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ITADAKIアプリ

アプリ生活 最終日

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柔らかな日差しに包まれている。
とても気持ちいい。
光の向こう側から声がする。
どうぞ、こちらへと。

窓から差し込む日差しで目が覚めた。



うーんと背を伸ばす。
昨日感じたような違和感がまるでない。
元からこの身体だったかのような感覚だ。

そのまま洗面所に向かって顔を洗う。



鏡に映る自分がこれからずっとこうなのかと
ちょっとだけ寂しい気持ちもあったが、
それよりもどんな人生を歩んでいけるのか?
という希望のほうが勝っていた。

歯を磨いてとりあえず朝食にすることにした。
いつもどおりにパンと珈琲だ。



朝食を食べながらスマホをふと見ると、
アプリからのお知らせが表示されていた。

「本日でこのアプリを利用できるのは最後になります」

このアプリに出会って色々な体験をした。
そして、いままで考えもしなかった人生を歩み始めることになるとは、
最初にアプリを起動したときには思いもよらなかった。

そして、もう一つお知らせが表示されていた。
メールのようだ。
早速開けてみると昨日手続きをした、
今後女性として生きていくことについての内容についてだった。

メールにはいまの部屋からは、
スマホと移動に必要な最低限のものだけを、
持って部屋を出るようにと最初に書かれていた。
他のものはなにも持ち出さないようにとも。
そして、ある住所にこの後向かうように指示されている。
そこは少し離れた場所だった。
今後についてはそこに到着したら、
現地に説明された書類があるとのことだった。

いよいよかと少しドキドキした。
急ぎ朝食を食べて、化粧をした。
髪型を整えて服を着る。
指定されたように、
最低限の荷物だけを小さなカバンに入れて部屋を出た。
部屋の鍵はして、鍵は持って行くように書いてあること確認した。

そして、指定された場所へ向かう。



昨日とは違い、ただ歩いているだけで視線を感じる。
そう、これだ。
ずっと望んでいたことのように感じた。

電車により数駅が過ぎたところで目的の駅に着いた。
そして、指定された住所をスマホに入力して道案内を起動する。



案内どおりに向かうと大きなマンションに到着した。
先ほどのメールを見返してみると、
部屋番号とオートロックの解除方法が書かれている。
そして、入口のポストの解除番号も書かれており、
そこに鍵があるようだ。
早速ポストのロックを解除して鍵を手にした。
そのままオートロックも無事解除できたので指定の部屋へ向かった。

エレベーターであがっていくほどの階数だった。



目的の階に到着したので部屋を探した。
少ししてやっと見つけたので、
先ほど手にした鍵でドアを開ける。
いままで住んでいた安アパートとは比較にならない高級マンションだ。
ドアの重みが違った。

部屋に入るとまず鍵をした。
そして靴を脱ぎ、
長い廊下を歩いていくとやがてリビングに到着した。



びっくりするほど広いリビングだ。
一人で生活する場所なのか?と思うほどだ。

あまりのことにあっけにとられていたが、
ふとテーブルの上になにか手紙のようなものがあることに気がついた。

それを手にとって開けてみる。
どうやらこれが今後についての説明のようだ。



割と長い文章だったが簡潔にいうと、
今回のアプリは国家レベルの極秘実験だったようだ。

詳細は書かれていないが、
何か公にできない技術の実験ということだろうか?
この実験については決して他言してはならないと書かれていた。
ここまでに起こったことを思い出してみれば、
それを破ればなにが起こるかは想像もしたくなかった。

そして、今後はこの家で生活をするように書かれている。
また、定期的な健診を受けることや、
案内される作業をやっていれば、
毎月一定の金額が口座に振り込まれるとのことだ。
ご丁寧にキャッシュカードと、
電子口座のIDとPWを書いた紙も添えられている。
最後に、以前の自分は事故で亡くなったことになっているので、
決して過去に関わった人に会ったとしても、
関わらないように過ごすことが書かれていた。
また、部屋の鍵とスマホは指定の住所に送るようにとのことだ。
これは忘れないように用意されていた箱にさっそく鍵とスマホを入れた。



テーブルには新しいスマホも用意されていた。

ここまでいきなり色々な情報を与えられて少々混乱をしていたが、
一旦落ち着こうとキッチンに向かった。
そして、冷蔵庫を開けてみると珈琲の粉があったので、
コーヒーメーカーで珈琲を用意した。

珈琲をソファーに座って飲む。
やっと一息つけた。

女性として生きていくという覚悟以上のものを背負ってしまったようだ。
若干後悔しかけたが、
よくよく考えてみればかなり恵まれた環境を手に入れたとも言える。
気になるのは案内される作業とは何だろう?という不安ぐらいだ。

他には何もなかったので先ほど用意されていたスマホを起動してみた。
起動番号は箱に入っていたのですんなりログインできた。
一通りの設定がされていた。
使っているアカウントについての情報も箱に入っている。
起動するとさっそくメールが届いていた。

早速あけてみるとまず、
今日から自分が名乗る名前が書かれている。
これには慣れるまで時間がかかりそうだがしょうがない。
それと一度検査を受けるように書かれていた。
指定の電話番号に連絡して予約をしたうえで向かうようにとのことだ。
そして、今後やることになる作業はそこで説明されるらしい。

早速電話をしてみた。



どこかの大きな総合病院のようだ。
指示されたように伝えると、
明日以降でいつでも対応ができると言われたので明日でお願いをした。
その際にこの電話を切ったあとにスマホに入っている、
例のアプリを起動するように言われた。
病院の住所などは後でメールでもらうことにして電話を切った。

言われたとおりにあのアプリを探すとインストールされていた。
何が起こるのか怖いところもあったが思い切ってクリックした。



見慣れた画面が表示される。
画面にはいまの自分のモデルが表示されていた。
まぁ、データは筒抜けだろうからここは驚きはしなかった。
起動してすぐにあるメッセージが表示された。

「今後必要な情報をインストールします。両手でスマホを持って目を閉じてください」

いきなりの指示だったがここまできてはしょうがない。
指示どおりに両手でスマホを持って目を閉じた。
すると音声案内でこのように案内された。

「では、インストール開始します。終了の合図がするまで手を離さないでください。ではスタート」

ピーという音がした。
あの記憶が流れ込むときと同じような感覚が襲ってくる。



しばらくするとまたピーという音ががした。

「終了しました。目をあけてアプリを終了してください」

そう案内されたので目をあけた。
さきほどまで見たこともない部屋だと思っていたところが、
ずっとここに住んでいたかたのような感覚に変わっていくのが自分でもわかった。
そして、名前や必要な情報は自然と思い浮かぶ。
やはりこのアプリは恐ろしい。

先ほど指示されたとおりアプリを終了しようとしたところ、
最後にまたメッセージが表示された。

「このアプリを終了すると自動的にアンインストールされます。
 同時に最後の処理を実行しますので、片手でスマホをしっかり掴んでいてください」

アンインストールするだけなのに不思議なことを言うなと思ったが、
指示どおりに終了のボタンをタップするときに片手でしっかりとスマホを持った。
そしてアイコンをタップするとアンインストール中とステータスバーが表示される。
少しづつステータスバー進んでいくと同時になにかが消えていくように感じた。



そして、ピーという音がした。
その音ではっと我にかえった。

あれ?
いま何をしていたの?
珈琲を飲みながらスマホを触っていたのに。

目の前にいくつかの書類や箱があるのが不思議だった。
一応読んでみるが、まぁあまり興味のないものに感じた。
ただ、この箱は送り先が書いてあるので、
早めに宅配便で送らないといけないことはわかった。
早速箱を手に持って部屋を出ることにした。
いつものように小さなバッグを肩にかけて。
外を歩いているとなんだかとても気分がスッキリしたように感じた。
なにか大切な忘れているような気が一瞬したがすぐに消えていった。



「薬ではなくアプリケーションのほうがどうやら副作用の恐れもなく実効性が高いようね。」
「まぁ、被験者によるのかもだけどね。」
「記憶のコントロールも容易だし、被験者にとってもこのほうがいいのかもしれないわね。」
「とはいえ、明日、精密検査をして色々確認しなきゃというのはあるけどね。」

どこかの会議室でそんな会話がされていることは当然知りもしなかった。

歩きながらスマホにメールが届いていたのに気が付いた。
そこにはある病院の住所と受診時間が書かれていた。
なんとなく行かなければならないことは自覚している。
ちょっと緊張するなぁと思いながらそのままコンビニに向かった。



こうして偶然アプリをインストールしたある男が体験した、
不思議な出来事の記録はこれで最後になります。
もしかすると次、このアプリを体験することになるのはあなたかもしれませんね。
では、またの機会にお会いしましょう。
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