よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
66 / 115

思わぬ伏兵

しおりを挟む
「コンシダレーション!」

ボクは”相対的時間差”の魔法「コンシダレーション」を選択する。指輪型の魔句呂コーラーが作動し、かの魔法が発動した。

この魔法は、ほんの短時間だが周りの時間と自分の意識に極端な時間差を生み出す事が出来る。よく自転車に乗っていて転びそうになった時や、目の前に暴れ馬が迫ってくるような時、まわりの景色がスローモーションのように感じ、実際の時間の流れより意識の流れが遅く感じられる事がある。

”コンシダレーション”は、これに類似した現象を意図的に生じさせる魔法であった。

今ボクの目の前には、非常にゆっくりとしたスピードで駆け巡るバウンサーズの姿が映っている。ただしこれは意識の中のみの話であり、体はそれに対応できない。

ボクは考える。

違和感の正体は何だ……?。

それは”妨害者”の意図以外にはない。

バウンサーズの襲撃は妨害者の仕業に違いないが、それでは矛盾が生じないか。これまでの経緯から、奴はボクたちを最深部へ接触させたくはない。だが、ダンジョンは破壊したくないと思っている。となれば、バウンサーズの攻撃は、明らかにおかしなものではないのか?

事実、天井からは衝撃で石材の粉が舞い散っているし、先に空洞があると思われる壁にも激しくぶつかり鳴動を起こしている。これでは最悪の場合、広間は瓦解し、ひいてはダンジョン全体が崩れ落ちる危険が生じてしまう……。

また仮にボクたちが通路の外へ出て、その後にバウンサーズが追って来れば、奴らは簡単に駆逐されるだろう。

何故そんな連中を、妨害者は刺客として放ったんだろうか。疑問の尽きぬ中、ボクは石粉舞い散る天井を漠然と見た。

「……!」

重大な事に気がついた瞬間、魔法の効力が消え、ボクは再び喧騒の中へと引き戻される。

「スタン!早く指示を!」

ザレドスが再び声をあげる。

「避難はしない。ボクに考えがある! みんなは急いで広間の隅へ移動してくれ。ポピッカはそこで全員を包む対魔法障壁を最大レベルで展開しろ!」

「えぇ!? そんな事をしたら追い詰められるだけですわよ! とにかく一本道を抜けてしまいましょう」

ポピッカが、面と向かってボクの指示に異を唱える。

「ポピッカ! リーダーは旦那だ。今は命令に従え! 旦那が今まで間違った事があるか!?」

「そうしましょう、ポピッカ。私はスタンを信じます!」

ボクはこれまで幾つもの間違いを犯してきたけれど、今はゲルドーシュとザレドスの応援が有り難い。迷いながらも二人の説得に応じたポピッカは、ボクの指示通りに広間の角へと急いで向かった。

「ようし、次は……」

ボクは強化した素早さをフルに使い、バウンサーズの攻撃を回避し続ける。しかし長くは持つまい。そして仲間がスタンバイするまでの時間を利用して、広間を抜ける一本道に目を凝らす。

ほどなく所定の位置に到達した三人は、ポピッカの唱えた対魔法障壁の内へはいり、これで準備が整った。それを見届けたボクは、魔奏スティックの先から三つのライトニングボールを一本道へと連続で放つ。

雷の弾丸は、バウンサーズには一つも当たらない。

「旦那は何やってんだ。奴らに全然ヒットしてないぞ!」

獲物を追い詰めたとばかりに激しさを増すバウンサーの攻撃を剣で振り払いながらゲルドーシュが叫ぶ。ポピッカの張った障壁はボクの指示した通りに魔法攻撃にしか効果を発揮しないので、黒球モンスターの突撃には剣で対抗するしか術がない。しかし最大レベルの魔法障壁を維持するには、同時に物理攻撃用の衝撃をはる事は不可能なのだ。

「いや、違います。スタンはバウンサーズを狙ったのではない!」

ザレドスが言い終えたその時、ボクの放った三発の雷撃弾は一本道の中央で炸裂し、狭い通路を雷の嵐で一杯に満たした。

その瞬間、通路では凄まじい断末魔の声が響く。

「何だ? 何が起こったんだ!?」

状況を理解できないゲルドーシュの怪訝な顔をよそに、通路には数匹のトキシンワームが体から毒の血をまき散らしながら悶絶し、どっと床に崩れ落ちた。

「あぁ! 隠ぺい魔法で姿を消していたんだ!……もし私の判断通り、一本道へ逃げ込んでいたら……、奴らの毒液を浴びた上に、後ろから迫って来るバウンサーの餌食になって……」

ザレドスの顔面が青白くなっていく。

「で、でも探索魔使具で探知できたのでは!?」

ポピッカが思わず聞き返す。

「いや、それは無理だったと思います。落ち着いた状況でじっくり調べるのであればともかく、これだけのバウンサーズが暴れている中、一目散に通路へ向かうのですから探知するのは難しい……」

「な、だから言ったろ? 旦那を信じろって」

何匹ものバウンサーズの攻撃を剣で受け続けるゲルドーシュが、苦しい表情ながらも自慢げに言い放つ。

「ゲル!完全に魔法障壁の中へ入れ!」

「おう!」

ゲルドーシュはボクの指示に素早く従い、その身をポピッカの張った魔法障壁の中へと移動させる。

ボクは急いで広間の中央に走った。そして叫ぶ。

「カオス!」

魔句呂コーラーが反応し、”混乱”の魔法が発動する。

辺りには黒紫色をした数十の帯状の光が乱舞し、バウンサーズを次々と絡め取っていく。いったんは床に落ちる球状のモンスターだったが、やにわに狂ったが如く支離滅裂に暴れ出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...