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棘先の炎

動向を知れば動向を知る 5話

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暗闇の中に自分が居る。…だが、そんな状況など、フライ…いや、勇翔にとっては日常茶飯事であった。ー彼は何処となく感じていた。自分とは違う存在が自分自身の心に宿っている事を。だが、会いたいと願ってもその者には会わせてくれない。ーそれでも彼はその存在に向けて呟いた。
「僕が君の存在に気付かせてくれない…いや。君が僕を見てくれないのは…、姉さんが事故に遭ってから…だったよね?」
その言葉に暗闇が反応するかのように揺らぐ。その状況に確信を得た勇翔は叫ぶのだ。
「僕は!君自身を見たい!いや!自分を知りたいんだ!…だからお願いだよ…。君を僕に会わせて!」
すると揺らいだ暗闇から誰かがこちらを見ていた。白髪を前髪で留めた自分と同じ血のように赤い目をした青年に。驚く勇翔にその者は微笑んだ後、彼の頭を撫でるのだ。
「…その話はまた今度な?…今は俺はお前と話せない。」
自分と同じ声に更に驚く勇翔に彼に問い掛けようとして…、暗闇から彼が消えた。ーそして、目が覚めれば…何かを掴もうとした手がそこにあった。

誰かに何かを言われたような気がして、でも、思い出せないフライ。そんな彼の様子に保健室のカーテンを開けて出てきたのは、バードとクイラであった。
「フライくーん?大丈夫?なんか、怖い夢でも見た?…汗かいてるけど?」
バードの指摘にフライは自分が汗をかいている事実に気付く。…だが、何故自分が汗をかいているのかさえ分からなかった。
「あれ…?何でだろう?夢を見た記憶さえ無いのに…。」
顔をしかめるフライにバードはキセルを咥えて煙を吐き出した。
「まあ、何事もないのならそれで良いよ。…明日、スネークからも任務に関して言われるだろうけどさ~。まあ、クイラちゃんに一応内容は聞いておきな~?」
そしてクイラに目配せをする。クイラはバードの心を読んだ。"フライにはラビットの事を話すなよ。"という心の動きを。恐らく薔薇姫が自身の情報を伝えたのだろう。彼女は彼に微笑んでからフライに言い放つ。
「そうよ~!フライ君が体調悪くしてたから、私とスネークさんが行ったの。…でも、起き上がれるって事は大丈夫みたいね?…もう放課後だし、そろそろ帰りましょ?」
そしてクイラはフライを起こそうとした。しかし、そんな彼はバードにこのような疑問を投げ掛ける。
「ねぇバードさん。ー1つだけ質問に答えてくれませんか?」
「なんだい?」
そしてキセルを燻らせるバードにフライは質問をする。
「僕と同じくらいの…いや、僕と似ている人って幹部に居ますか?」
突然の問い掛けに動じずバードは煙を吐き出してから溜息を吐いた。
「まあ…居るよ。でも、フライとは全然ちがうね。特に性格とか真逆でさ。…まあ、困った奴だけど、俺は面白いと思ってるよ。」
そしてフレーバーを捨てて彼は笑みを浮かべた。
「まあまあ!取り敢えず、フライはクイラちゃんから今日の事をちゃんと聞くように!…もう放課後だしさ~。先生から"早く閉めろ"って言われるから~。」
そして2人を返すバードにクイラは何故彼等は"ラビット"の存在を隠すのかを知りたくなった。

高層ビルの最上階。夜景を見ながらコーヒーを飲む望月組社長は1人の幹部に向けて言い放つ。
「君知ってるかい?…君の妹が君を探しにあそこの学園に入ったって情報。まずいよね~。ただでさえ身内なのにね~。」
黒いサングラスを頭に掛けた男は彼に向けて言い放つ。…だが向けられた視線に彼は応じず、笑みを浮かべたままであった。そんな彼の揺るぎない様子に男は訝しげな表情を見せる。
「ほぉ~?なんか策でもあるのかい?一応身内でしょ?」
すると彼は微笑んでからこのように言い放つのだ。
「俺は別に妹と対峙をしたとしても…それでも俺はこの会社の為に働きますよ。"猟犬"と呼ばれているからには…ですが。」
そして、アメジストのような紫色の瞳に銀髪を横で束ねた男…喰楽 麗斗(くいら れいと)は社長に一礼をした後に出て行く。そんな彼の姿を見て、男はニヒルな笑みを浮かべたという。

翌日。クイラから話を聞いた後、スネークからも任務について聞かされたフライではあったが…孤児院に乗り込む際について彼は困惑をしていた。
「えっと…つまり。最初は話だけ通して…、その後に院長を呼び出すんですよね?ー聞いてる限り、その孤児院に何の証拠も無かったら帰されるだけなんじゃ…?」
そんな彼の様子にスネークは人差し指を突き出した。
「無いなら探せば良いんだよ。…もっとも、今の所は出てないけどな。」
苦虫を噛む表情を浮かべるスネーク。すると今度はクイラが彼へ向けて疑問を呈示する。
「あの…、その、"望月組"って所も出るかも知れないんですよね?私なんかが居て良いんですか?…足手まといじゃ…?」
するとスネークは嫌な笑みを浮かべていた。
「知ってるぜ?お前が猫を被っている事も…そして、お前が幼い頃から武道を嗜んでるって事をな。」
猫を被っていた事がバレたのにも関わらず、クイラは開き直っている様子であった。
「あちゃ~。バレたか…。まあ良いや。猫被るのも疲れるし!」
そして伸びをするクイラにスネークは言い放った。
「そんじゃあ!決戦は土曜に!部下は引き連れて置くから、遅刻すんなよ?」
「はーい!」
「…はい。」
元気良く返事をするクイラと自分の方が足手まといじゃないかと危惧するフライであった。
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