アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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ラーン王国編ー見習い期間の終わりー(メルトSIDE)

野営訓練 1

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 俺が発端で始まった狩りは定着し、寮の食卓を賑わせた。森での訓練になると団長が推奨したためだ。むしろ今までなぜやらなかったのかという話まで出たらしい。
 もちろん各ギルドには話を通してあるらしい。さすがだ。

 見回り訓練も終わりに近づき、汗ばむ季節がやってくる。ラーン王国は北に位置するから、アルデリア王国や商業連合より過ごしやすい夏のはずだ。でも、寒さに慣れているから、やっぱり夏の暑さは堪える。

 暑さも本格的になってきた頃、森での野営訓練が始まる。班分けはダンジョンの時と一緒だった。40名全部ではなく、2組に分けて前期後期と交代で遠征する。居残り組は見習い訓練の仕上げに入っていく。
 野営訓練が終われば模擬戦形式の最終試験だからだ。

 俺の属する組は3班と呼ばれて、前半の野営訓練になる。必要最低限の準備物資は支給される。一番嵩を取るのが食料と水だ。いざとなれば狩ってもいい。解体用のナイフを研いでおくか。

 訓練をする森は王都から西へ一日の距離にあるレソドヴィナの森は、農地と牧場地である、レソドヴィナの開拓地の西側に広がる魔物も多くいる森だ。王都が3つは入る広さで、中に川も流れている。
 その川が農地と牧場に貴重な水源となっている。

 浅いところは狩人の領域になり、魔物の間引きは冒険者が行っている。
 ここはザヴァドナ公爵の領地で問題が起これば領軍が出てくる。

 その森を借りて度々、騎士団の訓練が行われている。
 王都近くの王族の領地は第一騎士団の管轄区域だ。更に大きな問題が起これば第一騎士団も駆り出される。

 ここで2週間、問題なく過ごせ、というのが今回の野営訓練だ。魔物の襲撃や食料の調達、森での行軍の訓練も2週間の訓練期間の間に行われる。

 また、お互いに襲撃をしあう訓練も同時に行われ、その撃破数を競う。
 ゆえに気の抜けない2週間になる。

 まず野営地を決め、襲撃に備える。食料の調達も襲撃が来ないか常に警戒しながら行うのだ。
 馬車に分乗して1日。森の入口に着く。
 降りて班ごとに集合し、散らばった。

「よし、俺達も出発だ。ついてこい。」
 リンド先輩に率いられて森に分け入る。ダンジョンの時と同じ隊列だ。俺は周囲を警戒しつつゆっくりと着いていく。周囲に獣の通った痕がないか、確認していく。

「さて、俺は引率だが所謂見張り役だ。森での野営の場所の選択や仕方は任せる。さて、一つ目の課題だ。野営地を決めろ。日が落ちきる前だ。」
 そう言われて俺達は顔を見合わせる。一応打ち合わせはしてきた。セオリー通りに水場の傍だ。だが襲撃もあるし、他の班と被るかもしれない。

 そこでスラフが口を開く。
「まず水場を探して、そこへ行けるような、見つかりにくい空き地を探そう。」

 皆は頷いて水の音がしないか、水場近くに生える草がないかどうか見ながら進む。食堂の狩り研修は身になっていたようで、音を比較的出さないように移動することができていた。
 今回もマジックポーチを貸し出してもらっているから、剣はそこにしまって、短剣とボーラを腕に巻いて進んでいる。
 ミランとリスクは小型の弓を片手に、スラフは小型の槌を手にしている。リンド先輩はショートソードだ。不思議と音はしない。

 森の入口から一時間は歩いた。夏で日が伸びていると言っても、もう薄暗くなっている。まだ水場は見つからないが、他の班との遭遇もない。まずみんなが拠点を決めに動いているのだろう。
 森の奥へジグザグに大きな獣の縄張りを避けるように進む。今のところ魔物との遭遇はないが夜になれば活発に動き出す。
 それからしばらくして木々に隠れた空地を見つけた。周りの木の幹を見たがマーキングはなかった。

「よし、ここを拠点として二人一組で水場を探そう。近くになかったら移動だ。リンド先輩はここにいてもらっていいですか?」

 スラフが指示を出すと、リンド先輩が頷いた。俺とミラン、スラフとリスクで左右に別れた。
 10分ほど歩いたが泉や川はなかった。

 手のサインで戻ろうとミランに告げて、拠点候補地に戻った。
 水場はスラフ達が見つけて水袋に入れて帰って来たようだった。

 テントを張り、水と持ってきた干し肉で夕食を食べ、さっきの組で夜の見張りをすることになった。俺達は先の見張りだ。火を枝で囲って見えなくしてそこに並んで座りお互いに背を向けて別方向を見張る。
 交代まで3時間。あまり声を立ててはいけないから話しはできなかった。
 虫の声や夜に活動する動物の枝を震わす音などが聞こえて思わずそちらに目を向けた。魔物の気配はしないが小動物は多いようだった。

 交代の時間を迎えて二人を起こして交代し、眠りにつく。緊張した眠りは浅く、それでもあっという間に朝が来た。

 起こされて水場に向かう。水を汲んでから顔を洗って戻る。俺だけは浄化の魔法を使えないから、時々タオルで拭かないといけない。ミランに浄化をかけてもらおうかと、思案しているうちに拠点についた。
 戻る途中辺りを観察したが、他の班がいる感じはしなかった。

「さて、無事拠点設営ができたな。これから二週間この森で過ごすわけだが、食糧は自給自足だ。食べられる木の実や草など採取してこなければならない。もちろん狩りもだ。狩りは課外訓練で慣れてきているようだが、見知った森とそうでない森は勝手が違う。くれぐれも慎重に行動するように。」

 俺達はリンド先輩の言葉に頷き、これからの行動の打ち合わせをした。結果、明るいうちは狩りをし、獲物を解体、調理するのは川の傍でして、食べるのは拠点に戻ってからということになった。拠点に戻るには大回りをするということになった。襲撃の可能性を減らすということだった。

 採取する草の中に匂い消しに効果のある薬草も候補に挙げ、同じペアで森に散った。戻るのは日が中天に上がる前。
 俺とミランはまず木の実やハーブの採取をして、マジックポーチにため込んだ。それから鳥か、兎を探して狩ることにした。血を流すのは魔物を呼ぶということで、おなじみになったボーラを活用することになった。

 そうして俺とミランは運よくペルドを狩ることができてほっとした気分で川に向かったのだった。


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 ※ ペルド・・・ウズラに似た鳥
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