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作戦会議

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予定通り、午前9時半頃バッテルム遺跡に到着。ダンジョン付近に辿りついた後、搭乗していた大型ビークルはキャンプモードに変形する。それに伴い乗員へあれこれと指示を出す役人たち。皆、慌ただしく動きはじめる。そしてボクら雇われパーティーのメンバーは担当の役人に連れられて、州兵の隊長に引き合わされる事となった。

州兵たちはダンジョンの入り口を守るのに加え、浅層部の巡回職務も担っている。万が一、未踏破の深層部から新たな魔物の類が大量発生する可能性を考えての事なのだろう。

穏やかな顔つきをした四十代であろう州兵の隊長が、現在のダンジョン内の様子を伝えてくれる。州兵と冒険者、命を懸けて戦うという共通点があるからか、話の通りが早い。役人が後々の責任逃れのために行う、非常にわかりづらい説明とは雲泥の差だ。

そのあとパーティーメンバーは、昼食時まで自由行動ととなる。ザレドスは隊長と引き続き情報交換をし、ビークルで窮屈な思いをしていたゲルドーシュは体を伸ばしてストレス発散、ポピッカはその様子を眉をひそめて一べつしたあと、ダンジョン近くの遺跡を見て回ると去って行った。

このバッテルム遺跡は彼女の信奉するフォラシム教と、それに対抗するバリゾラント教が、かつて激突した有名な古戦場である。ポピッカとしても、何がしかの思い入れがあるのだろう。

ボクはといえば、ビークルへ戻って持参したアイテムの点検をする。探索に必要な物の圧縮魔法を解き、間近に迫った任務に向けて思いを馳せる。

午前11時頃、ビークル内で早めの昼食をとる。場所は移動時の座席ではなく、変形後に設けられた、くつろげる雰囲気の仮設ラウンジだ。さすがに乗り物内とあってそれほど広くはないものの、パーティーメンバー四人が集まり、これから始まる探索について話し合いをしながらの食事となった。

州兵の待機所に残って、色々と情報収集をしていたザレドスが口を開く。

「隊長さんの話では、もう何日もダンジョン内にはこれといった変化はないようですね。時々、獣や魔物の類に遭遇する事はあるらしいのですが、殆どの場合向こうが逃げ出してしまうらしいです。

ただ一つ気になる点がありまして……」

くつろいでいた他のメンバーが、一斉に緊張の色を見せる。ダンジョン突入の時間が差し迫っている事もあり、多少のピリピリ感があるようだ。

「何だい、何だい。もったいぶらずに早く教えてくれよ、ザレドスさんよ」

手持無沙汰にしているゲルドーシュがせっつく。

「それがですね、最近、時たまではあるらしいのですが、今までダンジョン内では見た事がない種類の魔物と遭遇するらしいのですよ。もっとも、特に強力な類のものではないので、大抵は逃げ出していくそうなんですけどね」

ザレドスの説明に、ポピッカが反応する。

「それは、気になりますわね。入り口を州兵が固めているわけですから、外から侵入する事は不可能でしょう。そうなると既にダンジョン内にいた事になりますが、州付きのパーティーが報告した中にそういった魔物がいないとなると、”どこからか”湧いて出て来た事になってしまいますわね」

もっともな話だと思う。ザレドスが言わんとする事も、恐らくはそうなのであろう。報告に反する魔物がいるとなると、提供された資料を鵜呑みにする事は出来ない。今のところ州兵が遭遇したのは下位の魔物らしいが、高位の魔物が潜んでいる可能性も考慮しなくてはなるまい。

「まぁ、細かい事は気にしないでいいんじゃねぇか!? どんな奴らがいようともさ、ブッ倒せば問題ないだろうがよ」

ゲルドーシュが、面倒くさそうに口を挟む。

その通り、その通りさ。ただしブッ倒す事が出来ればの話だがな! 奴としては孕ませた彼女の借金返済の為に、任務の成功が第一だとしても、やっぱり群がる敵をなぎ倒したいという戦士の性を抑える事は出来ないらしい。

「 まぁ、脳みそが筋肉で出来ている御仁には、そう思えるのでしょうね」

ポピッカが鼻をフンとならす。

「何だとコラ! 出てくる奴をみんな倒せば問題ないだろうが。どこが間違ってるっていうんだよ! そうだろリンシードの旦那」

「いやまぁ、理屈ではそうなんだろうけど……」

おい、こっちに振って来るんじゃない。これから助け合っていかなくちゃならない仲なんだぞ。今からこんなんでどうすんだよ。目線をザレドスの方にやり、それとなく救援を求めるものの、ここはそれぞれの自己責任と言わんばかりに、穏やかな微笑みで返されてしまう。

こうして凸凹な会議がしばらく続いた後、探索時に恒例となっている、ある取り決めについて話し合われる事となった。それは任務中における各々の呼び方である。

ダンジョンに限らず危険が伴う任務の場合、もしくは危険かどうかすら不明な状況の場合、素早い伝達や意志疎通が重要となる。相手に呼び掛けたり指示を出す際、長ったらしい名前や呼びづらい名前だと、その分、時間が掛かってしまう事になるわけだ。

その為、任務中に呼ぶ名前を簡略化するのが一般的となっている。時間にすればほんの僅かな差であっても、それが生死を分ける事が珍しくはないからだ。

もちろん敬称を略すなんてのは当たり前の話であり、それこそ相手が王族でもない限り、年齢差や経験差に関係なく呼び捨て御免となる。仲間の命と自分の命を守るため、この慣習に文句を言う者はまずいない。

また任務中は、タメ口が許されている。

もしこれらの事に不快感を示すような輩がいれば、その冒険者は”ど素人”と見なされるだろう。

冒険者の仕事とは、それだけ危険と隣り合わせなのだ。
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