よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
89 / 115

新たなる絶望

しおりを挟む
「これから、どうしましょうか……」

ポピッカが、ボクを見つめる。魔獣戦勝利の高揚感が、段々と抜けてくるのを誰もが感じていた。

長い目で見れば、魔獣戦勝利は一つの過程に過ぎない。妨害者がこれで諦めたのかどうか……。先ほどザレドスにスキャンをしてもらい、通路の向こう側一帯に敵がいない事は確認したものの、安心はできない。奴の行動は計り知れないからだ。

ただ、冒険者四人ばかりの相手に魔獣を放ったのである。これより凄まじい奥の手があるとは推測しづらいし、その証拠に奴は結果を見ずに迷宮のどこかへ消え去ったと思われる。

まぁ、普通はボクたちが勝利する事などあり得ないと考えるだろうから、魔獣勝利を確信して隠ぺいの為の次の一手を講じるか、今だ癒えていないであろう、自らの傷の手当てに専念すると考えるのが妥当な所だ。奴にとって、今は既に”事後処理”の段階に入っているのだろうから。

これからはボクたちと妨害者の神経戦が始まるだろう。魔獣という恐らく最強の手駒を失った奴は、ボクたちの勝利を知った時から、今度は逆に”狩られる”立場になったと自覚するはずだ。今までの様に、次々と何かを仕掛けてくる余裕はあるまいて。

「そうだな。まずはザレドスが結界を解除するのを待って、安全地帯まで戻ろう。実を言うとお腹がペコペコなんだ。空腹で考えたって、いい考えは浮かばないさ」

ボクは少しおどけてみせる。だがこれは、本音でもあった。魔獣戦での凄まじい体力の消耗は、飢餓感と言って良いほどの空腹をもたらしている。それは皆とて同じだろう。この状態で今後の事を、今ここで決するのは得策ではない。

「そういや、そうだな。すっかり忘れてた。

よぉ、お姫様のお腹も、そろそろグーグー鳴り出す頃じゃねぇのか?」

「もぉ! なんて下品な言い方ですの? それに”お姫様”じゃありませんわ!」

二人の掛け合いも、今やこのパーティーの名物と化していた。

「皆さん、解除できましたよ」

ザレドスの一声に、メンバーはもう一段階の安堵感を得る。妨害者と未だ同じ空間にいるとはいえ、今は自分たちの方が有利なのだと思えば、それは当然の事であろう。

「なぁ、縁起でもないこと言うようだけどさ。これも妨害者の罠って事はないよな。魔獣を倒した安心感を利用して、また何か罠を仕掛けて来るって事は……」

いつもは強気一辺倒なゲルドーシュが、心配そうにつぶやいた。度重なる妨害者の奸計に、さすがの戦士も疲弊しているとみえる。

「いや、それは大丈夫だろう……、だってさ……」

その言葉を言い終えるかどうかの間際、通路の入り口にいたザレドスが、悲鳴に近い声をあげた。

「何か、何かが来ます! しかも二体や三体じゃない。十、十五……、探知しただけでも二十体はいます!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

#消えたい僕は君に150字の愛をあげる

川奈あさ
青春
旧題:透明な僕たちが色づいていく 誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 のんびり、マイペース、気まぐれ。一緒にいると気が抜けるけど超絶イケメン。  俺は桜井渚。高校二年生。趣味は寝ることと読書。夏の海で溺れた幼い弟を助けて死にました。終わったなーと思ったけど目が覚めたらなんか見知らぬ土地にいた。土地?というか水中。あの有名な異世界転生したんだって。ラッキーだね。俺は精霊王に生まれ変わった。  めんどくさいことに精霊王って結構すごい立場らしいんだよね。だけどそんなの関係ない。俺は気まぐれに生きるよ。精霊の一生は長い。だから好きなだけのんびりできるはずだよね。……そのはずだったのになー。  のんびり、マイペース、気まぐれ。ついでに面倒くさがりだけど、心根は優しく仲間思い。これは前世の知識と容姿、性格を引き継いで相変わらずのんびりライフを送ろうとするも、様々なことに巻き込まれて忙しい人生を送ることになる一人の最強な精霊王の物語。 ※誤字脱字などありましたら報告してくださると助かります! ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

推しと行く魔法士学園入学旅行~日本で手に入れた辞典は、異世界の最強アイテムでした~

ことのはおり
ファンタジー
渡会 霧(わたらい きり)。36歳。オタク。親ガチャハズレの悲惨な生い立ち。 幸薄き彼女が手にした、一冊の辞典。 それは異世界への、特別招待状。 それは推しと一緒にいられる、ミラクルな魔法アイテム。 それは世界を救済する力を秘めた、最強の武器。 本棚を抜けた先は、物語の中の世界――そこからすべてが、始まる。

処理中です...