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旅立ちの朝
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朝5時半、ボクは目覚まし時計が鳴る前に眠りから抜け出した。良い兆候である。けたたましいベル音と共に仕方なく起きると、一日中気分が良くない。
身支度をして食堂へ向かう。既に役人の何人かとザレドスが朝食を取っていた。朝の挨拶をして既知の仲となった細工職人の向かいに座り、ボクも食事にありつく。
「いよいよ出発ですな。今回の依頼は比較的簡単なようですが、私の経験上、こういう時はどこかに落とし穴が存在する場合が多い。気を引き締めなくては」
食事の手を休めたザレドスが言った。
「全くです。皆が、いや特にゲルドーシュがそういう風に思ってくれると有り難いんですけどねぇ。気が緩んでいるのに加えて、ポピッカさんとイザコザを起こさなきゃいいんですが」
ボクたち二人が保護者となり、問題児二人の御守りをする様相である。
「二人とも、おはよーさん。今日は朝から気分がいいねぇ。二日酔いをしないで朝を迎えたなんてぇのは、何ヶ月ぶりかな」
噂の問題児、ゲルドーシュがやって来る。
いや、それはボクが二日酔い防止の魔法をかけたからなんだけど……とは言い出せないので、そのまま食後のお茶をすする。それに昨晩の独白を、覚えているのやら、いないのやら……。
彼は腹八分目という言葉が空しく感じられるほど大量の飯を、これまた良く噛みもしないで端からガンガン掻っ込んでいく。
「もう少しゆっくり食べたらどうなんだよ、ゲルドーシュ。あとで腹痛を起こしても、治す魔法を掛けたりはしないぞ」
ボクの説教も耳に入らない様子で、口いっぱいに食べ物を頬張りゴクンゴクンと喉から腹へと滑り落とす大男。
「そういえば、あの嬢ちゃん僧侶が見えないな。まだグーグー寝てるんじゃねぇのか、仕方のねぇ!」
「あぁ、ポピッカさんなら私がここへ来た時にはもう食事を終えて、自室に帰って行きましたよ。まぁ、聖職者っていうのは朝が早いと相場が決まっていますからね」
毒づく戦士にザレドスが情報を施す。
「ちぇっ! あいつには仲間になる者同士、コミュニケーションを取ろうって気もねぇのかよ。全く困った奴に当たっちまったもんだ。そうだろ、リンシードの旦那」
”お前がそれを言うか!?”と、喉まで出かかったものの、残ったお茶と共にグッと飲み込むボクであった。
「ゲルドーシュ、集合時間に遅れるなよ」
未だ山盛りの食事と格闘中の戦士に声をかけ、ボクは自室へと戻る。持ち込んだナップザックの中身を再確認し、出発前の最後の時間をゆるりと過ごした。
さて、出立の時刻。宿泊施設の正面玄関前に大型のビークルが迎えに来ており、ギリギリでやって来たゲルドーシュを含むパーティーメンバー、担当者の役人数名、その他の乗務員を乗せてボクらは西方にあるバッテルム遺跡へと向かう。
暫くは街の風景が続いたが、ほどなく荒涼とした大地をひた走る事となった。目的のダンジョンがある遺跡まで都合二時間ほどの旅である。役人たちは絶え間なく相談をし、あれやこれやと善後策を話し合っている。
彼らは今、どんな心境でボクらの事を見ているのだろうか。何かを期待しているのだろうか、それとも自分のミスにならなければ、結果はどうでも良いと考えているのだろうか。
ザレドスは相変わらずダンジョンのデータとにらめっこをしているし、ゲルドーシュは宿泊施設で仕入れた携帯食をバリバリと頬張っている。朝あれだけ食って、まだ食うのかよ……。まぁ、ザレドスは情報を食し、ゲルドーシュはジャンクを食す……、なーんて、ボクもちょっと上手い事を考えるなぁ。
一方ポピッカはというと、眠っているのか祈っているのか、手を胸の下へ置き微動だにしない。
ボクとゲルドーシュは互いの力量を知っているし、ボクとザレドスも短期間ではあるが、語らう中である程度の能力を察し合っていた。しかし彼女については手練れであろうとの予測はつきはするものの、殆どの部分が未知数といってよい。
こういった場合、現地でのすり合わせが重要になるのだが、彼女とゲルドーシュの仲を考えると、果たしてそれがスムーズにいくものかどうか……、本当に心配である。仲たがいが元で、依頼が達成できなくなっては目も当てられない。
もっともそちらは今考えても仕方がない事なので、漠然としたままではあるが依頼の達成をシミュレーションしてみる。
ダンジョンの入り口は州兵がガッチリと固めているとの事で、新たに外から魔物や獣などが入り込む余地はないという。それもあって、ダンジョン内には限られた敵しかいないというわけなのだが、万が一、その探索出来ないという最深部から魔物の類が湧いて出る事はないのだろうか。
そういった可能性を考えると、ダンジョン内に何か所か点在する、安全地帯での補給や休息が重要になるだろうなぁ。
我が身とモバイラーに目いっぱいの濃縮マジックエッセンスを充填してきたものの、敵のレベルいかんでは足りなくなる可能性が高い。結界で守られた安全地帯にはマジックエッセンスのタンクもあるというから、そこでの補給は欠かせないものになる。複数の安全地帯を言わばダンジョン内のベースキャンプとして、最深部を目指す事になるわけだ。
あと、最深部以外の未踏破部分だが、提供された資料では何か不自然な感じがしないわけでもない。元々、強力な魔物や獣は殆どいなかったらしいから、かなり自由に探索できたはずなのに、意味不明の未探索エリアが点在している。規則性があるようなないような……、あとでザレドスに意見を求める事にするか。
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この小説に登場するキャラクター計7人と1体のラフイメージをpixivに投稿しました。
https://www.pixiv.net/artworks/111751777
身支度をして食堂へ向かう。既に役人の何人かとザレドスが朝食を取っていた。朝の挨拶をして既知の仲となった細工職人の向かいに座り、ボクも食事にありつく。
「いよいよ出発ですな。今回の依頼は比較的簡単なようですが、私の経験上、こういう時はどこかに落とし穴が存在する場合が多い。気を引き締めなくては」
食事の手を休めたザレドスが言った。
「全くです。皆が、いや特にゲルドーシュがそういう風に思ってくれると有り難いんですけどねぇ。気が緩んでいるのに加えて、ポピッカさんとイザコザを起こさなきゃいいんですが」
ボクたち二人が保護者となり、問題児二人の御守りをする様相である。
「二人とも、おはよーさん。今日は朝から気分がいいねぇ。二日酔いをしないで朝を迎えたなんてぇのは、何ヶ月ぶりかな」
噂の問題児、ゲルドーシュがやって来る。
いや、それはボクが二日酔い防止の魔法をかけたからなんだけど……とは言い出せないので、そのまま食後のお茶をすする。それに昨晩の独白を、覚えているのやら、いないのやら……。
彼は腹八分目という言葉が空しく感じられるほど大量の飯を、これまた良く噛みもしないで端からガンガン掻っ込んでいく。
「もう少しゆっくり食べたらどうなんだよ、ゲルドーシュ。あとで腹痛を起こしても、治す魔法を掛けたりはしないぞ」
ボクの説教も耳に入らない様子で、口いっぱいに食べ物を頬張りゴクンゴクンと喉から腹へと滑り落とす大男。
「そういえば、あの嬢ちゃん僧侶が見えないな。まだグーグー寝てるんじゃねぇのか、仕方のねぇ!」
「あぁ、ポピッカさんなら私がここへ来た時にはもう食事を終えて、自室に帰って行きましたよ。まぁ、聖職者っていうのは朝が早いと相場が決まっていますからね」
毒づく戦士にザレドスが情報を施す。
「ちぇっ! あいつには仲間になる者同士、コミュニケーションを取ろうって気もねぇのかよ。全く困った奴に当たっちまったもんだ。そうだろ、リンシードの旦那」
”お前がそれを言うか!?”と、喉まで出かかったものの、残ったお茶と共にグッと飲み込むボクであった。
「ゲルドーシュ、集合時間に遅れるなよ」
未だ山盛りの食事と格闘中の戦士に声をかけ、ボクは自室へと戻る。持ち込んだナップザックの中身を再確認し、出発前の最後の時間をゆるりと過ごした。
さて、出立の時刻。宿泊施設の正面玄関前に大型のビークルが迎えに来ており、ギリギリでやって来たゲルドーシュを含むパーティーメンバー、担当者の役人数名、その他の乗務員を乗せてボクらは西方にあるバッテルム遺跡へと向かう。
暫くは街の風景が続いたが、ほどなく荒涼とした大地をひた走る事となった。目的のダンジョンがある遺跡まで都合二時間ほどの旅である。役人たちは絶え間なく相談をし、あれやこれやと善後策を話し合っている。
彼らは今、どんな心境でボクらの事を見ているのだろうか。何かを期待しているのだろうか、それとも自分のミスにならなければ、結果はどうでも良いと考えているのだろうか。
ザレドスは相変わらずダンジョンのデータとにらめっこをしているし、ゲルドーシュは宿泊施設で仕入れた携帯食をバリバリと頬張っている。朝あれだけ食って、まだ食うのかよ……。まぁ、ザレドスは情報を食し、ゲルドーシュはジャンクを食す……、なーんて、ボクもちょっと上手い事を考えるなぁ。
一方ポピッカはというと、眠っているのか祈っているのか、手を胸の下へ置き微動だにしない。
ボクとゲルドーシュは互いの力量を知っているし、ボクとザレドスも短期間ではあるが、語らう中である程度の能力を察し合っていた。しかし彼女については手練れであろうとの予測はつきはするものの、殆どの部分が未知数といってよい。
こういった場合、現地でのすり合わせが重要になるのだが、彼女とゲルドーシュの仲を考えると、果たしてそれがスムーズにいくものかどうか……、本当に心配である。仲たがいが元で、依頼が達成できなくなっては目も当てられない。
もっともそちらは今考えても仕方がない事なので、漠然としたままではあるが依頼の達成をシミュレーションしてみる。
ダンジョンの入り口は州兵がガッチリと固めているとの事で、新たに外から魔物や獣などが入り込む余地はないという。それもあって、ダンジョン内には限られた敵しかいないというわけなのだが、万が一、その探索出来ないという最深部から魔物の類が湧いて出る事はないのだろうか。
そういった可能性を考えると、ダンジョン内に何か所か点在する、安全地帯での補給や休息が重要になるだろうなぁ。
我が身とモバイラーに目いっぱいの濃縮マジックエッセンスを充填してきたものの、敵のレベルいかんでは足りなくなる可能性が高い。結界で守られた安全地帯にはマジックエッセンスのタンクもあるというから、そこでの補給は欠かせないものになる。複数の安全地帯を言わばダンジョン内のベースキャンプとして、最深部を目指す事になるわけだ。
あと、最深部以外の未踏破部分だが、提供された資料では何か不自然な感じがしないわけでもない。元々、強力な魔物や獣は殆どいなかったらしいから、かなり自由に探索できたはずなのに、意味不明の未探索エリアが点在している。規則性があるようなないような……、あとでザレドスに意見を求める事にするか。
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この小説に登場するキャラクター計7人と1体のラフイメージをpixivに投稿しました。
https://www.pixiv.net/artworks/111751777
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