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本編
09. 乙女は野獣にたべられる。1 *
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はい、と少しだけ震える声で答えたリィナの身体を抱き上げると、フェリクスはソファからベッドへと向かう。
そしてリィナを下ろしてベッドの縁に座らせると、緊張のせいかカチコチになってしまっているリィナの髪を撫でる。
リィナを落ち着かせるように、柔らかな髪の手触りを愉しむように、フェリクスはゆっくりゆっくりと、撫でる。
僅かに緊張が解けたのか小さく息を吐いたリィナに、フェリクスは撫でていた手を頭の後ろに滑らせた。
そしてその手にくっと力を込めれば、リィナは少しだけ上向いて、顔を寄せてくる。
フェリクスは一度ついばむ様な軽いキスをして、リィナの瞳を覗き込む。
そこに怯えや嫌悪や、そういう色がない事を無意識に確認してしまった事に気付いて、フェリクスは自嘲気味に笑った。
笑ったフェリクスを、リィナが不思議そうに見返す。
「──大丈夫か?」
リィナの視線に気づいたフェリクスから短く問われた言葉と、今フェリクスが見せた表情とが合わさって、リィナはそれがこれからの事に対してではなくて、フェリクスに対しての感情を聞かれているのだと気付いて眉を下げる。
「フェリクス様、私はフェリクス様を恐れた事など一度もありません。触れるのも、触れられるのも、嫌だなんて少しも思いません」
リィナはフェリクスに向かって手を伸ばす。
「大丈夫です。私は、フェリクス様を恐れも拒絶もしません」
フェリクスは伸ばされた手に引き寄せられるように、リィナの肩口に額を押し付ける。
リィナはそんなフェリクスの頭をきゅっと抱きしめて、大丈夫です、と囁いた。
『野獣』などと言われて、蔑まされても怯えられても、公の場ではいつでも堂々と不敵な笑みを浮かべていたフェリクスは、肉体だけでなく精神も強いのだと、リィナは思っていた。
その心にちっとも傷がついていない、なんて思ってはいなかったけれど、それでもきっとすぐに跳ね退けられているのだろうと思っていた。
けれど、きっと違ったのだ。そんなはず、なかったに違いない。
その笑みに一体どれだけの感情を抑え込んでいたのだろうと、リィナはフェリクスの頭を撫でる。
硬そうな印象だったフェリクスの髪は思ったよりも柔らかく、リィナの指の間を流れていく。
「フェリクス様。好きです、大好きです」
フェリクスの頭を撫でながら、リィナは好きを繰り返す。
「──……リィナ」
くぐもった声で名前を呼ばれて、はい、と返して──
そして気が付いた時にはくるんと視界が回って、ベッドに押し倒されていた。
「フェリクス様……?」
見上げれば、今まで見たこともないような表情のフェリクスが、自分を見下ろしていた。
だからリィナは、またフェリクスに向かって腕を伸ばす。
迷子になった子供のような、不安そうで、泣きそうで── けれど気丈に堪えている
そんな表情を見せているフェリクスの頬をリィナがそっと撫でると、フェリクスはリィナの手をゆるりとベッドに縫い留めて、そうして少し乱暴に唇を重ねる。
「んっ……んぅっ……」
「鼻で、息しろよ」
合間に言われたけれど、何度も何度も角度を変えて貪るように唇を重ねられて、リィナはあっという間に息の仕方なんて忘れてしまって、
そして結局また、気付いたフェリクスが与えてくれた隙間で喘ぐように息を継ぐ羽目になった。
「はっ……ぁ……」
必死に酸素を取り込んでいるリィナの、目尻に溜まった涙を舐め取ると、フェリクスはリィナの顔中にキスを降らせる。
「フェリクス様……私も、したいです……」
「ん?」
「フェリクス様に、キス……」
請われて、フェリクスは小さく笑うとリィナの背中に腕を回してリィナの上半身を持ち上げると、自分の足の間に膝立たせる。
リィナはフェリクスの肩に手を置くと、まずはそぉっとフェリクスの頬に唇を寄せた。
唇を離してもフェリクスが動かないので、リィナは自分がされたように、フェリクスの顔中あちこちにキスをした。
目を細めたフェリクスの瞼にもキスを落として、そして鼻と鼻を合わせてフェリクスの瞳を覗き込んで──
二人の視線が、絡む。
どちらともなく唇を合わせて、ついばむ様なキスを繰り返す。
少しずつ深くなるキスに、身体から力が抜けて頽れそうになったリィナの背中を支えて、フェリクスはシーツの海へとリィナの身体を沈み込ませる。
そうして覆いかぶさるようにリィナの唇を追いかけて、リィナの下唇を食んだ。
「っふぇ……」
驚いてフェリクスの名前を呼ぼうとしたけれど、もう一度下唇をやわやわと食まれてしまって、結局リィナがフェリクスの名を呼ぶ事は出来なかった。
下唇が解放されたかと思ったら、今度はリィナの口内にぬるりと温かいものが侵入してくる。
驚いたように舌を引っ込めようとしたリィナのそれを追いかけて、絡めとる。
くちゅくちゅと水音を響かせて、フェリクスはリィナの口内を隅々まで味わう。
「んんっ………ふぇり……んっ……」
「リィナ……すげぇ、甘い……」
飲み下しきれずに、リィナの口端から唾液が零れ落ちた。
フェリクスはそれを舐め取って、そのままリィナの唇をくるりと舐める。
「ふぇり…す さま……わたし、おいし…ですか…?」
「あぁ。最高に、美味い」
「たべて……ぜんぶ、たべて……ください……」
吐息と一緒に、リィナにとろんとした表情で言われたその言葉に、フェリクス自身がまた熱を持って質量を増した。
「本当に、良いんだな?」
リィナの前髪を掻き上げて、両頬を包み込んで、最後の確認をする。
この先は、恐らくフェリクスももう止まることは出来ないだろう。
「はい……抱いて、ください……」
リィナの返事に、フェリクスは笑みを落とした。
そしてリィナを下ろしてベッドの縁に座らせると、緊張のせいかカチコチになってしまっているリィナの髪を撫でる。
リィナを落ち着かせるように、柔らかな髪の手触りを愉しむように、フェリクスはゆっくりゆっくりと、撫でる。
僅かに緊張が解けたのか小さく息を吐いたリィナに、フェリクスは撫でていた手を頭の後ろに滑らせた。
そしてその手にくっと力を込めれば、リィナは少しだけ上向いて、顔を寄せてくる。
フェリクスは一度ついばむ様な軽いキスをして、リィナの瞳を覗き込む。
そこに怯えや嫌悪や、そういう色がない事を無意識に確認してしまった事に気付いて、フェリクスは自嘲気味に笑った。
笑ったフェリクスを、リィナが不思議そうに見返す。
「──大丈夫か?」
リィナの視線に気づいたフェリクスから短く問われた言葉と、今フェリクスが見せた表情とが合わさって、リィナはそれがこれからの事に対してではなくて、フェリクスに対しての感情を聞かれているのだと気付いて眉を下げる。
「フェリクス様、私はフェリクス様を恐れた事など一度もありません。触れるのも、触れられるのも、嫌だなんて少しも思いません」
リィナはフェリクスに向かって手を伸ばす。
「大丈夫です。私は、フェリクス様を恐れも拒絶もしません」
フェリクスは伸ばされた手に引き寄せられるように、リィナの肩口に額を押し付ける。
リィナはそんなフェリクスの頭をきゅっと抱きしめて、大丈夫です、と囁いた。
『野獣』などと言われて、蔑まされても怯えられても、公の場ではいつでも堂々と不敵な笑みを浮かべていたフェリクスは、肉体だけでなく精神も強いのだと、リィナは思っていた。
その心にちっとも傷がついていない、なんて思ってはいなかったけれど、それでもきっとすぐに跳ね退けられているのだろうと思っていた。
けれど、きっと違ったのだ。そんなはず、なかったに違いない。
その笑みに一体どれだけの感情を抑え込んでいたのだろうと、リィナはフェリクスの頭を撫でる。
硬そうな印象だったフェリクスの髪は思ったよりも柔らかく、リィナの指の間を流れていく。
「フェリクス様。好きです、大好きです」
フェリクスの頭を撫でながら、リィナは好きを繰り返す。
「──……リィナ」
くぐもった声で名前を呼ばれて、はい、と返して──
そして気が付いた時にはくるんと視界が回って、ベッドに押し倒されていた。
「フェリクス様……?」
見上げれば、今まで見たこともないような表情のフェリクスが、自分を見下ろしていた。
だからリィナは、またフェリクスに向かって腕を伸ばす。
迷子になった子供のような、不安そうで、泣きそうで── けれど気丈に堪えている
そんな表情を見せているフェリクスの頬をリィナがそっと撫でると、フェリクスはリィナの手をゆるりとベッドに縫い留めて、そうして少し乱暴に唇を重ねる。
「んっ……んぅっ……」
「鼻で、息しろよ」
合間に言われたけれど、何度も何度も角度を変えて貪るように唇を重ねられて、リィナはあっという間に息の仕方なんて忘れてしまって、
そして結局また、気付いたフェリクスが与えてくれた隙間で喘ぐように息を継ぐ羽目になった。
「はっ……ぁ……」
必死に酸素を取り込んでいるリィナの、目尻に溜まった涙を舐め取ると、フェリクスはリィナの顔中にキスを降らせる。
「フェリクス様……私も、したいです……」
「ん?」
「フェリクス様に、キス……」
請われて、フェリクスは小さく笑うとリィナの背中に腕を回してリィナの上半身を持ち上げると、自分の足の間に膝立たせる。
リィナはフェリクスの肩に手を置くと、まずはそぉっとフェリクスの頬に唇を寄せた。
唇を離してもフェリクスが動かないので、リィナは自分がされたように、フェリクスの顔中あちこちにキスをした。
目を細めたフェリクスの瞼にもキスを落として、そして鼻と鼻を合わせてフェリクスの瞳を覗き込んで──
二人の視線が、絡む。
どちらともなく唇を合わせて、ついばむ様なキスを繰り返す。
少しずつ深くなるキスに、身体から力が抜けて頽れそうになったリィナの背中を支えて、フェリクスはシーツの海へとリィナの身体を沈み込ませる。
そうして覆いかぶさるようにリィナの唇を追いかけて、リィナの下唇を食んだ。
「っふぇ……」
驚いてフェリクスの名前を呼ぼうとしたけれど、もう一度下唇をやわやわと食まれてしまって、結局リィナがフェリクスの名を呼ぶ事は出来なかった。
下唇が解放されたかと思ったら、今度はリィナの口内にぬるりと温かいものが侵入してくる。
驚いたように舌を引っ込めようとしたリィナのそれを追いかけて、絡めとる。
くちゅくちゅと水音を響かせて、フェリクスはリィナの口内を隅々まで味わう。
「んんっ………ふぇり……んっ……」
「リィナ……すげぇ、甘い……」
飲み下しきれずに、リィナの口端から唾液が零れ落ちた。
フェリクスはそれを舐め取って、そのままリィナの唇をくるりと舐める。
「ふぇり…す さま……わたし、おいし…ですか…?」
「あぁ。最高に、美味い」
「たべて……ぜんぶ、たべて……ください……」
吐息と一緒に、リィナにとろんとした表情で言われたその言葉に、フェリクス自身がまた熱を持って質量を増した。
「本当に、良いんだな?」
リィナの前髪を掻き上げて、両頬を包み込んで、最後の確認をする。
この先は、恐らくフェリクスももう止まることは出来ないだろう。
「はい……抱いて、ください……」
リィナの返事に、フェリクスは笑みを落とした。
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