魔女として断罪された悪役令嬢は婚約破棄されたので魔王の妃として溺愛されることを目指します

悠月

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第一章 婚約破棄されたので魔王のもとに向かいます

7 私の推しは魔王でした

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 私は、ベッドの中で、魔王ヴィネ・ド・ロマリエルのヴィジュアルを思い出してはニンマリと笑う。
 腰まで届きそうな紺碧のストレートヘア、紫の瞳。
 初登場場面では、仮面舞踏会で身に付けるような仮面で、顔を半分隠していた。
 それでも、仮面に覆われていない顔の下半分だけで、十分にイケメンであることが想像できた。
 空間移動できる魔王ヴィネは、何度か、ヒロイン・ヴァレリーの前に現れては、ヴァレリーをくどく。
 攻略こそできないものの、他のキャラと同じように、正しい選択肢を選ぶことで魔王との親密度は上げることができた。
 魔王との親密度が上がると、仮面がはずれるのだが、ヴィネ様のご尊顔を仰ぐことができた時には床を転げ回って悶絶したものだ。

「ジャンと作る世界は、本当に皆にとって、幸せな世界と言えるのか? ヴァレリー、私と共に作らないか? 誰もが皆、心から笑える世を」

「私を倒したとて何になる? この世界を崩壊させる火種は、別のところにある。そのことに気付いてはいないのか? ヴァレリー」

「光あるところに闇はできる。闇を作っているのは、光なのだ、ヴァレリー。強烈な光がなければ、闇も生まれはしない。闇がなければ光も生まれはしないのだ……私と共に来い、ヴァレリー」

(ヤバイ、魔王……尊すぎる……ツボなんですけど……!)

 前世の人格が蘇った私は、魔王の台詞を思い出し、思わずヨダレをたらしそうになる。
 そして、ヴィネ様の台詞を一身に受け止めているのが、あのヴァレリーだと思うと、本当に腹立たしくて仕方がない。
 そう、私の、このゲームでの一番の推しは、なんと言っても、魔王ヴィネ様だったのだ。

 生まれ変わった今、思い出してみても、本来、敵役として設定されているはずの魔王の方が、至極真っ当なことを言っていると思う。
 ゲームがあらかじめ用意してくれたヒーローたちは、ジャンをはじめ、外見はともかく内面はちょっと残念なイケメンが多い。
 先ほどの婚約破棄のシーンを思い出してみても、ジャンの残念な性格は際立っている。
 衆人環視の中、婚約者に対して婚約破棄を言い渡したと思ったら、その途端、他の女とイチャイチャし始める男なんて、現実に生きていたとしたら、蹴り倒してやりたいほどムカつく存在ではないか?
 いや、この世界では、現実にジャンは、生きているのだけれど。

 常に自分が正しいと思っている俺様ナルシストのジャン。
 ジャンの側近で、ジャンには忠実なものの、周囲には毒舌と厨二な台詞を吐きまくるダミアン。
 将来の法王と目されているものの、ただのチャラい女たらしでしかない司祭のアンリ。聖職者なのに、周りに女をはべらせているって設定はどうなのよ……。

 そんな残念なイケメンたちが攻略キャラとして揃う中、外見も内面も申し分のないイケメンが、魔王ヴィネ様だった。
 前世の私は、ヴィジュアルだけではなく、内面的にも、魔王ヴィネ様に惹かれていたのだ。
 しかし、『聖なる乙女と光の騎士たち』というゲームでは、どんなに魔王との好感度を上げたとしても、魔王とラブエンドを迎えることはできない。
 実に、クソゲー仕様である。
 私以外にも、魔王推しのファンは多かったようで、SNSで、「魔王エンドのDLC求む!」の声は大きかったが、ついに実現されることはなかった。
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