上 下
11 / 23
棘先の炎

閑話休題 ふとした記憶

しおりを挟む
4年前。とある暴走族がツーリング中、コンビニへと買い物に出ていた女性をバイクではねた後、そのまま逃走した事件が起こった。その女性は命は取り留めたものの…現在は植物状態となっている。
「…ひぃっ。俺は悪く無いんだ!…ただ、仲間が俺に罪を着せようとしてて…」
鼻血を出し殴られたような跡がある青年に対し、少年は血のような瞳で冷酷に見つめた。
「本当かよ?…言っておくけど、俺はてめぇが嘘でも吐こうものなら殺せる覚悟でもあるんだ。…ほら。さっさと白状しろよ?ー俺がやりましたって。」
そして腹に蹴りを入れる。すると鈍い音を立てた男はそのまま気絶をした。やり切れない想いを抱いた少年は溜息を吐き、そして血まみれのマスクを取り去りフードを外す。…月の光で輝く白髪と真っ赤なざくろのような瞳をした少年は、自分に襲い掛かってきた屍達を蹴る。そんな中でサイレンの音が聞こえてきた。誰かが通報したのであろう。まずいと判断をした少年はその場を立ち去ろうとして…しかし、防がれて居た。
「あなたですか?…最近流行りの不良荒らしさんは。」
右側に仮面を被り、そして西洋のドレスを纏う車椅子を乗った少女のような姿に少年は舌打ちをする。
(見られたっ!まずい!)
彼女へ向けて拳を振るおうとした時、彼女が静かに言い放つ。
「やめなさい。罪を重ねれば重ねる程、あなたの罪は重くなる。…自分でも分かっているのでしょう?ーこんな事をしても無駄だと。」
鋭い彼女の問い掛けに少年は目を見張る。そしてそんな彼に彼女は海のように深い瞳で笑い掛けた。
「あなたが望むのなら私が裁いてあげましょう。ー大丈夫。私は嘘は付きませんから。」
そんな彼女の様子に少年は訝しげな目を向ける。すると彼女は言い放つ。
「私は薔薇姫。聖薔薇十字学院の理事長である傍ら…自警団の組織"茨"を仕切る者です。私の力に掛かれば、あなたが望む結果を出せますよ。…でも、それは、あなたが私に力を貸してくれたらの話ですが。」
そして畏怖を抱かせるように微笑む薔薇姫に少年は呟いた。
「久遠 勇翔(くおん ゆうと)。んで?あんたの力を借りれば、姉さんの手土産に出来るっていう約束をしてくれるのなら…俺はその組織に入るけど。」
そして頭を掻く勇翔に彼女は何かを思い付いた様子だった。
「そうだ!遊ぶ兎と書いて…遊兎(ゆうと)なんてどうですか?それならコードネームはラビットになるし…。いえ、それが良いかも知れません!」
「話を勝手に進めるなよ…。」
そう言って遊兎…いや、ラビットが"茨"に加入する事になった。そして薔薇姫は彼の姉をはねた暴走族の主犯を捕まえて…"茨"の刑により断罪したのだとか。

クイラはスネークに問い掛けていた。"何故、フライ自身がラビットの存在を気づかせないのか?"という疑問を。ちなみにだが、今現在、クイラはスネークが居る教室に行ってみた所、彼は面倒だと言っていた女子達の相手をしていた。その光景になんとなく自分と重ねて見えたクイラではあったものの、彼女を見掛けたスネークは理由を付けてクイラの元へと来たのである。
「いや~。あいつらの面倒見るの大変だったからお前が来てくれて助かったぜ~。さんきゅーな。」
そして笑い掛けている彼にクイラが問掛けたのである。彼女の質問にスネークは一瞬真顔になったものの、人気のない所へ行こうと言って彼女を屋上へと誘った。屋上へと向かった2人は沈黙があったものの、スネークが話を切り出した。
「俺もラビットがフライだとは信じたくは無い。…ただ、薔薇姫様が言うには"ラビットは元々は罪人で、それを作り出してしまったフライも罪人となってしまうから…。"との事だ。まあ、あいつの過去はそこまでは知らねぇけどさ、あいつの…いや、ラビットの行動を見れば…なんとなくは分かるだろ?」
自重気味に笑うスネークに裏が無いかどうかをクイラは彼の心を探る。だが、事実のようだ。そんな彼女にスネークは決意する。
「俺も事情があってこの"茨"に来たんだ。そこであの人と…薔薇姫様と出会った。俺は何があっても薔薇姫様について行く。…例え薔薇姫様がラビットにしか見えないとしても。」
そしてクイラの手を引いて屋上を立ち去る。
明日はいよいよ決戦。果たして、連れて行くのはフライかラビットか…?
クイラの疑問は募るばかりであった。
しおりを挟む

処理中です...