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第13話 白い《小鳥》
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……乾さんが倒れた時には「なにがどうして?」となった。
だけれど、豊橋先生が来て、乾さんの器具を使って検査して、介抱をして、担ぎ上げて軽々とベッドへ運んでいた。
その様子を俺は見ることしかできなかった。――それがどうしてだが、悔しかった。
(なんだ、この気持ち。このわだかまりは?)
そう思いながら眠りかけている乾さんはか細い声で言葉を発したのだ。
「ごめん……なさい。本当にごめんなさい。だから、」
――見捨てないで、ください。
「えっ?」
体温を計測していた時に見えた、その蝋燭のような肌と、俺とは違って男なのに柔らかそうで、小柄で……まるで小さい小鳥、”シマエナガ”を体現している乾さんが悲しげな声で訴え掛けていたのである。
(見捨てるだなんて。そのぐらいで……)
だから俺は「そんなことないですよ!」なんて言葉を掛けようとした。
――だがしかし。
「そんなことで見捨てたりしないから。休んでいろ。俺の方こそ悪かったな、乾」
「せん、せい」
するとあろうことか、乾さんは俺の時とは違う笑みを見せていた。
「ありがとう、ござい、ます……」
「おう」
その笑みは本当に安堵をしていて、心の底から笑っているような微笑みな気がしたのだ。そして乾さんは、力尽きて本当に眠ってしまった。
――俺は乾さんが豊橋先生に向ける笑顔を見せる笑みに軽い嫉妬心を覚えた。
(なんだ、この気持ち。なんなんだよ、この騒めく気持ちは)
そんなことを思って胸を押さえる俺など知らず、豊橋先生は慣れた手つきで冷蔵庫からペットボトルの水を床頭台に置き、俺に向けて苦笑する。
「蒼柳も悪かったな。こんな大変な目に遭わせて」
「あ、いや、大丈夫ですよ! こちらの方こそ、なにもできなくてすみませんでした……」
謝罪をする俺に先生は「ははっ」なんて軽く笑っていた。
「そんなことない。あんなのを見せられたら、誰だって動揺するし慌てふためく。でもそれでも、お前は俺を呼びに来た。1人で解決しようとせず、俺の所に走ってきた」
「それは、その。それしかできなかったというか」
「それでもお前は来たんだ。報・連・相は大事だぞ? 今後役に立つから覚えておきな」
先生は慣れた様子でくせっ毛の乾さんの髪に軽く触れて笑う。すると乾さんは、気持ちよさそうに眠って先生の手にすり寄った。
――この苛立つなにかを俺は知りたい。知りたかった。
「あの、先生。乾さんは、やっぱり訳ありなんですか?」
すると先生は振り返って息を吐いては「あぁ、そうだ」と言う。先生はどういうニュアンスで言ったのかは分からない。でも俺は、乾さんに抱くこの思いを、
――”奪われたくない”という思いが、なぜ湧き出たのかを知りたかった。
だから俺は、悲しげな表情を見せる先生に向けて笑いかけた。
「先生、俺は乾さんがたとえ訳ありでも、見捨てません。優しくされたし、それに……」
そう切って俺は言葉をつぐむ。言えるに言えなかったから。
だが先生は悟ったような顔を見せて微笑んだ。
「まぁ蒼柳が見捨てないならありがたいな。乾は友達が居ないから今後とも友達として優しくしてやってくれ」
「……はい」
「でも、そうだな――」
なんて言って先生は乾さんを見て、俺を見てニヒルな笑みを浮かべた。
「たとえその気持ちが本気じゃないなら、俺は断固反対だけどな」
「え?」
どういった意味が分からない。ただ俺も、眠っているくせっ毛で雪のように白い彼に近寄って、――触れる。黒髪は艶やかで肌触りが良くて、気持ちが良い。
「んぅ……」
「乾さん……」
可愛らしい声を上げて眠る小鳥に、俺は1人の友人として想いを抱いた。
――俺はその気持ちを知りたかった。
渦巻くこの気持ち何かを、知りたかった。
だけれど、豊橋先生が来て、乾さんの器具を使って検査して、介抱をして、担ぎ上げて軽々とベッドへ運んでいた。
その様子を俺は見ることしかできなかった。――それがどうしてだが、悔しかった。
(なんだ、この気持ち。このわだかまりは?)
そう思いながら眠りかけている乾さんはか細い声で言葉を発したのだ。
「ごめん……なさい。本当にごめんなさい。だから、」
――見捨てないで、ください。
「えっ?」
体温を計測していた時に見えた、その蝋燭のような肌と、俺とは違って男なのに柔らかそうで、小柄で……まるで小さい小鳥、”シマエナガ”を体現している乾さんが悲しげな声で訴え掛けていたのである。
(見捨てるだなんて。そのぐらいで……)
だから俺は「そんなことないですよ!」なんて言葉を掛けようとした。
――だがしかし。
「そんなことで見捨てたりしないから。休んでいろ。俺の方こそ悪かったな、乾」
「せん、せい」
するとあろうことか、乾さんは俺の時とは違う笑みを見せていた。
「ありがとう、ござい、ます……」
「おう」
その笑みは本当に安堵をしていて、心の底から笑っているような微笑みな気がしたのだ。そして乾さんは、力尽きて本当に眠ってしまった。
――俺は乾さんが豊橋先生に向ける笑顔を見せる笑みに軽い嫉妬心を覚えた。
(なんだ、この気持ち。なんなんだよ、この騒めく気持ちは)
そんなことを思って胸を押さえる俺など知らず、豊橋先生は慣れた手つきで冷蔵庫からペットボトルの水を床頭台に置き、俺に向けて苦笑する。
「蒼柳も悪かったな。こんな大変な目に遭わせて」
「あ、いや、大丈夫ですよ! こちらの方こそ、なにもできなくてすみませんでした……」
謝罪をする俺に先生は「ははっ」なんて軽く笑っていた。
「そんなことない。あんなのを見せられたら、誰だって動揺するし慌てふためく。でもそれでも、お前は俺を呼びに来た。1人で解決しようとせず、俺の所に走ってきた」
「それは、その。それしかできなかったというか」
「それでもお前は来たんだ。報・連・相は大事だぞ? 今後役に立つから覚えておきな」
先生は慣れた様子でくせっ毛の乾さんの髪に軽く触れて笑う。すると乾さんは、気持ちよさそうに眠って先生の手にすり寄った。
――この苛立つなにかを俺は知りたい。知りたかった。
「あの、先生。乾さんは、やっぱり訳ありなんですか?」
すると先生は振り返って息を吐いては「あぁ、そうだ」と言う。先生はどういうニュアンスで言ったのかは分からない。でも俺は、乾さんに抱くこの思いを、
――”奪われたくない”という思いが、なぜ湧き出たのかを知りたかった。
だから俺は、悲しげな表情を見せる先生に向けて笑いかけた。
「先生、俺は乾さんがたとえ訳ありでも、見捨てません。優しくされたし、それに……」
そう切って俺は言葉をつぐむ。言えるに言えなかったから。
だが先生は悟ったような顔を見せて微笑んだ。
「まぁ蒼柳が見捨てないならありがたいな。乾は友達が居ないから今後とも友達として優しくしてやってくれ」
「……はい」
「でも、そうだな――」
なんて言って先生は乾さんを見て、俺を見てニヒルな笑みを浮かべた。
「たとえその気持ちが本気じゃないなら、俺は断固反対だけどな」
「え?」
どういった意味が分からない。ただ俺も、眠っているくせっ毛で雪のように白い彼に近寄って、――触れる。黒髪は艶やかで肌触りが良くて、気持ちが良い。
「んぅ……」
「乾さん……」
可愛らしい声を上げて眠る小鳥に、俺は1人の友人として想いを抱いた。
――俺はその気持ちを知りたかった。
渦巻くこの気持ち何かを、知りたかった。
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