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学園編

 4.トラブルメーカーでした2

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「……ああ、そこのお前!」

 ――ん? 相手はマリーから視線をずらし、に向かって話しかけてきた。うん、この態度はもしかしなくとも……私を使用人と疑わないまなざしで「こいつをなんとかしろ」と言外に主張をしている。こちらに指示を出すことで彼女たちが矛を収めてくれるのなら、その方が楽だ。

「はい、ではお嬢様のご用意もこちらで整えさせていただきます」
「ナナミ?!」
 名前言ってしまうんだ……まあいいか。偽名だから問題ない。それ以前に――マリー・トーマンがすることだから……うん、間違いであるはずがない。
 私なんかが是非を問うなんて――――おこがましいことだ。


「――フン! 好きにすればいいわ。みなさん、行きますわよ!」
 彼女たちは「付き合いきれない!」と言わんばかりの様子で、この場から立ち去ろうとしている。だが、実際はマリー・トーマンの思わぬ反撃にひるんだのだろう。プライドの高いことだ。
 私も、昔はそうだったのだろうか。怒りが頭を、心を、全てを支配して……客観的な判断などできなかった。あの時、今のような日本の記憶があれば…………!


「逃げるんですか?! 彼女に謝って下さい!!」
 なおもかみつくマリー・トーマン……。え、なんでそんな……あ、もしかして。
 このまま逃がせば、被害者へのイジメはよりひどくなると考えたのかもしれない。
「待って! 後で改めて話しするから――」
 マリーにだけ聞こえるよう耳元で小さくささやいたのだが、頭に血がのぼった彼女には届かなかったようだ。大声で言うわけにはいかないのに、困ったものだ。

「お前……に向かってなんて口の利き方をしますの?!」
 ああ! 取り巻きの一人がマリー・トーマンの火に油を注ぐ! トップの『今すぐ逃げろ!』の命令には迅速に従え! せっかく、トップが戦意喪失していたというのに……部下がそんな動きをしたら、トップは引くに引けなくなるだろう!
 案の定、背を向けて立ち去りかけていたトップ――グニラ・オレーンが、マリー・トーマンを憎々しげに振り返った。

 ――グニラ・オレーン
 前回は付き合いがなかった。その存在すら知らなかった。もしかしたら、学園へ通っていなかったのかもしれない。
 現在、彼女の父、オレーン伯爵が収めるオレーン伯爵領の経営状況は芳しくない。オレーン伯爵はよく言えば清廉潔白、率直に言わせてもらえば……ただのバカ。相手が悪である可能性を考えることが悪だ! と考えているようで、台頭してきたあくどい中流階級者に騙され放題となって

 最終的に、業者の作戦は阻止した。それも、私が新しく始めたの一環だったし。ただ……その結果、娘がこうなるとは想定の範囲外だ。
 彼女の中流階級者へのうらみつらみは厄介だ。何しろ、根拠のない優越感や幻想に満ちた選民意識から生まれたものではない。

 愚かに片足突っ込んだお人よしの父親が、邪悪な商人に食い物にされているのを――指をくわえてみているしかなかった。彼女の心境は察するに余り有る。

 この国ケブルトン王国では、女性が男性に物申すのはいまだ御法度とされている。
 私も、日本時代の記憶がなければ、孤児院への寄付金や、そのためのサイドビジネスについて、父に話をすることはなかっただろう。当然、父は当初、そんなことを言い出した私のことを、好ましく思ってはいなかった。貴族令嬢として、あり得ない行動だったから。
 ――悪役令嬢時代の記憶がなかったら、私は父に、殺されていたかもしれない。お互い、そのことについて触れることはこれから先もないだろうけれど。

 そういう複雑な事情を有しているグニラ・オレーンを、そう簡単に挑発しないで欲しいのだけれど?! 彼女の本当のところを、私は知らない。ただ、危険因子にありうる可能性だけは分かっている状態だから――――。





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