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来襲
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「まぁ、そこに今回の事件を仕掛けた奴の目的が、見え隠れするんじゃないかな」
「というと……?」
ザレドスの問いに、ボクは話を進める。
「このフィールド魔法をかけた奴からすればさ、壁の向こう側に空間があるのは知って欲しいけど、実際にそこへ行ってもらっては困るって事だと思うんだ。
じゃぁ、なぜそいつが、そういう風にしたいかといえば、少なくとも二つの可能性が考えられる。
一つは非常に親切な場合。
たとえば壁の向こうには何か恐ろしいものが存在する。呪いのアイテムとか魔物の群れといったような……。
それって、知らなければ大きな不利益になる事だよね。自分たちの身近にある危険を知るのは重要な事だからさ。だけど迂闊に立ち入っては、それこそ厄災を地上へ解き放つ事になりかねない。
だからそれを防ぐために、空間の存在は知らせるけど、そこには至らせないようにこんな魔法フィールドを設置している」
「だけど壁の向こうに何があるかわからないのでは、警告の意味は半減するのではないですの?」
ポピッカが、食い入るようにボクの顔を見る。
「まぁ、それには色々と言い訳が成り立つさ。
たとえばフィールド魔法の設定ミスで、透視の魔法まで阻害する事になってしまったというのはどうだろうか。本来ならもっと奥まで透視が可能で、その結果”災厄”が何であるのかわかるはずだったんだけど、それが叶わなくなってしまったとかね」
「うーん。ちょっと、苦しいですね」
ザレドスが腕組みをする。
「説明しておいてなんなんだけどさ。実はボクもそう思う」
ボクは、予想通りの反応に苦笑した。
「つまり二番目の可能性が、本命だという事ですの?」
「あぁ、その通り。そして二番目の可能性というのは、まぁ考えずらいんだけど……」
ボクがポピッカの問いに応えようとした時、異変が起こった。広間へ通じる一本道の通路の奥から異様な音がし始めたのだ。皆が一斉に通路の向こう側へと神経を集中する。
本来ならばザレドスの探査用魔使具に反応があるところだが、彼は今、調査用の魔使具を使っているので異変を察知するのはまず不可能である。
複数の何かが風を切るような音。それが急速に近づいてくる。ボクたちは急いで基本陣形を整えた。
通路の奥から突然複数の丸い影が勢いよく飛び出してくる。バウンサーズだ。皆、瞬時にして理解したと思う。このモンスターはそれだけ特徴的なのだ。
直径60センチほどの黒い球体で、奴らは必ず複数で活動している。一体一体は決して強力な相手ではないが、数が集まるとその脅威は加算ではなく乗算となり加速度的に増大するのである。
「バウンサーズか!」
ゲルドーシュが大剣を構え、続いてポピッカが自らとザレドスを守る対物理攻撃用の魔法障壁を展開させた。ボクはいつもの通り、魔奏スティックと魔盾環を装備する。
連中の第一波がボクたちに迫りくる。都合、五体ほどか。奴らはかなりのスピードで壁や天井、そして床で跳ね返り確実に敵を捕らえようとする。こいつらの厄介な点は、バウンドした後にその軌道が変化する事だ。真っすぐ進むものもあれば、急に直角に曲がるものもある。それを予測するのは至難の業といってよい。
「ったく、面倒くせぇ!」
ゲルドーシュが剣を振るうが、奴らのスピードと予測不能な軌道のために狙いが定まらない。剣の一撃は当たるものの、致命傷には至らないのだ。一方ポピッカは防戦に徹しざるを得ない。障壁内にザレドスを伴っているので、素早い移動は不可能だし、マジックエッセンスの消耗を考えると今の段階で攻撃に転ずるのは難しい。
そして、ボクはボクで素早さのスキルを上げ、一つ一つをいなしていくので手いっぱいだ。
「第二波が来ます!」
調査用から探査用に魔使具を切り替えたザレドスが叫ぶ。
細工師の予言通り、広間の向こう側へ通じる一本道を専用のレールに見立てたように、次々と黒い悪魔が射出されてくる。今度は確認しただけで八体のバウンサーが乱入してきた。合計十三体の跳ね回るモンスター達に、ボクたちは翻弄される。
ちぃ! 本当に面倒な事になった。状況としては最悪に近い。
奴らの攻撃力、すなわち体当たりの衝撃力はそれほど高くないものの、数で圧倒されている上、今いる”広間”という状況が連中にとってこの上なく有利に働いている。
これが外の広場であるならば、バウンサーズは大した脅威ではない。地面でしかバウンドできないので、それほどトリッキーな動きは出来ないからだ。しかしここでは壁、床、天井と跳ね返る対象が多い上に、広すぎず狭すぎずといった条件が整っているため、正に奴らにとって最も分がある環境なのである。
更に今は、悪い条件が重なっている。
奴らが広間の石壁にぶつかるたびに、そのショックで天井から石粉が降って来る。更に奴らは魔物なので、その素早い動きには魔法が使われている。そのため、問題の壁にぶつかるたびに鳴動し放題だ。このままでは下手をすると、広間が崩落の危機に瀕してしまうだろう。素早く対応する必要があるという事だ。
「スタン! いったん通路の向こう側へ逃げましょう!」
ザレドスが叫ぶ。
細工師の助言はもっともである。広間へ繋がる一本道を抜けてしまえば、戦況はかなり有利になるだろう。通路の出口で待ち構えて反撃する。そうする事によって通り抜けてくるバウンサーの数や軌道は著しく制限される。そこを狙い撃ちにすれば、奴らの撃退は容易なものとなるはずだ。
ボクがザレドスのアドバイスを受け入れようとした時、ふと大きな違和感がボクを襲った。
”違う、違うぞ、スタン・リンシード。お前は大きな間違いを犯そうとしているぞ!”
何処からともなく、そんな声が心に響く。
なんだこの違和感は、ボクは何に違和感を覚えているんだ?。
「というと……?」
ザレドスの問いに、ボクは話を進める。
「このフィールド魔法をかけた奴からすればさ、壁の向こう側に空間があるのは知って欲しいけど、実際にそこへ行ってもらっては困るって事だと思うんだ。
じゃぁ、なぜそいつが、そういう風にしたいかといえば、少なくとも二つの可能性が考えられる。
一つは非常に親切な場合。
たとえば壁の向こうには何か恐ろしいものが存在する。呪いのアイテムとか魔物の群れといったような……。
それって、知らなければ大きな不利益になる事だよね。自分たちの身近にある危険を知るのは重要な事だからさ。だけど迂闊に立ち入っては、それこそ厄災を地上へ解き放つ事になりかねない。
だからそれを防ぐために、空間の存在は知らせるけど、そこには至らせないようにこんな魔法フィールドを設置している」
「だけど壁の向こうに何があるかわからないのでは、警告の意味は半減するのではないですの?」
ポピッカが、食い入るようにボクの顔を見る。
「まぁ、それには色々と言い訳が成り立つさ。
たとえばフィールド魔法の設定ミスで、透視の魔法まで阻害する事になってしまったというのはどうだろうか。本来ならもっと奥まで透視が可能で、その結果”災厄”が何であるのかわかるはずだったんだけど、それが叶わなくなってしまったとかね」
「うーん。ちょっと、苦しいですね」
ザレドスが腕組みをする。
「説明しておいてなんなんだけどさ。実はボクもそう思う」
ボクは、予想通りの反応に苦笑した。
「つまり二番目の可能性が、本命だという事ですの?」
「あぁ、その通り。そして二番目の可能性というのは、まぁ考えずらいんだけど……」
ボクがポピッカの問いに応えようとした時、異変が起こった。広間へ通じる一本道の通路の奥から異様な音がし始めたのだ。皆が一斉に通路の向こう側へと神経を集中する。
本来ならばザレドスの探査用魔使具に反応があるところだが、彼は今、調査用の魔使具を使っているので異変を察知するのはまず不可能である。
複数の何かが風を切るような音。それが急速に近づいてくる。ボクたちは急いで基本陣形を整えた。
通路の奥から突然複数の丸い影が勢いよく飛び出してくる。バウンサーズだ。皆、瞬時にして理解したと思う。このモンスターはそれだけ特徴的なのだ。
直径60センチほどの黒い球体で、奴らは必ず複数で活動している。一体一体は決して強力な相手ではないが、数が集まるとその脅威は加算ではなく乗算となり加速度的に増大するのである。
「バウンサーズか!」
ゲルドーシュが大剣を構え、続いてポピッカが自らとザレドスを守る対物理攻撃用の魔法障壁を展開させた。ボクはいつもの通り、魔奏スティックと魔盾環を装備する。
連中の第一波がボクたちに迫りくる。都合、五体ほどか。奴らはかなりのスピードで壁や天井、そして床で跳ね返り確実に敵を捕らえようとする。こいつらの厄介な点は、バウンドした後にその軌道が変化する事だ。真っすぐ進むものもあれば、急に直角に曲がるものもある。それを予測するのは至難の業といってよい。
「ったく、面倒くせぇ!」
ゲルドーシュが剣を振るうが、奴らのスピードと予測不能な軌道のために狙いが定まらない。剣の一撃は当たるものの、致命傷には至らないのだ。一方ポピッカは防戦に徹しざるを得ない。障壁内にザレドスを伴っているので、素早い移動は不可能だし、マジックエッセンスの消耗を考えると今の段階で攻撃に転ずるのは難しい。
そして、ボクはボクで素早さのスキルを上げ、一つ一つをいなしていくので手いっぱいだ。
「第二波が来ます!」
調査用から探査用に魔使具を切り替えたザレドスが叫ぶ。
細工師の予言通り、広間の向こう側へ通じる一本道を専用のレールに見立てたように、次々と黒い悪魔が射出されてくる。今度は確認しただけで八体のバウンサーが乱入してきた。合計十三体の跳ね回るモンスター達に、ボクたちは翻弄される。
ちぃ! 本当に面倒な事になった。状況としては最悪に近い。
奴らの攻撃力、すなわち体当たりの衝撃力はそれほど高くないものの、数で圧倒されている上、今いる”広間”という状況が連中にとってこの上なく有利に働いている。
これが外の広場であるならば、バウンサーズは大した脅威ではない。地面でしかバウンドできないので、それほどトリッキーな動きは出来ないからだ。しかしここでは壁、床、天井と跳ね返る対象が多い上に、広すぎず狭すぎずといった条件が整っているため、正に奴らにとって最も分がある環境なのである。
更に今は、悪い条件が重なっている。
奴らが広間の石壁にぶつかるたびに、そのショックで天井から石粉が降って来る。更に奴らは魔物なので、その素早い動きには魔法が使われている。そのため、問題の壁にぶつかるたびに鳴動し放題だ。このままでは下手をすると、広間が崩落の危機に瀕してしまうだろう。素早く対応する必要があるという事だ。
「スタン! いったん通路の向こう側へ逃げましょう!」
ザレドスが叫ぶ。
細工師の助言はもっともである。広間へ繋がる一本道を抜けてしまえば、戦況はかなり有利になるだろう。通路の出口で待ち構えて反撃する。そうする事によって通り抜けてくるバウンサーの数や軌道は著しく制限される。そこを狙い撃ちにすれば、奴らの撃退は容易なものとなるはずだ。
ボクがザレドスのアドバイスを受け入れようとした時、ふと大きな違和感がボクを襲った。
”違う、違うぞ、スタン・リンシード。お前は大きな間違いを犯そうとしているぞ!”
何処からともなく、そんな声が心に響く。
なんだこの違和感は、ボクは何に違和感を覚えているんだ?。
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