む彼を抱き起こし、口に経口補水液を流し込む…
近くで接し、見るとわかる…ぐっしょりと汗で濡れた身体、カラカラに乾いた唇と舌…目も虚ろなのは長時間水分を摂取せずに鍛錬をしていたからだ…その事が解ってゾッとした


この世界の医療面…それは外科手術的なこともしてるがほとんど魔術をメインに使うためどの程度なのかまだ知らない
けど、必死におれが作った簡易経口補水液を飲み干すイグニスと思われるこの少年は下手したら脱水による命の危機に瀕していたと思う
部活中に脱水で死の危険がとかよくあるやつになってしまう…!

脱水って怖いんだよ、おれも営業でひたすら炎天下歩かされて何度も体験した…搬送されて点滴を打たれたこともある…あの目眩と気持ち悪さは本当に辛いんだ



「な、なんだよお前…邪魔するな!いま、た、鍛錬中なんだぞ!?」


上級生…イグニス兄(仮)はおれを指差し睨んでくる…お前、弟が大事じゃないのか…?家族だろ?
おれなら絶対こんな事しない、ふざけんなよ…


「突然割り込んでしまいすいません…先輩?
僕はサングイス公爵が長子、ルディヴィスです
同級生の命の危機に思わず身体が動いてしまいまして…保健室に連れていきますのでそこを退いてくれますか…?」


「は?………お前には関係ないだろう…!?イグニスとオレの問題だ!部外者が口出しするな…!
命の危機などあるわけない!鍛錬中だっただけだぞ!?来年まで時間が無いんだ!どけ!」


木刀をおれに突きつけ威嚇する先輩は頭に血が上っているようだ…命の危機が無い?どこを見て判断してんだよ…?
イグニスらしき少年はおれより身長が高い…それなのにおれの服にしがみつき、兄に怯えているようにも見える…ゲームでの姿と随分違う気もするが、自分の大切な弟がこんな苦しそうな状況で鍛錬を続けようとするこいつは許せない


「退きません、先輩はイグニスを殺すつもりですか?立てなくなるほどの無理な鍛錬、水分補給さえもろくにさせないこの状況、このまま酷い鍛錬を続ければイグニスは死にます
人は想像よりも簡単に死ぬんですよ?何を焦ってるのか知りませんが、その焦りをイグニスにぶつけるのは間違ってる!!」



おれの言葉に息を詰まらせるのがわかった
しばらく退く気配のないおれを睨みつけていたが、頭に血が上っていてもおれが公爵の息子、更には現在レオンハルト殿下の婚約者候補である事に気付いたのか、イグニスの兄らしき存在は若干舌打ちし立ち去っていった…



「大丈夫だったか?イグニ…………イグニス!?」



残されたイグニスと思われる存在に話しかけようとするが気絶している
その顔は若干幼く見えるがまさに、あの乙女ゲームで何度も見せられた攻略対象者、イグニス.バイゼルに間違いなかった









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