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第38話 《蒼柳》
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――利里さんは出会った当初からひどく優しくて、フランクで……でも、自虐心が強いヒトだなとは、常日頃感じていた。
見た目は本当に普通のヒト。特徴というものを感じられない。ただ、蝋燭のように真っ白な肌と、小柄な身体は少しふっくらしていて、ふわふわのくせ毛は俺に視線を向けるたびにファサファサするものだから、撫でまわしたくなる。
――撫でまわして、笑わせて、にこにこと微笑んでくれる顔を、俺は衝動的に見たかった。
そう思うと、普通の顔というのは特徴的ではない分、自分色に染められるのだから良いのかな、なんて思う。
利里さんは普段から勉強熱心で、授業がないときは学生ホールでひたすらに勉強をしている。
「自分は留年を2回もしているし、頑張れなかったからさ。前までは嫌だってけれど、もう、被害者面する自分も嫌なんだよ。……だって、なにも変わらないじゃん」
利里さんが好きなミルクティーを飲みながら発していた強い言葉は、”負けたくない”という意志が感じられる。俺にはない感情だ。
――俺は自分が求められていれば、自分の世界が回っていればそれでよかった。
他人に好かれようが、嫌われようが、俺は俺って感じ。
でもその考えはどこか切なくて、本当の……重たくてドロドロした自分も見て欲しいというのもある気がして。
顔や偽りの性格を見て判断されるのに日々嫌になっていくが、それでも負けずに生きていたら……なにも感じない、気づいたら血の通ったロボットになっていた。
だから利里さんが頑張っていても負けることがあったら、俺は支えてやりたいんだ。利里さんは利里さんなりの強さがあって、今も取り戻そうと必死に取り組んでいる。
「努力が必ず報われるわけなんてない」というのを教えてくれたのは利里さんだ。それは俺から見た視線や言動で感じ取ったもの。
でもこれだけ頑張っているのなら、報われてもいいのではないかと俺は思うんだ。
だからまた利里さんが負けそうになって苦しそうになったら、俺は傍で「頑張っていますよ」って言いたい。励まして、甘やかして、ふんわり笑う利里さんが見たいんだ。
利里さんのロリ女児好き疑惑が出た際には、さすがに俺もダメかもしれないと思った。性癖というより、当たり前だが「やはり女の子の方が良いよな……」なんて考えたり、もしかしたら利里さんも小柄な子の方が好きだったり。……そう考えてはさすがにため息を吐いたのだ。
――やっぱり現実はダメだよなって。
でも利里さんは、その少女の熱弁した……リンツと呼ばれる、金髪碧眼の少女に惹かれたのは、その眩いかわいさというよりかは、その子の生い立ちや過去、そして主人公を引っ張って動機付けをさせる重要な役割の少女だと判明したのだ。
それでも俺は、利里さんのロリ女児好き疑惑はあった。でも利里さんは完全否定をして「俺はリンツちゃんの人間性に惹かれたんだ!」なんて言いながら、頬を膨らましてそっぽを向いてしまうヒトに……淡い期待を寄せたんだ。
――勇猛に語っていても、どこかかわいらしくていじりたくなったりもしたのは内緒だ。
利里さんがぶっ倒れたときにはかなり衝撃的すぎたが、なにもできない自分が1番悔しくて情けなかった。
だからバイトを辞めて看護助手のバイトをしたんだ。利里さんがまた倒れてもすぐに対応ができるように。
利里さんが俺だけを頼ってくれるように。俺はそれだけを考えながらバイトをしていたんだ。
――豊橋先生に向けたふわふわで安心した笑顔が、俺には憎たらしかったから。
そんな利里さんは”慎さん”の訃報を聞いた途端、倒れてしまった。
俺は利里さんが倒れたときにはすぐさま運んで、医務室にある器具でバイタルサインをさせてもらった。
豊橋先生は俺の姿を見てもなにも言わずに「お前に任せる」そう言って、医務室を
出たり入ったりを繰り返していた。それだけ先生も大変だっただろうし、顔には出さぬようにしていたが、後悔していたような顔もしていたし……先生も人間だったのだなと感じた気がする。
そんななかでさえも、俺は利里さんの看病ができて本当に嬉しかった。自分が支えている気がしたから。でも利里さんだって、俺が初め、利用しようとしたにも関わらずに嫌な顔をしないで話してくれて面倒も見てくれたから。――だから俺は支え合う関係になりたかったのだ。
でも利里さんは目を覚ましたかと思えば、俺を突き放すような態度を取ってきた。そんなの一目瞭然だ。だって薄っぺらな笑みを見せる利里さんを見るのは、俺は嫌だから。
――利里さん、俺はあなたの1番になりたい。
――あなただけに好かれていたい。
――だってあなたが、大切でかけがえのない存在になってしまったから。
俺はあなたのためならば尽くしてあげますよ。……たとえそれが、険しい道でも、難関な壁でも。
あなたと支えられるのなら、俺はなんだってしますからね。
だから俺は、あなたの阻んでくるものから除けるように……破ったんだ。
その契約をもう1度結んだのだ。
見た目は本当に普通のヒト。特徴というものを感じられない。ただ、蝋燭のように真っ白な肌と、小柄な身体は少しふっくらしていて、ふわふわのくせ毛は俺に視線を向けるたびにファサファサするものだから、撫でまわしたくなる。
――撫でまわして、笑わせて、にこにこと微笑んでくれる顔を、俺は衝動的に見たかった。
そう思うと、普通の顔というのは特徴的ではない分、自分色に染められるのだから良いのかな、なんて思う。
利里さんは普段から勉強熱心で、授業がないときは学生ホールでひたすらに勉強をしている。
「自分は留年を2回もしているし、頑張れなかったからさ。前までは嫌だってけれど、もう、被害者面する自分も嫌なんだよ。……だって、なにも変わらないじゃん」
利里さんが好きなミルクティーを飲みながら発していた強い言葉は、”負けたくない”という意志が感じられる。俺にはない感情だ。
――俺は自分が求められていれば、自分の世界が回っていればそれでよかった。
他人に好かれようが、嫌われようが、俺は俺って感じ。
でもその考えはどこか切なくて、本当の……重たくてドロドロした自分も見て欲しいというのもある気がして。
顔や偽りの性格を見て判断されるのに日々嫌になっていくが、それでも負けずに生きていたら……なにも感じない、気づいたら血の通ったロボットになっていた。
だから利里さんが頑張っていても負けることがあったら、俺は支えてやりたいんだ。利里さんは利里さんなりの強さがあって、今も取り戻そうと必死に取り組んでいる。
「努力が必ず報われるわけなんてない」というのを教えてくれたのは利里さんだ。それは俺から見た視線や言動で感じ取ったもの。
でもこれだけ頑張っているのなら、報われてもいいのではないかと俺は思うんだ。
だからまた利里さんが負けそうになって苦しそうになったら、俺は傍で「頑張っていますよ」って言いたい。励まして、甘やかして、ふんわり笑う利里さんが見たいんだ。
利里さんのロリ女児好き疑惑が出た際には、さすがに俺もダメかもしれないと思った。性癖というより、当たり前だが「やはり女の子の方が良いよな……」なんて考えたり、もしかしたら利里さんも小柄な子の方が好きだったり。……そう考えてはさすがにため息を吐いたのだ。
――やっぱり現実はダメだよなって。
でも利里さんは、その少女の熱弁した……リンツと呼ばれる、金髪碧眼の少女に惹かれたのは、その眩いかわいさというよりかは、その子の生い立ちや過去、そして主人公を引っ張って動機付けをさせる重要な役割の少女だと判明したのだ。
それでも俺は、利里さんのロリ女児好き疑惑はあった。でも利里さんは完全否定をして「俺はリンツちゃんの人間性に惹かれたんだ!」なんて言いながら、頬を膨らましてそっぽを向いてしまうヒトに……淡い期待を寄せたんだ。
――勇猛に語っていても、どこかかわいらしくていじりたくなったりもしたのは内緒だ。
利里さんがぶっ倒れたときにはかなり衝撃的すぎたが、なにもできない自分が1番悔しくて情けなかった。
だからバイトを辞めて看護助手のバイトをしたんだ。利里さんがまた倒れてもすぐに対応ができるように。
利里さんが俺だけを頼ってくれるように。俺はそれだけを考えながらバイトをしていたんだ。
――豊橋先生に向けたふわふわで安心した笑顔が、俺には憎たらしかったから。
そんな利里さんは”慎さん”の訃報を聞いた途端、倒れてしまった。
俺は利里さんが倒れたときにはすぐさま運んで、医務室にある器具でバイタルサインをさせてもらった。
豊橋先生は俺の姿を見てもなにも言わずに「お前に任せる」そう言って、医務室を
出たり入ったりを繰り返していた。それだけ先生も大変だっただろうし、顔には出さぬようにしていたが、後悔していたような顔もしていたし……先生も人間だったのだなと感じた気がする。
そんななかでさえも、俺は利里さんの看病ができて本当に嬉しかった。自分が支えている気がしたから。でも利里さんだって、俺が初め、利用しようとしたにも関わらずに嫌な顔をしないで話してくれて面倒も見てくれたから。――だから俺は支え合う関係になりたかったのだ。
でも利里さんは目を覚ましたかと思えば、俺を突き放すような態度を取ってきた。そんなの一目瞭然だ。だって薄っぺらな笑みを見せる利里さんを見るのは、俺は嫌だから。
――利里さん、俺はあなたの1番になりたい。
――あなただけに好かれていたい。
――だってあなたが、大切でかけがえのない存在になってしまったから。
俺はあなたのためならば尽くしてあげますよ。……たとえそれが、険しい道でも、難関な壁でも。
あなたと支えられるのなら、俺はなんだってしますからね。
だから俺は、あなたの阻んでくるものから除けるように……破ったんだ。
その契約をもう1度結んだのだ。
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