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新たなる絶望
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「これから、どうしましょうか……」
ポピッカが、ボクを見つめる。魔獣戦勝利の高揚感が、段々と抜けてくるのを誰もが感じていた。
長い目で見れば、魔獣戦勝利は一つの過程に過ぎない。妨害者がこれで諦めたのかどうか……。先ほどザレドスにスキャンをしてもらい、通路の向こう側一帯に敵がいない事は確認したものの、安心はできない。奴の行動は計り知れないからだ。
ただ、冒険者四人ばかりの相手に魔獣を放ったのである。これより凄まじい奥の手があるとは推測しづらいし、その証拠に奴は結果を見ずに迷宮のどこかへ消え去ったと思われる。
まぁ、普通はボクたちが勝利する事などあり得ないと考えるだろうから、魔獣勝利を確信して隠ぺいの為の次の一手を講じるか、今だ癒えていないであろう、自らの傷の手当てに専念すると考えるのが妥当な所だ。奴にとって、今は既に”事後処理”の段階に入っているのだろうから。
これからはボクたちと妨害者の神経戦が始まるだろう。魔獣という恐らく最強の手駒を失った奴は、ボクたちの勝利を知った時から、今度は逆に”狩られる”立場になったと自覚するはずだ。今までの様に、次々と何かを仕掛けてくる余裕はあるまいて。
「そうだな。まずはザレドスが結界を解除するのを待って、安全地帯まで戻ろう。実を言うとお腹がペコペコなんだ。空腹で考えたって、いい考えは浮かばないさ」
ボクは少しおどけてみせる。だがこれは、本音でもあった。魔獣戦での凄まじい体力の消耗は、飢餓感と言って良いほどの空腹をもたらしている。それは皆とて同じだろう。この状態で今後の事を、今ここで決するのは得策ではない。
「そういや、そうだな。すっかり忘れてた。
よぉ、お姫様のお腹も、そろそろグーグー鳴り出す頃じゃねぇのか?」
「もぉ! なんて下品な言い方ですの? それに”お姫様”じゃありませんわ!」
二人の掛け合いも、今やこのパーティーの名物と化していた。
「皆さん、解除できましたよ」
ザレドスの一声に、メンバーはもう一段階の安堵感を得る。妨害者と未だ同じ空間にいるとはいえ、今は自分たちの方が有利なのだと思えば、それは当然の事であろう。
「なぁ、縁起でもないこと言うようだけどさ。これも妨害者の罠って事はないよな。魔獣を倒した安心感を利用して、また何か罠を仕掛けて来るって事は……」
いつもは強気一辺倒なゲルドーシュが、心配そうにつぶやいた。度重なる妨害者の奸計に、さすがの戦士も疲弊しているとみえる。
「いや、それは大丈夫だろう……、だってさ……」
その言葉を言い終えるかどうかの間際、通路の入り口にいたザレドスが、悲鳴に近い声をあげた。
「何か、何かが来ます! しかも二体や三体じゃない。十、十五……、探知しただけでも二十体はいます!」
ポピッカが、ボクを見つめる。魔獣戦勝利の高揚感が、段々と抜けてくるのを誰もが感じていた。
長い目で見れば、魔獣戦勝利は一つの過程に過ぎない。妨害者がこれで諦めたのかどうか……。先ほどザレドスにスキャンをしてもらい、通路の向こう側一帯に敵がいない事は確認したものの、安心はできない。奴の行動は計り知れないからだ。
ただ、冒険者四人ばかりの相手に魔獣を放ったのである。これより凄まじい奥の手があるとは推測しづらいし、その証拠に奴は結果を見ずに迷宮のどこかへ消え去ったと思われる。
まぁ、普通はボクたちが勝利する事などあり得ないと考えるだろうから、魔獣勝利を確信して隠ぺいの為の次の一手を講じるか、今だ癒えていないであろう、自らの傷の手当てに専念すると考えるのが妥当な所だ。奴にとって、今は既に”事後処理”の段階に入っているのだろうから。
これからはボクたちと妨害者の神経戦が始まるだろう。魔獣という恐らく最強の手駒を失った奴は、ボクたちの勝利を知った時から、今度は逆に”狩られる”立場になったと自覚するはずだ。今までの様に、次々と何かを仕掛けてくる余裕はあるまいて。
「そうだな。まずはザレドスが結界を解除するのを待って、安全地帯まで戻ろう。実を言うとお腹がペコペコなんだ。空腹で考えたって、いい考えは浮かばないさ」
ボクは少しおどけてみせる。だがこれは、本音でもあった。魔獣戦での凄まじい体力の消耗は、飢餓感と言って良いほどの空腹をもたらしている。それは皆とて同じだろう。この状態で今後の事を、今ここで決するのは得策ではない。
「そういや、そうだな。すっかり忘れてた。
よぉ、お姫様のお腹も、そろそろグーグー鳴り出す頃じゃねぇのか?」
「もぉ! なんて下品な言い方ですの? それに”お姫様”じゃありませんわ!」
二人の掛け合いも、今やこのパーティーの名物と化していた。
「皆さん、解除できましたよ」
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「なぁ、縁起でもないこと言うようだけどさ。これも妨害者の罠って事はないよな。魔獣を倒した安心感を利用して、また何か罠を仕掛けて来るって事は……」
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「いや、それは大丈夫だろう……、だってさ……」
その言葉を言い終えるかどうかの間際、通路の入り口にいたザレドスが、悲鳴に近い声をあげた。
「何か、何かが来ます! しかも二体や三体じゃない。十、十五……、探知しただけでも二十体はいます!」
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