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エピソード28
シロとユリア(10)
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「え……」
ユリアが息を飲む。
……ああ、そうか。コイツはセシルが死徒になった経緯を知らないのだ。
「ま、待ってください。1月を倒すと、セシルが土に還る?
そんな……そんなことって……」
「誤解するな、俺たちの目的は同じだ。
1月を倒す――俺たちにとってもヤツは仇なんだ」
ヴィンセントは、以前オレに話してくれたようなことをユリアに言った。
ユリアの剣を握る手が小さく震える。
彼は愕然とヴィンセントを見やってから、視線を落とした。
「でも、アイツを倒してセシルがいなくなってしまうのなら、僕は……僕は……」
「言っただろう。目的は同じだと。
……そもそも、俺たちはずっと自分たちの終わりを探していた。
そして、お前のお陰でやっと辿り着けたと思う」
「僕、ですか?」
戸惑うユリアに、ヴィンセントが口の端を持ち上げる。
「ああ。俺はセシルを愛してる。こいつのいない世界に用はない」
抱き上げたセシルを1度見下ろしてから、
彼は続けた。
「共に生き、共に死ぬ。
1月との闘いは、俺たちにとって誂え向きの機会なんだ」
「……」
ユリアが何か言おうとして、押し黙る。
代わりにオレが口を開いた。
「それをセシルは知ってんのかよ。納得してんのかよ」
「2人で決めてここに来た」
「……そうか」
ならばもう、外野のオレたちが言えることはない。
隣でユリアが唇を噛む。
それに気付いて、ヴィンセントは小さく笑った。
「ユリア。そんな顔をするな。
何かを得ようとすれば、何かを失う。
世界はそうやって出来ている」
ややあってから、ユリアは頷いた。
「……僕は、1月を倒します」
それから顔を上げると、真っ直ぐな眼差しでヴィンセントを見る。
「アイツは僕を放っておいてはくれないようだから」
「それでいい」
「でも、あなたたち2人を失いたくはないんです」
「なに?」
ヴィンセントが小さく目を開く。
「探します。――方法を。
始祖を失いながらも、死徒が生きながらえる方法を。
だから、最期まで諦めないでくれませんか」
ユリアの言葉に、彼は長い溜息を吐いた。
「……そんな暇がお前にあるとでも?
俺はお前を1月とやり合えるように、仕上げなければならない。
頼みを受けたからには、手は抜かない」
そう言って、踵を返す。
2、3歩進んでから、彼は背中越しに告げた。
「だが……気持ちだけは受け取っておく」
大きな背中が、階段の向こうへ遠ざかる。
やがて彼の足音が消えると、ユリアは口を開いた。
「……ねえ、バンさん。僕の考えは、甘いと思いますか?」
泣きそうな表情で、ユリアが小首を傾げる。
「そんな都合の良い方法は無いって、
あなたも……思いますか」
オレはゆるく頭を振った。
「……さあな。あるかないか、オレは調べたことがねぇから。
でも、初めから無理だって決めつけるよか、ずっといいと思うよ」
「バンさん……」
「それに、お前に時間がねぇならオレが調べればいいだけだ」
言うと、ユリアは少しだけ表情を緩める。
それから、そっとオレの頬に触れた。
「……なんだか久々な気がしますね。
あなたとこうして、面と向かって話したの」
「……そうだな」
ユリアの瞳は凪いでいる。そこから彼の心情は読み解けない。
怒っているようでもなかった。悲しんでいるようでもなかった。
しかし、記憶を取り戻したことは確かなようだ。
明らかに以前の彼とは様子が違う。
「あ、のさ……ユリア……」
お前は、何処まで思い出した?
そして、何処まで知っている?
謝らなければ。
でも、どうやって言えばいい?
オレは心の中で自嘲した。
未だに許される方法を探している自分が滑稽だ。
ユリアを信じて、アイツに付けいる隙を与えなければ、
こんなことにはなっていなかったのに。
言いよどんでいると、ユリアが先に口を開いた。
「……バンさんはさ」
頬に触れていた手が躊躇いがちに離れる。
不安げに見上げたオレに、彼は問うた。
「アイツのことが好き?」
ユリアが息を飲む。
……ああ、そうか。コイツはセシルが死徒になった経緯を知らないのだ。
「ま、待ってください。1月を倒すと、セシルが土に還る?
そんな……そんなことって……」
「誤解するな、俺たちの目的は同じだ。
1月を倒す――俺たちにとってもヤツは仇なんだ」
ヴィンセントは、以前オレに話してくれたようなことをユリアに言った。
ユリアの剣を握る手が小さく震える。
彼は愕然とヴィンセントを見やってから、視線を落とした。
「でも、アイツを倒してセシルがいなくなってしまうのなら、僕は……僕は……」
「言っただろう。目的は同じだと。
……そもそも、俺たちはずっと自分たちの終わりを探していた。
そして、お前のお陰でやっと辿り着けたと思う」
「僕、ですか?」
戸惑うユリアに、ヴィンセントが口の端を持ち上げる。
「ああ。俺はセシルを愛してる。こいつのいない世界に用はない」
抱き上げたセシルを1度見下ろしてから、
彼は続けた。
「共に生き、共に死ぬ。
1月との闘いは、俺たちにとって誂え向きの機会なんだ」
「……」
ユリアが何か言おうとして、押し黙る。
代わりにオレが口を開いた。
「それをセシルは知ってんのかよ。納得してんのかよ」
「2人で決めてここに来た」
「……そうか」
ならばもう、外野のオレたちが言えることはない。
隣でユリアが唇を噛む。
それに気付いて、ヴィンセントは小さく笑った。
「ユリア。そんな顔をするな。
何かを得ようとすれば、何かを失う。
世界はそうやって出来ている」
ややあってから、ユリアは頷いた。
「……僕は、1月を倒します」
それから顔を上げると、真っ直ぐな眼差しでヴィンセントを見る。
「アイツは僕を放っておいてはくれないようだから」
「それでいい」
「でも、あなたたち2人を失いたくはないんです」
「なに?」
ヴィンセントが小さく目を開く。
「探します。――方法を。
始祖を失いながらも、死徒が生きながらえる方法を。
だから、最期まで諦めないでくれませんか」
ユリアの言葉に、彼は長い溜息を吐いた。
「……そんな暇がお前にあるとでも?
俺はお前を1月とやり合えるように、仕上げなければならない。
頼みを受けたからには、手は抜かない」
そう言って、踵を返す。
2、3歩進んでから、彼は背中越しに告げた。
「だが……気持ちだけは受け取っておく」
大きな背中が、階段の向こうへ遠ざかる。
やがて彼の足音が消えると、ユリアは口を開いた。
「……ねえ、バンさん。僕の考えは、甘いと思いますか?」
泣きそうな表情で、ユリアが小首を傾げる。
「そんな都合の良い方法は無いって、
あなたも……思いますか」
オレはゆるく頭を振った。
「……さあな。あるかないか、オレは調べたことがねぇから。
でも、初めから無理だって決めつけるよか、ずっといいと思うよ」
「バンさん……」
「それに、お前に時間がねぇならオレが調べればいいだけだ」
言うと、ユリアは少しだけ表情を緩める。
それから、そっとオレの頬に触れた。
「……なんだか久々な気がしますね。
あなたとこうして、面と向かって話したの」
「……そうだな」
ユリアの瞳は凪いでいる。そこから彼の心情は読み解けない。
怒っているようでもなかった。悲しんでいるようでもなかった。
しかし、記憶を取り戻したことは確かなようだ。
明らかに以前の彼とは様子が違う。
「あ、のさ……ユリア……」
お前は、何処まで思い出した?
そして、何処まで知っている?
謝らなければ。
でも、どうやって言えばいい?
オレは心の中で自嘲した。
未だに許される方法を探している自分が滑稽だ。
ユリアを信じて、アイツに付けいる隙を与えなければ、
こんなことにはなっていなかったのに。
言いよどんでいると、ユリアが先に口を開いた。
「……バンさんはさ」
頬に触れていた手が躊躇いがちに離れる。
不安げに見上げたオレに、彼は問うた。
「アイツのことが好き?」
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