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第二章『奴隷王国ドーレル滅亡』

13話

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 魔族が消滅するのを見届けたクロード達は感傷に浸ることなど一切せずに急いで王城を出てシャナルたち精霊が奴隷の輸送に関する書類を見つけた役所に向かった。

 役所に着くとシャナルの配下の一人が迎えに来てくれていてシャナルの下まで案内してもらう。

「シャナル!!早速だけど見つけた書類を見せてくれるか」

 シャナルは手元にあった幾つかの書類をクロードに渡す。

「主様、輸送名簿の他に輸送のために使う道を記した地図もさっき見つけたよ~。ねね私偉い~役に立ったかな」

 シャナルはクロードやベロニカの周りをくるくると回りながら聞いて来る。

「ああ、ありがとうシャナル殿。これで父上や母上、兄上を救える確率がさらに上がったよ」

「嫌だな~。殿なんて付けなくていいよ~。呼び捨てでも――――ちゃん付けでもね~」

 シャナルはベロニカにそう言うとベロニカの頬に自分の頬を数回(スリスリ)擦り付けた後、どこかへと行ってしまう。

「よし。ここで手に入る情報はこの位だろう。急いで出発しよう。今ならまだ間に合うはずだ」

 クロード達は役所を飛び出すと、急いで輸送車を追うのだった。

***

 奴隷王国ドーレルの王都を飛び出し馬車に乗り猛スピードで輸送車を追い北上していたクロード達はその七日後、遂に遠方に輸送車の影を捉えた。

 馬車の御者を担当してくれていたルシファーから輸送車を見つけたと報告を受けたクロード達は、馬車に設けられた覗き穴から様子を伺う。

「確かに、あの団体さんが輸送車で間違いなさそうだな」

 クロード達が発見した奴隷王国ドーレルから魔族領への輸送車は一台だけではなく何台もあった。

 輸送車の団体は今も尚ゆっくりとした速度で魔族領へと進んでいる。

「さて、ベロニカの家族はいったいどの輸送車に乗せられているんだ」

 クロード達を乗せた馬車はゆっくりと、だが確実に魔族達の輸送車に近づいて行った。

***

 クロード達の馬車が遠目に魔族の輸送車隊を目視した頃、件の輸送車隊は魔族の輸送部隊によって厳しい監視をされながらゆっくりとだが着実に魔族領へと向かっていた。

 輸送車隊の最後尾を馬を駆けながら追尾するかたちで監視兼警備している二人の魔族がいた。

 彼らは馬をゆっくり駆けさせながら互いに今までのことを話しているようだ。

「ふう、これでやっとこの奴隷輸送も最後か。後はドーレルにいるいのこり組と変異体の元住民をドーレルから引かせるだけになるな」

「ああ、邪神様を復活させるために必要な生贄の調達もこれで終わる。まさか必要数の贄を揃えるのに十五年も掛かるとは始めた当時には思いもしなかったけどな」

「全くだぜ。この作戦はドーレルの周辺国や人間界の大国であるクリエール王国とグッタール帝国に勘付かれる訳にはいかないからな。全く、すげぇ肩が凝ったぜぇ」

「……それも今回のこの輸送で終わる。これでやっと我々魔族の悲願である邪神様の復活を遂げることが出来るわけだ」

「ああ、早速帰ったら酒場で一杯やろうぜ!!作戦完遂の祝いによう。俺、魔都の外れに良い酒を出す店を知ってるんだよ。どうだ? 」

「……はぁ~、しょうがねぇ。つきやってやるよ!!その代わり酒が不味かったら許さねぇからな」

「わかってるって!!大船に乗ったつもりでいろよ。絶対うまいからよ」

 二人の魔族は自分達の真後ろで馬と並走して聞き耳を立てている者達に気付くことなく魔族領に戻った後の予定について話し合うのだった。

***

 馬車で魔族達の輸送隊に気付かれないギリギリまで近づいたクロード達は馬車をルシファーの配下の悪魔に任せ商人の馬車の様に装わさせる。

 そして、主要メンバーに『インビジブル』を掛け魔族達の輸送隊の最後尾を馬に乗って警備している二人の魔族の真後ろに付き魔族の話に聞き耳を立てた。

 二人の魔族の話を聞いたクロードは魔族側の思惑を録音の魔道具に魔族の会話を保存すると、念話で自分と一緒にこの場について来た仲間達に指示を出す。

『皆、話を聞いての通りこのままだと魔族達の思い通りに邪神が復活してしまう。最初の作戦ではベロニカの家族とエルフ族、竜人族、ドラゴン族の者だけ救出すればそれで大丈夫だったけど、邪神の件でそうもいかなくなった』

『確かに。私達の対象者だけを救出してもそれ以外の人達が魔族領で邪神の生贄にされて、まだ足りない生贄を他から攫われたら何の妨害にもならないしね』

 そう。今回クロード達が救出する予定だった者達は合計で約百五十人程、それに対し魔族が今回複数の輸送車で輸送している人数は約五万人程、詰まるところ今回クロード達が救出する予定の人数など彼らにとっては片手間でどこかから攫ってこれる微々たる数なのだ。

『そうだ。よって新たな作戦は魔族の輸送部隊を殲滅し輸送車に囚われている者達を全員救い出すことになる。中には罪人なんかもいると思うから保護する時は細心の注意を払ってくれ』

『『『『『了解』』』』』

『では、行動開始!!』

 クロードは皆に指示を出すと手分けして最後尾から一台ずつ警備をしている二人組の魔族と御者をしている魔族を排除して行った。



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