アーリウムの大賢者

佐倉真稀

文字の大きさ
上 下
109 / 115
王都アルデ(ヒューSIDE)

実家にて、両親との対面

しおりを挟む
「こほん」

 ハディーの咳払いにハッとした。
 メルトの涙を拭いてあげて、ハディーを見る。
「仲いいのはいいね。孫が見られるのはハイヒューマンとして喜ばしいことだよ。では結婚式は盛大に行うけどいいね?」
 ハディーはちらっとメルトを見て、俺に視線を戻した。結婚式か。メルトの着飾った姿はとっても見たいけど、祖父とか、親戚の皆さんとか、面倒だなあ。まあ、でも。

「……仕方ないかな。今までいろんな責務を免除してもらってたし。それで、俺はこっちの姿でいいのか? 本来の姿じゃなく……」
 実際、本当の姿は中学生くらいだからな。結婚式といってもなあ。成人をとっくに過ぎてるのになあ。九百年以上も。このままじゃ、一万年生きそうだよ。
 メルトが進化しても、五千年とかだったらどうしよう。俺、生きる気力なくなっちゃう。
「え。お前、まさか、まだ成長してなかったのか?」
「ヒューマンで言えば15歳くらいかな? 今」
「なんだって!? じゃあ、その姿って……」
「魔法で時を進めている状態。ああ、メルトは知っているよ。最初に出会ったときは本来の姿だったしね」
「ヒュー……いろいろ言いたいけど、今更かな。はあ……そうだね。お披露目の時はそっちでいてほしいかな。その方がヒューも都合がいいだろう? アルデリアで見せている姿もそっちなんだろう?」
「ああ。グレアム時代のままかな。だからこの姿だ。冒険者ギルドには本来の姿で行く時もあるけどね」

 勇者時代の大魔導士『グレアム』あの時はまだ十歳くらいの姿だったからな。普通、勇者の教育係には十歳の子供を雇わないからな。
 冒険者ギルドの総括が代々ハイエルフでよかったよ。
 バアンと大きな音がして、扉が開いた。
 こんなことをするのはダッドに決まっている。

「ヒューが帰ったってホントか!?」
 ほら。ダッドだ。軍服姿で、青い髪、青い目で二十代後半の姿だ。メイルらしい、がっちりとした体形で、ロディーと似てる。ああ、ロディーがダッドに似てるんだよな。
「ヴィダル、マナーを忘れたのか? ロディーがびっくりして固まっているじゃないか」
 ハディーが立ち上がって言い争いを始める。これで互いに一目惚れだって惚気てたから、伴侶ってのはわからないな。

 ああ、俺も結婚するんだ。メルトと正式な伴侶になる。
 いまさらながら、ドキドキしてきた。
 そしていつの間にか、メルトが自己紹介していた。ダッドの名前なんか覚えなくていいからね。
 ヴィダル・ドミナス・クレム。
 俺がこの領を継げばヒュー・ドミナス・クレムになる。
 ドミナスとは領主の称号だ。
 クレム領の領主のヒュー。そんな感じ。

「メルト君か! そうか、君が。うんうん。ずいぶんヒューに可愛がられているね。良いことだよ。いてっ」
 ダッドはもう、余計な事しか言わないな! くそ、ダッド! セクハラ親父!
「メルト、この馬鹿の言うことは気にしないでいいからね? 夕食は食堂で一緒に取ろう。ヒューはメルトを自分の部屋に連れて行って支度をさせなさい。そうだね。一時間後くらい」
 あ、さすがにハディーも本格的に怒ってる。今、足蹴ったしな。
「わかった。ここで転移するから、またあとで」

 俺は立ち上がって、メルトを抱き寄せて自室に転移した。屋敷とは離れた工房だ。
「ヒュー?」
「はあ……ごめん、メルト……こんな風に家族と会わせる予定じゃなかった。ちゃんと服装を整えて段階を踏んでこっちに帰ってくる予定だったんだ。本当だよ?」
 なし崩しに怒涛のような紹介の仕方なんて最悪だ。

 俺は後ろからメルトを抱きしめて額をメルトの首筋に押し付けた。
「うん。わかっている。歓迎されているようで、ほっとした。ほら、俺って多分、ヴィダル様より背が高いはずだし……メイルに見えるかなって思ってた。あ、それにしても、なんで、アーデット様はすぐ俺のこと恋人だって思ったんだろう? ヴィダル様も可愛がられてって言ってたし? そういえばボルドールもミハーラ統括も……?」
 やべ! 魔力視ができるとやったことバレバレなんて言えない! 
「ヒュー?」
 思わずびくっと震えたら、メルトが不思議そうに首を傾げた。あーこれは言っておかないと、まずいかもな。

 メルトと正面で向き合う。
「あ、あのね。メルト。そのう、魔力の交換をするって言っただろう? 俺。魔力って人それぞれに色があって、俺のは虹の色に近い。で、メルトなんだけど、メルトは無色透明。何にも染まってない色なんだ。この魔力の色なんだけど、見える人には見える。ボルドールも、ミハーラも、うちの両親も。魔力視ってスキルがあれば、だれでもだ」
 うわ~メルトの純粋な疑いのない目が見れない。
「ちょっと待ってくれ。魔力が人それぞれ違うっていうのはわかった。だけど、子作りしたのとどう関係があるんだ?」
「子作りは魔力の交換になるってことだよ? 二人の魔力が混ざって、子供の元になる。メルトの中の卵の元も、俺の子種も魔力の塊だ。それで、セックスをした後はお互いの魔力がお互いの体の中に入った状態になっているってことだ。つまり二つの魔力の色が、魔力視スキルのある人には見えてしまうってこと。一人の体に二つの魔力の色が見えることはないんだ。見えたら、本来の色じゃない色の魔力の持ち主と、魔力の交換をしたってことだ」
 メルトがきょとんとしている。
「つまり。だからそのう……魔力視ができる人が見ればセックスをしたのがバレバレってことに……」
 メルトの顔が意味を理解したのか真っ赤になった。
「え、えええ? 夕べヒューとしたってことがわかっちゃうってことか?」
 俺が頷くとメルトが床に手をついて落ち込んでいた。
 ええと、メルト?
 それからしばらくメルトは立ち上がれなかった。

 ショックを与えてしまったのは俺なので、横抱きにして、ソファーに座った。
 膝の上にメルトを乗せて、お菓子責めにした。
「大丈夫。そんな奴らもやっちゃってるんだ。その時存分にからかうといい」
「……俺見えないんだけど」
「俺がこっそり教えるから!」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「……ならいいかな? モンブランケーキお代わり」
「はい」
 メルトに口を開けてもらって食べさせた。ラブラブな恋人の行為だ。
 俺は尽くすタイプだ。
 世話焼きで、嫉妬深い。面倒なタイプだ。
 メルトが、美味しい物好きでよかった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

処理中です...