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一章 漫画家志望の猫山先輩
漫画家志望の猫山先輩 11
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「大家さんは、なぜこのシェアハウスを始めたんですか? 家賃一万円じゃ、マイナスですよね」
拓斗は気になっていたことを聞いてみた。
「そうね。私は商売でやっているんじゃないのよ。私は夢を諦めそうになった時に救われた経験があるから、恩返しをしているの」
「大家さんも、夢を追っていたんですか」
「そう。そして叶った。だから今の私があるの。どうしても叶えたい夢って、誰もが持てるものじゃないでしょ。でも、その思いが強いほど苦しいのよね。だって、必ず手に入るわけじゃないもの。いくら努力をしたって、報われるという保証もない。だから、夢を追う行為自体が尊いと思うの。だから私は応援したいのよ」
「大家さんが叶えた夢って、なんですか?」
「聞きたい?」
にっこりと微笑む大家がゾクリとするほど妖艶に見えて、拓斗はゴクリと生唾を飲んだ。
「あの、よかったら……」
「ばあば、はっけん!」
そのとき、脱衣所に少年が飛び込んできた。小学校低学年くらいだろうか。くりっと大きな瞳で可愛らしい。この年代特有の、転びそうなアンバランスな体形をしていた。
「孫よ、一緒に暮らしているの。啓太、拓斗お兄ちゃんにごあいさつは?」
「お兄ちゃん、こんばんは! ケータです! 六歳です!」
ぺこりと腰を折って大きな頭をさげた。倒れないか心配になる。
「こんばんは。寝たままでごめんね」
「ユウイチロウ兄ちゃんに、そっちはビョーニンがいるから近づくなって言われたの。でもね、アイス食べたい!」
「冷凍庫にない?」
「ないよぉ」
啓太は不思議な動きをしている。幼児というのは落ち着きがない。
「じゃあ買いに行きましょうか。拓斗くん、一人で大丈夫?」
「はい、もう大分よくなりました。もうしばらくしたら動けそうです。お世話になりました」
「いえいえ、ゆっくり休んで」
大家は啓太と共に脱衣所から出ていった。その際にかごから白いものを取ったのは、雄一郎が残したTシャツだろう。
しばらくそのまま安静にして、五百ミリリットルの水を飲みほし、吐き気がなくなってからそっと起き上がった。火照っていた身体の熱と汗は扇風機が飛ばしてくれた。髪もほとんど乾いている。
「お風呂で倒れるなんて。坂道でもすぐに息が上がったし、もう少し鍛えたほうがいいのかな」
シルクの寝間着を身に着けながら、拓斗はポツリとつぶやいた。
脱衣所を出て、一部ガラスになっているリビングダイニングのドアを開けると、出汁のいい匂いが鼻腔をくすぐった。ないと思っていた食欲がわいてくる。
「おう、出てきたか」
ソファに座っている雄一郎が声をかけてきた。Tシャツを着て首にはタオルを巻いている。近くには甚平を着ている猫山が、昼間と同じように胡坐をかいてパソコンに向かっていた。
「うん。お騒がせしました」
「ははっ、新入りは見た目どおりなよっちいな! そこのゴリラに余ってる筋肉を分けてもらえよ」
「猫山先輩、次に俺のことゴリラと言ったら、パソコンを窓の外に放り投げますから」
「やめろよ! これ買うのに預金をカラにしたんだからな!」
どうやら猫山はナチュラルに口が悪いようだ。
拓斗は気になっていたことを聞いてみた。
「そうね。私は商売でやっているんじゃないのよ。私は夢を諦めそうになった時に救われた経験があるから、恩返しをしているの」
「大家さんも、夢を追っていたんですか」
「そう。そして叶った。だから今の私があるの。どうしても叶えたい夢って、誰もが持てるものじゃないでしょ。でも、その思いが強いほど苦しいのよね。だって、必ず手に入るわけじゃないもの。いくら努力をしたって、報われるという保証もない。だから、夢を追う行為自体が尊いと思うの。だから私は応援したいのよ」
「大家さんが叶えた夢って、なんですか?」
「聞きたい?」
にっこりと微笑む大家がゾクリとするほど妖艶に見えて、拓斗はゴクリと生唾を飲んだ。
「あの、よかったら……」
「ばあば、はっけん!」
そのとき、脱衣所に少年が飛び込んできた。小学校低学年くらいだろうか。くりっと大きな瞳で可愛らしい。この年代特有の、転びそうなアンバランスな体形をしていた。
「孫よ、一緒に暮らしているの。啓太、拓斗お兄ちゃんにごあいさつは?」
「お兄ちゃん、こんばんは! ケータです! 六歳です!」
ぺこりと腰を折って大きな頭をさげた。倒れないか心配になる。
「こんばんは。寝たままでごめんね」
「ユウイチロウ兄ちゃんに、そっちはビョーニンがいるから近づくなって言われたの。でもね、アイス食べたい!」
「冷凍庫にない?」
「ないよぉ」
啓太は不思議な動きをしている。幼児というのは落ち着きがない。
「じゃあ買いに行きましょうか。拓斗くん、一人で大丈夫?」
「はい、もう大分よくなりました。もうしばらくしたら動けそうです。お世話になりました」
「いえいえ、ゆっくり休んで」
大家は啓太と共に脱衣所から出ていった。その際にかごから白いものを取ったのは、雄一郎が残したTシャツだろう。
しばらくそのまま安静にして、五百ミリリットルの水を飲みほし、吐き気がなくなってからそっと起き上がった。火照っていた身体の熱と汗は扇風機が飛ばしてくれた。髪もほとんど乾いている。
「お風呂で倒れるなんて。坂道でもすぐに息が上がったし、もう少し鍛えたほうがいいのかな」
シルクの寝間着を身に着けながら、拓斗はポツリとつぶやいた。
脱衣所を出て、一部ガラスになっているリビングダイニングのドアを開けると、出汁のいい匂いが鼻腔をくすぐった。ないと思っていた食欲がわいてくる。
「おう、出てきたか」
ソファに座っている雄一郎が声をかけてきた。Tシャツを着て首にはタオルを巻いている。近くには甚平を着ている猫山が、昼間と同じように胡坐をかいてパソコンに向かっていた。
「うん。お騒がせしました」
「ははっ、新入りは見た目どおりなよっちいな! そこのゴリラに余ってる筋肉を分けてもらえよ」
「猫山先輩、次に俺のことゴリラと言ったら、パソコンを窓の外に放り投げますから」
「やめろよ! これ買うのに預金をカラにしたんだからな!」
どうやら猫山はナチュラルに口が悪いようだ。
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