33 / 115
凶事の始まり
しおりを挟む
魔使具人形が飛び去るのを確認すると、ポピッカは再び腰の袋から薄い板のようなゴーグルを取り出して装着する。
「このシンクログラスを通じて、私はあの人形の見たもの聞いたものをそのまま受け取る事が出来ますの。今、地下6階の後半部分を飛んでおりますわ」
ポピッカは少し首を振りながら、遠くの方を見ているような動作をした。
「よぉ、一人で見てないで、それ、俺にも貸してくれよ」
ゲルドーシュが、おもちゃを欲しがる子供のような声で申し出る。
「ダメですわ。これは私とあの子をつなぐ大事な接点ですもの。外してしまってはコントロールが上手く出来ませんの。ただ、私とあの子が見ているものを、皆さんにもお見せする事は可能ですわ」
そういってポピッカは、顔に装着している魔使具のボタンを押す。すると魔使具に刻まれているスリットのような部分から光が放たれ、凄まじいスピードで過ぎ去っていくダンジョンの壁や床を映し出した映像が、1メートルくらい先の空中に浮かび上がる。
「おぉ!なんだこれ?。まるで魔法みたいだな!!」
ゲルドーシュが、素っ頓狂な声をあげた。
いや、だから魔法なんだって……。彼以外の皆がそう思ったろうが、もちろん誰も口にはしない。
「これは素晴らしい!。遠距離操作でこれだけのスピードを出しているにもかかわらず、周囲の壁にぶつからないなんて! しかも曲がり角での様子を見ると、遠心力を無効化する魔法も含まれているようですな」
先ほどまでの重苦しい雰囲気もどこ吹く風、この手のアイテムには目がない”マニア”と化したザレドスが歓喜する。
映し出された映像を見ると、人形は既に地下6階の中頃付近に到達しているようだ。このままいけば、早晩、使い魔が任務を完遂出来なかった理由もわかるだろう。
「でもよぉ、こんな便利なもん持ってるんだったらさ、あの人形で未踏破部分をチャチャッと調べた方が早かったんじゃねぇのか?」
ゲルドーシュが、ふと疑問を口にする。
「あなたにしては、まともな事を言いますわね。ただ残念な事にそれは叶いませんの。あの子を動かすにはそれなり以上のマジックエッセンスを消費しますし、細かい部分など、やはり人の目で見るようには行きませんもの」
何ひとつ見逃さないよう集中するポピッカが、片手間に戦士の疑問にこたえた。
早々に地下6階を通り抜け、地下5階、地下4階、地下3階、地下2階と魔使具人形は飛び続ける。ボクは魔使具人形の形態や仕様を見て、ふと”ポピッカはもしかして……”と思ったのだけれど、それは後に的中する事となった。
「あっ!」
地下2階の序盤付近に到達した魔使具人形からの映像が映し出されると、皆が一斉に叫んだ。なんと、地下1階への階段があるはずの場所が、瓦礫の山と化しているではないか。これでは連絡用の使い魔が地上へ抜け出る事は適わない。
「夕べの奇妙な音は、この崩落のものだったんですな……」
呆然とした口調でザレドスが言った。
「おい、なんだよこりゃ。どうなってるんだよ、ええっ!?」
ゲルドーシュの狼狽した雄たけびが、ダンジョン内に空しく響く。
「おちつけ、ゲル! 騒いでも何も解決しないぞ!!」
ボクは厳しく戦士をねめつける。パニックはいったん広がると、後はどうしようもなくなる。混乱の芽は早いうちに摘まねばならない。突然の叱責にゲルドーシュは呆気にとられ、結果として落ち着きを取り戻す。
「いや、正直これは予想していなかった。太古のダンジョンであればこういった事も珍しくはないけれど、ここは比較的新しい迷宮だし、ボクらがあそこを通った時もこれだけ激しく崩れる兆候は見られなかったと思う。どうだい、ザレドス」
「そうですね。私は通る場所全てを探査用魔使具で見ていましたが、ダンジョンが崩壊するほどヒビが入っていたり歪んでいたという事は絶対にありません」
細工師は自信をもって断言した。
「じゃぁ、何で崩れたんだよ。おかしいじゃねぇか」
落ち着きを取り戻したとはいえ、いまだ狼狽状態にあるゲルドーシュが問い詰める。
「ポピッカ、あそこに転がっている瓦礫の、ほんの小さなもので良いですから、持ち帰る事は出来ませんか?」
ザレドスが僧侶に要望した。
「えぇ、それでは……」
ポピッカは魔使具人形を地上に降ろし、適当な瓦礫を物色する。そして直径3cmほどの小さい破片を彼に示した。
「えぇ、これで十分です」
ザレドスが答えると魔使具人形はその小片を拾い、再び辺りの様子を伺いだした。階段部分は既に原形を留めておらず、そればかりかアリの這い出る僅かな隙間すら見つからない。
「では、念のため」
ポピッカが新たな呪文を唱え始める。
映し出された映像は歪み、更には全体が暗黒に包まれたように閉ざされた。
「これは、思った以上に深刻ですわね」
彼女が深い溜息をつく。
「なんだよ、どういうことだよ」
ゲルドーシュが僧侶に食って掛かった。
「落ち着いて、ゲル。皆さんも心を穏やかにして聞いて下さいましね。今、簡易的にですがあの子を通じて透視魔法を使ってみましたの。その結果、皆さんもご覧になった通り、地下2階の天井部分は先が全く見通せません……」
つまり……?。恐らく彼女以外の皆が、そう心の中でつぶやいたろう。
「地下1階部分は相当量、いえ場合によっては、全面的に崩落している可能性がありますわ」
「このシンクログラスを通じて、私はあの人形の見たもの聞いたものをそのまま受け取る事が出来ますの。今、地下6階の後半部分を飛んでおりますわ」
ポピッカは少し首を振りながら、遠くの方を見ているような動作をした。
「よぉ、一人で見てないで、それ、俺にも貸してくれよ」
ゲルドーシュが、おもちゃを欲しがる子供のような声で申し出る。
「ダメですわ。これは私とあの子をつなぐ大事な接点ですもの。外してしまってはコントロールが上手く出来ませんの。ただ、私とあの子が見ているものを、皆さんにもお見せする事は可能ですわ」
そういってポピッカは、顔に装着している魔使具のボタンを押す。すると魔使具に刻まれているスリットのような部分から光が放たれ、凄まじいスピードで過ぎ去っていくダンジョンの壁や床を映し出した映像が、1メートルくらい先の空中に浮かび上がる。
「おぉ!なんだこれ?。まるで魔法みたいだな!!」
ゲルドーシュが、素っ頓狂な声をあげた。
いや、だから魔法なんだって……。彼以外の皆がそう思ったろうが、もちろん誰も口にはしない。
「これは素晴らしい!。遠距離操作でこれだけのスピードを出しているにもかかわらず、周囲の壁にぶつからないなんて! しかも曲がり角での様子を見ると、遠心力を無効化する魔法も含まれているようですな」
先ほどまでの重苦しい雰囲気もどこ吹く風、この手のアイテムには目がない”マニア”と化したザレドスが歓喜する。
映し出された映像を見ると、人形は既に地下6階の中頃付近に到達しているようだ。このままいけば、早晩、使い魔が任務を完遂出来なかった理由もわかるだろう。
「でもよぉ、こんな便利なもん持ってるんだったらさ、あの人形で未踏破部分をチャチャッと調べた方が早かったんじゃねぇのか?」
ゲルドーシュが、ふと疑問を口にする。
「あなたにしては、まともな事を言いますわね。ただ残念な事にそれは叶いませんの。あの子を動かすにはそれなり以上のマジックエッセンスを消費しますし、細かい部分など、やはり人の目で見るようには行きませんもの」
何ひとつ見逃さないよう集中するポピッカが、片手間に戦士の疑問にこたえた。
早々に地下6階を通り抜け、地下5階、地下4階、地下3階、地下2階と魔使具人形は飛び続ける。ボクは魔使具人形の形態や仕様を見て、ふと”ポピッカはもしかして……”と思ったのだけれど、それは後に的中する事となった。
「あっ!」
地下2階の序盤付近に到達した魔使具人形からの映像が映し出されると、皆が一斉に叫んだ。なんと、地下1階への階段があるはずの場所が、瓦礫の山と化しているではないか。これでは連絡用の使い魔が地上へ抜け出る事は適わない。
「夕べの奇妙な音は、この崩落のものだったんですな……」
呆然とした口調でザレドスが言った。
「おい、なんだよこりゃ。どうなってるんだよ、ええっ!?」
ゲルドーシュの狼狽した雄たけびが、ダンジョン内に空しく響く。
「おちつけ、ゲル! 騒いでも何も解決しないぞ!!」
ボクは厳しく戦士をねめつける。パニックはいったん広がると、後はどうしようもなくなる。混乱の芽は早いうちに摘まねばならない。突然の叱責にゲルドーシュは呆気にとられ、結果として落ち着きを取り戻す。
「いや、正直これは予想していなかった。太古のダンジョンであればこういった事も珍しくはないけれど、ここは比較的新しい迷宮だし、ボクらがあそこを通った時もこれだけ激しく崩れる兆候は見られなかったと思う。どうだい、ザレドス」
「そうですね。私は通る場所全てを探査用魔使具で見ていましたが、ダンジョンが崩壊するほどヒビが入っていたり歪んでいたという事は絶対にありません」
細工師は自信をもって断言した。
「じゃぁ、何で崩れたんだよ。おかしいじゃねぇか」
落ち着きを取り戻したとはいえ、いまだ狼狽状態にあるゲルドーシュが問い詰める。
「ポピッカ、あそこに転がっている瓦礫の、ほんの小さなもので良いですから、持ち帰る事は出来ませんか?」
ザレドスが僧侶に要望した。
「えぇ、それでは……」
ポピッカは魔使具人形を地上に降ろし、適当な瓦礫を物色する。そして直径3cmほどの小さい破片を彼に示した。
「えぇ、これで十分です」
ザレドスが答えると魔使具人形はその小片を拾い、再び辺りの様子を伺いだした。階段部分は既に原形を留めておらず、そればかりかアリの這い出る僅かな隙間すら見つからない。
「では、念のため」
ポピッカが新たな呪文を唱え始める。
映し出された映像は歪み、更には全体が暗黒に包まれたように閉ざされた。
「これは、思った以上に深刻ですわね」
彼女が深い溜息をつく。
「なんだよ、どういうことだよ」
ゲルドーシュが僧侶に食って掛かった。
「落ち着いて、ゲル。皆さんも心を穏やかにして聞いて下さいましね。今、簡易的にですがあの子を通じて透視魔法を使ってみましたの。その結果、皆さんもご覧になった通り、地下2階の天井部分は先が全く見通せません……」
つまり……?。恐らく彼女以外の皆が、そう心の中でつぶやいたろう。
「地下1階部分は相当量、いえ場合によっては、全面的に崩落している可能性がありますわ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
スキル【迷宮管理者】に目覚めた俺氏、スレ民たちとめちゃくちゃに発展させるw
もかの
ファンタジー
『【俺氏】なんかダンジョン作れるようになったからめちゃくちゃにしようぜwww【最強になる】』
ある日急に、【迷宮管理者】なるダンジョンを作って運営できるスキルを……あろうことかそのへんの一般スレ主が手に入れてしまった!
スレ主:おいww一緒にヤバいダンジョン作ろうぜwww
長年の付き合いであるスレ民たちと笑いながら『ぼくのかんがえたさいきょうのダンジョン』を作っていく。
それが世界を揺るがすことになるのは、まだ先のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる