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第37話 《利里》
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解こうとした手を離さずに、繋ぎ止めてベッドに居る俺と磁石のようにくっつくいてくる蒼柳へ、俺は安堵もしたが疑念も抱いていた。
……こんな落ちこぼれで、普通すぎるほどの顔をしていて、努力をしても報われなくて、そんな欠陥品な自分が大嫌いだから。嫌いで嫌いで、だから崖に落ちる夢を見て、看護に必要必須なバイタルサインでさえもできない自分が悔しくて。
それが恨めしい。悔しくて切ない。
――すると俺は、蒼柳の肩を借りたかと思えば、呻くように泣いた。情緒不安定なん自分も嫌いだった。
「利里、さん? なんで泣いて……?」
「ご、ごめん。なんか、あの、その……」
(こんな欠陥品な奴が蒼柳みたいな頭も良くて、要領も良くて、かっこよくて……、そんな奴に嫌われたら?)
――見放されたら? 裏切られたら? 「やっぱりいりません、無理です」だなんて言われたら……俺は立ち直れない。一生、引きずる。
でもそれも言えない俺が言えなくてもどかしくて、だから俺は「ごめん、ごめん……」としか紡げない俺を、蒼柳は片方の手で頭を撫でていた……その時であった。
――――バァーン!
「せんせい~! あおやなぎくん、居ますかぁ~?」
「げぇ、永礼さんだ……」
蒼柳が頭上で疲弊を吐き出したかと思えば、永礼さんは先生の静止を待たずに入ってきて、蒼柳に抱き寄せられて泣いている俺を見てひどく驚いていた。
「え、チビデブ、なに泣いていんの? ていうか、ずる! ながれちゃんも蒼柳くんに抱き締められた~い!」
永礼さんは俺を少しだけ心配しつつも、蒼柳に抱き締められているの見て羨ましいそうに頬を膨らませた。そんな彼女は、ずかずかと俺と蒼柳の間に割って入ろうとしてくる。……この図々しさが今の俺には欲しかった。
――そして、自分のキズを浅くするために不意に思ってしまうのだ。
(今なら蒼柳から逃れられるかもしれない)
手さえも引き剥がそうとする永礼に、さすがの蒼柳はやんわりとした言い方で利里の手を繋ぎ止めて離さなかった。
「なんで蒼柳くんは~、こんな奴と仲良くするの~? こいつ留年しているしさ~?」
――ズキリと音がする。悲鳴が上がる。
「利里さんは、好きで留年したわけじゃないよ?」
「こんな奴放っておいて授業に出ようよ~。ながれが呼びに来たんだよ! 蒼柳くんはみんなの憧れだし、好かれているし~」
それに比べて……と言いたげな視線を感じた利里は、さらに自分を呪った。
(やっぱり、俺は無理だったんだ。だったら――)
だから俺は涙を拭いて、息を整えてから笑って蒼柳へ顔を向けた。
――自分でもわかるぐらい不器用な笑顔だったかもしれない。
「蒼柳、永礼さんがそう言ってくれているんだから行きなよ。俺は先生に診てもらって、話を聞いてもらうからさ」
「……嫌っす」
「そんなこと言うなよ。俺なんかよりお前は期待されているし、好かれてもいる。……お前を必要としてくれる人はたくさんいる」
(もう、お願いだから……俺をもう、傷つけないで)
――お前のことを本当に好きになったら、俺は本当に死ぬと思うから。
――だから俺を、浅いキズのうちに俺を解放してよ。
しかし蒼柳は鋭い視線を向けてなぜか笑うのだ。どうして笑うのか意味がわからなかった。
「……利里さんはいつのまにそんな薄っぺらく笑うんですか?」
「え?」
「だから……お仕置き」
すると蒼柳の顔が急激に近づいたかと思えば、唇に温かさを感じた。流した涙のおかげで、俺は塩味とともに顔がジクジク赤く熟れていく感覚を得たのだ。
……こんな落ちこぼれで、普通すぎるほどの顔をしていて、努力をしても報われなくて、そんな欠陥品な自分が大嫌いだから。嫌いで嫌いで、だから崖に落ちる夢を見て、看護に必要必須なバイタルサインでさえもできない自分が悔しくて。
それが恨めしい。悔しくて切ない。
――すると俺は、蒼柳の肩を借りたかと思えば、呻くように泣いた。情緒不安定なん自分も嫌いだった。
「利里、さん? なんで泣いて……?」
「ご、ごめん。なんか、あの、その……」
(こんな欠陥品な奴が蒼柳みたいな頭も良くて、要領も良くて、かっこよくて……、そんな奴に嫌われたら?)
――見放されたら? 裏切られたら? 「やっぱりいりません、無理です」だなんて言われたら……俺は立ち直れない。一生、引きずる。
でもそれも言えない俺が言えなくてもどかしくて、だから俺は「ごめん、ごめん……」としか紡げない俺を、蒼柳は片方の手で頭を撫でていた……その時であった。
――――バァーン!
「せんせい~! あおやなぎくん、居ますかぁ~?」
「げぇ、永礼さんだ……」
蒼柳が頭上で疲弊を吐き出したかと思えば、永礼さんは先生の静止を待たずに入ってきて、蒼柳に抱き寄せられて泣いている俺を見てひどく驚いていた。
「え、チビデブ、なに泣いていんの? ていうか、ずる! ながれちゃんも蒼柳くんに抱き締められた~い!」
永礼さんは俺を少しだけ心配しつつも、蒼柳に抱き締められているの見て羨ましいそうに頬を膨らませた。そんな彼女は、ずかずかと俺と蒼柳の間に割って入ろうとしてくる。……この図々しさが今の俺には欲しかった。
――そして、自分のキズを浅くするために不意に思ってしまうのだ。
(今なら蒼柳から逃れられるかもしれない)
手さえも引き剥がそうとする永礼に、さすがの蒼柳はやんわりとした言い方で利里の手を繋ぎ止めて離さなかった。
「なんで蒼柳くんは~、こんな奴と仲良くするの~? こいつ留年しているしさ~?」
――ズキリと音がする。悲鳴が上がる。
「利里さんは、好きで留年したわけじゃないよ?」
「こんな奴放っておいて授業に出ようよ~。ながれが呼びに来たんだよ! 蒼柳くんはみんなの憧れだし、好かれているし~」
それに比べて……と言いたげな視線を感じた利里は、さらに自分を呪った。
(やっぱり、俺は無理だったんだ。だったら――)
だから俺は涙を拭いて、息を整えてから笑って蒼柳へ顔を向けた。
――自分でもわかるぐらい不器用な笑顔だったかもしれない。
「蒼柳、永礼さんがそう言ってくれているんだから行きなよ。俺は先生に診てもらって、話を聞いてもらうからさ」
「……嫌っす」
「そんなこと言うなよ。俺なんかよりお前は期待されているし、好かれてもいる。……お前を必要としてくれる人はたくさんいる」
(もう、お願いだから……俺をもう、傷つけないで)
――お前のことを本当に好きになったら、俺は本当に死ぬと思うから。
――だから俺を、浅いキズのうちに俺を解放してよ。
しかし蒼柳は鋭い視線を向けてなぜか笑うのだ。どうして笑うのか意味がわからなかった。
「……利里さんはいつのまにそんな薄っぺらく笑うんですか?」
「え?」
「だから……お仕置き」
すると蒼柳の顔が急激に近づいたかと思えば、唇に温かさを感じた。流した涙のおかげで、俺は塩味とともに顔がジクジク赤く熟れていく感覚を得たのだ。
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