悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ

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学園編

 5.トラブルメーカーでした3

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「卑しい貧民風情が! お前たちなんて、生きているだけで迷惑なのよっ!!」
 ――ああ! ご令嬢が手を振り上げた! 引っぱたく気かもしれない! 

 ――――

 え?

 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。私の髪が一房、床に落ちている。視界の端をチラチラと動くに気付いて、触れてみた。

 ――短くなっている。
 少し遅れて、先程のがハサミの音だと気づいた。……やられた!

 まず、社交界デビュー前の貴族令嬢が不特定多数の男性がいる場合、家族から護身用に刃物を持たされるのは、珍しいことじゃない。王立学園のような場所に、護衛なしにやってくる場合などは特に。ドレスの下に付けるポケットバックには、ナイフの刃で己を傷つけないよう対策されている物だってある。
 この国には、貴族令嬢に適応されるような銃刀法などない。そういった法律は、もっぱら貧民へ向けられる。

 しかし……殺意もなしにハサミを振り回すとか……学園の教育カリキュラム、見直した方がよろしいのではありませんか?!

「ナ……ナミ……!!!」
 マリー・トーマンの声が動揺からか震えている。確かに怯えるだろう。犯人の目的は彼女だったのだから。あ、もしかして……前回は、今の攻撃で髪を切られていた? え、どうしよう!!!


「なんてことするんですか! 謝って下さい!!!」

 ああもう、マリー・トーマンの怒りが止まるところを知らない……。


 ・
 ・
 ・


 ――というわけだ。
 確かに髪を失ったのは痛い。来月、髪を売りに出す予定だったのに。まあ、切れたのは少しだけだから、価格に変動が出ないといいけど。
 ミーシャ・デュ・シテリンの髪は結構高く売れる。売る側も買う側も、シテリン家の名前は出さない。けど、良い値段になるのだ。売ることが可能なら内蔵だってなんだって構わない。私に売れるものならなんだって売る。


「安心してナナミ! あなたのことはわたしが守るからね!!」
「正義の化身か!! それはこっちの台詞だから、ここは私に任せて貴女はそこの子連れて逃げて!」
 暗に被害者の存在を示すと、マリー・トーマンの意識がご令嬢からそれ始めた!
 よし、それでいい! ともかくとにかく、彼女たちをこの場から引き離したかった。私を守るとか言い出したのだ。これ以上ここにいたら、彼女がなにをしでかすのか分かったものではない!



「――お前たち、なにをしている!」
 聞き覚えのある声が聞こえた。
 その声は大きく、周囲に反響していたため、どこから聞こえてくるのかが分からない。視線をさまよわせ声の主を探していると――――。

「マリー?!」

 ――当該人物の背後から、柔らかな黄金色が飛び出してきた。の目に映っているのは、唯一人。ずっとずっと昔から、私はそのことを知っている。

「え?」
 現れた人物に、マリーは驚いていた。声を発した人物も、友人の突飛とも言えるその行動に驚いていた。でも、私は知っていた。は、彼女を覚えてる。他のなにを、誰を……きっと、私を忘れても……彼女のことだけは忘れることはないだろう。

「え? えっと……その……う、うん…………??」
 声をかけられたマリーは、他人を見る瞳で……目の前の空のような青い瞳を、真っ直ぐに見つめ返している。彼女は他人を傷つけるような人ではない。きっと……自分が忘れているだけなのだろうと、必死に記憶の中から彼の事を思い出そうとしているのだろう。


 やっぱり……パトリックの目には、マリー・トーマンしか映っていないのだ。
 でも、マリー・トーマンは、クリストフ殿下と恋に落ちるんだよ。



 なぜだろう、少し……息が苦しい。






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