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第12話 消えない《傷》
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久しぶりにロッカーを開けると、カビ臭さを感じた。
「うわぁ、カビくさ……。あとで消臭剤かなにか置かなきゃ」
なんて言いながらバイタルサインに必要な聴診器やら、血圧計の入った袋を取り出して去ろうとして……ハンガーに掛かっているナース服を見た。
もう実習に行っていないおかげで新品同様な水色のナース服を懐かしむように手に取って、匂いを嗅ぐと、やはりカビ臭さを感じる。
さすがに洗濯をしようと思って、利里はそれも持ち帰った。だが、息を吐く自分も居た。
「バイタルサイン、できるかな……」
なんて思いながら、冷たいロッカーのドアを閉めて立ち去ったのだ。
授業中で静かな廊下を抜けて医務室へと向かった利里は普段通りにドアを開ける。すると……。
「あ、乾さん遅いっすよ~。待ちくたびれったす~」
「え、あ、え?」
(なんで蒼柳が居るわけ? ていうか授業は?)
なんて思いながら正直に伝えると、横から入ってきた豊橋が書類を書きながらこのような言葉を発した。
「蒼柳は調子が悪いんだってよ~。まぁとりあえず、バイタルサインをやってみたらどうだ? 俺じゃなくてさ」
「えっ!? なんで!?」
驚いている様子の利里に、豊橋は間延びした様子で自分よりかは背の低い蒼柳の肩に手を置く。
「なんでって言われても、具合が悪い奴の方がすべきだろ。なぁ~、蒼柳?」
どうしてだが仲良くなっている2人に疑問を抱きつつも、蒼柳は調子が悪くないだろうというような雰囲気で、でも具合が悪いというように訴えかけた。
「具合悪いんすよ~! お願いします~」
「嘘だろ、絶対」
「嘘じゃないっすよ~! ほら、持っている器具持ちますから!」
なんてはぐらかせて利里は呆れているのだが、そんな彼に蒼柳は興味津々で血圧計や聴診器を見て「すげぇ~!」とか言ってくる。
「へぇ~こういうの買うんすね! すごいなぁ~!」
「すごいの前に、練習させてよ。具合が悪いんでしょ?」
「そうっすよ~。じゃあやってください!」
「……調子の良い奴」
「それが俺の取柄ですから~」
言いながら、蒼柳をベッドに寝かせて、彼のカットソーの袖のボタンを外す。透き通った潤っているその肌に、化粧でもしているのではないかと疑った。
(肌、きれいだな)
そう思いながら、利里は挨拶などを省いた状態でまずは呼吸数を測った。刻々と時計の針がさす頃に、利里の嫌な動悸がしていく。
(これの正常値がきたら、今度は脈を取って――)
それだけで、嫌になってきてしまう。逃げ出したくなってしまう。
彼にとっては、その行為もトラウマなのだから。
――ドク、ドク、ドクッ!
(やばい、緊張する。緊張して、気持ちが……悪い)
顔面が冷えていく感覚と無言になってしまう自分が居た。
そんなとき、蒼柳が声を掛けてきたのだ。
「そういえば、次はどんなことするんすか?」
「……あ、あの、えっと――」
「え、乾さん?」
何事かと思って起き上がる蒼柳はひどく驚いた。――そこには、顔面が蒼白で胸を押さえて息を荒げている利里の姿があったから。
だから蒼柳は慌てて利里に駆け寄ったのだ。
「乾さん、ちょっと待っていてください! 先生、先生!!!」
呼びに行く蒼柳の姿に利里は申し訳なさと、自分の不甲斐なさでひどく落ち込み……意識を手放した。
「うわぁ、カビくさ……。あとで消臭剤かなにか置かなきゃ」
なんて言いながらバイタルサインに必要な聴診器やら、血圧計の入った袋を取り出して去ろうとして……ハンガーに掛かっているナース服を見た。
もう実習に行っていないおかげで新品同様な水色のナース服を懐かしむように手に取って、匂いを嗅ぐと、やはりカビ臭さを感じる。
さすがに洗濯をしようと思って、利里はそれも持ち帰った。だが、息を吐く自分も居た。
「バイタルサイン、できるかな……」
なんて思いながら、冷たいロッカーのドアを閉めて立ち去ったのだ。
授業中で静かな廊下を抜けて医務室へと向かった利里は普段通りにドアを開ける。すると……。
「あ、乾さん遅いっすよ~。待ちくたびれったす~」
「え、あ、え?」
(なんで蒼柳が居るわけ? ていうか授業は?)
なんて思いながら正直に伝えると、横から入ってきた豊橋が書類を書きながらこのような言葉を発した。
「蒼柳は調子が悪いんだってよ~。まぁとりあえず、バイタルサインをやってみたらどうだ? 俺じゃなくてさ」
「えっ!? なんで!?」
驚いている様子の利里に、豊橋は間延びした様子で自分よりかは背の低い蒼柳の肩に手を置く。
「なんでって言われても、具合が悪い奴の方がすべきだろ。なぁ~、蒼柳?」
どうしてだが仲良くなっている2人に疑問を抱きつつも、蒼柳は調子が悪くないだろうというような雰囲気で、でも具合が悪いというように訴えかけた。
「具合悪いんすよ~! お願いします~」
「嘘だろ、絶対」
「嘘じゃないっすよ~! ほら、持っている器具持ちますから!」
なんてはぐらかせて利里は呆れているのだが、そんな彼に蒼柳は興味津々で血圧計や聴診器を見て「すげぇ~!」とか言ってくる。
「へぇ~こういうの買うんすね! すごいなぁ~!」
「すごいの前に、練習させてよ。具合が悪いんでしょ?」
「そうっすよ~。じゃあやってください!」
「……調子の良い奴」
「それが俺の取柄ですから~」
言いながら、蒼柳をベッドに寝かせて、彼のカットソーの袖のボタンを外す。透き通った潤っているその肌に、化粧でもしているのではないかと疑った。
(肌、きれいだな)
そう思いながら、利里は挨拶などを省いた状態でまずは呼吸数を測った。刻々と時計の針がさす頃に、利里の嫌な動悸がしていく。
(これの正常値がきたら、今度は脈を取って――)
それだけで、嫌になってきてしまう。逃げ出したくなってしまう。
彼にとっては、その行為もトラウマなのだから。
――ドク、ドク、ドクッ!
(やばい、緊張する。緊張して、気持ちが……悪い)
顔面が冷えていく感覚と無言になってしまう自分が居た。
そんなとき、蒼柳が声を掛けてきたのだ。
「そういえば、次はどんなことするんすか?」
「……あ、あの、えっと――」
「え、乾さん?」
何事かと思って起き上がる蒼柳はひどく驚いた。――そこには、顔面が蒼白で胸を押さえて息を荒げている利里の姿があったから。
だから蒼柳は慌てて利里に駆け寄ったのだ。
「乾さん、ちょっと待っていてください! 先生、先生!!!」
呼びに行く蒼柳の姿に利里は申し訳なさと、自分の不甲斐なさでひどく落ち込み……意識を手放した。
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