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二章 目指せ声優! 鈴華愛紗
目指せ声優! 鈴華愛紗 10
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拓斗は腕をとられて引っ張り上げられ、ピアノの前に後ろ向きで立たされた。
頭の中では詭弁だとわかっている。ゲームといっても、ピアノはピアノなのだと。
しかし、わかりやすく煽ったり趣向を変えたりして拓斗にピアノを弾かせようとする、愛紗の気持ちに応えたかった。
「スタートはミですよ。……そうだ、今さらですけど、『ねこふんじゃった』って弾けますか?」
「弾いたことはないけど、聞いたことはあるから大丈夫」
愛紗は首をかしげた。
「聞いたことがあれば弾けるんですか?」
「難しい曲じゃなければね」
「ええっ、すごすぎです!」
愛紗が目を丸くするのに、拓斗は苦笑した。
「音楽をやっていれば誰でもできるよ。そういうのは雄一郎のほうが上手い。彼はすごく耳がいいからね」
拓斗は何度も雄一郎に頼り、音を直してもらった。いつも雄一郎は正しかった。音楽センスにあふれた男なのだ。だからこそ、ヴァイオリンをやめたことに拓斗は腹を立てた。
「いやいや、神業です! そんな拓斗さんにかかれば、後ろ向き『ねこふんじゃった』なんて楽勝ですね」
「どうかな」
初めてのことで手をどうセットすればいいのかすらわからない。手首をこねくり回しているうちに黒鍵に指が触れてしまった。
「あっ、……れ?」
不意打ちだったせいか、指先にさっきの痺れが起こらなかった。鍵盤が見えないというのは有効なのだろうか。そのまま指を鍵盤に押しつける。
ピアノの中から、ハンマーが弦を叩く音が響く。
たった一音。
しかし拓斗自らの意思で、拓斗の指先によって生まれた、久しぶりの音だった。
しばらく拓斗はそのまま動けずにいた。やっとピアノに触れることができた。ピアノから指を離すとまた触れなくなりそうで、そのまま指をスライドさせて白健も押してみた。また音が鳴る。当り前のことが嬉しかった。
鍵盤は自宅のグランドピアノよりも軽く滑りもいいようだ。素材が違うのだろう。それに意外にも音が合っている。勝手にピアノは誰にも使われていないものと思っていたが、調律されているようだ。
「うん、弾ける気がする」
拓斗は慎重に、ゆっくりと指を動かして曲を弾き始めた。音もメロディも合っている。日向ぼっこをしている猫が、シッポを踏まれて目を覚ますけれども、また目を閉じて眠るくらいゆったりとしている。
「もっと早く弾きましょうよぉ。『ねこふんじゃった』はスピードを競うものなんですよ。学校でやりませんでした?」
「しなかったけど……そんなことしたらミスしやすくなるよ」
「間違ってもいいじゃないですか」
けろりと愛紗がいう。
「音楽は正確さより、楽しい方が大事です! だって音楽は、音を楽しむって書きますよね」
拓斗は手をとめた。
そういえば、音楽って楽しいものだった。
当たり前のことなのに衝撃を受けるということは、最近はそれを忘れ、音楽を楽しめていなかったということだ。
「拓斗さん、続けて」
拓斗が手を動かすと、愛紗も隣りに並んで同じ曲を弾きだした。
頭の中では詭弁だとわかっている。ゲームといっても、ピアノはピアノなのだと。
しかし、わかりやすく煽ったり趣向を変えたりして拓斗にピアノを弾かせようとする、愛紗の気持ちに応えたかった。
「スタートはミですよ。……そうだ、今さらですけど、『ねこふんじゃった』って弾けますか?」
「弾いたことはないけど、聞いたことはあるから大丈夫」
愛紗は首をかしげた。
「聞いたことがあれば弾けるんですか?」
「難しい曲じゃなければね」
「ええっ、すごすぎです!」
愛紗が目を丸くするのに、拓斗は苦笑した。
「音楽をやっていれば誰でもできるよ。そういうのは雄一郎のほうが上手い。彼はすごく耳がいいからね」
拓斗は何度も雄一郎に頼り、音を直してもらった。いつも雄一郎は正しかった。音楽センスにあふれた男なのだ。だからこそ、ヴァイオリンをやめたことに拓斗は腹を立てた。
「いやいや、神業です! そんな拓斗さんにかかれば、後ろ向き『ねこふんじゃった』なんて楽勝ですね」
「どうかな」
初めてのことで手をどうセットすればいいのかすらわからない。手首をこねくり回しているうちに黒鍵に指が触れてしまった。
「あっ、……れ?」
不意打ちだったせいか、指先にさっきの痺れが起こらなかった。鍵盤が見えないというのは有効なのだろうか。そのまま指を鍵盤に押しつける。
ピアノの中から、ハンマーが弦を叩く音が響く。
たった一音。
しかし拓斗自らの意思で、拓斗の指先によって生まれた、久しぶりの音だった。
しばらく拓斗はそのまま動けずにいた。やっとピアノに触れることができた。ピアノから指を離すとまた触れなくなりそうで、そのまま指をスライドさせて白健も押してみた。また音が鳴る。当り前のことが嬉しかった。
鍵盤は自宅のグランドピアノよりも軽く滑りもいいようだ。素材が違うのだろう。それに意外にも音が合っている。勝手にピアノは誰にも使われていないものと思っていたが、調律されているようだ。
「うん、弾ける気がする」
拓斗は慎重に、ゆっくりと指を動かして曲を弾き始めた。音もメロディも合っている。日向ぼっこをしている猫が、シッポを踏まれて目を覚ますけれども、また目を閉じて眠るくらいゆったりとしている。
「もっと早く弾きましょうよぉ。『ねこふんじゃった』はスピードを競うものなんですよ。学校でやりませんでした?」
「しなかったけど……そんなことしたらミスしやすくなるよ」
「間違ってもいいじゃないですか」
けろりと愛紗がいう。
「音楽は正確さより、楽しい方が大事です! だって音楽は、音を楽しむって書きますよね」
拓斗は手をとめた。
そういえば、音楽って楽しいものだった。
当たり前のことなのに衝撃を受けるということは、最近はそれを忘れ、音楽を楽しめていなかったということだ。
「拓斗さん、続けて」
拓斗が手を動かすと、愛紗も隣りに並んで同じ曲を弾きだした。
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