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閉じ込められたパーティー

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「何だって? じゃぁ出られないって事か!?」

ゲルドーシュが、泣き出しそうな声で怒鳴る。

「慌てるな!仮にそうだとしても、それだけの大崩落ならば地上でも必ず気づいているはずだ。向こうだって、使い魔がいつまでたっても到着しない事と考え合わせれば、すぐに善後策を講じるだろうよ」

泣きたいのはこっちも同じだが、リーダーとして取り乱すわけには行かない。

「だけどよぉ、旦那よぉ、旦那よぉ……」

すっかり小さく見える戦士が、情けない声をあげる。普段なら、これしきの事態で泣き言を言う男ではない。しかし孕ませた女、テュラフィーとお腹の子供の事が気に掛かるのだろう。もし自分がこのまま戻れなければ……と考えてしまうのも無理はない。

「先ほども申し上げたように、魔使具人形を操るには多くのマジックエッセンスが必要ですの。ここへ戻るまでの事を考えると、透視魔法を使って、地下1階の様子を全て調べるのは不可能ですわ。どうしましょうか」

ポピッカがボクの指示をあおぐ。

「そうだな……。では、こうしよう。復路は往路ほどのスピードは必要ないだろう。その分、マジックエッセンスを節約できると思う。その代り地下2階のここへ帰る道筋のところだけ、上の階を透視してくれ。出来るかい?」

「えぇ、それならギリギリ大丈夫ですわ」

ポピッカがこたえる。ただ、冷静さを保っているように見えるものの、心中穏やかでないのは確かなようだ。

「そりゃ、どういうこったい、旦那」

ポピッカが喋り終わるか終わらない内に、ゲルドーシュが心配そうな顔で口を挟む。

「うん、こちらとしては脱出できるかどうか、出来ないにしても救出までにどれくらい時間が掛かりそうかを知るのが先決だ。

地下1階と2階の構造は殆ど同じという事は分かっているから、地下2階の最短ルートを通る時に真上の階の透視をすれば、脱出や救出がどれだけ簡単か難しいかの目安を得られると思うんだ。

つまり、階層を繋ぐ階段部分あたりだけが崩れているのか、地下一階が全面的に埋まっているのかの推測が出来るって事だよ」

ボクは、未だ完全には落ち着きを取り戻せていない戦士を諭すように言った。

魔使具人形が地下2階から3階へと降りる階段の場所まで到着したところで、ボクらはポピッカの報告を不安と期待の入り混じった感情で待ちのぞむ。

「結果から言うと、かなり悲観的に考えなければならないようですわ。透視したルートの全てではないのですが、殆どの場所で透視が出来ません。つまり瓦礫に埋まっていると考えるべきですの。

透視できる距離の範囲全てが瓦礫で埋まっているとすると、地下1階の天井部分が崩落しただけではなく、一緒に地上階の床部分も全面的に抜け落ちたと判断するのが妥当ですわね。

よって私たちが自ら脱出を試みる事は不可能に違いですし、救出活動をするにも時間が掛かるという事ですわ」

僧侶は、つとめて淡々とした口調で説明した。

「ちょっと待て!なぁ、旦那よぉ、瓦礫があるんだったら、それを取り除けば済む話だよな。ほら、前に旦那が使った爆発魔法だっけ、あれを使って瓦礫をふっ飛ばして行けばいいんじゃないのか?」

ゲルドーシュが妙案を思いついたとばかりに提言する。

「いや、ダメだよ。ただでさえ崩落が起こって、ダンジョンが構造的に弱っている可能性が高いんだ。そこで爆発魔法なんて使ったら、それこそ新しい崩落を招いてボクら皆、生き埋めになってしまう危険性が高い」

ボクは心苦しくも、戦士の進言を却下する。

当面の対策が何もないと分かり、一同がそろってため息をつく。これはかなり深刻な状況である。たった一つ希望があるとすれば、それは救出される前にボクらが飢え死にする可能性は低いという事だ。

結界に守られたベースキャンプは各階にある。現在地下7階と8階のその場所は確認していないが、少なくともこの階までのベースキャンプに蓄えられている水や食料で、かなりの間は生き延びる事が出来るだろう。最悪の場合はボクとポピッカで新陳代謝を下げる魔法を使い、安全地帯の中で仮死に近い状態を維持するようにすれば、更に救出までの時間を稼ぐ事も出来る。

「とりあえず、地下6階のベースキャンプまで戻ろう」

地下7階のベースキャンプまでと距離はさほど変わらないが、今の不安定な精神状態で、新たな前進をする事は避けたい。魔使具人形が帰還するのを待ち、ボクたちは上の階の安全地帯まで引き返した。

昨晩宿泊したベースキャンプに戻ると、ボクとポピッカは軽い食事を用意する。とにかく心を落ち着かせるのが先決だ。

食事にうるさいゲルでーシュでさえ、何も喋らないで食べ物を黙々と口に運ぶ。そんな、通夜のような時間が重苦しく過ぎていった。

「あ、そうそう、忘れていましたわ。ザレドスさん、頼まれていた瓦礫の一部、お渡ししておきます」

ポピッカが、瓦礫の小片を細工師に手渡す。

「何をするんですか、それで」

ボクが尋ねる。普段なら好奇心の強いゲルドーシュが担当する役割であるが、彼は未だ茫然自失といった顔つきで、見えるはずもない遠くの風景を見ているようだ。

「ちょっと、調べてみたい事がありましてね。もしかしたら重要な事が分かるかも知れません」

そう答えるとザレドスはザックから新しい魔使具を取り出し、瓦礫の欠片を調べ始めた。

ボクには無限の時間が過ぎたように思えたが、実際は15分程度であったろうか。

「う~ん、これは……」

ザレドスが悩まし気に唸った。

「どうしたんですか」

彼以外の三人を代表して、ボクが問いかける。

「これはある意味、尋常ならざる事態です。のんびりと救出を待っているわけには行かないかも知れません」

まるで覇気がなかったゲルドーシュを含め、皆がザレドスの二の句を食い入るように待った。

「崩落は自然に起きたものではありません。魔法によって、人為的に起こされたものです」

「え!」

ボク、ゲルドーシュ、ポピッカが同時に叫ぶ。

「どういう事だよ、それは!ワケわかんねぇぞ!」

ゲルドーシュがザレドスに食ってかかった。

「おちつけ、ゲルドーシュ。まずはザレドスさんの話を聞こうじゃないか」

本当はボクだって、突拍子もない事を言い出した細工師を詰問したいところだが、かろうじて冷静を装う事に成功した。
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