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学園編
6.トラブルメーカーでした4
しおりを挟む彼女の意識がパトリックに移り、完全に力が抜けたのを感じると……なんとなく、彼女から手を放して数歩下がり距離を取った。すると――いきなり手を引かれた!
「――ああ……すまない。知人と勘違いをしたようだ」
私の手を引いたのは、あのクリストフ殿下だった! ……そうだ、最初の怒鳴り声は彼の声だった。知人と勘違いとは、ミーシャ・デュ・シテリンのことだろう。うん、間違いではない。
こちらがまずい! と思うより先に、彼は人違いと判断していた。本当だろうか? もしかしたら、鎌をかけているのかもしれない――と思いながら、少しだけ警戒態勢で彼に向き直る。
「これは……」
不意に彼が視線を落とし、私の髪が切られていることに気づいた。
彼の顔色が変わる! 無駄に正義感の強い彼のことだ、このままでは面倒なことになってしまう! 被害者がマリー・トーマンなら致し方ないが、私なんだから捨て置いてもらいたい。それより――。
「あの、私は大丈夫なので、皆様、彼女たちを連れて行ってくれませんか?」
「彼女たち?」
ここで初めて、クリストフ殿下は被害者に気づいたらしい。彼女は気づけば、私たちから離れ、壁に手をつき完全に腰が引けた状態で寄りかかっていた。埒が明かないから、この場からとっとと離脱しようとしていたらしい。しかし恐怖が勝ったのか、うまく逃げられなかったようだ。
「ク……クリストフ殿下?!」
グニラ・オレーンがそう叫ぶのと同時に、取り巻きの少女たちが黄色い声を上げ始めた! 自分たちの立場分かっているのか問いかけたくなる。いや……私も、昔はこんな感じだったのだろう。
私の短くなった髪。床に落ちている同色のそれ。グニラ・オレーンの手に握られているハサミ。激昂して話にならないマリー・トーマンと、そんな彼女をなだめている私……。聡い彼のことだ、見ただけで状況を把握してしまったのだろう。彼の他者を蔑む冷たい視線が、私ではなくグニラ・オレーンに向けられる。
――ので、彼が決定的な拒絶の言葉を彼女に発する前に、退場してもらうべく、知恵をしぼった……!
◇
諸々あり――――私は、現在、人気のない中庭のガゼボでパトリックと顔をつきあわせる羽目に陥っていた……。
パトリックは己の失言(うっかりマリー・トーマンの名を叫んでしまった件)について、「知り合いに似ていたから」の一言で黙らせていた。マリーは純粋だから納得していたのだろうが、クリストフ殿下は最後まで少しだけ訝しんでいるようだったけれど。
私はパトリックとクリストフ殿下にマリーと被害者を任せ、グニラ・オレーンを懐柔しようと考えていたのだが……強制連行されました。
目の前の彼は、購買で購入したらしい飲料水を、涼しい顔で飲んでいる。
……な、なにを考えているのだろう? 私はなぜ、ここに連行されたのだろう??
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