アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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ラーン王国編ー見習い期間の終わりー(メルトSIDE)

狩り2

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 森は独特の匂いがする。いろんな生き物の生きている匂い。なるべく気配を消すようにして、音を立てずに鳥の声や羽音がしないか気をつけながら進む。

 小鳥の声が聞こえる。朝方はさえずりがよく聞こえる。街にも小鳥はいるが数種類だ。

 森はもっといろんな種類の小鳥がいる。中には希少な小鳥もいて捕えて貴族が飼ったりすることもある。冒険者がクエストを受けて罠を仕掛けていたりもする。それを避けていかなければならない。

 厄介な獣の縄張りに入ってないかも、辺りの木の様子、下生えの様子などを確認して進む。森に住む者たちのざわめきが聞こえて街とは違うと実感する。

 ダンジョンはこれとは違った緊張があった。罠にかかってからの記憶はないけれど、下級の魔物でも命の危険があるのだと実感した。訓練と実戦は違うものなんだということも。

 手にはすでにボーラを巻き付けていつでも投擲できるようにしている。短剣も腰に佩いていつでも取り出せるようにしていた。

 ボーラは縄の先に石を括りつけて三股にしたものだ。投げて獲物にぶつかると絡まって動けなくなる。木の上などにいる鳥にも手が届く投擲武器だ。

 作ってから何度か試して的にあてられるようになった。ただ、森の中では障害物が多く、上手く的にあてられるかはわからない。

(いた。)

 森に分け入ること2時間強。とうとう俺は獲物を見つけた。下生えに隠れている虫を食んでいる、大きめの鳥。嘴が細く全体的な羽の色は茶色で草に隠れると土の色と見分けがつきにくい。ベキャズという一応魔物に属する鳥だ。

(よし、行くぞ)

  俺はボーラを放った。



「メルト!!」

 あれから2時間で成果はべキャズが2羽でプザン(尾羽が長く首の羽が赤い)が1羽だ。それを縄で足を縛って肩にかけて街に戻った。声をかけてきたのはロステだ。


「用事があったって言っていたけど、用事ってのは…冒険者でもやってるのか?副職は禁止されてるだろ?」
 心配そうに声をかけてきたロステに俺は首を横に振る。

「…違う。俺が食べるためだ。じゃあ…」
 いつもの二人といるロステに寮に戻ろうと背を向けた。

「…は?…おい、メルト!」
「まあ、メルトだしな。」
「諦めろよ、ロステ。」


 後ろから声が聞こえていたが構わずに歩いた。そこではたっと気がついて空を見る。もう日が中天から傾いている。
 お昼は終わっている時間だ。仕方ない。実家に帰ろう。一羽を土産にすればいいだろう。


「ただいまー…」
 実家は王都の南門と呼ばれる帝国側の門に近い、工房や商店に雇われて働いているうちの生活水準が低い者たちの住む、平民の住宅街にある。小さくても一戸の貸家で狭いながらも家族水入らずで過ごせる我が家だ。大通りから一本入った裏道を入って10分ほど歩くと着く。

 俺は3人兄弟だが長子ルティは結婚して家を出た。すぐ上の兄ティーメは職について家を出ている。今の実家は両親しか住んでいない。

「メルト。帰ってきたの。今日は休暇なのかい?ずいぶんと久しぶりだね。もっと頻繁に帰ってきてもいいんだよ?」

 バタバタと台所から足音が聞こえてハディーが顔を出した。

 鍵の掛かっていない玄関を入るとすぐにダイニングになる。その奥に台所があり、階段があって二階が寝室だ。部屋は2つ。最初は3人で寝ていたがティーメと俺が家を出ることになってルティが1人で使っていたのだ。今は俺たち兄弟の思い出の品が置かれ、たまに帰ってくる俺達の泊まる部屋になっている。

「ん。これ…狩ってきた。お昼食べたい。」
 ハディーは丸ごとの獲物を見て歓喜の表情を浮かべた。

「これ、高級食材!…ん??〆てないのか?」
 ロープにぶら下がった獲物を見てハディーはため息をつく。

「血抜きと捌くの教えなきゃね…」
 それからハディーによる解体の基本講座が始まった。ハディーは元冒険者だった。結婚して引退はしたけど、その時に培った、解体技術は料理で開花しているらしい。

 ハディーの手料理は美味しい。一皿の量は足りないが、味付けは塩とハーブだけなのに、とっても美味しいのだ。


「さてこれでおしまい。いいこと?狩って息の根止めたらすぐだよ。すぐ。鉄則だから。」
 綺麗に部位ごとの肉の塊になった鳥たちを見て頷く。羽は洗って干して、売りに行くと言った。

「食堂にもっていきたいんだ。量が足りなくて、狩ってくればいいかなと思って…」
 俺は頷いて、理由を述べた。ハディーは考え込んで息を吐いた。

「あんたは昔っから良く食べたよねえ…それで細いんだから良く運動してるってことだよね。騎士団は副業禁止だし、食堂に持ち込むのも、いろいろ規則があるかもしれないから、確認してからにしなさい。」
 あ、そうか。俺だけに出したら、困るのか。俺は眉を寄せてしかめっ面をしてたらしい。ハディーが指で俺の眉間の皺を押す。

「そんな顔しないの!美味しい昼ごはん作るからね。ついでにダッドが帰ってくるまでいなさい。ほら、手伝う!」
 俺は料理の才能はないらしいが、刃物の扱いは上手い。おかげで野菜の皮剥きを大量にやらされた。ハディーが作ってくれたローストチキンを丸かじりして、俺は満足した。パンと残りのローストチキン、試しに食堂に持ち込む解体済みのべキャズを一羽分持って実家を出た。ダッド(父親の意味)には挨拶だけで出てきてしまった。少ししょんぼりしてたが、寮の夕飯に間に合わなくなるから急いで出た。

 食堂の料理人に相談したら第一騎士団長に会うことになってしまった。

 どうしてこうなった…。


「ほう、寮の食事の量に問題がある、と…」

 ノヴァク団長が、眼光鋭く睨んでくる。どうしよう。背中の冷や汗が止まらない。

 思わずぶんぶんと首を横に振った。

「お、俺は身体強化魔法が使えないから…筋力を付けたくて…肉を食べないとと思って、それで…鳥がいいらしいって聞いたので、狩ってくればいいかなって…」

 団長は難しい顔をして唸っている。

「3羽狩ってきたとの話だが…どうやって狩ってきたのかね?」

「…ええとこれで。自作の投擲武器です。投げると、絡まって動けなくなるのでそこで頭を一発。…でした、ハイ…」

 腕に巻いていた、自作のボーラを見せた。

「解体も見事だったと聞いているが…」

「あ、それはうちのハディーが元冒険者でほとんどしてもらったので…俺…じゃなくて私はまだ未熟、…です。」

 ふむ、と団長は唸り、善処する、と言われた後、俺は退出の許可をもらって、団長室を出た。ボーラは団長に預けることになった。


 後日、課外実地研修という名目で狩りが認められ、見習いが交代で出ることになり、寮のおかずが一品増えたのだった。ボーラは有用性が認められて狩りで使うことになった。使い方の指導は俺がやることになったのだが、団で使ったことはなかったんだろうか。俺はどこであの武器の作り方を学んだんだっけ。

 少しの疑問が残ったが、肉が多く食べられるようになったのはよかったと思った。
 後日ロステに詰め寄られて真相を話した。狩りだと言ってくれたら一緒に狩りに行ったのにと言われた。

 全然思いつかなかったのでまた機会があったらと言っておいた。

 ミランが、メルトらしいねと言ってきた。


 俺らしいってなんだ。


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