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薄氷の帰還
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「なぁ、ゲルドーシュ。よく考えてみなよ。ボクたちの前提はさ、妨害者もボクたちと同様に、ダンジョンから出られないって事だったろう?」
ボクは、諭すように戦士に語り掛ける。
「つまり安全地帯を含めて、ダンジョン内に存在する限られた物資の消耗戦を想定したわけだよね。で、奴は最後に魔獣を繰り出してきた。普通に考えれば、それ以上の脅威はないって事になるよね」
「まぁ、そうだな。あんなのは、イレギュラー中のイレギュラーみたいなもんだ」
ゲルドーシュが、そこまでは承知をする。
「つまりさ、その魔獣を倒したわけだから、奴にはロクな手札は残っていないと判断出来たよね。むしろ、安全地帯を確保しているボクたちの方が有利とさえ言えた」
ゲルドーシュが、無言で頷いた。
「でも実際は違った。妨害者は抜け穴を通じて、自由に外と出入りが出来たんだ。そうなると、話は全く違って来る。もし、キミが奴ならどうしたと思う?」
ボクの言葉に、ゲルドーシュの顔色がサッと変わる。
「……外でまた、何かを仕入れて戻って来るって事か!」
「その通り。奴がまだ魔獣クラスの召喚魔使具を持っているかは不明だけど、新たな脅威をダンジョンに持ち込む事は、幾らでも可能だったってわけさ。
隊長さんは、救出には一カ月以上かかる予定だったって言ってたろ? 奴は傷を治してなお、悠々と次の作戦を練る事が出来たって話なんだ」
いやほんと、今思えば背筋が凍りつくような事実であった。
「もし、また魔獣クラスの敵を用意されても、私たちは勝てたと思いますの?」
「そうでなくとも、毒ガスのようなものでダンジョンを満たされたら……。私たちは一つの安全地帯から出られなくなります。精神的なダメージもそうですが、食料だって一カ月はとても持たないですよ」
「……う~ん。確かにそれはつらい。完全にジリ貧だな」
ボク、ポピッカ、ザレドスの波状攻撃に、ゲルドーシュは白旗をあげる。
「それに加えて、奴が捕まったのは本当に偶然に近いと思う。今日、あの場所で州兵たちが網を張っていた事、妨害者を見つけられた事。奴が心の油断か何かで抜け道の隠ぺいを疎かにした事。どれ一つ欠けても、ボクたちは救助されなかっただろうね。
奴は言い逃れが出来たろうし、一カ月以上の間には、再びダンジョンへ舞い戻る事だって決して不可能じゃない」
「……そうか、偶然、というか幸運が無かったら、俺たちは相当不利な状況で、また奴と対峙する可能性が高かったって事か」
流石のゲルドーシュも、事態の深刻さを呑み込めたようだった。今回は、ポピッカも茶々を入れない。この事実がどれだけ恐ろしかったかを、痛感しているからだろう。
「じゃあ、今度こそ本題。この先の事について話を始めましょうか」
「この先の事?」
ゲルドーシュが、不安に満ちた声を漏らした。
ボクは、諭すように戦士に語り掛ける。
「つまり安全地帯を含めて、ダンジョン内に存在する限られた物資の消耗戦を想定したわけだよね。で、奴は最後に魔獣を繰り出してきた。普通に考えれば、それ以上の脅威はないって事になるよね」
「まぁ、そうだな。あんなのは、イレギュラー中のイレギュラーみたいなもんだ」
ゲルドーシュが、そこまでは承知をする。
「つまりさ、その魔獣を倒したわけだから、奴にはロクな手札は残っていないと判断出来たよね。むしろ、安全地帯を確保しているボクたちの方が有利とさえ言えた」
ゲルドーシュが、無言で頷いた。
「でも実際は違った。妨害者は抜け穴を通じて、自由に外と出入りが出来たんだ。そうなると、話は全く違って来る。もし、キミが奴ならどうしたと思う?」
ボクの言葉に、ゲルドーシュの顔色がサッと変わる。
「……外でまた、何かを仕入れて戻って来るって事か!」
「その通り。奴がまだ魔獣クラスの召喚魔使具を持っているかは不明だけど、新たな脅威をダンジョンに持ち込む事は、幾らでも可能だったってわけさ。
隊長さんは、救出には一カ月以上かかる予定だったって言ってたろ? 奴は傷を治してなお、悠々と次の作戦を練る事が出来たって話なんだ」
いやほんと、今思えば背筋が凍りつくような事実であった。
「もし、また魔獣クラスの敵を用意されても、私たちは勝てたと思いますの?」
「そうでなくとも、毒ガスのようなものでダンジョンを満たされたら……。私たちは一つの安全地帯から出られなくなります。精神的なダメージもそうですが、食料だって一カ月はとても持たないですよ」
「……う~ん。確かにそれはつらい。完全にジリ貧だな」
ボク、ポピッカ、ザレドスの波状攻撃に、ゲルドーシュは白旗をあげる。
「それに加えて、奴が捕まったのは本当に偶然に近いと思う。今日、あの場所で州兵たちが網を張っていた事、妨害者を見つけられた事。奴が心の油断か何かで抜け道の隠ぺいを疎かにした事。どれ一つ欠けても、ボクたちは救助されなかっただろうね。
奴は言い逃れが出来たろうし、一カ月以上の間には、再びダンジョンへ舞い戻る事だって決して不可能じゃない」
「……そうか、偶然、というか幸運が無かったら、俺たちは相当不利な状況で、また奴と対峙する可能性が高かったって事か」
流石のゲルドーシュも、事態の深刻さを呑み込めたようだった。今回は、ポピッカも茶々を入れない。この事実がどれだけ恐ろしかったかを、痛感しているからだろう。
「じゃあ、今度こそ本題。この先の事について話を始めましょうか」
「この先の事?」
ゲルドーシュが、不安に満ちた声を漏らした。
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