よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

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魔使具人形

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いよいよ地下7階だ。この下には依頼のメインである最深部が控えている。ボクたちは緊張した心持ちで、未踏破部分の探索にあたる。

だいたい半分くらいまで目的を達した時、異変は起こった。

「気をつけて! 何かが後方よりやって来ます」

探査用魔使具を装備しているザレドスが叫ぶ。

一同に凄まじい緊張が走った。今までこれといった脅威がなかった分、その知らせはボクたちを著しく刺激する。

ところがそれは、意外な形で大いなる疑問に変わった。後ろから迫りくる脅威の正体は、なんと先ほど放った使い魔であったのだ。

使い魔は「お届け先に、辿りつく事が出来ませんでした」と三回告げた後、自らが召喚された魔方陣プレートに吸い込まれ消えていく。彼らは任務を達成できなかった場合、魔方陣プレートを通じて然るべき場所へ戻って行くのである。そして残されたプレートの裏には「未達」と表示され、日時など詳しい情報が浮かび上がるのだ。

「どういう事でしょうか」

ザレドスがいぶかる。

「単純に、迷子になっただけじゃねぇのか?」

ゲルドーシュが面倒くさそうに、魔方陣プレートをのぞき込んだ。

「違いますわね。あなたじゃあるまいし、地図を覚え込まされている彼らが、道に迷うなんて事は有りえませんわ」

ポピッカが顎を突き出す。

「メッセージによれば受け取り拒否などではなく、そもそも相手のところへ到達できなかったという事だろう。今までは問題なく行き着いていたわけだから、これは面妖だ」

ボクは訳が分からず、何の進展もない返答をするしかなかった。

「さてと、どうしたものですかな」

「えぇ、全くですわ」

細工師の戸惑いに僧侶が呼応する

「は? どうするもこうするも、そんなもん放っておいて先へ進もうぜ」

”何を悩んでいるんだ”と言いたげなゲルドーシュ。

「ボクも昨夜の音の件がなかったら、新たな使い魔を送り出して先へ進もうとするだろうけど、ここは迷うところだなぁ」

ボクはうつむき、あごに親指とひとさし指をあてた。

「なんだよ、旦那まで。一体何が問題なんだよ」

イラついた戦士が突っかかって来る。

「もしも昨晩の奇妙な音と、使い魔が戻って来た事に関連性があるのなら、ここは慎重に考えなきゃいけないって事さ。もちろん無関係だって可能性も十分あるけれど、今まで順調だった分、今はもっと慎重にならなければって思うんだ」

ボクたちは周囲を警戒しつつ円陣を組んだ。

「そうですね。新たに使い魔を放って向こうに届けばそれで良いのですが、再び戻ってくる事も考えられます。しかも使い魔は決められた動作しかしないので、向こうへ着けない原因を教えてはくれません」

ザレドスが、自説を述べる。

「うん。ゲルドーシュの言うように、もう一度使い魔を放って様子を見るのも一手なんだけど、ここは地下7階だ。使い魔が無事到達できたか、はたまた再び戻って来てしまうのかがハッキリするのには時間が掛かってしまう。

それから新たに対策を考えるのでは、遅すぎる気がするんだよ。もちろん皆で引き返して、到達できない原因を探るのも非効率的だ」

ここは慎重な上にも慎重を期す必要があるとボクは直感した。そんな悩めるリーダーに僧侶が助け舟を出す。

「一つ提案がありますわ。これを使うんですの」

ポピッカは腰にぶら下げていた袋から、あるアイテムを取り出した。圧縮魔法を解くと、それは2枚の薄い羽を持った大きさ15cmほどの人形となる。ただし愛玩用の人形とは違い、如何にもからくり仕掛けといった様相で、頭部も兜と仮面をつけたようなデザインであった。

「お? そいつぁ何だい。お人形さんかい。ポピッカよぅ、子供じゃねぇんだからさ、そんなもん、ダンジョンに持ち込むんじゃねぇよ」

ゲルドーシュが、呆れた顔をして咎め立てをする。

「いや、それは魔使具ですね、小型の人形タイプの……。実際に見るのは初めてですが」

ザレドスが持ち前の好奇心を発揮する。

なるほど、ボクも話には聞いた事がある。生き物をかたどった魔使具は珍しくもないが、馬車を引かせる馬型や農作業に使うウシ型のような、大きくて力仕事目的の製品が殆どだ。小型の物は珍しい。

「で、それをどうするんだい?」

期待と不安の入り混じった口調でボクが尋ねる。

「この魔使具人形は、私の意のままに何処へでも飛んで行きますの。そして操れる有効範囲内であれば、この人形が見たものを私も見る事が出来るし、物を拾ったりボタンを押したりも出来るのですわ」

自慢する様子もなく、僧侶が淡々と話す。

「スピードも普通の使い魔の6倍はありますの。そこでこれを地上に向けて飛ばし、使い魔が何故戻って来たのかを確認してはいかがでしょう?」

うさん臭い目で人形を見るゲルドーシュをよそに、ポピッカの説明が続いた。

ボクとザレドスは彼女の提案に賛成し、ゲルドーシュも渋々ながら同意する事となった。

では早速と、彼女はザレドスの探査魔使具からダンジョンの地図データを人形にダウンロードし、聞いた事のない呪文を唱え始める。

暫し沈黙の後、軽装鎧をまとったような人形に生えている半透明の羽が光り出し、それは空飛ぶ脱兎のごとく迷宮の奥へと吸い込まれて行った。
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