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会長を中心に世界が回る8
しおりを挟む「サジョウ。どうしたんだ?」
佐城に馴れ馴れしく話しかけた青井。
親しくなった覚えはないんですと佐城は視線を送るが、青井は気にせず歩く佐城の隣につく。
そして気になる佐城が持つものをじっと見る。
「…これが気になりますか?子猫ですよ。捨て猫か野良の猫かははっきりしませんが、私の親衛隊の子が学園内で見つけたんです。子猫だけしかいなかったのもあって、保護しました」
佐城の持つ紙箱には小さな猫が3匹いる。
「風紀のところで預かろうか?」
「はあ?あんな男達のいるところに持っていくんですか?猫の精神衛生上よくないでしょう。それに確定ではないのですが、飼い主候補はすでにいますので」
「そうか…」
つんつんと言葉に刺をつけている佐城にも青井はさらりと流す。避けられたり家墨のことを話されてるよりは上々なのだ。
「その飼い主候補のところに持っていくのか?」
「いえ、少しお借りしてるんですよ。この前の事で、カスミの精神が傷ついてしまいましたので、癒し要員にしようと思いまして」
「………そうか」
あの後、青井が見た家墨はいつもと変わりなかった。とはいえ、ここで傷ついてないだろとは言ってはいけないと分かる。
「それで、いつまでついてくるんですか」
「ん?この前の事での事後報告をしにきたんだ。2人とも被害者だし、俺のほうが風紀委員長よりはいいだろ?」
「それはそうですが…」
あんな男が家墨の部屋に来るなんてありえない。
しかし青井とて不良だ。今の家墨に合わせていいものか。報告を聞くのを拒否するのもおかしいが。
「それとほら、風紀一同から見舞いの品?も持ってきてるし」
ケーキの箱を見せた青井。あの不良集団がそんな気遣いができるなんて驚きだ。
「なるほど…。まあ、ケーキに罪はありません」
溜息をついて諦めた佐城。寮の役員専用のフロアにある家墨の部屋に、青井と共にやってきて中へと入る。
「あ?なんで風紀の奴が来たんだ」
ソファーにだらしなく寝転がってた家墨は青井を見て顔を歪めた。
「この前の報告と見舞いの品の献上だそうです」
「ふーん」
佐城とて渋ったというのに、ふーんですんだ家墨は大物かもしれないと青井は思う。
「…なんだ?ミーミー聞こえる幻聴か?」
ミーミーのほうが驚きなようで、首を振って周囲を見回している。
「違います。子猫ですよ。どうぞ」
佐城は寝転がる家墨の腹のあたりに、子猫をつまんで次々に置いていく。
「はあ?…いらん。元いた場所に置いてこい」
「なにいってるんです。小動物ですよ。癒されるといいですよ」
「いや、意味わからんぞ」
動物好きでもなければ嬉しくもないだろう。そんな訝しむ家墨を気にせず、佐城は部屋に散らかっている鞄や脱ぎっぱなしの制服の上着を片づけていき、紅茶をいれた。
いい奥さんになりそうだと青井はみた。自分にたいしてでないのが複雑だが。
「それでは、報告を聞きましょうか」
「ああ…」
ケーキと紅茶が並べられ、佐城と青井は家墨のいるソファーの向かいに座った。
家墨を見れば、はじめ嫌そうで子猫に触れていなかったが、子猫のほうが暖かい家墨にすり寄った。
それによってふわふわな感覚が気に入ったのか、ソファーに座りなおし、膝の上に猫を乗っけている。
一匹を両手で持ち上げ目の前に持っていく。しげしげと珍しそうに見ている。
そんな家墨を佐城は微笑ましそうに見ていて、その佐城を青井が見ている。
長く見ていたいが、話を進めねば。
「会長を襲うなんて、馬鹿な行為をしたものだが、3人ともそれなりの家だった。そのせいで理事の連中が尻込みしてな。未遂ですんだこともあり、一週間の謹慎だけになりそうだ」
「それ…、罰になります?」
この学園は大学部まであり、社会に出てもそれなりの家なら親の会社に入るだけだろうし、今回のことは傷ともいえない。
「委員長はぶちぎれて、退学だ!って叫んでいたがな。さすがに無理だった。すまない」
「なるほど。それで見舞いの品を持ってきたわけですか」
「ああ……。見舞いというより、お詫びだな」
本当は、家墨を1人にした原因が風紀の1人で、事の起きる直前には委員長が会っていて、タイミングが悪かったとはいえ、風紀の落ち度といえるだろう。
そんな本当のことを青井は言って謝りたいところだが、北義のことを考えると、言ったら最後だ。家墨との関係は終わる。北義が家墨に近づくことすらできなくなるだろう。
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