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本編
08. 野獣は降参する。3
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引っ込めようとしていたフェリクスの指を、リィナがぎゅっと捕まえる。
「近くで見たフェリクス様は、遠くから眺めるよりもずっとずっと素敵で、優しくて、格好良くて、なのに可愛くて──。ですからもし、明日にでもフェリクス様の魅力に気付いた、大人の魅惑的な女性が逆求婚しに来たらどうしようって。私なんてまだ子供で魅力なんて全然なくて、フェリクス様の好みとも全然違って。もしもそんな女性が現れたら私なんてきっと勝てません。ですから……フェリクス様はお優しい方ですから、一度でも身体を重ねたら、邪険になんて出来ませんでしょう?ですから、私……んむっ」
フェリクスはリィナの手から自分の指を引き抜いて、そのまま掌でリィナの口を塞いだ。
顔を赤くして僅かに顔を逸らしているフェリクスに、リィナはぱちりと瞬く。
その拍子に、まだ瞳で揺れていた涙がぽろりと零れてフェリクスの手に落ちる。
「──ちょっと黙れ、な」
ボソリと言われて、リィナが不安そうな表情のまま小さく頷いたのを確認すると、フェリクスはリィナの口から手を離す。
「こんなおっさんに、可愛いはないだろう……」
もごもごと口の中だけで呟いて、フェリクスははーーっと大きく息を吐く。
「あのな。俺に求婚しに来る女なんて今までだって誰もいなかったんだから、明日突然現れるなんて事は、まず有り得ない。仮にそんな女がいたとしたら、俺はとっくに結婚出来てるはずだろうが」
「でも、何かのきっかけで突然好きだって、自覚する事だってあるそうですし、街でフェリクス様を見かけて一目惚れという事だってありえますわ……だ…だから…私……」
ひっくとしゃくりあげて、またポロポロと涙を零し始めたリィナに、フェリクスはうあーと唸る。
「じゃあ、あんたはただの想像で焦ってただけで……何か事情があるわけでも、セヴィオから言われたわけでもなく……」
そこで言葉を切ってしまったフェリクスに、リィナはすんっと鼻を鳴らすと、ごしごしと涙を拭って何とか新たな涙が溢れるのを止める。
そしてそぉっと、フェリクスの頬を包み込んだ。
「フェリクス様の事が、好きです。私を見て欲しい。触れて欲しい。貴方の隣に立たせて欲しい。そして叶う事なら…ほんの少しで構いませんから、私の事を、好きになって欲しい、です」
「妻にしろとか、たべて欲しいとか、すごい事言って突進してくる割に、弱気だな」
フェリクスは苦笑を零すと、降参だ、と両手を上げる。
目の前の少女に触れたいし、出来る事ならすぐにでも貪ってめちゃくちゃにしてみたい。
とんでもない事を言うくせに初心な少女がどう花開いていくのか、自分の手でその蕾を綻ばせてみたい。
勝手な想像をして勝手に不安になって泣いてしまうような、"夢見がち"を逸脱しているその言動すらも、バカだなと笑って包んでやりたくなる。
恐らくは、自分の半分しか生きていないこの少女に、自分はもう充分すぎる程に好意を持ってしまっているのだろう。
「なぁ、リィナ嬢。とんでもなく格好悪ぃが……仕切り直しても、良いか?」
真っすぐに、射貫く様に見つめられたリィナは、小さく、けれどしっかりと頷いた。
それを見て、フェリクスはリィナの小さな手を取る。
「リィナ・デルフィーヌ嬢。もうあんたを疑ったりしない。好きなんて温いもんじゃなく──生涯、愛すと誓おう。だからどうか、俺の妻になって欲しい」
フェリクスはリィナの手の甲にゆっくりと口付けを落として、そしてリィナの瞳を覗き込む。
ぽかんとした様にフェリクスを見つめていたリィナの頬が、みるみる染まっていく。
「あ……愛……?」
18歳の少女には重すぎるか、と思いながらも、フェリクスはリィナの手の甲から指先へと唇を滑らせる。
ぴくんっとリィナの手が震えた。
「あぁ。俺の隣に立つのはリィナ嬢だけだ。リィナ嬢だけを見て、触れて、溶かして───俺以外目に入らないくらい、愛そう」
リィナの指先にちゅっと音を立てて、キスを贈る。
「──返事を、貰っても?」
促されて、リィナの瞳からまた涙が零れる。
「はい──私を、フェリクス様の妻にして下さい」
自分の手を取っているフェリクスの手に、反対側の手を重ねる。
「絶対絶対、フェリクス様の事を幸せにしてみせますわ」
さっきと同じ台詞を口にしたリィナにフェリクスが笑って、空いた方の手でリィナの頬を撫でる。
「それからフェリクス様……"リィナ嬢" ではなくて……リィナ、と」
頬を撫でられてくすぐったそうに目を細めたリィナの瞼に、唇を落とす。
どちらともなく重ねていた手をほどいて、そして自然と身体を寄せると、互いの背に腕を回す。
「あんたの──リィナの父親に殴られるかもしんねーけど……」
触れるだけのキスを落として、こつんと額を合わせる。
「抱いても──良いか?」
「近くで見たフェリクス様は、遠くから眺めるよりもずっとずっと素敵で、優しくて、格好良くて、なのに可愛くて──。ですからもし、明日にでもフェリクス様の魅力に気付いた、大人の魅惑的な女性が逆求婚しに来たらどうしようって。私なんてまだ子供で魅力なんて全然なくて、フェリクス様の好みとも全然違って。もしもそんな女性が現れたら私なんてきっと勝てません。ですから……フェリクス様はお優しい方ですから、一度でも身体を重ねたら、邪険になんて出来ませんでしょう?ですから、私……んむっ」
フェリクスはリィナの手から自分の指を引き抜いて、そのまま掌でリィナの口を塞いだ。
顔を赤くして僅かに顔を逸らしているフェリクスに、リィナはぱちりと瞬く。
その拍子に、まだ瞳で揺れていた涙がぽろりと零れてフェリクスの手に落ちる。
「──ちょっと黙れ、な」
ボソリと言われて、リィナが不安そうな表情のまま小さく頷いたのを確認すると、フェリクスはリィナの口から手を離す。
「こんなおっさんに、可愛いはないだろう……」
もごもごと口の中だけで呟いて、フェリクスははーーっと大きく息を吐く。
「あのな。俺に求婚しに来る女なんて今までだって誰もいなかったんだから、明日突然現れるなんて事は、まず有り得ない。仮にそんな女がいたとしたら、俺はとっくに結婚出来てるはずだろうが」
「でも、何かのきっかけで突然好きだって、自覚する事だってあるそうですし、街でフェリクス様を見かけて一目惚れという事だってありえますわ……だ…だから…私……」
ひっくとしゃくりあげて、またポロポロと涙を零し始めたリィナに、フェリクスはうあーと唸る。
「じゃあ、あんたはただの想像で焦ってただけで……何か事情があるわけでも、セヴィオから言われたわけでもなく……」
そこで言葉を切ってしまったフェリクスに、リィナはすんっと鼻を鳴らすと、ごしごしと涙を拭って何とか新たな涙が溢れるのを止める。
そしてそぉっと、フェリクスの頬を包み込んだ。
「フェリクス様の事が、好きです。私を見て欲しい。触れて欲しい。貴方の隣に立たせて欲しい。そして叶う事なら…ほんの少しで構いませんから、私の事を、好きになって欲しい、です」
「妻にしろとか、たべて欲しいとか、すごい事言って突進してくる割に、弱気だな」
フェリクスは苦笑を零すと、降参だ、と両手を上げる。
目の前の少女に触れたいし、出来る事ならすぐにでも貪ってめちゃくちゃにしてみたい。
とんでもない事を言うくせに初心な少女がどう花開いていくのか、自分の手でその蕾を綻ばせてみたい。
勝手な想像をして勝手に不安になって泣いてしまうような、"夢見がち"を逸脱しているその言動すらも、バカだなと笑って包んでやりたくなる。
恐らくは、自分の半分しか生きていないこの少女に、自分はもう充分すぎる程に好意を持ってしまっているのだろう。
「なぁ、リィナ嬢。とんでもなく格好悪ぃが……仕切り直しても、良いか?」
真っすぐに、射貫く様に見つめられたリィナは、小さく、けれどしっかりと頷いた。
それを見て、フェリクスはリィナの小さな手を取る。
「リィナ・デルフィーヌ嬢。もうあんたを疑ったりしない。好きなんて温いもんじゃなく──生涯、愛すと誓おう。だからどうか、俺の妻になって欲しい」
フェリクスはリィナの手の甲にゆっくりと口付けを落として、そしてリィナの瞳を覗き込む。
ぽかんとした様にフェリクスを見つめていたリィナの頬が、みるみる染まっていく。
「あ……愛……?」
18歳の少女には重すぎるか、と思いながらも、フェリクスはリィナの手の甲から指先へと唇を滑らせる。
ぴくんっとリィナの手が震えた。
「あぁ。俺の隣に立つのはリィナ嬢だけだ。リィナ嬢だけを見て、触れて、溶かして───俺以外目に入らないくらい、愛そう」
リィナの指先にちゅっと音を立てて、キスを贈る。
「──返事を、貰っても?」
促されて、リィナの瞳からまた涙が零れる。
「はい──私を、フェリクス様の妻にして下さい」
自分の手を取っているフェリクスの手に、反対側の手を重ねる。
「絶対絶対、フェリクス様の事を幸せにしてみせますわ」
さっきと同じ台詞を口にしたリィナにフェリクスが笑って、空いた方の手でリィナの頬を撫でる。
「それからフェリクス様……"リィナ嬢" ではなくて……リィナ、と」
頬を撫でられてくすぐったそうに目を細めたリィナの瞼に、唇を落とす。
どちらともなく重ねていた手をほどいて、そして自然と身体を寄せると、互いの背に腕を回す。
「あんたの──リィナの父親に殴られるかもしんねーけど……」
触れるだけのキスを落として、こつんと額を合わせる。
「抱いても──良いか?」
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