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#88 裸の剣を持つ男
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これはいったい何なのか。
一瞬、落としそうになった灯り箱をぎゅっと握りしめる。
震える灯りが照らしたのは、壁一面に並ぶ無数のリアルな顔。
屋台のお面屋さんとかそんなレベルじゃない。
びっしりデスマスク?
完全なるホラー。
ある程度のトンデモな状況は予測していたものの、これは酷い。
深く、ゆっくりと呼吸する。
落ち着け、俺。
こんなときだからこそ、何か仕掛けてくるかもしれないのだから。
「扉を開けました!」
大声での返事が、石造りの螺旋階段内を反響して上ってゆく。
趣味の悪さとか、何に使う道具なのかとか、そういうことはどうでもいい。
今一番気をつけるべきことは、ポーがタールに認識されている可能性と、それによって俺の身に及びかねない何らかの危機に対する警戒。
「入口で立ち止まらずに、奥へ進みたまえ」
遠くから声が聞こえた。
見えているのか、というのは考えすぎか?
でも監視されている可能性はあるよな。
ここはタールの屋敷の地下なんだし。
そういう仕掛けなり、魔法が用意されていても驚きはしない。
慎重に、部屋の中へと足を踏み入れる。
部屋は細長く、そこそこの奥行きがある。
灯り箱が照らす範囲を考えれば、少なくとも三アブスはあるだろうか。
それでもずっと壁一面のデスマスクは続いたいる。
どんだけの数――もしやタールに敗れた者たちの?
何歩か進むと、部屋の奥の壁際に一つだけ、周囲のものとは異なるものが見えた。
それは一見すると裸婦像とでも言うべきもの。
ゴーレムか? 襲ってくる系か?
もう少しだけ近づいてみる。
彫刻っぽくはない。もっと生々しい質感というか――そして認めたくはないが俺はそれを、いや、その人の生前を見たことがある。
頭の中に浮かぶ単語、死に人形。
思い出したと同時に大きく斜め前へと跳んだ。
灯り箱を床へと置き、手斧を鞘から取り出して構える。
そして、気付く。
もう一体、居ることに――避けたつもりだったのに、自分の肩口に新しいレムールが蠢くのを感じている。
もしかして今の攻撃は『虫の牙』?
タールの寿命の渦はまださっきの部屋――しかし今、俺がさっきまで居た場所のすぐ後に立っているのは紛れもなくタール本人にしか見えない。
ああ、でもあり得るよな。
クラーリンさんに教えていただいた『新たなる生』と同系の魔法を使えば、見せかけの寿命の渦と声だけをあの部屋に残して、本体は偽装の渦で隠密行動ってのも十分に可能だ。
足音もなかったということは、そういう魔法も使っていたのか、そこまでセットの魔法なのか。
なんにせよ、そういう覚悟はしておく必要はある。
しかも現在のこの状況。
これはもう戦うしかないってことだよな。
だとしたら新しい呪詛傷をつけられたのは、文字通り痛い。
試しに消費命を集中してみると、凄まじい激痛――懐かしい、なんてもんじゃない。忘れておきたかったこの痛み。
だが予想はしていたからこそ、なんとか発動しきることができた。『脳内モルヒネ』を。
念のため、偽装の渦で発動は失敗したかのように偽装してはみたが、『脳内モルヒネ』の効果発動前の状態でどこまで正確な偽装ができたかは不安なところ。
「昼間の挑戦試合では、『虫の牙』の呪詛傷があるにも関わらず、どういうわけか平気で魔法を使っていましたね。無効化する手段でも手に入れたのかともう一つ宿らせてもらいましたが、痛みに耐えていただけのようですね。しかし二倍の痛みでは、せいぜいその程度の魔法代償の魔法しか使えないのでしょうか。それとも、もっと頑張って大きな魔法に挑戦されるのでしょうか」
魔法が発動しているのを感知したかのような発言――それなら常に最悪の状況だと考えて行動する方が生存確率が上がるだろう。
タールはただでさえ表情のわからない先祖返りの烏顔。
それがこの暗がりでは余計に何を考えているのかわからない。
寿命の渦だって複数の感情を同時に見せているかのよう。
そういう偽装もあるんだな。
「それにしても」
タールは少し下がり、後ろ手に扉を閉める。
ガチャリという音が続く。鍵を閉めでもしたのだろう。
「やはり母君には見とれてしまうのですね。いや確かに美しいですよ。キカイーなんぞに好きにさせておいたのはもったいなかったくらいです」
やはり、か。
この裸婦像は、彫刻なんかじゃない。
俺がディナ先輩に魔法で見せてもらったディナ先輩のお母さん、その人の――これが死に人形ってやつか。
俺の寿命の渦が単なる猿種の冷静な状態をキープしていることを改めて確認する。
タールはディナ先輩につけた『虫の牙』の呪詛傷をちゃんと認識しているようだが、俺はあくまでもディナ先輩とは関係ないスタンス――だから怒りは抑えなきゃいけない。
「母君? タール大隊長殿の母君なのですか?」
「ほう。とぼけるのですね。それは構いませんが、この私をアールヴごときと一緒にしないでいただきたい」
ごときって。
見下しマウントを続けるのは激昂させるつもりだろうか。
この世界に正当防衛という概念があるかどうかはわからないが、少なくとも先に手を出したのは向こうだし、俺に手を出させるための挑発とは違う気がする。
「アールヴさん、という人は知りませんけど……どこの小隊の人ですか?」
うわ、舌打ちが聞こえた。挑発に乗ってんのはお前の方だな――とか調子にのりかけた自分自身に、すぐに反省。
俺の周囲に漂うこの臭い。
そういうことか。俺はあのときのことを思い出す。
確か、こんな感じだった――動きが不自由に、緩慢になり、強張ってゆく感じ。膝にも力が入らなくなったし、腰から落ちるように地面に尻もちをついた――症状がまるで同じ。
指から力が抜けるのと同時に、手斧が石畳の床へと落ちる。くるくると回りながら俺から離れてしまう。
「ようやく毒が回りましたね。時間稼ぎをしたことで自らの首を締めるとは、滑稽で素敵です」
タールは含み笑いを浮かべながら近づいてくると、突然俺のズボンに手をかけ、手にした剣で裂いた。
ちょ、な、なにをっ?
「ほう。寿命の渦を猿種に偽装しているのかと思いきや、肉体そのものが猿種の男になっているのですね」
タールは剣先で、俺の露わになった股間を軽く突く。
そんなつもりはないのに、俺の股間はそれで反応する――自分の、いやリテルのだけど、股間がそういう状態になるという状況にまだ慣れない。
そういやパイア毒には勃起効果もあるんだっけか。
「陰茎に実体がありますね。アールヴには種族や性別を変える魔法があるのでしょうか……大変興味深いです」
タールは剣を鞘に収めると、今度はズボンを下ろし自らの下半身をさらけ出した。
凶悪そうなタール自身の剣は臨戦態勢だ。
「いや失礼、もう口も動かせないでしょう。別に構わないのですよ、男だろうが女だろうが……陵辱を加えますとね、私自身への憎しみや怒りが増しますでしょう? それが目的なのです。知性ある生き物にですね、苦痛やら屈辱やらを与えますと、ときに驚くような力を発揮することがあります。私はそれと戦いたい」
屁以上の糞理屈。
タールは俺の両膝をつかみ、押し広げようとした。
しかし、俺の大股が開かれるよりも前に、タールの右手が鈍い音を立てて弾かれる。
タールは慌てて飛び退り、自分の右手に触れて確認する。
「なるほど。無策で飛び込んできたわけではないと……嬉しいですよ。しかもこの骨の砕け方、回復に時間がかかります……いいですね。すばらしい!」
テニール兄貴みたいに「気に入ってくれたんなら嬉しいよ」とか軽口で応戦したいところだが、口がうまく動かない。
ただ、準備してきた魔法『バクレツハッケイ』がうまくいったのは嬉しい。
『ぶっ飛ばす』系だと、発動時に接触されているとその場で相手に学習されて自分に対して使われる恐れがある、ということで新たに作っておいた魔法。
相手に接触した場所から「氣」を送り込んで、振動で相手の肉体を内部から破壊する。
この「氣」という概念がこの世界でどのように再現してくれるのかはわからなかったが、作ってみたらうまくいった。
その手のマンガをたくさん読んでいたおかげか、俺の中に「氣」という概念がしっかり固まっているのが良かったのだろうな。
トリニティへの食事としてあげる馬の脚で試させてもらったんだけど、対象の肉体に水分が含まれている度合いが多いほど振動も大きくなって、切り開いてみたら骨がけっこう砕けてくれてたから、凶悪な魔法に仕上がっているのは間違いない。
もちろん、「氣」が旧字体でイメージされているのも、呪文名に日本語の漢字を用いているのも、相手に学習されて再現させないための工夫の一つ。
その『バクレツハッケイ』に必要となる分の消費命をあらかじめ集中して体内に保持しておいたのだ。
そしてタールが触れた瞬間、その部分で発動させた。この方法だと、呪詛傷の痛みは瞬く間ほどの時間もなかった。
タールの腕のぐにゃり具合を見た感じ、損害を与えることができたのは肘くらいまでか。
タールは脱ぎかけのズボンの股部分を手に持った方の剣――恐らく『虫の牙』で断ち切り、その状態で扉の陰になっていた場所へと何かを取りに行く。
バケツが置いてある?
そのうちの一つを左手でつかみ、俺の近くまでやってきて中身をぶちまけてきた。
緊張で一瞬身が竦む――いや臭い的に油ではなかった。
俺の右足の甲と、右肩とで水が勢いよく弾ける。
なるほど。『接触発動』は水がかかるだけでも発動してしまうのか。
しかしこんな方法で――タールのやつ、あくまでも冷静だな。股間以外は、だけど。
何にせよ俺が不利な状況なのは変わらない。
念のため仕込んでおいた『接触発動』の『バクレツハッケイ』も二発とも発射されてしまったし。
「では、私も本気でかからせてもらいますよ」
タールが消費命を集中するのを感じる。
ズボンを穿かずに股間をさらけ出したままなのは、片手じゃズボンを上げられても紐で縛れないからか?
いや、分析は後だ。
体を揺すってなんとか横へと転がり、さっき落とした手斧のところへと移動する。
「ほう。まだ動けるのですか……パイア毒への耐性か、それとも解毒手段があるのか、何にせよ素晴らしい!」
タールは『虫の牙』を再び構える。
タールの読み通り、偽装消費命で『パイア毒の解毒』は既に使ってある。
『脳内モルヒネ』のおかげで偽装がバレていないと信じたいが、タールはそういった解毒対策をしている前提で思考している。
下半身丸出しの分際で、もうちょっと油断してくれても――いや、違う。
あれは恐らく威嚇なのだ。
タールのヤる気に満ちたソレを見せつけられている俺には、思考に頻繁に不快感や嫌悪感、不安感や恐怖感などが紛れ込んでくる。
俺の体はまだ重い。
試したらバレるだろうからまだ動かしていないが、手斧もまだしっかりとは握れない気もする。
パイアの毒は、寄らずの森でもディナ先輩のとこでも受けているから耐性はかなり強まっている、とはいえ、解毒にはそれなりに時間がかかる。
なので時間を稼ぐ必要がある。
『パイア毒の解毒』をかけようとして『虫の牙』の激痛で失敗する――という演技をしてみる。
もちろん偽装消費命を用いて。
『脳内モルヒネ』が完全に痛みを消しきれていないのが、こういうときにはリアリティとなって役に立つ。
「何の魔法を使おうとしているのかわかりませんが、その身を守るために必死になる様はとても見事です。ここで諦めてしまうような相手には何の興味もわきませんから」
タールの股間はさらにそそり立つ。
こいつは俺を、ディナ先輩だと思い込んだまま。
ということは、やはりポーを識別できているってことになる。
もちろんポーには、契約時に選択してもらった常用の力「消える」を使ってもらってあるのに、だ。
「いいですよ、その表情。六十九番の痛みをどうやって軽減したのかはわかりませんが、三百一番の痛みはまだ対策が録れていないようですね」
六十九番というのはポーのことか?
そして三百一番というのが今やられた呪詛傷か。
タールは『虫の牙』で与えた一つ一つの呪詛傷を把握できているということなのか?
「素晴らしい精神力。そんなあなたの心が屈服する様を是非とも見てみたいものです。もっと見せてくださいよ。あなたの魔法は、触れても理解できませんでした。アールヴの秘められた思考でしょうか? ああ、素晴らしい!」
タールは俺の右腕に、三つ目の呪詛傷をつけた――と思ったらすぐに後ろと跳んだ。
まさか俺が今、手斧を握って反撃しようとしたのを見破ったのか?
「もう動けるのですか。本当に、ああ、あなたは素晴らしい。あのとき逃げ出していただけて、本当に良かったです。そんなあなたに追ってもらえるよう、あなたの母君を確保したかいがありました……さてさて。魔法を使用しても武器を持ったままでいられますか?」
嬉しそうな声。糞サディストだな。
そしてそれよりももっと危険なのは、俺が動くよりも前に俺が動くことをタールが見抜いたってことだ。
近づいてくるとき消費命の集中を感じたが、偽装の渦を見破る魔法なのか、思考を読み込む魔法なのか、それとも予知系の魔法とか?
思考を読み込んでいるのであれば、アールヴの秘められた云々を言うだろうか。
偽装の渦を見破るのであれば、体の動きだけじゃなく魔法の使用にも反応してもいいはず。
となると体が動くのを先読みした――つまり俺の体はタールが警戒するレベルに動けるまで回復しているってことだろう?
俺は手斧を握りしめて立ち上がる。
「素晴らしい! あなたほどのお強い意志をお持ちな獲物は初めてです!」
嬉しそうなタール。
うんざり気分の俺。
ともに臨戦態勢の股間をさらけ出し――これ、どんな状況だよ。
「肉体がまだ十分に動かせないのであれば、痛みに耐えて魔法を使ってはいかがです? 『虫の牙』の呪詛によって魔法の威力が上がることはご存知でしょう?」
「そうさせてもらう」
消費命を集中する。
同時にタールも消費命を集中した。
集中した量からすると、さっきの予知系のやつかもしれない。
俺が集中したのは『接触発動』を『バクレツハッケイ』にて。
偽装消費命で少しだけ威力を隠して、痛みに耐える演技も込みで。
使ってすぐ発動するやつだと予知されるかもしれない。
なので溜めておいて、予知が間に合わないタイミングで畳み掛け――られるといいよね。
と、ここで同じ組み合わせのをもう一つ。
今度のは偽装消費命の量をまたさっきのと変えて。
「素晴らしい。消費命の集中速度が挑戦試合のときとまるで違います! もっと早くできるのでしょうか?」
できるのは秘密だし、魔法もすぐには使わない。
接近してこないのは、何が仕掛けてあるのかわからないからだろう?
準備はガンガンに重ねる。
メリアンも言ってたからな。
一対一の勝負は、読み合いだと初心者は熟練者に負けるって。だから俺の場合、せっかく魔法を使えることだし初見殺しで押しまくれと。
予知系ってことは、待つ側だろ?
その間にまた同じ組み合わせのをもう一つ。どんどん用意整えちゃうぜ?
これで右肘、左手の甲、それから右拳。
さすがにタールが一歩踏み込んで来た。
『虫の牙』の鋭い突きが貫くであろう場所へ、消費命を集中して瞬間的に発動したのは『接触発動』と『ぶっ飛ばす』。
発動時に直接触れられてなきゃ魔法を盗まれはしないし、あのうざい『虫の牙』を吹っ飛ばしてやろうと思って――だが、タールはそこで踏みとどまった。俺に剣先をぶっ刺すのを。
反射的に『水刃』を発動する。
濡れたブーツの先がさっきの水たまりにあったから。
見えてるんなら全部避けるんだろうが、一本、二本、三本――案の定避けてくれたタールは部屋の奥へ。
どうせパイア毒への耐性あるとかなんだろ?
でもこの隙に俺は後退り、入口へ。思考が読めないのなら、俺が後退のために攻撃したとこまでは読めないんじゃないかなって。
だが入口のところで立ち止まったりはしない。
消費命を集中しつつ入口の前からは移動する。
向こうが『魔法転移』で魔法を使う前提で。
タールも消費命を集中する。
予知系、そんなに長く効果が続くわけじゃなさげ。
タールが俺みたいに偽装消費命で、本来の消費命を少なく見せているのではない限り。
だがそのときにはもうこっちも『魔法転移』で『発火』強めで――今度はタールは避けない。
予知を発動する前だったか?
とにかく今のうちにと扉へ手を伸ばし、ドアノブ付近に『ぶっ飛ばす』。
扉が軋む音。ドアノブ付近の壁まで壊れている。
だがまだ俺は出ない。
けっこうな炎が燃え上がっているのは、灯り箱の油に引火したのだろうか――そこへダメ押し。
手斧に『接触発動』と『ぶっ飛ばす』で、『蜃気楼の矢』を加えてタールへぶん投げてから。
そこからダッシュで階段を駆け上がる。
予知しても回避行動を取らせて、その間にこっちのターンで動けば何とかなる――そんな苦し紛れの作戦だったが、けっこううまくいってんじゃないのか、なんて一瞬でも考えちゃいけなかったんだ。
それってつまり思考の放棄なんだよな。
俺は、何かに足を引っ張られて階段を踏み外した。
石造りの階段、その何段かの角が俺の体へ鋭く食い込む。
階段の材質が石だから何も起きていないように見えるが、右肘にしかけておいたやつが無駄に発動してしまう。
このまま背中は見せられない。
俺は消費命を集中しながら振り向いた――そこには、炎に包まれているタール。
いや、包まれている、という表現は少し違う。
タールを取り囲むように炎が踊っていた。
まるで蛇のように、鎌首をもたげている細長い炎が何本も。
しかもそのうちの一本が、まるで縄のように伸びて俺の左足首に絡みついていた。
「避けなかったのは、あなたが炎を私に供給してくださるとわかったからですよ」
安易に目くらましになればと使ったが、まさか炎を操る魔法か?
思考が浅かったか。
「いいですね。ここまでずっと冷静だったあなたがようやくいい表情を見せてくれました」
左足に巻き付いた炎がひときわ太くなる。
慌てて後ろ手のまま階段を数段登り、そのまま体の向きを変えて駆け上がった、つもりだった。
うまく登れなかった。
その理由が、左足首から先がないことだと気づくまでに少し時間がかかった。
そしてその間に俺の右足にも炎の蛇が絡みついた。
炎耐性を魔法で、と考えたがすぐにイメージが固まらない。
いやダメだ。
集中しろ。
それならば――俺の思考が次の手段にたどり着く前に、真っ白い手が俺の右足から炎の蛇をするりと剥ぎ取った。
その炎の蛇は、俺の目の前で白い腕にじゃれついている。
その腕の持ち主は、たった今、俺を飛び越えて俺とタールとの間に立ち塞がった人――白フクロウ頭のオストレア。
「テル、もっと『発火』を」
オストレアの腕に巻き付いた炎が俺の方へその端を伸ばす。
俺は言われるままにその先端へ『発火』を発動する。念のため強めで。
オストレアの炎はその大きな炎を呑んで太くなる。
蛇というよりはもはや炎の龍のように。
離れているというのに、俺の腕の産毛はあっという間にチリチリになる。
「早く上がって治療して」
タールよりも多くの火を操っているように見えるオストレアは部屋の中へ。
「そう。交代だ」
その声と共にメリアンが俺を飛び越えて扉の前へ。
そして俺の左足首から先を拾って俺へと投げた。
「見せたいほどご立派なのはわかるが、戦いのときは隠したほうがいいぞ」
受け取った左足先で慌てて股間を隠すが、パイア毒のせいか普段よりサイズが大きい状態が収まらない。
「テル様!」
「兄貴ぃ!」
マドハトとファウンに担ぎ上げられ、隠し階段のあった部屋の先、入り口の部屋まで戻る。
『脳内モルヒネ』のせいでちょっとひねった程度の痛みしかないのだが、どう見ても左足首が千切れている。
しかもその切り口は焦げていて。
ショックも大きいが、それよりももっと大きいのは焦燥感だ。
こんなとこで休んでいる場合じゃないのに。
「足の先はまだ死んでいない。急いだ方がいい」
その声にハッとする。
パリオロムだ。
確かにそうだな。
ここは元の世界はない。魔法がある世界なんだ。
「炭化した部分はもう戻らないが、そこを切り落とした血と肉ならば時間はかかるが再生できるんだよ」
「兄貴ぃ! やってよござんすね?」
「ファウン、頼む。パリオロム、ありがとう」
ファウンが炭化した部分を両方とも削ぎ落としてくれる。
と、いっきに血が溢れる。
血の流れる部分を合わせたが、左足だけ十センチちょい短くなってしまう。
ただの『生命回復』ではダメだ。細胞を、再生しなきゃ。
そういえば地球に居た頃、ニュースで見たな。iPS細胞――万能細胞とかいうやつ。
皮膚細胞から人工的に万能細胞を作り出したという。
つまり、人の細胞にはもともとそういう力があるんだ。
きっとコストはかさむだろうが、今の効果増大中ならばきっとできるよな。
そう、できると信じられることが魔法には大切だとカエルレウム師匠もおっしゃっていた。
再生効果を併せ持った『生命回復』を新たに創る!
「『再生回復』!」
細胞が分裂し増殖するイメージ――万能細胞を、そして新たに造られた万能細胞は、骨は骨に、神経は神経に、血管は血管に、筋肉は筋肉に、内蔵は内蔵に、皮膚は皮膚に、それまであった肉体を再構築しながら再生してゆくイメージ。
失われた部位を、失う前の状態に再生しながら回復してゆく。
肉体の営みを取り戻し、元の状態へ――副作用が、すっげー痒いのが想定外だけど。
それはそうとして、こいつはいける。
十ディエスという大量の消費命を消費して再生したのは足首の太さで一センチほど。
効果増大してこれか――普通の状態だったらとんでもない魔法代償だな。
だが、絶対にこの左足は取り戻す。
この損失は利照のせいだから。
リテルがストウ村から出なかったら、こんな酷い目に合わなかっただろうから。
それから『再生回復』をかけること十数回。
寿命の渦を半年分は消費して、ようやく元の左足が戻ってきた。
「すごい……こんな速度で再生する魔法なんて初めて見た。通常は元に戻るまで何ヶ月もかかるってのに」
パリオロムが口笛を吹く。
「メリアンとオストレアは?」
「まだ下でさぁ」
地下階段のある部屋への扉の前で様子をうかがっているファウンが答える。
「加勢しなきゃ」
立ち上がろうとしたが、足が痺れているみたいに上手に動かせない。
「体の治るのが、気持ちが治るのについていってないんじゃないか? 失った手足を再生できなかった傭兵が、よく、そこにないはずの手足の痛みを感じるというのを聞くから」
なるほど。
パリオロムはさすが傭兵の先輩だ。詳しいな。
「テル様! 僕が支えるです!」
マドハトが肩を貸そうとしてくれる。
「いや、ハトとファウンは他の部屋を調べてほしい。何か隠してあるモノや扉がないかを……その地下扉も、鎧を飾ってある台座を押したら取っ手をひっくり返せるようになった。罠もあるかもしれないから二人一組で気をつけて探して」
「僕、頑張るです!」
「了解でさぁ、兄貴!」
気持ちの問題なら俺一人でも気合でどうとでもできる。
魔法だってあるのだから。
それよりも、ここがタールの拠点ならば、逃げ出すための仕掛けとかあるかもしれない。それを探すのが先だ。
絶対に逃すわけにはいかない。
せっかくメリアンが参戦してくれたんだ。これ以上のチャンスはない。
タールはここで、隠し扉を作ったり、寿命の渦を偽装したり、罠も用意してあった。卑怯のオンパレードで逃げ道を作っていないわけがないはずだ。
そういやパイア毒、オストレアやメリアンは大丈夫なのだろうか。
今思えばあの甘い香り、あの灯り箱から漂ってきていたかも。
パイアの毒を油に混ぜでもしていたのだろうか。
だとしたら、あの部屋で戦闘を続けるのは危険だ。
「俺は副長を呼んでくる!」
パリオロムが外へと駆け出した。
そこでハッとする。
タールの仲間がどこまでこの傭兵団に居るのか。
副長がタールの仲間だったとしたら。
いやそもそも今、親切そうにしていたパリオロムだって味方という確証はない。
もしも副長が敵じゃなかったとしても、俺たちがタールを襲っている、みたいな嘘の情報を流布でもされたら。
時間がない。
なんにせよまずは足を早く治さなければ。
自分の気持ちに「足がある」ことを思い出させなきゃ。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。傭兵部隊ではテルと名乗る。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊ではハトと名乗る。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
ギルフォド第一傭兵大隊隊長。キカイー白爵の館に居た警備兵。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、ポーを宿すリテルをディナだと勘違いしている。フラマとオストレアの父の仇でもある。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、護衛として同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
カエルレウムを尊敬する魔術師。ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
スキンヘッドの精悍な中年男性で、眉毛は赤い猿種。なぜか亀の甲羅のようなものを背負っている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。偽ヴォールパール自警団作戦に参加して傭兵部隊に。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である羊種の女性。全体的にがっしりとした筋肉体型で拳で会話する主義。
美人だが鼻梁には目につく一文字の傷がある。メリアンのファン。
・パリオロム
第一傭兵大隊第一小隊で同じ班の先輩。猫種の先祖返り。
毛並みは真っ白いがアルバスではなく瞳が黒い。気さく。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさが際立つ痴女っぽい服装だが、所作は綺麗。父親が地界出身の魔人。
・オストレア
鳥種の先祖返りで頭はメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まりつつ、共闘できる仲間を探している。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
■ はみ出しコラム【アイシス出発~ギルフォドまでのリテルの魔法】
※ 用語おさらい
・世界の真理:魔法の元となる思考について、より魔法代償が減る思考について「世界の真理に近づいた」と表現する。物理法則に則った思考をすると世界の真理となるようである。その思考自体が同じでも、思考への理解度が浅いと魔法代償は増加する。
・寿命の渦:生命体の肉体と魂とをつなげる「寿命」は、生物種毎に一定の形や色、回転を行う。これを寿命の渦と呼ぶ。兵士や傭兵は気配と呼ぶ。
※ 技術おさらい
魔法使用に関する技術。
・『魔力感知』:範囲内の寿命の渦や消費命の流れを感知する。
・消費命:魔法を発動する際に魔法により要求、消費する魔法代償に充てるため、寿命の渦からごく一部を分けて事前に用意しておいたもの。
・偽装の渦:本来の自分の寿命の渦ではなく、あえて別の生物種の寿命の渦や、まるで寿命の渦が存在しないかのように意図的に寿命の渦の形を変えて偽装した状態のこと。
・偽装消費命:消費命自体について、その集中から消費までの間、存在しないかのように偽装したもの。魔術師の中においても一般的ではない技術。完全偽装から一部偽装など用途は様々。
・『戦技』:何度も繰り返した体の動きを再現する魔法的効果。ただ、消費命を消費して魔法を発動するよりも、気配を消費して戦技を発動する方が早い。
・『魔力探知機』:『魔力感知』は自分を中心とした円範囲だが、こちらの魔法は細く長く棒状に伸ばした精度の高い『魔力感知』を、自分を中心として回転させ、魚群探知機のように、周囲の気配を探る。利照のオリジナル技術。
・『魔力微感知』:『魔力感知』の扱いに長けると、自分以外の者が『魔力感知』で自分を感知したことに気づけるようになる。それを気取られぬよう感知の感度を低く粗くしたもの。
※ 習得した魔法
・『腐臭の居眠り』:死んでいる一塊の肉を「腐らせるもの」を眠らせることで、一回かけると数ホーラから一晩くらいは鮮度を保つ効果がある。一回かけると数ホーラから一晩(2d6ホーラ)もつ。肉の最大サイズは、実は自身の半分ほど。この大きさをこえると魔法がかからない。小さくなればなるほど、長い時間もつ(12ホーラへ近づく)。魔法の効果時間中は、肉に触れると寝息のような振動を感じるので、魔法が切れたらわかる。
・『目覚まし』:一から十(十二進数での十)までの数を決めてから魔法をかける。魔法構成は、水ではなく時間が入る大きな瓶を用意し、そこに時間が貯まると、時間が溢れて瓶がひっくり返り、その瓶が鐘になっていて脳内に音が鳴り響く、といったもの。瓶の大きさは、魔法発動時点で一ホーラから十ホーラまでの各段階を選ぶことができるとのこと。こっちは十二進数で。王都の水時計で計測した一ホーラを基準にしたので、けっこう正確。
・『警報通知』:事前に設定してある魔法品へ情報を送る魔法。その魔法品は震える。ベルを取り付けてある場合も。敵の襲来を告げるときに用いることが多い。クスフォード虹爵領兵の偵察兵は全員習う。クッサンドラから教えてもらった。
・『瘴気散らし』:魔物の瘴気にあてられて発生する酩酊状態を解消する魔法。魔法の構造的に魔物の瘴気に特化しているため、アルコール接種による酩酊に対しての効果はそれほどでもない。
・『森の寂しさの離れがたき想い』:植物内の水分を表面へと染み出させて強力な接着液化する。発動のきっかけは、魔法発動後、この手を離してから次に寿命の渦を持つ生物が触れたとき。その対象寿命の渦のサイズも決めておくことができる。
・『血止め』:流れた血で大きなカサブタを瞬時に作って出血を止める。『生命回復』は患者の治癒力を利用して傷を塞ぐ魔法だが、こうやって切断された傷口については「回復」しようがないから、塞ぐということに重きを置いた。
・『使い魔契約』:使い魔と契約する。使い魔とは、互いの位置を把握、五感や寿命の渦を共有、消費命を預けることも可能になる。使い魔が傷つけば、契約者本人の寿命の渦も傷つくことになるという表裏一体の魔術。一定期間毎に、契約更新が必要になる。
・『発見報告』:二本の枝を交差するように重ねて『発見報告』をかけると、上に重ねた方の枝を折ったとき、下に重ねられていた枝も折れる。二本の距離はかなり離れても平気。枝を折らない場合、一日経過すると、魔法は終了する。ただし、上に重ねた方(発信側)の枝に魔法を追加でかけると、受信側は魔法とかけ足さなくとも効果期間は延長する。
・『アニマ感知』:肉体と結びついていない魂を感知する。厳密には魂だけのものも、魂に寿命の渦が付随しているものも両方とも「アニマ」と呼ぶのだが、後者は魔法代償を必要としない『魔力感知』でも感知できるので、主に前者を感知する。精霊やレムルースも感知できる。
・『疲労締め出し』:肉体的な疲労をいったん、体の外に出てもらっておく魔法。ただし疲労は後で戻ってくるため、そのときには倍疲れてしまう。
※ 利照のオリジナル魔法
・『ゴーレムの絆』:『同胞の絆』をもとに、ゴーレムを通して魔法を使うための接続魔法。偽装消費命込みで魔法を用いる場合は、新たにゴーレム用の偽装消費命に調整する必要がある。
・『鎮火』:『弱火』の効果を一時的に中和する。時間設定が可能であり『弱火』と組み合わせることで時限式の発火効果を得られる。
・『ゴーレム通知・人』:一般的な獣種の子供以上の大きさを持つ寿命の渦が半径三十メートル以内に出入りするたびに通知してくれる魔法。入ってきたときは長く震え、出る時は短く震える。半径はあえて地球の単位を使った。セットするときの消費命を増やせば、監視時間が長くなる。
・『ゴーレム通知・魔』:半径三十メートル以内で一ディエス以上の消費命集中を感知する度に通知をくれる。一ディエスから四ディエスまでは短い震えをディエス数分、五ディエス以上の場合は長く震えてくれる。セットするときの消費命を増やせば、監視時間が長くなる。
・『通知準備』:通知を行うための対象を決めておく魔法。これを唱えた者が、効果時間内に『長通知』もしくは『短通知』を発動した場合、決めておいた対象に通知が届く。一ディエスで半日効果が続く。通知魔法を使う側の者が発動しなければならない。
・『長通知』:『通知準備』を発動した者が使用した場合、その効果時間内であった場合、『発動通知』で決めておいた対象に長い振動を送る。『通知準備』期間内であれば、『長通知』を使用する毎に通知を送れる。
・『短通知』:『通知準備』を発動した者が使用した場合、その効果時間内であった場合、『発動通知』で決めておいた対象に短い振動を送る。『通知準備』期間内であれば、『短通知』を使用する毎に通知を送れる。
・『テレフォン』:『テレパシー』の効果を、発動後は手を話していても通じるようにした魔法。通信量を抑えることで稼働時間を長く設計した。純粋な待機時間は一ホーラは持つが、通信を行うと待機時間は縮まってしまう。
・『気まぐれの掟』:運動エネルギーの方向をある時点で急に変更する。実際の矢に付与すると、大きくカーブする。変更するタイミングや方向については、魔法発動からの秒数(0.1秒単位)と地球の時計盤のイメージ(1~12。0.1刻み)で指定可能。実は二回まで設定できる。
・『蜃気楼の矢』:目標に向かって飛ぶ途中に同じ速度・向きで飛ぶ幻影の矢を伴う(分裂するイメージ)。『新たなる生』をもとに「幻覚を作る」という思考を借りて作った魔法。魔法発動からの秒数(0.1秒単位)を設定できるのは『気まぐれの掟』に同じ。
・『バクレツハッケイ』:相手に接触された場所から「氣」を送り込んで、振動にて相手の肉体を内部から破壊する魔法。相手の肉体に水分が含まれている度合いが多いほど振動が大きくなり、粉砕骨折させ筋肉にもダメージを与える。「氣」が旧字体でイメージされているのも、呪文名に日本語の漢字を用いているのも、接触前提で使う魔法であるため相手に再現させないための工夫の一つ。
・『再生回復』:再生効果を併せ持った『生命回復』。幹部付近の細胞を万能細胞として増殖させ、失われた部位を再生しながら回復する。効果はすごいがコスパはかなり悪い。
一瞬、落としそうになった灯り箱をぎゅっと握りしめる。
震える灯りが照らしたのは、壁一面に並ぶ無数のリアルな顔。
屋台のお面屋さんとかそんなレベルじゃない。
びっしりデスマスク?
完全なるホラー。
ある程度のトンデモな状況は予測していたものの、これは酷い。
深く、ゆっくりと呼吸する。
落ち着け、俺。
こんなときだからこそ、何か仕掛けてくるかもしれないのだから。
「扉を開けました!」
大声での返事が、石造りの螺旋階段内を反響して上ってゆく。
趣味の悪さとか、何に使う道具なのかとか、そういうことはどうでもいい。
今一番気をつけるべきことは、ポーがタールに認識されている可能性と、それによって俺の身に及びかねない何らかの危機に対する警戒。
「入口で立ち止まらずに、奥へ進みたまえ」
遠くから声が聞こえた。
見えているのか、というのは考えすぎか?
でも監視されている可能性はあるよな。
ここはタールの屋敷の地下なんだし。
そういう仕掛けなり、魔法が用意されていても驚きはしない。
慎重に、部屋の中へと足を踏み入れる。
部屋は細長く、そこそこの奥行きがある。
灯り箱が照らす範囲を考えれば、少なくとも三アブスはあるだろうか。
それでもずっと壁一面のデスマスクは続いたいる。
どんだけの数――もしやタールに敗れた者たちの?
何歩か進むと、部屋の奥の壁際に一つだけ、周囲のものとは異なるものが見えた。
それは一見すると裸婦像とでも言うべきもの。
ゴーレムか? 襲ってくる系か?
もう少しだけ近づいてみる。
彫刻っぽくはない。もっと生々しい質感というか――そして認めたくはないが俺はそれを、いや、その人の生前を見たことがある。
頭の中に浮かぶ単語、死に人形。
思い出したと同時に大きく斜め前へと跳んだ。
灯り箱を床へと置き、手斧を鞘から取り出して構える。
そして、気付く。
もう一体、居ることに――避けたつもりだったのに、自分の肩口に新しいレムールが蠢くのを感じている。
もしかして今の攻撃は『虫の牙』?
タールの寿命の渦はまださっきの部屋――しかし今、俺がさっきまで居た場所のすぐ後に立っているのは紛れもなくタール本人にしか見えない。
ああ、でもあり得るよな。
クラーリンさんに教えていただいた『新たなる生』と同系の魔法を使えば、見せかけの寿命の渦と声だけをあの部屋に残して、本体は偽装の渦で隠密行動ってのも十分に可能だ。
足音もなかったということは、そういう魔法も使っていたのか、そこまでセットの魔法なのか。
なんにせよ、そういう覚悟はしておく必要はある。
しかも現在のこの状況。
これはもう戦うしかないってことだよな。
だとしたら新しい呪詛傷をつけられたのは、文字通り痛い。
試しに消費命を集中してみると、凄まじい激痛――懐かしい、なんてもんじゃない。忘れておきたかったこの痛み。
だが予想はしていたからこそ、なんとか発動しきることができた。『脳内モルヒネ』を。
念のため、偽装の渦で発動は失敗したかのように偽装してはみたが、『脳内モルヒネ』の効果発動前の状態でどこまで正確な偽装ができたかは不安なところ。
「昼間の挑戦試合では、『虫の牙』の呪詛傷があるにも関わらず、どういうわけか平気で魔法を使っていましたね。無効化する手段でも手に入れたのかともう一つ宿らせてもらいましたが、痛みに耐えていただけのようですね。しかし二倍の痛みでは、せいぜいその程度の魔法代償の魔法しか使えないのでしょうか。それとも、もっと頑張って大きな魔法に挑戦されるのでしょうか」
魔法が発動しているのを感知したかのような発言――それなら常に最悪の状況だと考えて行動する方が生存確率が上がるだろう。
タールはただでさえ表情のわからない先祖返りの烏顔。
それがこの暗がりでは余計に何を考えているのかわからない。
寿命の渦だって複数の感情を同時に見せているかのよう。
そういう偽装もあるんだな。
「それにしても」
タールは少し下がり、後ろ手に扉を閉める。
ガチャリという音が続く。鍵を閉めでもしたのだろう。
「やはり母君には見とれてしまうのですね。いや確かに美しいですよ。キカイーなんぞに好きにさせておいたのはもったいなかったくらいです」
やはり、か。
この裸婦像は、彫刻なんかじゃない。
俺がディナ先輩に魔法で見せてもらったディナ先輩のお母さん、その人の――これが死に人形ってやつか。
俺の寿命の渦が単なる猿種の冷静な状態をキープしていることを改めて確認する。
タールはディナ先輩につけた『虫の牙』の呪詛傷をちゃんと認識しているようだが、俺はあくまでもディナ先輩とは関係ないスタンス――だから怒りは抑えなきゃいけない。
「母君? タール大隊長殿の母君なのですか?」
「ほう。とぼけるのですね。それは構いませんが、この私をアールヴごときと一緒にしないでいただきたい」
ごときって。
見下しマウントを続けるのは激昂させるつもりだろうか。
この世界に正当防衛という概念があるかどうかはわからないが、少なくとも先に手を出したのは向こうだし、俺に手を出させるための挑発とは違う気がする。
「アールヴさん、という人は知りませんけど……どこの小隊の人ですか?」
うわ、舌打ちが聞こえた。挑発に乗ってんのはお前の方だな――とか調子にのりかけた自分自身に、すぐに反省。
俺の周囲に漂うこの臭い。
そういうことか。俺はあのときのことを思い出す。
確か、こんな感じだった――動きが不自由に、緩慢になり、強張ってゆく感じ。膝にも力が入らなくなったし、腰から落ちるように地面に尻もちをついた――症状がまるで同じ。
指から力が抜けるのと同時に、手斧が石畳の床へと落ちる。くるくると回りながら俺から離れてしまう。
「ようやく毒が回りましたね。時間稼ぎをしたことで自らの首を締めるとは、滑稽で素敵です」
タールは含み笑いを浮かべながら近づいてくると、突然俺のズボンに手をかけ、手にした剣で裂いた。
ちょ、な、なにをっ?
「ほう。寿命の渦を猿種に偽装しているのかと思いきや、肉体そのものが猿種の男になっているのですね」
タールは剣先で、俺の露わになった股間を軽く突く。
そんなつもりはないのに、俺の股間はそれで反応する――自分の、いやリテルのだけど、股間がそういう状態になるという状況にまだ慣れない。
そういやパイア毒には勃起効果もあるんだっけか。
「陰茎に実体がありますね。アールヴには種族や性別を変える魔法があるのでしょうか……大変興味深いです」
タールは剣を鞘に収めると、今度はズボンを下ろし自らの下半身をさらけ出した。
凶悪そうなタール自身の剣は臨戦態勢だ。
「いや失礼、もう口も動かせないでしょう。別に構わないのですよ、男だろうが女だろうが……陵辱を加えますとね、私自身への憎しみや怒りが増しますでしょう? それが目的なのです。知性ある生き物にですね、苦痛やら屈辱やらを与えますと、ときに驚くような力を発揮することがあります。私はそれと戦いたい」
屁以上の糞理屈。
タールは俺の両膝をつかみ、押し広げようとした。
しかし、俺の大股が開かれるよりも前に、タールの右手が鈍い音を立てて弾かれる。
タールは慌てて飛び退り、自分の右手に触れて確認する。
「なるほど。無策で飛び込んできたわけではないと……嬉しいですよ。しかもこの骨の砕け方、回復に時間がかかります……いいですね。すばらしい!」
テニール兄貴みたいに「気に入ってくれたんなら嬉しいよ」とか軽口で応戦したいところだが、口がうまく動かない。
ただ、準備してきた魔法『バクレツハッケイ』がうまくいったのは嬉しい。
『ぶっ飛ばす』系だと、発動時に接触されているとその場で相手に学習されて自分に対して使われる恐れがある、ということで新たに作っておいた魔法。
相手に接触した場所から「氣」を送り込んで、振動で相手の肉体を内部から破壊する。
この「氣」という概念がこの世界でどのように再現してくれるのかはわからなかったが、作ってみたらうまくいった。
その手のマンガをたくさん読んでいたおかげか、俺の中に「氣」という概念がしっかり固まっているのが良かったのだろうな。
トリニティへの食事としてあげる馬の脚で試させてもらったんだけど、対象の肉体に水分が含まれている度合いが多いほど振動も大きくなって、切り開いてみたら骨がけっこう砕けてくれてたから、凶悪な魔法に仕上がっているのは間違いない。
もちろん、「氣」が旧字体でイメージされているのも、呪文名に日本語の漢字を用いているのも、相手に学習されて再現させないための工夫の一つ。
その『バクレツハッケイ』に必要となる分の消費命をあらかじめ集中して体内に保持しておいたのだ。
そしてタールが触れた瞬間、その部分で発動させた。この方法だと、呪詛傷の痛みは瞬く間ほどの時間もなかった。
タールの腕のぐにゃり具合を見た感じ、損害を与えることができたのは肘くらいまでか。
タールは脱ぎかけのズボンの股部分を手に持った方の剣――恐らく『虫の牙』で断ち切り、その状態で扉の陰になっていた場所へと何かを取りに行く。
バケツが置いてある?
そのうちの一つを左手でつかみ、俺の近くまでやってきて中身をぶちまけてきた。
緊張で一瞬身が竦む――いや臭い的に油ではなかった。
俺の右足の甲と、右肩とで水が勢いよく弾ける。
なるほど。『接触発動』は水がかかるだけでも発動してしまうのか。
しかしこんな方法で――タールのやつ、あくまでも冷静だな。股間以外は、だけど。
何にせよ俺が不利な状況なのは変わらない。
念のため仕込んでおいた『接触発動』の『バクレツハッケイ』も二発とも発射されてしまったし。
「では、私も本気でかからせてもらいますよ」
タールが消費命を集中するのを感じる。
ズボンを穿かずに股間をさらけ出したままなのは、片手じゃズボンを上げられても紐で縛れないからか?
いや、分析は後だ。
体を揺すってなんとか横へと転がり、さっき落とした手斧のところへと移動する。
「ほう。まだ動けるのですか……パイア毒への耐性か、それとも解毒手段があるのか、何にせよ素晴らしい!」
タールは『虫の牙』を再び構える。
タールの読み通り、偽装消費命で『パイア毒の解毒』は既に使ってある。
『脳内モルヒネ』のおかげで偽装がバレていないと信じたいが、タールはそういった解毒対策をしている前提で思考している。
下半身丸出しの分際で、もうちょっと油断してくれても――いや、違う。
あれは恐らく威嚇なのだ。
タールのヤる気に満ちたソレを見せつけられている俺には、思考に頻繁に不快感や嫌悪感、不安感や恐怖感などが紛れ込んでくる。
俺の体はまだ重い。
試したらバレるだろうからまだ動かしていないが、手斧もまだしっかりとは握れない気もする。
パイアの毒は、寄らずの森でもディナ先輩のとこでも受けているから耐性はかなり強まっている、とはいえ、解毒にはそれなりに時間がかかる。
なので時間を稼ぐ必要がある。
『パイア毒の解毒』をかけようとして『虫の牙』の激痛で失敗する――という演技をしてみる。
もちろん偽装消費命を用いて。
『脳内モルヒネ』が完全に痛みを消しきれていないのが、こういうときにはリアリティとなって役に立つ。
「何の魔法を使おうとしているのかわかりませんが、その身を守るために必死になる様はとても見事です。ここで諦めてしまうような相手には何の興味もわきませんから」
タールの股間はさらにそそり立つ。
こいつは俺を、ディナ先輩だと思い込んだまま。
ということは、やはりポーを識別できているってことになる。
もちろんポーには、契約時に選択してもらった常用の力「消える」を使ってもらってあるのに、だ。
「いいですよ、その表情。六十九番の痛みをどうやって軽減したのかはわかりませんが、三百一番の痛みはまだ対策が録れていないようですね」
六十九番というのはポーのことか?
そして三百一番というのが今やられた呪詛傷か。
タールは『虫の牙』で与えた一つ一つの呪詛傷を把握できているということなのか?
「素晴らしい精神力。そんなあなたの心が屈服する様を是非とも見てみたいものです。もっと見せてくださいよ。あなたの魔法は、触れても理解できませんでした。アールヴの秘められた思考でしょうか? ああ、素晴らしい!」
タールは俺の右腕に、三つ目の呪詛傷をつけた――と思ったらすぐに後ろと跳んだ。
まさか俺が今、手斧を握って反撃しようとしたのを見破ったのか?
「もう動けるのですか。本当に、ああ、あなたは素晴らしい。あのとき逃げ出していただけて、本当に良かったです。そんなあなたに追ってもらえるよう、あなたの母君を確保したかいがありました……さてさて。魔法を使用しても武器を持ったままでいられますか?」
嬉しそうな声。糞サディストだな。
そしてそれよりももっと危険なのは、俺が動くよりも前に俺が動くことをタールが見抜いたってことだ。
近づいてくるとき消費命の集中を感じたが、偽装の渦を見破る魔法なのか、思考を読み込む魔法なのか、それとも予知系の魔法とか?
思考を読み込んでいるのであれば、アールヴの秘められた云々を言うだろうか。
偽装の渦を見破るのであれば、体の動きだけじゃなく魔法の使用にも反応してもいいはず。
となると体が動くのを先読みした――つまり俺の体はタールが警戒するレベルに動けるまで回復しているってことだろう?
俺は手斧を握りしめて立ち上がる。
「素晴らしい! あなたほどのお強い意志をお持ちな獲物は初めてです!」
嬉しそうなタール。
うんざり気分の俺。
ともに臨戦態勢の股間をさらけ出し――これ、どんな状況だよ。
「肉体がまだ十分に動かせないのであれば、痛みに耐えて魔法を使ってはいかがです? 『虫の牙』の呪詛によって魔法の威力が上がることはご存知でしょう?」
「そうさせてもらう」
消費命を集中する。
同時にタールも消費命を集中した。
集中した量からすると、さっきの予知系のやつかもしれない。
俺が集中したのは『接触発動』を『バクレツハッケイ』にて。
偽装消費命で少しだけ威力を隠して、痛みに耐える演技も込みで。
使ってすぐ発動するやつだと予知されるかもしれない。
なので溜めておいて、予知が間に合わないタイミングで畳み掛け――られるといいよね。
と、ここで同じ組み合わせのをもう一つ。
今度のは偽装消費命の量をまたさっきのと変えて。
「素晴らしい。消費命の集中速度が挑戦試合のときとまるで違います! もっと早くできるのでしょうか?」
できるのは秘密だし、魔法もすぐには使わない。
接近してこないのは、何が仕掛けてあるのかわからないからだろう?
準備はガンガンに重ねる。
メリアンも言ってたからな。
一対一の勝負は、読み合いだと初心者は熟練者に負けるって。だから俺の場合、せっかく魔法を使えることだし初見殺しで押しまくれと。
予知系ってことは、待つ側だろ?
その間にまた同じ組み合わせのをもう一つ。どんどん用意整えちゃうぜ?
これで右肘、左手の甲、それから右拳。
さすがにタールが一歩踏み込んで来た。
『虫の牙』の鋭い突きが貫くであろう場所へ、消費命を集中して瞬間的に発動したのは『接触発動』と『ぶっ飛ばす』。
発動時に直接触れられてなきゃ魔法を盗まれはしないし、あのうざい『虫の牙』を吹っ飛ばしてやろうと思って――だが、タールはそこで踏みとどまった。俺に剣先をぶっ刺すのを。
反射的に『水刃』を発動する。
濡れたブーツの先がさっきの水たまりにあったから。
見えてるんなら全部避けるんだろうが、一本、二本、三本――案の定避けてくれたタールは部屋の奥へ。
どうせパイア毒への耐性あるとかなんだろ?
でもこの隙に俺は後退り、入口へ。思考が読めないのなら、俺が後退のために攻撃したとこまでは読めないんじゃないかなって。
だが入口のところで立ち止まったりはしない。
消費命を集中しつつ入口の前からは移動する。
向こうが『魔法転移』で魔法を使う前提で。
タールも消費命を集中する。
予知系、そんなに長く効果が続くわけじゃなさげ。
タールが俺みたいに偽装消費命で、本来の消費命を少なく見せているのではない限り。
だがそのときにはもうこっちも『魔法転移』で『発火』強めで――今度はタールは避けない。
予知を発動する前だったか?
とにかく今のうちにと扉へ手を伸ばし、ドアノブ付近に『ぶっ飛ばす』。
扉が軋む音。ドアノブ付近の壁まで壊れている。
だがまだ俺は出ない。
けっこうな炎が燃え上がっているのは、灯り箱の油に引火したのだろうか――そこへダメ押し。
手斧に『接触発動』と『ぶっ飛ばす』で、『蜃気楼の矢』を加えてタールへぶん投げてから。
そこからダッシュで階段を駆け上がる。
予知しても回避行動を取らせて、その間にこっちのターンで動けば何とかなる――そんな苦し紛れの作戦だったが、けっこううまくいってんじゃないのか、なんて一瞬でも考えちゃいけなかったんだ。
それってつまり思考の放棄なんだよな。
俺は、何かに足を引っ張られて階段を踏み外した。
石造りの階段、その何段かの角が俺の体へ鋭く食い込む。
階段の材質が石だから何も起きていないように見えるが、右肘にしかけておいたやつが無駄に発動してしまう。
このまま背中は見せられない。
俺は消費命を集中しながら振り向いた――そこには、炎に包まれているタール。
いや、包まれている、という表現は少し違う。
タールを取り囲むように炎が踊っていた。
まるで蛇のように、鎌首をもたげている細長い炎が何本も。
しかもそのうちの一本が、まるで縄のように伸びて俺の左足首に絡みついていた。
「避けなかったのは、あなたが炎を私に供給してくださるとわかったからですよ」
安易に目くらましになればと使ったが、まさか炎を操る魔法か?
思考が浅かったか。
「いいですね。ここまでずっと冷静だったあなたがようやくいい表情を見せてくれました」
左足に巻き付いた炎がひときわ太くなる。
慌てて後ろ手のまま階段を数段登り、そのまま体の向きを変えて駆け上がった、つもりだった。
うまく登れなかった。
その理由が、左足首から先がないことだと気づくまでに少し時間がかかった。
そしてその間に俺の右足にも炎の蛇が絡みついた。
炎耐性を魔法で、と考えたがすぐにイメージが固まらない。
いやダメだ。
集中しろ。
それならば――俺の思考が次の手段にたどり着く前に、真っ白い手が俺の右足から炎の蛇をするりと剥ぎ取った。
その炎の蛇は、俺の目の前で白い腕にじゃれついている。
その腕の持ち主は、たった今、俺を飛び越えて俺とタールとの間に立ち塞がった人――白フクロウ頭のオストレア。
「テル、もっと『発火』を」
オストレアの腕に巻き付いた炎が俺の方へその端を伸ばす。
俺は言われるままにその先端へ『発火』を発動する。念のため強めで。
オストレアの炎はその大きな炎を呑んで太くなる。
蛇というよりはもはや炎の龍のように。
離れているというのに、俺の腕の産毛はあっという間にチリチリになる。
「早く上がって治療して」
タールよりも多くの火を操っているように見えるオストレアは部屋の中へ。
「そう。交代だ」
その声と共にメリアンが俺を飛び越えて扉の前へ。
そして俺の左足首から先を拾って俺へと投げた。
「見せたいほどご立派なのはわかるが、戦いのときは隠したほうがいいぞ」
受け取った左足先で慌てて股間を隠すが、パイア毒のせいか普段よりサイズが大きい状態が収まらない。
「テル様!」
「兄貴ぃ!」
マドハトとファウンに担ぎ上げられ、隠し階段のあった部屋の先、入り口の部屋まで戻る。
『脳内モルヒネ』のせいでちょっとひねった程度の痛みしかないのだが、どう見ても左足首が千切れている。
しかもその切り口は焦げていて。
ショックも大きいが、それよりももっと大きいのは焦燥感だ。
こんなとこで休んでいる場合じゃないのに。
「足の先はまだ死んでいない。急いだ方がいい」
その声にハッとする。
パリオロムだ。
確かにそうだな。
ここは元の世界はない。魔法がある世界なんだ。
「炭化した部分はもう戻らないが、そこを切り落とした血と肉ならば時間はかかるが再生できるんだよ」
「兄貴ぃ! やってよござんすね?」
「ファウン、頼む。パリオロム、ありがとう」
ファウンが炭化した部分を両方とも削ぎ落としてくれる。
と、いっきに血が溢れる。
血の流れる部分を合わせたが、左足だけ十センチちょい短くなってしまう。
ただの『生命回復』ではダメだ。細胞を、再生しなきゃ。
そういえば地球に居た頃、ニュースで見たな。iPS細胞――万能細胞とかいうやつ。
皮膚細胞から人工的に万能細胞を作り出したという。
つまり、人の細胞にはもともとそういう力があるんだ。
きっとコストはかさむだろうが、今の効果増大中ならばきっとできるよな。
そう、できると信じられることが魔法には大切だとカエルレウム師匠もおっしゃっていた。
再生効果を併せ持った『生命回復』を新たに創る!
「『再生回復』!」
細胞が分裂し増殖するイメージ――万能細胞を、そして新たに造られた万能細胞は、骨は骨に、神経は神経に、血管は血管に、筋肉は筋肉に、内蔵は内蔵に、皮膚は皮膚に、それまであった肉体を再構築しながら再生してゆくイメージ。
失われた部位を、失う前の状態に再生しながら回復してゆく。
肉体の営みを取り戻し、元の状態へ――副作用が、すっげー痒いのが想定外だけど。
それはそうとして、こいつはいける。
十ディエスという大量の消費命を消費して再生したのは足首の太さで一センチほど。
効果増大してこれか――普通の状態だったらとんでもない魔法代償だな。
だが、絶対にこの左足は取り戻す。
この損失は利照のせいだから。
リテルがストウ村から出なかったら、こんな酷い目に合わなかっただろうから。
それから『再生回復』をかけること十数回。
寿命の渦を半年分は消費して、ようやく元の左足が戻ってきた。
「すごい……こんな速度で再生する魔法なんて初めて見た。通常は元に戻るまで何ヶ月もかかるってのに」
パリオロムが口笛を吹く。
「メリアンとオストレアは?」
「まだ下でさぁ」
地下階段のある部屋への扉の前で様子をうかがっているファウンが答える。
「加勢しなきゃ」
立ち上がろうとしたが、足が痺れているみたいに上手に動かせない。
「体の治るのが、気持ちが治るのについていってないんじゃないか? 失った手足を再生できなかった傭兵が、よく、そこにないはずの手足の痛みを感じるというのを聞くから」
なるほど。
パリオロムはさすが傭兵の先輩だ。詳しいな。
「テル様! 僕が支えるです!」
マドハトが肩を貸そうとしてくれる。
「いや、ハトとファウンは他の部屋を調べてほしい。何か隠してあるモノや扉がないかを……その地下扉も、鎧を飾ってある台座を押したら取っ手をひっくり返せるようになった。罠もあるかもしれないから二人一組で気をつけて探して」
「僕、頑張るです!」
「了解でさぁ、兄貴!」
気持ちの問題なら俺一人でも気合でどうとでもできる。
魔法だってあるのだから。
それよりも、ここがタールの拠点ならば、逃げ出すための仕掛けとかあるかもしれない。それを探すのが先だ。
絶対に逃すわけにはいかない。
せっかくメリアンが参戦してくれたんだ。これ以上のチャンスはない。
タールはここで、隠し扉を作ったり、寿命の渦を偽装したり、罠も用意してあった。卑怯のオンパレードで逃げ道を作っていないわけがないはずだ。
そういやパイア毒、オストレアやメリアンは大丈夫なのだろうか。
今思えばあの甘い香り、あの灯り箱から漂ってきていたかも。
パイアの毒を油に混ぜでもしていたのだろうか。
だとしたら、あの部屋で戦闘を続けるのは危険だ。
「俺は副長を呼んでくる!」
パリオロムが外へと駆け出した。
そこでハッとする。
タールの仲間がどこまでこの傭兵団に居るのか。
副長がタールの仲間だったとしたら。
いやそもそも今、親切そうにしていたパリオロムだって味方という確証はない。
もしも副長が敵じゃなかったとしても、俺たちがタールを襲っている、みたいな嘘の情報を流布でもされたら。
時間がない。
なんにせよまずは足を早く治さなければ。
自分の気持ちに「足がある」ことを思い出させなきゃ。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。傭兵部隊ではテルと名乗る。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊ではハトと名乗る。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
ギルフォド第一傭兵大隊隊長。キカイー白爵の館に居た警備兵。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、ポーを宿すリテルをディナだと勘違いしている。フラマとオストレアの父の仇でもある。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、護衛として同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
カエルレウムを尊敬する魔術師。ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
スキンヘッドの精悍な中年男性で、眉毛は赤い猿種。なぜか亀の甲羅のようなものを背負っている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。偽ヴォールパール自警団作戦に参加して傭兵部隊に。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である羊種の女性。全体的にがっしりとした筋肉体型で拳で会話する主義。
美人だが鼻梁には目につく一文字の傷がある。メリアンのファン。
・パリオロム
第一傭兵大隊第一小隊で同じ班の先輩。猫種の先祖返り。
毛並みは真っ白いがアルバスではなく瞳が黒い。気さく。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさが際立つ痴女っぽい服装だが、所作は綺麗。父親が地界出身の魔人。
・オストレア
鳥種の先祖返りで頭はメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まりつつ、共闘できる仲間を探している。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
■ はみ出しコラム【アイシス出発~ギルフォドまでのリテルの魔法】
※ 用語おさらい
・世界の真理:魔法の元となる思考について、より魔法代償が減る思考について「世界の真理に近づいた」と表現する。物理法則に則った思考をすると世界の真理となるようである。その思考自体が同じでも、思考への理解度が浅いと魔法代償は増加する。
・寿命の渦:生命体の肉体と魂とをつなげる「寿命」は、生物種毎に一定の形や色、回転を行う。これを寿命の渦と呼ぶ。兵士や傭兵は気配と呼ぶ。
※ 技術おさらい
魔法使用に関する技術。
・『魔力感知』:範囲内の寿命の渦や消費命の流れを感知する。
・消費命:魔法を発動する際に魔法により要求、消費する魔法代償に充てるため、寿命の渦からごく一部を分けて事前に用意しておいたもの。
・偽装の渦:本来の自分の寿命の渦ではなく、あえて別の生物種の寿命の渦や、まるで寿命の渦が存在しないかのように意図的に寿命の渦の形を変えて偽装した状態のこと。
・偽装消費命:消費命自体について、その集中から消費までの間、存在しないかのように偽装したもの。魔術師の中においても一般的ではない技術。完全偽装から一部偽装など用途は様々。
・『戦技』:何度も繰り返した体の動きを再現する魔法的効果。ただ、消費命を消費して魔法を発動するよりも、気配を消費して戦技を発動する方が早い。
・『魔力探知機』:『魔力感知』は自分を中心とした円範囲だが、こちらの魔法は細く長く棒状に伸ばした精度の高い『魔力感知』を、自分を中心として回転させ、魚群探知機のように、周囲の気配を探る。利照のオリジナル技術。
・『魔力微感知』:『魔力感知』の扱いに長けると、自分以外の者が『魔力感知』で自分を感知したことに気づけるようになる。それを気取られぬよう感知の感度を低く粗くしたもの。
※ 習得した魔法
・『腐臭の居眠り』:死んでいる一塊の肉を「腐らせるもの」を眠らせることで、一回かけると数ホーラから一晩くらいは鮮度を保つ効果がある。一回かけると数ホーラから一晩(2d6ホーラ)もつ。肉の最大サイズは、実は自身の半分ほど。この大きさをこえると魔法がかからない。小さくなればなるほど、長い時間もつ(12ホーラへ近づく)。魔法の効果時間中は、肉に触れると寝息のような振動を感じるので、魔法が切れたらわかる。
・『目覚まし』:一から十(十二進数での十)までの数を決めてから魔法をかける。魔法構成は、水ではなく時間が入る大きな瓶を用意し、そこに時間が貯まると、時間が溢れて瓶がひっくり返り、その瓶が鐘になっていて脳内に音が鳴り響く、といったもの。瓶の大きさは、魔法発動時点で一ホーラから十ホーラまでの各段階を選ぶことができるとのこと。こっちは十二進数で。王都の水時計で計測した一ホーラを基準にしたので、けっこう正確。
・『警報通知』:事前に設定してある魔法品へ情報を送る魔法。その魔法品は震える。ベルを取り付けてある場合も。敵の襲来を告げるときに用いることが多い。クスフォード虹爵領兵の偵察兵は全員習う。クッサンドラから教えてもらった。
・『瘴気散らし』:魔物の瘴気にあてられて発生する酩酊状態を解消する魔法。魔法の構造的に魔物の瘴気に特化しているため、アルコール接種による酩酊に対しての効果はそれほどでもない。
・『森の寂しさの離れがたき想い』:植物内の水分を表面へと染み出させて強力な接着液化する。発動のきっかけは、魔法発動後、この手を離してから次に寿命の渦を持つ生物が触れたとき。その対象寿命の渦のサイズも決めておくことができる。
・『血止め』:流れた血で大きなカサブタを瞬時に作って出血を止める。『生命回復』は患者の治癒力を利用して傷を塞ぐ魔法だが、こうやって切断された傷口については「回復」しようがないから、塞ぐということに重きを置いた。
・『使い魔契約』:使い魔と契約する。使い魔とは、互いの位置を把握、五感や寿命の渦を共有、消費命を預けることも可能になる。使い魔が傷つけば、契約者本人の寿命の渦も傷つくことになるという表裏一体の魔術。一定期間毎に、契約更新が必要になる。
・『発見報告』:二本の枝を交差するように重ねて『発見報告』をかけると、上に重ねた方の枝を折ったとき、下に重ねられていた枝も折れる。二本の距離はかなり離れても平気。枝を折らない場合、一日経過すると、魔法は終了する。ただし、上に重ねた方(発信側)の枝に魔法を追加でかけると、受信側は魔法とかけ足さなくとも効果期間は延長する。
・『アニマ感知』:肉体と結びついていない魂を感知する。厳密には魂だけのものも、魂に寿命の渦が付随しているものも両方とも「アニマ」と呼ぶのだが、後者は魔法代償を必要としない『魔力感知』でも感知できるので、主に前者を感知する。精霊やレムルースも感知できる。
・『疲労締め出し』:肉体的な疲労をいったん、体の外に出てもらっておく魔法。ただし疲労は後で戻ってくるため、そのときには倍疲れてしまう。
※ 利照のオリジナル魔法
・『ゴーレムの絆』:『同胞の絆』をもとに、ゴーレムを通して魔法を使うための接続魔法。偽装消費命込みで魔法を用いる場合は、新たにゴーレム用の偽装消費命に調整する必要がある。
・『鎮火』:『弱火』の効果を一時的に中和する。時間設定が可能であり『弱火』と組み合わせることで時限式の発火効果を得られる。
・『ゴーレム通知・人』:一般的な獣種の子供以上の大きさを持つ寿命の渦が半径三十メートル以内に出入りするたびに通知してくれる魔法。入ってきたときは長く震え、出る時は短く震える。半径はあえて地球の単位を使った。セットするときの消費命を増やせば、監視時間が長くなる。
・『ゴーレム通知・魔』:半径三十メートル以内で一ディエス以上の消費命集中を感知する度に通知をくれる。一ディエスから四ディエスまでは短い震えをディエス数分、五ディエス以上の場合は長く震えてくれる。セットするときの消費命を増やせば、監視時間が長くなる。
・『通知準備』:通知を行うための対象を決めておく魔法。これを唱えた者が、効果時間内に『長通知』もしくは『短通知』を発動した場合、決めておいた対象に通知が届く。一ディエスで半日効果が続く。通知魔法を使う側の者が発動しなければならない。
・『長通知』:『通知準備』を発動した者が使用した場合、その効果時間内であった場合、『発動通知』で決めておいた対象に長い振動を送る。『通知準備』期間内であれば、『長通知』を使用する毎に通知を送れる。
・『短通知』:『通知準備』を発動した者が使用した場合、その効果時間内であった場合、『発動通知』で決めておいた対象に短い振動を送る。『通知準備』期間内であれば、『短通知』を使用する毎に通知を送れる。
・『テレフォン』:『テレパシー』の効果を、発動後は手を話していても通じるようにした魔法。通信量を抑えることで稼働時間を長く設計した。純粋な待機時間は一ホーラは持つが、通信を行うと待機時間は縮まってしまう。
・『気まぐれの掟』:運動エネルギーの方向をある時点で急に変更する。実際の矢に付与すると、大きくカーブする。変更するタイミングや方向については、魔法発動からの秒数(0.1秒単位)と地球の時計盤のイメージ(1~12。0.1刻み)で指定可能。実は二回まで設定できる。
・『蜃気楼の矢』:目標に向かって飛ぶ途中に同じ速度・向きで飛ぶ幻影の矢を伴う(分裂するイメージ)。『新たなる生』をもとに「幻覚を作る」という思考を借りて作った魔法。魔法発動からの秒数(0.1秒単位)を設定できるのは『気まぐれの掟』に同じ。
・『バクレツハッケイ』:相手に接触された場所から「氣」を送り込んで、振動にて相手の肉体を内部から破壊する魔法。相手の肉体に水分が含まれている度合いが多いほど振動が大きくなり、粉砕骨折させ筋肉にもダメージを与える。「氣」が旧字体でイメージされているのも、呪文名に日本語の漢字を用いているのも、接触前提で使う魔法であるため相手に再現させないための工夫の一つ。
・『再生回復』:再生効果を併せ持った『生命回復』。幹部付近の細胞を万能細胞として増殖させ、失われた部位を再生しながら回復する。効果はすごいがコスパはかなり悪い。
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