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#87 挑戦試合
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「刺さっていたよ」
オストレアがそう言うと、ファウンが口笛を吹く。
「さすがテル様です!」
マドハトが拍手を始めると、パリオロムまで拍手に加わる。
「外さないで済んだって程度だよ」
実際、真ん中ではなかったし。
「またぁ。兄貴ったら照れ隠しぃ!」
不本意な結果を褒められるのって、なんだかむず痒いので無理やり話題を変える。
「森の向こうの大きな建物はなんだい?」
「ああ。あっちは屋内訓練場だ」
オストレアを先頭に移動する。
石造りのかなり大きな建物。
利照が通っていた学校の、高等部の体育館くらいはある。
何本もの立派な柱とアーチに支えられた天井は、こちらの世界に来てから一番高い天井かも。
中は薄暗いが、寿命の渦はたくさん感じる。
それらの動きは全体的にまったりしていて、特に運動とかをしているようには感じられない。
「この時間に中に居る連中はね、大抵は各小隊の五班、六班の連中だよ。暗闇の中で食事をするのも訓練の一つ……という建前でな。隊舎の便所臭に比べたらはるかにマシだからね。ちなみに第二以降の小隊の一班、二班は上の小隊に上がれる実力がありながら、臭い思いをするくらいならとわざと上がらないってのもよくある話だよ。上の小隊ほど給料も良いんだけどね」
パリオロムが解説してくれる。
「でもね、夕食配給後は抜き打ちで部屋点呼が来るときがあってね、そのときに部屋に揃っていない場合は減給になることもあるから注意しなきゃだよ」
その後、屋内訓練場の横の配給所も、真っ暗な状態のまま外から見学する。
「日々の食料が用意される場所だね。簡単な鍛冶や防具の修理も有料で請け負ってくれるよ。どちらも昼間だけしかやっていないけど」
そこまで紹介してもらったところで、抜き打ち点呼を警戒して部屋へと戻る。
そしてそのまま就寝。
悪臭に慣れないまま過ごし、寝不足気味の朝を迎えた。
昼間、グリュプスの背中で寝させてもらえてなかったら、厳しかっただろうな。
朝食の配給はオストレアと俺とで受け取りに向かう。
昨晩案内された配給所へ。
「よう、新入り!」
「どこの自警団だって?」
「今日の活躍を楽しみにしているぜ!」
「勝てよな」
やたらと話しかけられた。
オストレアが言うには、試験を免除してもらったというのはけっこう知れ渡っており、今日の挑戦試合では何らかの参加を促される可能性が高いとのこと。
挑戦試合は傭兵隊にとって一種の娯楽と化していて、賭けの対象にもなっているらしい――なんて他人事みたいに聞いてから恐らく一ホーラも経っていない。
なぜか俺は闘技場に立っていた。
対戦相手はよりによって第一小隊の一班班長。細マッチョの槍使い、ボロゴーヴ。
一班班長?
どうしてこんな格上と?
新入りである俺たち四人と、第一小隊各班長との挑戦試合を組んだのはタール本人。
一班班長の相手にメリアンじゃなく俺を指名したのもタールだ。
オストレア曰く、タールは『虫の牙』の呪詛傷を持つ者を把握できるという。
呪詛傷自体は俺の魔術特異症で変異しているうえ、スノドロッフ村の契約魔法で一人のレムールとして俺と契約しているから大丈夫かもと思ったのが甘かったのかな。
そういやベイグルさんもレムールとの契約はあくまでも呪詛傷とは別モノで、呪詛傷自体の発動は抑えられても解除するわけではないようなことを言っていたっけ。
「準備は良いか?」
審判として現場に立つのはプルマ副長。
返事をする前に周囲を見渡してみる。
ローマのコロッセオを思わせる円形の闘技場は、東西南北に一つずつ鉄格子門がある以外は無機質な石壁が高さ一アブス半くらいある。
地面は雑草がそこそこ生い茂る土で小石もかなり転がっている。
俺とボロゴーヴとの距離は三アブスほど離れての試合開始となる。
この距離だと矢を射れて一回というところか。
しかも相手は槍使い。
今回は手斧ではなく、支給品の小剣を装備している。もともと持っていた短剣も装備しているが、距離がある状態で槍相手に戦うには向いていない。
弓の射程から槍の射程へと詰められれば圧倒的に不利となる。
メリアンのように懐に入ることができれば小剣や短剣でもなんとかなるだろうが、それはあくまでも槍の射程からさらに距離を詰められれば、という前提。
素の技術や肉体や経験では絶対に敵わないのは明らかだ。
だとしたら魔法を使うべきだろう。
ディナ先輩からは、魔法を使えることを知られないことが一つの強さになると情報の大切さを教えられてはいるが、俺が寄らずの森の魔女様の弟子であるという情報は実績紋に記載されてしまっている。
プルマ副長やタール大隊隊長は傭兵の実績紋を閲覧できる権限があるというから、ここはもう隠しても意味がないだろう。
へたに力を隠せば警戒される可能性だってある。
一番の落とし所はそれなりに見せて「その程度か」と思ってもらえること。
俺とオストレアと二人がかりでも敵わないというタールに睨まれるくらいなら、警戒されないくらいの雑魚がいい。
だからタールが自警団の話を引き合いに出して、試合内容次第では俺の名前は「テル」ではなく「嘘つき」になると宣言したことも気にはしていない。
不名誉な称号は、リテルには申し訳ないけれど、生き残るのが大事だから。
「よろしくお願いします!」
矢を一本、弓へとつがえる。
「お手並み拝見」
ボロゴーヴが派手なモヒカンをさっと撫で、強面な笑みを浮かべる。
なんというか悪党顔。
「開始ッ!」
プルマ副長の掛け声と共にボロゴーヴがこちらへ向かってダッシュした。
照準を絞らせないように、左右へ飛びながらジグザグ気味に。
しかし、俺が消費命を集中しはじめた途端、その移動に下がるという選択肢を入れ始めた。
俺はいつもよりずっと時間をかけて消費命を集め、魔法を発動する。『鹿』を。
走る早さと跳躍力が強化されるルブルムの作った魔法。
こういう機会はずっと考えてきた。
魔法を使ったところを目撃されても、ディナ先輩の言う「口封じ」ができない場合の戦闘を。
とっておきな魔法は当然使用しないのだが、使わざるを得ない中でも手の内はできる限りさらしたくない。
相手に知られても問題のない魔法。
一つは今みたいな身体強化系だ。
相手に対策が立てられない、基本的な作戦。
様子を見ていたボロゴーヴがこちらへ再び近づいてくるが、簡単に距離を取れる。
『鹿』のおかげで足が軽い。
向こうが本気の脚力を隠しているのでなければ、効果時間内は追いつかれずに済むだろう。
もう一つの対策は、相手にバレても読み合いで突破できる魔法。
鏃の先にこんなときのために作っておいた魔法をかける。
『気まぐれの掟』を3.5の8設定で。
こちらの消費命の集中を感じると、ボロゴーヴはさらに激しく前後左右へと動く。
『魔法転移』対策だろう。
そんなボロゴーヴが左側へステップを踏んだタイミングで、矢を射掛ける。ボロゴーヴの心臓のあたりを狙って。
しかしさすが第一大隊第一小隊一班班長。
持ち替えた槍の石突きで地面を突いて無理やり踏みとどまり、すぐに右側へと飛び退る。
だが俺の矢はその逃げたボロゴーヴを追いかけるかのように曲がる。
ボロゴーヴはとっさに槍を回転させて身を守る。
運悪く矢は弾かれたが、ボロゴーヴの表情から笑みが消えた。
俺はといえば次の矢をつがえている。
もちろん魔法を付与している。
消費命をあまり瞬間的に集中しちゃわないように気をつけながら。
ボロゴーヴが距離を取り始めた。
俺の矢がなくなるまで矢を避けるつもりだろうか。
だが当然のように俺は距離を詰める。
『鹿』の効果時間は一ディヴだし、矢を射れば射るほど相手はその早さに目が慣れてしまう。
試合は長引かせない方がいい。
再びボロゴーヴの動きを読んで心臓を狙う。
今度はボロゴーヴはしっかりと槍を構えて回転させる。
だが、その槍に矢が当たったと同時に『接触発動』で封じていた強めの『発火』が弾ける。
その動揺前提で魔法をかけていない矢をスピード重視で射掛けた。
ボロゴーヴは今度は避けるが体勢が悪い。
しかしその左腕をかすめるにとどまってしまう。
矢に毒でも塗っていないのが残念だ。
初めての傷がついたことで観客席から大量の野次が飛んでいる。
ボロゴーヴの表情も明らかに険しくなった。
俺が次の矢にまた魔法を付与すると、明らかに距離を取ろうとした。
同じだけ距離を縮めようとしたら、今度は全力でジグザグ接近してきた。
逃げれば俺が距離を詰めると思ったのだろう。
だがここで俺は立ち止まり、構わずに射る。
今度かけた魔法は『蜃気楼の矢』を3設定で。
そして射った途端にボロゴーヴはぎょっとして全力で横方向へと逃げた。
『蜃気楼の矢』は、矢が途中で幾つにも分かれるような幻影を伴って飛ぶ。
設定しているのは魔法発動から幻影が発生するまでの秒数。
クラーリンさんに教えていただいた『新たなる生』をもとに「幻覚を作る」という思考要素を抽出して作った魔法。
幻影は矢の周囲を同じ速度で飛び、何かにぶつかると消える。
まあ初見相手には効果があるだろう。
幻影全てをかわしきることで体勢を崩しかけているボロゴーヴへ畳み掛ける。
消費命をまた集中して矢を射る。
今度のは『気まぐれの掟』を1.2の5、加えて1.5の9設定で。
『気まぐれの掟』は、ベイグルさんに教えていただいた『遠回りの掟』の思考から発展させた魔法。
もとの魔法は運動エネルギーを一時的に「遠回り」させて、結果的には一時的に空間的に停止させるというものだが、こっちのは運動エネルギーに違う方向を「指示」して、その方向を突然変えるというもの。
ベクトルの合成みたいな感じ。
最初の数字は魔法発動から効果発生までの時間で、0.1秒単位で設定できる。
二番目の数字は進行方向に対して加わる「指示」の方向で、アナログ時計盤をイメージして作った。3なら右、6なら下という感じで。
ちなみに秒という単位を用いているのは、地球の知識を持たぬこちらの人に触れられたままで魔法を使ったとしても理解されないように。
しかもこれ、指示が最大二回できるのが強み。
まあ「指示」方向は最初に指定しなきゃなのだけど。
ボロゴーヴは最初の軌道変化には対応できたものの、二回目の変化に戸惑い、今度は右太腿に深々と矢が刺さった。
「降参だ」
わーっと歓声がわく。
最初は腕組み足組みでふんぞり返っていたタールだったが、いつの間にか身を乗り出すように俺を見つめていた。
大丈夫だっただろうか。
念の為、消費命の集中スピードだけじゃなく、もう一つ小細工をしておいたのだが。
『虫の牙』の呪詛傷の「ひとつまみの祝福」による俺の魔法効果増大を悟られないように、と。
これはずいぶん前から練習していたこと。
俺と、普通の人が同様に一ディエスを消費して例えば『発火』を発動させた場合、明らかに俺のほうが大きな炎として発動される。
なのでこの魔法効果増大分について、まるで「余計に魔法代償を費やして」魔法効果を増したように見えるように、実際の消費命に加え、偽装消費命を添えるというものだ。
もちろん普段の偽装消費命は、消費命を隠し打ち消すように逆回転させるのだが、今回は同じ回転で消費命の一部に見えるように用意した。
そして消費命を魔法代償として魔法を発動するタイミングで解除する。
『テレパシー』を自分に発動しての反復練習もかなりしたし、魔法発動時に痛がってもいないから、俺に呪詛傷があるようには見えない――と良いのだけれど。
あとは手をさらし過ぎてないかという不安かな。
「門を開けー!」
プルマ副長が叫ぶなか、ボロゴーヴに近づくと、自身の足から抜いた矢を手渡してくれた。
「やるじゃねぇか、テル。タール大隊隊長が遊ぶなよっつった理由がわかったわ」
「必死でした。魔法で、初見で、だったから運良くなんとか……」
「照れんなよ。あれだけの魔法を実戦で使えるのは重宝されるんだ。胸を晴れ。さもなきゃ俺が惨めになる」
「わ、わかりま……わかった」
ボロゴーヴは渋い笑顔を見せる。
どうにも悪党の悪巧みにしか見えない。
「なんだ? 俺の髪型が気になるか?」
「あっ、いえ」
ボロゴーヴの頭は一見するとモップのようにも見える。
「うちの先祖獣がな、鶏冠のある鳥なんだよ」
「そうなんですね」
「ここは強けりゃ自由ってとこだ。まだ育ちの良さが抜けてねぇみてぇだが、強けりゃそれでもバカにされねぇぜ。ま、これからよろしくな」
そうだった。口調にまで気が回っていない。
「よろしく」
自分とボロゴーヴがそれぞれ入ってきた門の鉄格子が大きな音を立てて開いた。
去ってゆくボロゴーヴの大きな背中を見つめてから踵を返す。
間近で見るとしっかり鍛え上げられた筋肉のボロゴーヴ。
手数を急激に増やして選択肢の幅を広げた上で短期決戦という今回の方法でなきゃきっと勝てなかった。
「よう。おめでとさん」
門の向こうに待ち構えていたメリアンがニヤリと笑った。
「負けてらんねぇなぁ」
入れ替わりでメリアンが闘技場へ足を踏み入れると、再び門が閉じられる。
「次! ジャブジャブ対メリアン!」
プルマ副長の宣言。
マドハトとファウンが大賛辞合戦を始めようとしたのを止めさせ、鉄格子の隙間からメリアンと相手、二班班長ジャブジャブとの戦いを見守る。
ジャブジャブは鳥種で全体的に細身。武器も細長い曲刀だ。
下品に腰を振るアピールで「女だ! 女だ!」を連呼している。
怖いもの知らずなのかな。
メリアンは両手にいつもの円盾を取り付け、拳にはスパイク付きのプレートナックル。
開始早々、盾を構えたまま駆け出したメリアンに対しジャブジャブが盾の隙間から鋭い突きを入れたが、メリアンは絶妙に身を引いてかわし、しかも盾の縁とスパイク付きナックルであっという間に曲刀を挟んで砕いた。
その勢いでジャブジャブの懐に踏み込み、スパイクナックルを顔面寸止め。
あっという間に相手の降参をもぎ取った。
「次! ラース対マドハト!」
ラースは三班班長の爬虫種。
髪の毛は緑色だが、頭頂部はハゲている。
温和そうな表情の割に、全身を覆う金属鎧にも、大きな円盾にも、金属製の巨大ハンマーにも、無数の鋲が付いている。
円盾はメリアンが持つ小剣のように普通の人が持つのより大きめサイズだが、その巨躯からはむしろ小さく見えるほど。
体の小さなマドハトとの体格差がエグい。
対するマドハトは短剣が一本。
だが、開始早々しゃがんだマドハトに警戒して足を止めた瞬間、ラースの足元に大きな『大笑いのぬかるみ』が発動。
ツルツル滑ってその場から移動できないでいるそこへマドハトが上手に小袋を投げる。
油がラースの体にぶちまけられた。
あれはナイトさんからもらった美味しい食用油なのだが、こんなこともあろうかと用意させておいて良かった。
「降参だ!」
俺の『発火』を目の当たりにしていたからか、油だと気づいてからの降参が早かった。
実際の試合時間はメリアンとほとんど変わらないんじゃないだろうか。
「次! トーヴ対ファウン!」
四班班長のトーヴは熊種。
ラースに負けじ劣らじの巨体で、その体の半分以上を隠せる大きな方盾を構え、見るからに凶悪そうな武器を持っている。
方盾はもはや扉だし、武器は太めの鉄棒の先にトゲがたくさん付いた鉄球がついた。
戦棍タイプのモーニングスター。
しかもトーヴ、体の大きさの割りにかなり素早い。
防御は盾をメインにしており、鎧は動きやすそうな軽量の革鎧のみ。
そしてモーニングスターをブンブン振り回している。
ファウンは二本の短剣で上手にさばいているのだが、それでも盾の向こう側へ有効打を繰り出せないでいた。
いや、全然攻撃をしてなくないか?
延々と避け続けるだけ。
初めは面白がっていた観客の傭兵たちも、次第に飽き始めてきたのか倒せ倒せと野次を飛ばし始める。
そんな中でずっと平然と避け続けるだけのファウンは相当な神経をしているんだろうな。
プルマ副長が止めないので戦闘は延々と続く。
どのくらい時間が経っただろうか、トーヴの攻撃がだんだん粗くなり始める。
ファウンは相変わらず、というか、鼻歌を歌っている。
いまや誰も野次を飛ばさずずっと二人を見守っている。
ファウンはただ単に避けるだけじゃなく、襲いかかる武器を上手に受け流すことで自分があまり動かずに済むようにしている――しかもそれをずっと続けている。
地味な凄さ。
技術だけじゃない。これだけの時間ずっと続けられる集中力には恐ろしささえ感じる。
今は味方のポジションで居てくれるけれど、油断しない方が良いだろう。
それからさらに時間をかけ、半ホーラどころか一ホーラ近くかわし続けた所で、トーヴの首筋にすっとファウンの短剣が当てられ、降参させた。
その四戦が終わったところで拍手が起こる。
この世界でも拍手は称賛の意味を持つ。
「お前らこれからギルフォド自警団を名乗れよ!」
誰かが叫ぶと、拍手がより一層大きくなった。
どうやら俺は――俺たちは、なんとか乗り切れたようだ。
その後は、他班の入れ替え戦を見学する。
予定されていた挑戦試合が全て終了した頃にはもう午後になっていた。
俺たちは一班へと昇格し、元々の一班から四班は、二班から五班へと降格になった。
班長同士が望めば、班長だけ挿げ替えという選択もできるようだが、俺は五班全員で一班と入れ替わることを望んだ――そう。俺が班長になってしまったのだ。
てっきりメリアンがなるものだとばかり思っていたが、大隊長タールの指示で一班の班長と戦ったのが俺だったために、俺が班長ということになったのだ。
俺なんかに務まるのだろうか?
不安は多いが、とりあえず今は糞尿臭から遠い場所で食事や睡眠が取れるようになることを素直に喜ぼう。
挑戦試合の後は遅めの昼食。
臭くない部屋で食べる飯は最高だった。
食後はわずかな休憩を挟み、まずは外壁内を走り込み。
その後、木槍を使った模擬戦。
普段使っていない武器と、自分の普段の近接武器とを交互に用いて模擬戦をすると、両方の武器に対する理解が深まる。
武器の長所短所を知るだけじゃなく、相手の武器を奪って戦うときにも役に立つとのこと。
かなり実践的な訓練だ。
戦闘の経験値が低い俺にとってはありがたい。
元の世界では体育の授業で柔道とか習ったのを面倒臭がって軽く流していたのを今更後悔する。
そんなこんなで訓練は夕方まで続く。
今日は部屋の入れ替えがあったので、暮れる前に荷物の移動を含め休憩となった。
そのさなか、大隊隊長タールから俺に呼び出しがかかる。
俺にだけ。
一班の新班長だから不自然なことなどないのだが、ここまでの流れを考えると、どうにも。
『虫の牙』の呪詛が移せることは事実としてわかっているが、それをいつ、どういうタイミングで俺が手に入れたかの答え方を間違うと、俺からディナ先輩へとつながってしまいかねない。
それに魔法特異症によって壊れたとはいえ、呪詛傷自体はずっと俺の中に残っているのだ。
「テルを、ではなく一班の班長を、呼んだようだから」
オストレアが俺を落ち着かせてくれる。
するとマドハトも近寄ってきて頭を撫でることを要求する。
何の脈絡もないが、緊張が少しほぐれたのは確かだ。
「じゃあ行ってくる」
五班改め一班の皆に見送られながら隊舎を出る。
心の準備をしてから、俺は大隊隊長にあてがわれているという屋敷へと向かった。
タールの屋敷は、俺たちの隊舎からは屋外訓練場と大食堂を挟んだ向こう側。
訓練場の脇の道を通り、大食堂の前も通り過ぎると見えてくる、二階建ての四角い建物。
無骨で飾り気がなく、窓が小さく、住居っぽさが薄い。
こういう建物は昔、現在の中壁が外壁だった頃に現在の外壁を建築中、小さな砦として使用していたものを流用したのが多いってオストレアが言っていたっけ。
だから威圧感がある。
深呼吸する。
気圧されそうなときこそ、思い出せ。
マクミラ師匠の教え、冷静に状況を把握できる紳士たれ、と。
カエルレウム師匠の教え、思考を止めるな、と。
ディナ先輩の教え、油断するな見落とすな。
覚悟を決め、大隊長の屋敷の扉をノックした。
頑丈そうに補強された扉の向こうから、足音とが近づいてくる。
寿命の渦は鳥種。タール本人だろうか。
やがて扉はゆっくりと開かれる。
「やあ、新しい第一小隊一班の班長殿、入りたまえ」
表情の見えない烏頭の大隊長タール、その人だった。
「第一小隊一班班長、テル、入ります!」
片膝を着くお辞儀のあと、足を踏み入れる。
入ってすぐの部屋はがらんとしていて家具の類は何もない。
奥の壁の中央に二階へと上がる階段があり、明かりはその先から漏れる光のみ。
階段の両脇には扉が一つずつあり、タールは左の扉を開けた。
タールに続いて次の部屋に入ると、部屋の中に灯り箱が置いてある。
部屋の中に並べられた防具を揺らめく炎が照らすと、今にも動き出しそうな気がしてくる。
タールはおもむろに腰を落とすと、一番重そうな金属鎧が飾ってある台座を肩で押した。
カタンカタンと床下で何かが動く音が聞こえた後、タールは床の中央をまさぐり、床の一部を回転させ、取っ手のようなものを引き出した。
さらに取っ手に指を引っ掛け、床を持ち上げる。
「灯り箱を持って先に行きたまえ」
タールが持ち上げた床の下には、地下へ伸びる階段。
なぜそこへ行くのかという理由は告げられない。
「はい」
そう答えるしかないよな。
閉じ込められるとかじゃなければいいけど。
灯り箱を手に取り、地下への階段に一歩踏み出す。
石造りの丈夫そうな階段。
下りて行くしか選択肢はない。
真っ直ぐに伸びていた階段はすぐに螺旋状となり、縦に二アブス分くらい降りたところでようやく扉に行き当たる。
ここで待つべきか、入るべきなのか。
「扉に突き当たりました!」
試しに大きな声で報告してみる。
「入りたまえ」
返事の声はそう遠くない。
足音がついてくる気配はなかったし、タールの寿命の渦はまださっきの部屋にあるままなのに。
正直、嫌な感じだが、入れというからには入るべきなのだろう。
扉に手をかけると、鍵はかかっていないのか向こう側へ簡単に押せる。
少し力を入ると、扉は軋みながら、その奥に隠していた光景をさらけ出した。
一瞬、灯り箱を落としそうになる。
そのくらい、異様な光景だった。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。傭兵部隊ではテルと名乗る。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊ではハトと名乗る。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
ギルフォド第一傭兵大隊隊長。キカイー白爵の館に居た警備兵。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付けた。『虫の牙』で召喚したレムールを識別できる。フラマとオストレアの父の仇でもある。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、護衛として同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
カエルレウムを尊敬する魔術師。ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
スキンヘッドの精悍な中年男性で、眉毛は赤い猿種。なぜか亀の甲羅のようなものを背負っている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。偽ヴォールパール自警団作戦に参加して傭兵部隊に。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である羊種の女性。全体的にがっしりとした筋肉体型で拳で会話する主義。
美人だが鼻梁には目につく一文字の傷がある。メリアンのファン。
・パリオロム
第一傭兵大隊第一小隊で同じ班の先輩。猫種の先祖返り。
毛並みは真っ白いがアルバスではなく瞳が黒い。気さく。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさが際立つ痴女っぽい服装だが、所作は綺麗。父親が地界出身の魔人。
・オストレア
鳥種の先祖返りで頭はメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まりつつ、共闘できる仲間を探している。
・ボロゴーヴ
第一傭兵大隊第一小隊元一班班長。鳥種。モップ頭の細マッチョ槍使い。
・ジャブジャブ
第一傭兵大隊第一小隊元二班班長。細長い曲刀を使う、細身の鳥種。下品な発情アピールがやかましい。
・ラース
第一傭兵大隊第一小隊元三班班長。爬虫種。緑色の髪の毛。頑丈な体。スパイクシールドと巨大なハンマーを使う。
・トーヴ
第一傭兵大隊第一小隊元四班班長。熊種。巨体。タワーシールドとモーニングスターを使用。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
■ はみ出しコラム【ネーミングの由来 その三】
前回に引き続き、ルイス・キャロルの作品内から頂戴したネーミング由来について記載する。
今回は、『鏡の国のアリス』より。
・ケティ:リテルの幼馴染で想い人
→ Kitty より。ダイナの黒い仔猫。
・スノドロフ村:魔石採取が可能な秘密の村
→ Snowdrop より。ダイナの白い仔猫。
・リリ:ナイトの妻。魔術師。
→ 白の女王の娘、リリーより
・ジャ・バ・オ・クー:マンクソム砦近くの危険な洞窟
→ ジャバウォックの詩より
・ボロゴーヴ:第一傭兵大隊第一小隊元一班班長
→ ジャバウォックの詩に登場する Borogove より。ルイス・キャロルの別作品『スナーク狩り』においては、羽毛を体中から突き出した貧弱で見栄えのしない鳥でモップのような外見をしている、との記載
・ジャブジャブ:第一傭兵大隊第一小隊元二班班長
→ ジャバウォックの詩に登場する Jubjub より。ルイス・キャロルの別作品『スナーク狩り』においては、一年中発情しているやけっぱちな鳥、との記載
・ラース:第一傭兵大隊第一小隊元三班班長
→ ジャバウォックの詩に登場する Rath より。ルイス・キャロルの別作品『スナーク狩り』においては、ツバメとカキを主食とし直立した頭と膝で歩ける足を持つ緑色の陸亀の一種である、との記載
・トーヴ:第一傭兵大隊第一小隊元四班班長
→ ジャバウォックの詩に登場する Toves より。ルイス・キャロルの別作品『スナーク狩り』においては、アナグマとトカゲとコルク栓抜きをかけ合わせた物で日時計の下に巣くう習性を持つ奇妙な生物。チーズを主食としている、との記載
・ロズ:ディナの支配する娼館街のまとめ役。エルーシの姉
→ 生きた花の庭のバラ(Rose)より
娼婦たちも同様に、リーリィは Lily、デイジは Daisies、ヴァイオレは Violet、ラークスパは Larkspur より
・トレイン:トレイン傭兵団のリーダー。チケを愛している
→ アリスが乗った電車(Train)より。彼が折り紙兜をかぶっていたのは、電車内で白い紙の服を着ている紳士の挿絵より。とてもキャラが立っているのですが、彼には名前がないので。
・チケ:トレイン傭兵団の紅一点。戦争参加中に、転生者スマコが目覚めた
→ 電車の切符(Ticket)より
ちなみにスマコは、永代静雄が「少女の友」創刊号に『不思議の国のアリス』の日本での初訳『アリス物語』を発表したときのペンネーム須磨子より。永代静雄は、田山花袋『蒲団』のヒロイン横山芳子の恋人、田中のモデルでもある
・ムニエール:トレイン傭兵団のヒゲが生えている眼鏡老人
→ 電車の乗客。ヤギなので山羊種にしたが、イラストでは眼鏡をかけている。ヤギの名前がムニエールなのは、佐々木マキの絵本ムッシュ・ムニエルより
・ビトル:トレイン傭兵団のカブトムシ鎧
→ 電車の乗客、カブトムシ(Beetle)より
・アスペール:トレイン傭兵団のしわがれ声
→ 電車で、カブトムシの向こうに座っていた馬より。原文ではのどが詰まっていた(Choked)声なのだが、ちょっとあんまりかなとラテン語で「粗い」や「荒れた」という意味の asper に
・ナット:トレイン傭兵団の小さな声
→ 電車の乗客、ブヨ(Gnat)より
・ロッキン・フライ:名無し森砦の守備隊第二隊副隊長
→ Rocking Horse Fly より
ロッキンの父であるフライ濁爵領の領都ホースーもここから
・スナドラ:名無し森砦の守備隊で、盗賊団の一味
→ Snap-Dragonfly より
・プラプディン:名無し森砦の守備隊で、盗賊団の一味
→ Snap-Dragonfly の胴体 plum-puddin より
・ホリーリヴ:名無し森砦の守備隊で、盗賊団の一味
→ Snap-Dragonfly の羽根 holly-leaves より
・ブラデレズン:名無し森砦の守備隊で、盗賊団の一味
→ Snap-Dragonfly の頭 raisin burning in brandy より
・ブレドア:街道を馬車で封鎖し襲ってきた盗賊
→ Bread and Butterfly (前半)より
・バータフラ:クラースト村の、レムやミンを含む世代全体の名前
→ 同じく Bread and Butterfly (後半)より
・ファウン:リテルを兄貴と慕う山羊種
→ 自分の名前を忘れたアリスが出会った子鹿(Fawn)。なぜ子鹿なのに山羊になったかというと、最初は子供たちを襲った山羊種集団はサテュロスのイメージで、その一員としてデザインされたこのキャラは、ローマ神話のファウヌスから名前をもらっていたが、途中で設定を変えて実際にはこいつだけ悪事を働いていなかったことにしたためにファウヌスに近いけど害のない名前としてファウンが採用された流れから
・トゥイードル濁爵:ギルフォドを領都に構える濁爵領の領主
→ トゥイードルダムとトゥイードルディーより
実は作中で特に語られていないが、領主は双子である。
・タール:第一傭兵大隊隊長にして『虫の牙』所持者
→ トゥイードルダムとトゥイードルディーが争った原因の話に出てくるお化けガラス(monstrous crow)が、タールの樽(tar-barrel)のように真っ黒だ、という表現より
・ウォルラース:悪徳商人
→ トゥイードルディーの語った詩『セイウチと大工』、セイウチ(Walrus)より
・ダイク:名無し森砦の守備隊隊長
→ トゥイードルディーの語った詩『セイウチと大工』、大工(Carpenter だけど日本語で)より
・オストレア:傭兵仲間、フラマの妹
→ トゥイードルディーの語った詩『セイウチと大工』、牡蠣のラテン語 ostrea より
・モノケロ:ライストチャーチ白爵
→ 王冠を取り合うライオンとユニコーンより、モノケロスはユニコーンのギリシャ語
・レーオ:ライストチャーチ白爵夫人にして、メリアンの元上官
→ 王冠を取り合うライオンとユニコーンより、ライオンはラテン語で leo
・プラ、ムケーキ:ライストチャーチ白爵領都ニュナムの領兵
→ ライオンとユニコーンがケーキの切り方について言い合っていたときに言及されたすももケーキ(plum-cake)より
・ナイト:ナイト商会のトップ。転生者キタヤマの魂が宿っている
→ 白の騎士(ナイト)より。アリスに乗馬の極意を教えている老騎士のほうをモデルにしたのでナイトさんはかなり歳を召されているのです
※ ハンプティ・ダンプティを名前の由来に持つキャラは現時点ではまだ登場していません
オストレアがそう言うと、ファウンが口笛を吹く。
「さすがテル様です!」
マドハトが拍手を始めると、パリオロムまで拍手に加わる。
「外さないで済んだって程度だよ」
実際、真ん中ではなかったし。
「またぁ。兄貴ったら照れ隠しぃ!」
不本意な結果を褒められるのって、なんだかむず痒いので無理やり話題を変える。
「森の向こうの大きな建物はなんだい?」
「ああ。あっちは屋内訓練場だ」
オストレアを先頭に移動する。
石造りのかなり大きな建物。
利照が通っていた学校の、高等部の体育館くらいはある。
何本もの立派な柱とアーチに支えられた天井は、こちらの世界に来てから一番高い天井かも。
中は薄暗いが、寿命の渦はたくさん感じる。
それらの動きは全体的にまったりしていて、特に運動とかをしているようには感じられない。
「この時間に中に居る連中はね、大抵は各小隊の五班、六班の連中だよ。暗闇の中で食事をするのも訓練の一つ……という建前でな。隊舎の便所臭に比べたらはるかにマシだからね。ちなみに第二以降の小隊の一班、二班は上の小隊に上がれる実力がありながら、臭い思いをするくらいならとわざと上がらないってのもよくある話だよ。上の小隊ほど給料も良いんだけどね」
パリオロムが解説してくれる。
「でもね、夕食配給後は抜き打ちで部屋点呼が来るときがあってね、そのときに部屋に揃っていない場合は減給になることもあるから注意しなきゃだよ」
その後、屋内訓練場の横の配給所も、真っ暗な状態のまま外から見学する。
「日々の食料が用意される場所だね。簡単な鍛冶や防具の修理も有料で請け負ってくれるよ。どちらも昼間だけしかやっていないけど」
そこまで紹介してもらったところで、抜き打ち点呼を警戒して部屋へと戻る。
そしてそのまま就寝。
悪臭に慣れないまま過ごし、寝不足気味の朝を迎えた。
昼間、グリュプスの背中で寝させてもらえてなかったら、厳しかっただろうな。
朝食の配給はオストレアと俺とで受け取りに向かう。
昨晩案内された配給所へ。
「よう、新入り!」
「どこの自警団だって?」
「今日の活躍を楽しみにしているぜ!」
「勝てよな」
やたらと話しかけられた。
オストレアが言うには、試験を免除してもらったというのはけっこう知れ渡っており、今日の挑戦試合では何らかの参加を促される可能性が高いとのこと。
挑戦試合は傭兵隊にとって一種の娯楽と化していて、賭けの対象にもなっているらしい――なんて他人事みたいに聞いてから恐らく一ホーラも経っていない。
なぜか俺は闘技場に立っていた。
対戦相手はよりによって第一小隊の一班班長。細マッチョの槍使い、ボロゴーヴ。
一班班長?
どうしてこんな格上と?
新入りである俺たち四人と、第一小隊各班長との挑戦試合を組んだのはタール本人。
一班班長の相手にメリアンじゃなく俺を指名したのもタールだ。
オストレア曰く、タールは『虫の牙』の呪詛傷を持つ者を把握できるという。
呪詛傷自体は俺の魔術特異症で変異しているうえ、スノドロッフ村の契約魔法で一人のレムールとして俺と契約しているから大丈夫かもと思ったのが甘かったのかな。
そういやベイグルさんもレムールとの契約はあくまでも呪詛傷とは別モノで、呪詛傷自体の発動は抑えられても解除するわけではないようなことを言っていたっけ。
「準備は良いか?」
審判として現場に立つのはプルマ副長。
返事をする前に周囲を見渡してみる。
ローマのコロッセオを思わせる円形の闘技場は、東西南北に一つずつ鉄格子門がある以外は無機質な石壁が高さ一アブス半くらいある。
地面は雑草がそこそこ生い茂る土で小石もかなり転がっている。
俺とボロゴーヴとの距離は三アブスほど離れての試合開始となる。
この距離だと矢を射れて一回というところか。
しかも相手は槍使い。
今回は手斧ではなく、支給品の小剣を装備している。もともと持っていた短剣も装備しているが、距離がある状態で槍相手に戦うには向いていない。
弓の射程から槍の射程へと詰められれば圧倒的に不利となる。
メリアンのように懐に入ることができれば小剣や短剣でもなんとかなるだろうが、それはあくまでも槍の射程からさらに距離を詰められれば、という前提。
素の技術や肉体や経験では絶対に敵わないのは明らかだ。
だとしたら魔法を使うべきだろう。
ディナ先輩からは、魔法を使えることを知られないことが一つの強さになると情報の大切さを教えられてはいるが、俺が寄らずの森の魔女様の弟子であるという情報は実績紋に記載されてしまっている。
プルマ副長やタール大隊隊長は傭兵の実績紋を閲覧できる権限があるというから、ここはもう隠しても意味がないだろう。
へたに力を隠せば警戒される可能性だってある。
一番の落とし所はそれなりに見せて「その程度か」と思ってもらえること。
俺とオストレアと二人がかりでも敵わないというタールに睨まれるくらいなら、警戒されないくらいの雑魚がいい。
だからタールが自警団の話を引き合いに出して、試合内容次第では俺の名前は「テル」ではなく「嘘つき」になると宣言したことも気にはしていない。
不名誉な称号は、リテルには申し訳ないけれど、生き残るのが大事だから。
「よろしくお願いします!」
矢を一本、弓へとつがえる。
「お手並み拝見」
ボロゴーヴが派手なモヒカンをさっと撫で、強面な笑みを浮かべる。
なんというか悪党顔。
「開始ッ!」
プルマ副長の掛け声と共にボロゴーヴがこちらへ向かってダッシュした。
照準を絞らせないように、左右へ飛びながらジグザグ気味に。
しかし、俺が消費命を集中しはじめた途端、その移動に下がるという選択肢を入れ始めた。
俺はいつもよりずっと時間をかけて消費命を集め、魔法を発動する。『鹿』を。
走る早さと跳躍力が強化されるルブルムの作った魔法。
こういう機会はずっと考えてきた。
魔法を使ったところを目撃されても、ディナ先輩の言う「口封じ」ができない場合の戦闘を。
とっておきな魔法は当然使用しないのだが、使わざるを得ない中でも手の内はできる限りさらしたくない。
相手に知られても問題のない魔法。
一つは今みたいな身体強化系だ。
相手に対策が立てられない、基本的な作戦。
様子を見ていたボロゴーヴがこちらへ再び近づいてくるが、簡単に距離を取れる。
『鹿』のおかげで足が軽い。
向こうが本気の脚力を隠しているのでなければ、効果時間内は追いつかれずに済むだろう。
もう一つの対策は、相手にバレても読み合いで突破できる魔法。
鏃の先にこんなときのために作っておいた魔法をかける。
『気まぐれの掟』を3.5の8設定で。
こちらの消費命の集中を感じると、ボロゴーヴはさらに激しく前後左右へと動く。
『魔法転移』対策だろう。
そんなボロゴーヴが左側へステップを踏んだタイミングで、矢を射掛ける。ボロゴーヴの心臓のあたりを狙って。
しかしさすが第一大隊第一小隊一班班長。
持ち替えた槍の石突きで地面を突いて無理やり踏みとどまり、すぐに右側へと飛び退る。
だが俺の矢はその逃げたボロゴーヴを追いかけるかのように曲がる。
ボロゴーヴはとっさに槍を回転させて身を守る。
運悪く矢は弾かれたが、ボロゴーヴの表情から笑みが消えた。
俺はといえば次の矢をつがえている。
もちろん魔法を付与している。
消費命をあまり瞬間的に集中しちゃわないように気をつけながら。
ボロゴーヴが距離を取り始めた。
俺の矢がなくなるまで矢を避けるつもりだろうか。
だが当然のように俺は距離を詰める。
『鹿』の効果時間は一ディヴだし、矢を射れば射るほど相手はその早さに目が慣れてしまう。
試合は長引かせない方がいい。
再びボロゴーヴの動きを読んで心臓を狙う。
今度はボロゴーヴはしっかりと槍を構えて回転させる。
だが、その槍に矢が当たったと同時に『接触発動』で封じていた強めの『発火』が弾ける。
その動揺前提で魔法をかけていない矢をスピード重視で射掛けた。
ボロゴーヴは今度は避けるが体勢が悪い。
しかしその左腕をかすめるにとどまってしまう。
矢に毒でも塗っていないのが残念だ。
初めての傷がついたことで観客席から大量の野次が飛んでいる。
ボロゴーヴの表情も明らかに険しくなった。
俺が次の矢にまた魔法を付与すると、明らかに距離を取ろうとした。
同じだけ距離を縮めようとしたら、今度は全力でジグザグ接近してきた。
逃げれば俺が距離を詰めると思ったのだろう。
だがここで俺は立ち止まり、構わずに射る。
今度かけた魔法は『蜃気楼の矢』を3設定で。
そして射った途端にボロゴーヴはぎょっとして全力で横方向へと逃げた。
『蜃気楼の矢』は、矢が途中で幾つにも分かれるような幻影を伴って飛ぶ。
設定しているのは魔法発動から幻影が発生するまでの秒数。
クラーリンさんに教えていただいた『新たなる生』をもとに「幻覚を作る」という思考要素を抽出して作った魔法。
幻影は矢の周囲を同じ速度で飛び、何かにぶつかると消える。
まあ初見相手には効果があるだろう。
幻影全てをかわしきることで体勢を崩しかけているボロゴーヴへ畳み掛ける。
消費命をまた集中して矢を射る。
今度のは『気まぐれの掟』を1.2の5、加えて1.5の9設定で。
『気まぐれの掟』は、ベイグルさんに教えていただいた『遠回りの掟』の思考から発展させた魔法。
もとの魔法は運動エネルギーを一時的に「遠回り」させて、結果的には一時的に空間的に停止させるというものだが、こっちのは運動エネルギーに違う方向を「指示」して、その方向を突然変えるというもの。
ベクトルの合成みたいな感じ。
最初の数字は魔法発動から効果発生までの時間で、0.1秒単位で設定できる。
二番目の数字は進行方向に対して加わる「指示」の方向で、アナログ時計盤をイメージして作った。3なら右、6なら下という感じで。
ちなみに秒という単位を用いているのは、地球の知識を持たぬこちらの人に触れられたままで魔法を使ったとしても理解されないように。
しかもこれ、指示が最大二回できるのが強み。
まあ「指示」方向は最初に指定しなきゃなのだけど。
ボロゴーヴは最初の軌道変化には対応できたものの、二回目の変化に戸惑い、今度は右太腿に深々と矢が刺さった。
「降参だ」
わーっと歓声がわく。
最初は腕組み足組みでふんぞり返っていたタールだったが、いつの間にか身を乗り出すように俺を見つめていた。
大丈夫だっただろうか。
念の為、消費命の集中スピードだけじゃなく、もう一つ小細工をしておいたのだが。
『虫の牙』の呪詛傷の「ひとつまみの祝福」による俺の魔法効果増大を悟られないように、と。
これはずいぶん前から練習していたこと。
俺と、普通の人が同様に一ディエスを消費して例えば『発火』を発動させた場合、明らかに俺のほうが大きな炎として発動される。
なのでこの魔法効果増大分について、まるで「余計に魔法代償を費やして」魔法効果を増したように見えるように、実際の消費命に加え、偽装消費命を添えるというものだ。
もちろん普段の偽装消費命は、消費命を隠し打ち消すように逆回転させるのだが、今回は同じ回転で消費命の一部に見えるように用意した。
そして消費命を魔法代償として魔法を発動するタイミングで解除する。
『テレパシー』を自分に発動しての反復練習もかなりしたし、魔法発動時に痛がってもいないから、俺に呪詛傷があるようには見えない――と良いのだけれど。
あとは手をさらし過ぎてないかという不安かな。
「門を開けー!」
プルマ副長が叫ぶなか、ボロゴーヴに近づくと、自身の足から抜いた矢を手渡してくれた。
「やるじゃねぇか、テル。タール大隊隊長が遊ぶなよっつった理由がわかったわ」
「必死でした。魔法で、初見で、だったから運良くなんとか……」
「照れんなよ。あれだけの魔法を実戦で使えるのは重宝されるんだ。胸を晴れ。さもなきゃ俺が惨めになる」
「わ、わかりま……わかった」
ボロゴーヴは渋い笑顔を見せる。
どうにも悪党の悪巧みにしか見えない。
「なんだ? 俺の髪型が気になるか?」
「あっ、いえ」
ボロゴーヴの頭は一見するとモップのようにも見える。
「うちの先祖獣がな、鶏冠のある鳥なんだよ」
「そうなんですね」
「ここは強けりゃ自由ってとこだ。まだ育ちの良さが抜けてねぇみてぇだが、強けりゃそれでもバカにされねぇぜ。ま、これからよろしくな」
そうだった。口調にまで気が回っていない。
「よろしく」
自分とボロゴーヴがそれぞれ入ってきた門の鉄格子が大きな音を立てて開いた。
去ってゆくボロゴーヴの大きな背中を見つめてから踵を返す。
間近で見るとしっかり鍛え上げられた筋肉のボロゴーヴ。
手数を急激に増やして選択肢の幅を広げた上で短期決戦という今回の方法でなきゃきっと勝てなかった。
「よう。おめでとさん」
門の向こうに待ち構えていたメリアンがニヤリと笑った。
「負けてらんねぇなぁ」
入れ替わりでメリアンが闘技場へ足を踏み入れると、再び門が閉じられる。
「次! ジャブジャブ対メリアン!」
プルマ副長の宣言。
マドハトとファウンが大賛辞合戦を始めようとしたのを止めさせ、鉄格子の隙間からメリアンと相手、二班班長ジャブジャブとの戦いを見守る。
ジャブジャブは鳥種で全体的に細身。武器も細長い曲刀だ。
下品に腰を振るアピールで「女だ! 女だ!」を連呼している。
怖いもの知らずなのかな。
メリアンは両手にいつもの円盾を取り付け、拳にはスパイク付きのプレートナックル。
開始早々、盾を構えたまま駆け出したメリアンに対しジャブジャブが盾の隙間から鋭い突きを入れたが、メリアンは絶妙に身を引いてかわし、しかも盾の縁とスパイク付きナックルであっという間に曲刀を挟んで砕いた。
その勢いでジャブジャブの懐に踏み込み、スパイクナックルを顔面寸止め。
あっという間に相手の降参をもぎ取った。
「次! ラース対マドハト!」
ラースは三班班長の爬虫種。
髪の毛は緑色だが、頭頂部はハゲている。
温和そうな表情の割に、全身を覆う金属鎧にも、大きな円盾にも、金属製の巨大ハンマーにも、無数の鋲が付いている。
円盾はメリアンが持つ小剣のように普通の人が持つのより大きめサイズだが、その巨躯からはむしろ小さく見えるほど。
体の小さなマドハトとの体格差がエグい。
対するマドハトは短剣が一本。
だが、開始早々しゃがんだマドハトに警戒して足を止めた瞬間、ラースの足元に大きな『大笑いのぬかるみ』が発動。
ツルツル滑ってその場から移動できないでいるそこへマドハトが上手に小袋を投げる。
油がラースの体にぶちまけられた。
あれはナイトさんからもらった美味しい食用油なのだが、こんなこともあろうかと用意させておいて良かった。
「降参だ!」
俺の『発火』を目の当たりにしていたからか、油だと気づいてからの降参が早かった。
実際の試合時間はメリアンとほとんど変わらないんじゃないだろうか。
「次! トーヴ対ファウン!」
四班班長のトーヴは熊種。
ラースに負けじ劣らじの巨体で、その体の半分以上を隠せる大きな方盾を構え、見るからに凶悪そうな武器を持っている。
方盾はもはや扉だし、武器は太めの鉄棒の先にトゲがたくさん付いた鉄球がついた。
戦棍タイプのモーニングスター。
しかもトーヴ、体の大きさの割りにかなり素早い。
防御は盾をメインにしており、鎧は動きやすそうな軽量の革鎧のみ。
そしてモーニングスターをブンブン振り回している。
ファウンは二本の短剣で上手にさばいているのだが、それでも盾の向こう側へ有効打を繰り出せないでいた。
いや、全然攻撃をしてなくないか?
延々と避け続けるだけ。
初めは面白がっていた観客の傭兵たちも、次第に飽き始めてきたのか倒せ倒せと野次を飛ばし始める。
そんな中でずっと平然と避け続けるだけのファウンは相当な神経をしているんだろうな。
プルマ副長が止めないので戦闘は延々と続く。
どのくらい時間が経っただろうか、トーヴの攻撃がだんだん粗くなり始める。
ファウンは相変わらず、というか、鼻歌を歌っている。
いまや誰も野次を飛ばさずずっと二人を見守っている。
ファウンはただ単に避けるだけじゃなく、襲いかかる武器を上手に受け流すことで自分があまり動かずに済むようにしている――しかもそれをずっと続けている。
地味な凄さ。
技術だけじゃない。これだけの時間ずっと続けられる集中力には恐ろしささえ感じる。
今は味方のポジションで居てくれるけれど、油断しない方が良いだろう。
それからさらに時間をかけ、半ホーラどころか一ホーラ近くかわし続けた所で、トーヴの首筋にすっとファウンの短剣が当てられ、降参させた。
その四戦が終わったところで拍手が起こる。
この世界でも拍手は称賛の意味を持つ。
「お前らこれからギルフォド自警団を名乗れよ!」
誰かが叫ぶと、拍手がより一層大きくなった。
どうやら俺は――俺たちは、なんとか乗り切れたようだ。
その後は、他班の入れ替え戦を見学する。
予定されていた挑戦試合が全て終了した頃にはもう午後になっていた。
俺たちは一班へと昇格し、元々の一班から四班は、二班から五班へと降格になった。
班長同士が望めば、班長だけ挿げ替えという選択もできるようだが、俺は五班全員で一班と入れ替わることを望んだ――そう。俺が班長になってしまったのだ。
てっきりメリアンがなるものだとばかり思っていたが、大隊長タールの指示で一班の班長と戦ったのが俺だったために、俺が班長ということになったのだ。
俺なんかに務まるのだろうか?
不安は多いが、とりあえず今は糞尿臭から遠い場所で食事や睡眠が取れるようになることを素直に喜ぼう。
挑戦試合の後は遅めの昼食。
臭くない部屋で食べる飯は最高だった。
食後はわずかな休憩を挟み、まずは外壁内を走り込み。
その後、木槍を使った模擬戦。
普段使っていない武器と、自分の普段の近接武器とを交互に用いて模擬戦をすると、両方の武器に対する理解が深まる。
武器の長所短所を知るだけじゃなく、相手の武器を奪って戦うときにも役に立つとのこと。
かなり実践的な訓練だ。
戦闘の経験値が低い俺にとってはありがたい。
元の世界では体育の授業で柔道とか習ったのを面倒臭がって軽く流していたのを今更後悔する。
そんなこんなで訓練は夕方まで続く。
今日は部屋の入れ替えがあったので、暮れる前に荷物の移動を含め休憩となった。
そのさなか、大隊隊長タールから俺に呼び出しがかかる。
俺にだけ。
一班の新班長だから不自然なことなどないのだが、ここまでの流れを考えると、どうにも。
『虫の牙』の呪詛が移せることは事実としてわかっているが、それをいつ、どういうタイミングで俺が手に入れたかの答え方を間違うと、俺からディナ先輩へとつながってしまいかねない。
それに魔法特異症によって壊れたとはいえ、呪詛傷自体はずっと俺の中に残っているのだ。
「テルを、ではなく一班の班長を、呼んだようだから」
オストレアが俺を落ち着かせてくれる。
するとマドハトも近寄ってきて頭を撫でることを要求する。
何の脈絡もないが、緊張が少しほぐれたのは確かだ。
「じゃあ行ってくる」
五班改め一班の皆に見送られながら隊舎を出る。
心の準備をしてから、俺は大隊隊長にあてがわれているという屋敷へと向かった。
タールの屋敷は、俺たちの隊舎からは屋外訓練場と大食堂を挟んだ向こう側。
訓練場の脇の道を通り、大食堂の前も通り過ぎると見えてくる、二階建ての四角い建物。
無骨で飾り気がなく、窓が小さく、住居っぽさが薄い。
こういう建物は昔、現在の中壁が外壁だった頃に現在の外壁を建築中、小さな砦として使用していたものを流用したのが多いってオストレアが言っていたっけ。
だから威圧感がある。
深呼吸する。
気圧されそうなときこそ、思い出せ。
マクミラ師匠の教え、冷静に状況を把握できる紳士たれ、と。
カエルレウム師匠の教え、思考を止めるな、と。
ディナ先輩の教え、油断するな見落とすな。
覚悟を決め、大隊長の屋敷の扉をノックした。
頑丈そうに補強された扉の向こうから、足音とが近づいてくる。
寿命の渦は鳥種。タール本人だろうか。
やがて扉はゆっくりと開かれる。
「やあ、新しい第一小隊一班の班長殿、入りたまえ」
表情の見えない烏頭の大隊長タール、その人だった。
「第一小隊一班班長、テル、入ります!」
片膝を着くお辞儀のあと、足を踏み入れる。
入ってすぐの部屋はがらんとしていて家具の類は何もない。
奥の壁の中央に二階へと上がる階段があり、明かりはその先から漏れる光のみ。
階段の両脇には扉が一つずつあり、タールは左の扉を開けた。
タールに続いて次の部屋に入ると、部屋の中に灯り箱が置いてある。
部屋の中に並べられた防具を揺らめく炎が照らすと、今にも動き出しそうな気がしてくる。
タールはおもむろに腰を落とすと、一番重そうな金属鎧が飾ってある台座を肩で押した。
カタンカタンと床下で何かが動く音が聞こえた後、タールは床の中央をまさぐり、床の一部を回転させ、取っ手のようなものを引き出した。
さらに取っ手に指を引っ掛け、床を持ち上げる。
「灯り箱を持って先に行きたまえ」
タールが持ち上げた床の下には、地下へ伸びる階段。
なぜそこへ行くのかという理由は告げられない。
「はい」
そう答えるしかないよな。
閉じ込められるとかじゃなければいいけど。
灯り箱を手に取り、地下への階段に一歩踏み出す。
石造りの丈夫そうな階段。
下りて行くしか選択肢はない。
真っ直ぐに伸びていた階段はすぐに螺旋状となり、縦に二アブス分くらい降りたところでようやく扉に行き当たる。
ここで待つべきか、入るべきなのか。
「扉に突き当たりました!」
試しに大きな声で報告してみる。
「入りたまえ」
返事の声はそう遠くない。
足音がついてくる気配はなかったし、タールの寿命の渦はまださっきの部屋にあるままなのに。
正直、嫌な感じだが、入れというからには入るべきなのだろう。
扉に手をかけると、鍵はかかっていないのか向こう側へ簡単に押せる。
少し力を入ると、扉は軋みながら、その奥に隠していた光景をさらけ出した。
一瞬、灯り箱を落としそうになる。
そのくらい、異様な光景だった。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。傭兵部隊ではテルと名乗る。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊ではハトと名乗る。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
ギルフォド第一傭兵大隊隊長。キカイー白爵の館に居た警備兵。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付けた。『虫の牙』で召喚したレムールを識別できる。フラマとオストレアの父の仇でもある。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、護衛として同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
カエルレウムを尊敬する魔術師。ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
スキンヘッドの精悍な中年男性で、眉毛は赤い猿種。なぜか亀の甲羅のようなものを背負っている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。偽ヴォールパール自警団作戦に参加して傭兵部隊に。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である羊種の女性。全体的にがっしりとした筋肉体型で拳で会話する主義。
美人だが鼻梁には目につく一文字の傷がある。メリアンのファン。
・パリオロム
第一傭兵大隊第一小隊で同じ班の先輩。猫種の先祖返り。
毛並みは真っ白いがアルバスではなく瞳が黒い。気さく。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさが際立つ痴女っぽい服装だが、所作は綺麗。父親が地界出身の魔人。
・オストレア
鳥種の先祖返りで頭はメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まりつつ、共闘できる仲間を探している。
・ボロゴーヴ
第一傭兵大隊第一小隊元一班班長。鳥種。モップ頭の細マッチョ槍使い。
・ジャブジャブ
第一傭兵大隊第一小隊元二班班長。細長い曲刀を使う、細身の鳥種。下品な発情アピールがやかましい。
・ラース
第一傭兵大隊第一小隊元三班班長。爬虫種。緑色の髪の毛。頑丈な体。スパイクシールドと巨大なハンマーを使う。
・トーヴ
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・レムール
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自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
■ はみ出しコラム【ネーミングの由来 その三】
前回に引き続き、ルイス・キャロルの作品内から頂戴したネーミング由来について記載する。
今回は、『鏡の国のアリス』より。
・ケティ:リテルの幼馴染で想い人
→ Kitty より。ダイナの黒い仔猫。
・スノドロフ村:魔石採取が可能な秘密の村
→ Snowdrop より。ダイナの白い仔猫。
・リリ:ナイトの妻。魔術師。
→ 白の女王の娘、リリーより
・ジャ・バ・オ・クー:マンクソム砦近くの危険な洞窟
→ ジャバウォックの詩より
・ボロゴーヴ:第一傭兵大隊第一小隊元一班班長
→ ジャバウォックの詩に登場する Borogove より。ルイス・キャロルの別作品『スナーク狩り』においては、羽毛を体中から突き出した貧弱で見栄えのしない鳥でモップのような外見をしている、との記載
・ジャブジャブ:第一傭兵大隊第一小隊元二班班長
→ ジャバウォックの詩に登場する Jubjub より。ルイス・キャロルの別作品『スナーク狩り』においては、一年中発情しているやけっぱちな鳥、との記載
・ラース:第一傭兵大隊第一小隊元三班班長
→ ジャバウォックの詩に登場する Rath より。ルイス・キャロルの別作品『スナーク狩り』においては、ツバメとカキを主食とし直立した頭と膝で歩ける足を持つ緑色の陸亀の一種である、との記載
・トーヴ:第一傭兵大隊第一小隊元四班班長
→ ジャバウォックの詩に登場する Toves より。ルイス・キャロルの別作品『スナーク狩り』においては、アナグマとトカゲとコルク栓抜きをかけ合わせた物で日時計の下に巣くう習性を持つ奇妙な生物。チーズを主食としている、との記載
・ロズ:ディナの支配する娼館街のまとめ役。エルーシの姉
→ 生きた花の庭のバラ(Rose)より
娼婦たちも同様に、リーリィは Lily、デイジは Daisies、ヴァイオレは Violet、ラークスパは Larkspur より
・トレイン:トレイン傭兵団のリーダー。チケを愛している
→ アリスが乗った電車(Train)より。彼が折り紙兜をかぶっていたのは、電車内で白い紙の服を着ている紳士の挿絵より。とてもキャラが立っているのですが、彼には名前がないので。
・チケ:トレイン傭兵団の紅一点。戦争参加中に、転生者スマコが目覚めた
→ 電車の切符(Ticket)より
ちなみにスマコは、永代静雄が「少女の友」創刊号に『不思議の国のアリス』の日本での初訳『アリス物語』を発表したときのペンネーム須磨子より。永代静雄は、田山花袋『蒲団』のヒロイン横山芳子の恋人、田中のモデルでもある
・ムニエール:トレイン傭兵団のヒゲが生えている眼鏡老人
→ 電車の乗客。ヤギなので山羊種にしたが、イラストでは眼鏡をかけている。ヤギの名前がムニエールなのは、佐々木マキの絵本ムッシュ・ムニエルより
・ビトル:トレイン傭兵団のカブトムシ鎧
→ 電車の乗客、カブトムシ(Beetle)より
・アスペール:トレイン傭兵団のしわがれ声
→ 電車で、カブトムシの向こうに座っていた馬より。原文ではのどが詰まっていた(Choked)声なのだが、ちょっとあんまりかなとラテン語で「粗い」や「荒れた」という意味の asper に
・ナット:トレイン傭兵団の小さな声
→ 電車の乗客、ブヨ(Gnat)より
・ロッキン・フライ:名無し森砦の守備隊第二隊副隊長
→ Rocking Horse Fly より
ロッキンの父であるフライ濁爵領の領都ホースーもここから
・スナドラ:名無し森砦の守備隊で、盗賊団の一味
→ Snap-Dragonfly より
・プラプディン:名無し森砦の守備隊で、盗賊団の一味
→ Snap-Dragonfly の胴体 plum-puddin より
・ホリーリヴ:名無し森砦の守備隊で、盗賊団の一味
→ Snap-Dragonfly の羽根 holly-leaves より
・ブラデレズン:名無し森砦の守備隊で、盗賊団の一味
→ Snap-Dragonfly の頭 raisin burning in brandy より
・ブレドア:街道を馬車で封鎖し襲ってきた盗賊
→ Bread and Butterfly (前半)より
・バータフラ:クラースト村の、レムやミンを含む世代全体の名前
→ 同じく Bread and Butterfly (後半)より
・ファウン:リテルを兄貴と慕う山羊種
→ 自分の名前を忘れたアリスが出会った子鹿(Fawn)。なぜ子鹿なのに山羊になったかというと、最初は子供たちを襲った山羊種集団はサテュロスのイメージで、その一員としてデザインされたこのキャラは、ローマ神話のファウヌスから名前をもらっていたが、途中で設定を変えて実際にはこいつだけ悪事を働いていなかったことにしたためにファウヌスに近いけど害のない名前としてファウンが採用された流れから
・トゥイードル濁爵:ギルフォドを領都に構える濁爵領の領主
→ トゥイードルダムとトゥイードルディーより
実は作中で特に語られていないが、領主は双子である。
・タール:第一傭兵大隊隊長にして『虫の牙』所持者
→ トゥイードルダムとトゥイードルディーが争った原因の話に出てくるお化けガラス(monstrous crow)が、タールの樽(tar-barrel)のように真っ黒だ、という表現より
・ウォルラース:悪徳商人
→ トゥイードルディーの語った詩『セイウチと大工』、セイウチ(Walrus)より
・ダイク:名無し森砦の守備隊隊長
→ トゥイードルディーの語った詩『セイウチと大工』、大工(Carpenter だけど日本語で)より
・オストレア:傭兵仲間、フラマの妹
→ トゥイードルディーの語った詩『セイウチと大工』、牡蠣のラテン語 ostrea より
・モノケロ:ライストチャーチ白爵
→ 王冠を取り合うライオンとユニコーンより、モノケロスはユニコーンのギリシャ語
・レーオ:ライストチャーチ白爵夫人にして、メリアンの元上官
→ 王冠を取り合うライオンとユニコーンより、ライオンはラテン語で leo
・プラ、ムケーキ:ライストチャーチ白爵領都ニュナムの領兵
→ ライオンとユニコーンがケーキの切り方について言い合っていたときに言及されたすももケーキ(plum-cake)より
・ナイト:ナイト商会のトップ。転生者キタヤマの魂が宿っている
→ 白の騎士(ナイト)より。アリスに乗馬の極意を教えている老騎士のほうをモデルにしたのでナイトさんはかなり歳を召されているのです
※ ハンプティ・ダンプティを名前の由来に持つキャラは現時点ではまだ登場していません
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