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ラーン王国編ー見習い期間の終わりー(メルトSIDE)
狩り1
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朝、まだ暗いうち、俺は宿舎を出て、裏庭で身体を解す運動をする。今までも準備運動はしていたが、最近は更にあちこちの筋を伸ばすようにしている。そうしてるといつの間にか身体があったまって、身体を動かすのにちょうどよくなる。
この準備運動も、ダンジョンから帰って来てから実践していることの一つだ。その後軽く走って、型の練習に入る。
木剣を握って、理想の剣筋をなぞる。
だがそれは誰の剣の軌跡なのか。俺の理想とする、剣の動き。
ただひたすらにそれをイメージして剣を振る。
何度も、何度も。
ぶれる度に、修正し、動きを体に叩き込む。
そうして夜が明け、朝食の時間になる。
鍛錬が終わっても夕食前に朝と同じことを繰り返す。
俺はますます、自主鍛錬にのめり込んでいった。皆が雑談をしている時間も訓練にあてていた。
それでも睡眠時間はたっぷりととるようにしていた。同室のミラン達としゃべっているといつの間にか寝てしまっていたりしたけれど。
朝はきちんと同じ時間に目が覚めて、すっきりとしているので睡眠が足りてないことはないだろう。身体に疲れは感じない。鍛錬が過ぎるということもないようだ。もう少し負荷をかけてもいいかもしれない。
「あれ?メルト、背が伸びた?」
着替えてると、ミランが言ってきた。ミランは手を自分と俺の頭のあたりにあてて水平に動かし、ショックを受けた顔をした。ますます見上げるのが悔しいらしい。
「…んー?伸びた実感はないけど…」
それよりももっと筋肉をつけたい。今の食堂の肉事情ではこれ以上肉は食べられない。外に行って食べるか、買って帰るか…。ん??
そうだ。休みに狩りに行けばいいんじゃないか?実戦訓練になるし、持ち込めば作ってくれるかも。
よし、善は急げだ。明後日の休養日に森に行って鳥を狩ってこよう。マジックバッグが欲しいが見習いの給料じゃ、まだ買える余裕はない。
弓は得意じゃないから石で…。あ、アレを作ろう。なんていったっけ…。ボーラ?スリングショット?…ってなんだろう?
普通にナイフとか、槍じゃないのか?俺はどこでそんな知識を得たんだろう?
でも、作り方はわかるし。鳥ならボーラっていうのがいいだろう。
食堂でロステに声をかけられた。
「メルト、今度の休日、昼飯一緒に食いに出かけないか?」
昼飯…。心惹かれるが、鳥を狩りに行かないといけない。俺は静かに横に首を振った。
「…用があるから…」
そう言った途端、ロステが少し落胆した顔で俯く。
「わかった。また今度な?」
しばらくして顔をあげたロステは、にこにことした顔で去っていく。ロステは暇なのか?いつも休みが近づくたびに俺に声をかけてくるが。
「心折れないね。ロステ。」
ミランの声だ。
「打たれ強いんじゃない?」
突き離した声はエメリだ。
「メルト―。用事ってなになに?」
ミランが首に手を回してくる。苦しい。
「ん、狩りだ。」
手でパンパンとたたいて腕を外してもらう。
「狩り?」
きょとんと、首を傾げてエメリが聞いてくる。
「鳥を狩りに行く。」
力強く言い切ると、二人は顔を見合わせて肩を竦めた。
「…ほんとロステって、大変だね。」
何が大変なのだろう。暇だから俺に声をかけたのではないのか?首を傾げていると、ミランに頭を優しく撫でられた。
「いいんだよ。メルトはそれで。」
いいならいいか。そう結論付けると食事を終えて、団の訓練へと向かった。
見習い期間の最終年度は実地訓練が多く入る。今まで鍛錬した結果を出せということだ。それを上官が見て各種適性や本人の希望等で振り分けられる。もちろん一定のレベルに達してないものは退団という方向もある。あるいは一年鍛え直し等上へあがれない場合もある。
団に入ってきた年齢もまちまちなので(上限は15歳)体格や、伸びしろ、技量にも差が出る。まあ、今のは平民の見習いの話で、貴族の見習いは扱い自体が違うからまた話は変わる。
貴族は士官学校を卒業して配属されるので見習いでなく、将官としてやってくるし、そうでない貴族は貴族学校の騎士コースを出るか、地方の出身者だと指導に当たった武官の推薦等で入団してくる。そうすると基礎訓練等は終わっているので早い段階で正騎士になれるのだ。
将官でない貴族の場合は16歳位から正騎士となり10年もすれば騎士爵になる。それから上の貴族位をもらって貴族となる。
平民は騎士爵が最高なので、12~15年くらいで班長以上になっていたり、何か大きな手柄を立てたりすると叙爵される。これが平民のエリートコースだ。皆騎士爵をもらうことを夢見て頑張っている。
貴族は騎士団の指揮官になるが、平民の騎士は徴兵された民兵の指揮にあたることが多い。そのために、戦術も座学で学んでいる。座学は入隊してから身体づくりの傍ら3年ほどみっちり仕込まれる。平民で教養のある者は少ないからだ。この座学の期間が短いのが貴族で、そのために正騎士に上がるのが早いというわけだ。
俺が属する90期の見習い総勢40名は最終年度にあたり、実地訓練は、4月のダンジョン訓練、5~6月の見回り訓練、7~9月の野営訓練をこなし、10月から12月まで実力を見るために総当りの模擬戦をすることになっている。
その順位も今後の騎士団生活に影響するので、10月からは皆の目が違ってくるはずだ。そして新年を越えた春に叙任式がある。俺の誕生日は1月1日なので18歳で正騎士になれれば平民では最年少の正騎士叙任だ。
できれば第一騎士団に入りたい。団長の強さは他の団長より、なんというか実戦的だ。平民にも分け隔てなく接してくれるという噂だ。
希望を出しても叶う確率は1/5だ。優秀な成績を収めれば第一に配属されるだろうか。いや、とにかく身体強化をしてくる騎士を、なしでねじ伏せられるように強くならなければ。
それには肉、肉だ。特に鳥肉。狩り場の下調べも終わらせた。ボーラも作った。休日を待つばかりだ。
「メルト、僕胸やけしそう…」
食堂で明日は休日だと張り切って、がつがつと食べていたら、ミランに嫌な顔をされた。
「…ミランは、小食だから…」
ちらっと頭頂を見たら睨まれた。怖い。
「そんな事言う口はこうしてやる―!」
むにっと頬を摘まれて横に伸ばされる。
「…うにゅ…にゃにおいっえにゃにゃい…」
あ、はっきりしゃべれない。
「か、可愛い。どうしよう。メルトを可愛いと思う時が来るなんて!」
むにむにと頬を弄られて涙目になる。なんだかザワっと食堂がざわついた。
はっとしてミランが手を離した。
「…うー。」
上目で睨んだらミランは手を合わせて頭を下げた。
「ごめん!明日街で甘いの買ってくるから!」
甘いの!目が輝いたのを自覚した。こくりと頷いて微笑む。
「あーやばいわ。自覚なしだ…」
何故かミランの横でポリカが頭を抱えていた。俺は食事を再開して首を傾げた。
翌朝、まだ暗い時間。いつもの鍛練を一通りこなして、食事を一番に済ませると、準備していた道具を持って比較的安全な森へと出かける。
門番に挨拶して門の外に出た。魔の森は隣国を越えないと入れないが、こういった普通の森にも魔物は出る。
基本的にこういった森は狩人や冒険者が魔物や獣を狩って街に卸す。それを市民が買って、日々の糧にしている。王都は村と違って商業が発達していて、市民は給料を得て働いているのだ。俺の実家の家業も雇われ御者だ。
森に入るには許可はいらないが、ある程度縄張りがある。狩人の狩り場は、狩人しか入れない。それを知らない者は王都にはいない。
だから俺は、ある程度自由に狩りのできる場所をピックアップして、知らずに他人の領分を侵さないように気をつけて、森に分け入ったのだった。
この準備運動も、ダンジョンから帰って来てから実践していることの一つだ。その後軽く走って、型の練習に入る。
木剣を握って、理想の剣筋をなぞる。
だがそれは誰の剣の軌跡なのか。俺の理想とする、剣の動き。
ただひたすらにそれをイメージして剣を振る。
何度も、何度も。
ぶれる度に、修正し、動きを体に叩き込む。
そうして夜が明け、朝食の時間になる。
鍛錬が終わっても夕食前に朝と同じことを繰り返す。
俺はますます、自主鍛錬にのめり込んでいった。皆が雑談をしている時間も訓練にあてていた。
それでも睡眠時間はたっぷりととるようにしていた。同室のミラン達としゃべっているといつの間にか寝てしまっていたりしたけれど。
朝はきちんと同じ時間に目が覚めて、すっきりとしているので睡眠が足りてないことはないだろう。身体に疲れは感じない。鍛錬が過ぎるということもないようだ。もう少し負荷をかけてもいいかもしれない。
「あれ?メルト、背が伸びた?」
着替えてると、ミランが言ってきた。ミランは手を自分と俺の頭のあたりにあてて水平に動かし、ショックを受けた顔をした。ますます見上げるのが悔しいらしい。
「…んー?伸びた実感はないけど…」
それよりももっと筋肉をつけたい。今の食堂の肉事情ではこれ以上肉は食べられない。外に行って食べるか、買って帰るか…。ん??
そうだ。休みに狩りに行けばいいんじゃないか?実戦訓練になるし、持ち込めば作ってくれるかも。
よし、善は急げだ。明後日の休養日に森に行って鳥を狩ってこよう。マジックバッグが欲しいが見習いの給料じゃ、まだ買える余裕はない。
弓は得意じゃないから石で…。あ、アレを作ろう。なんていったっけ…。ボーラ?スリングショット?…ってなんだろう?
普通にナイフとか、槍じゃないのか?俺はどこでそんな知識を得たんだろう?
でも、作り方はわかるし。鳥ならボーラっていうのがいいだろう。
食堂でロステに声をかけられた。
「メルト、今度の休日、昼飯一緒に食いに出かけないか?」
昼飯…。心惹かれるが、鳥を狩りに行かないといけない。俺は静かに横に首を振った。
「…用があるから…」
そう言った途端、ロステが少し落胆した顔で俯く。
「わかった。また今度な?」
しばらくして顔をあげたロステは、にこにことした顔で去っていく。ロステは暇なのか?いつも休みが近づくたびに俺に声をかけてくるが。
「心折れないね。ロステ。」
ミランの声だ。
「打たれ強いんじゃない?」
突き離した声はエメリだ。
「メルト―。用事ってなになに?」
ミランが首に手を回してくる。苦しい。
「ん、狩りだ。」
手でパンパンとたたいて腕を外してもらう。
「狩り?」
きょとんと、首を傾げてエメリが聞いてくる。
「鳥を狩りに行く。」
力強く言い切ると、二人は顔を見合わせて肩を竦めた。
「…ほんとロステって、大変だね。」
何が大変なのだろう。暇だから俺に声をかけたのではないのか?首を傾げていると、ミランに頭を優しく撫でられた。
「いいんだよ。メルトはそれで。」
いいならいいか。そう結論付けると食事を終えて、団の訓練へと向かった。
見習い期間の最終年度は実地訓練が多く入る。今まで鍛錬した結果を出せということだ。それを上官が見て各種適性や本人の希望等で振り分けられる。もちろん一定のレベルに達してないものは退団という方向もある。あるいは一年鍛え直し等上へあがれない場合もある。
団に入ってきた年齢もまちまちなので(上限は15歳)体格や、伸びしろ、技量にも差が出る。まあ、今のは平民の見習いの話で、貴族の見習いは扱い自体が違うからまた話は変わる。
貴族は士官学校を卒業して配属されるので見習いでなく、将官としてやってくるし、そうでない貴族は貴族学校の騎士コースを出るか、地方の出身者だと指導に当たった武官の推薦等で入団してくる。そうすると基礎訓練等は終わっているので早い段階で正騎士になれるのだ。
将官でない貴族の場合は16歳位から正騎士となり10年もすれば騎士爵になる。それから上の貴族位をもらって貴族となる。
平民は騎士爵が最高なので、12~15年くらいで班長以上になっていたり、何か大きな手柄を立てたりすると叙爵される。これが平民のエリートコースだ。皆騎士爵をもらうことを夢見て頑張っている。
貴族は騎士団の指揮官になるが、平民の騎士は徴兵された民兵の指揮にあたることが多い。そのために、戦術も座学で学んでいる。座学は入隊してから身体づくりの傍ら3年ほどみっちり仕込まれる。平民で教養のある者は少ないからだ。この座学の期間が短いのが貴族で、そのために正騎士に上がるのが早いというわけだ。
俺が属する90期の見習い総勢40名は最終年度にあたり、実地訓練は、4月のダンジョン訓練、5~6月の見回り訓練、7~9月の野営訓練をこなし、10月から12月まで実力を見るために総当りの模擬戦をすることになっている。
その順位も今後の騎士団生活に影響するので、10月からは皆の目が違ってくるはずだ。そして新年を越えた春に叙任式がある。俺の誕生日は1月1日なので18歳で正騎士になれれば平民では最年少の正騎士叙任だ。
できれば第一騎士団に入りたい。団長の強さは他の団長より、なんというか実戦的だ。平民にも分け隔てなく接してくれるという噂だ。
希望を出しても叶う確率は1/5だ。優秀な成績を収めれば第一に配属されるだろうか。いや、とにかく身体強化をしてくる騎士を、なしでねじ伏せられるように強くならなければ。
それには肉、肉だ。特に鳥肉。狩り場の下調べも終わらせた。ボーラも作った。休日を待つばかりだ。
「メルト、僕胸やけしそう…」
食堂で明日は休日だと張り切って、がつがつと食べていたら、ミランに嫌な顔をされた。
「…ミランは、小食だから…」
ちらっと頭頂を見たら睨まれた。怖い。
「そんな事言う口はこうしてやる―!」
むにっと頬を摘まれて横に伸ばされる。
「…うにゅ…にゃにおいっえにゃにゃい…」
あ、はっきりしゃべれない。
「か、可愛い。どうしよう。メルトを可愛いと思う時が来るなんて!」
むにむにと頬を弄られて涙目になる。なんだかザワっと食堂がざわついた。
はっとしてミランが手を離した。
「…うー。」
上目で睨んだらミランは手を合わせて頭を下げた。
「ごめん!明日街で甘いの買ってくるから!」
甘いの!目が輝いたのを自覚した。こくりと頷いて微笑む。
「あーやばいわ。自覚なしだ…」
何故かミランの横でポリカが頭を抱えていた。俺は食事を再開して首を傾げた。
翌朝、まだ暗い時間。いつもの鍛練を一通りこなして、食事を一番に済ませると、準備していた道具を持って比較的安全な森へと出かける。
門番に挨拶して門の外に出た。魔の森は隣国を越えないと入れないが、こういった普通の森にも魔物は出る。
基本的にこういった森は狩人や冒険者が魔物や獣を狩って街に卸す。それを市民が買って、日々の糧にしている。王都は村と違って商業が発達していて、市民は給料を得て働いているのだ。俺の実家の家業も雇われ御者だ。
森に入るには許可はいらないが、ある程度縄張りがある。狩人の狩り場は、狩人しか入れない。それを知らない者は王都にはいない。
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