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サーレック辺境伯(1)
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サーレック辺境伯邸の門を通ると、門兵が「ハルトムート様がお待ちになっております」とヴィルマーに告げる。
「ハルトムートってのは、俺の兄、次期サーレック辺境伯のことだ」
「ああ、そういえば、5人兄弟でしたよね?」
「そうだ。一番年が近い俺の妹は、もう結婚してとっくに家から出ている。兄貴ももうすぐ婚約者と結婚してこの家に住む。それから、弟妹が一人ずついるんだが、その2人は先日から王城方面のアカデミーに通うため、この家から出た」
そんな会話をしながら、ヴィルマーとミリアは馬から降りる。すると、2人の兵士が近づいてきて「馬はこちらに」と手を差し出したので、ヴィルマーは手綱を渡した。
「ああ。ミリア、馬は家のそっちに繋いでおいてもらうから」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
「はっ!」
ミリアがうっすらと微笑んで手綱を渡せば、若い兵士はわずかに頬を紅潮させる。それを見たいヴィルマーは
「ミリアは俺のだぞ」
と雑な釘を刺し、兵士は「は、はいっ!」と声を裏返した。
「ううん、君はそういう恰好をしても綺麗だからな……」
「ええ? それは勘違いかと思いますよ」
「勘違いじゃないよ。その、あれだ……顔か、と言われてしまうと困るが、俺は、その、ほぼ一目惚れみたいなもんだったからな」
「え」
「こんなに美しい女性が、あんな綺麗な剣を振るうのかと。惚れ惚れとした」
そう言うと、ヴィルマーは照れくさそうに「行こう」と雑に言葉を切って歩き出す。ミリアもまた、珍しくどう言葉を返していいかわからず「はい」と言って彼の後をついていった。
玄関を開ければ、驚いたことにそこはまるで花道のように使用人が並んでいた。ヴィルマーがそれを見て「はあ?」と声をあげたので、ミリアは「ああ、普段はこうではないんだな」と理解をする。
「なんだ、一体どうしたんだ? 兄貴、これは何だ?」
花道の先から歩いてくる男性の姿が。ヴィルマーによく似ているが、少しだけ年が上に見える。そして、少しだけヴィルマーよりも品があって落ち着いた印象をミリアは受けた。
「わたしもよくわからないんだが、父上が何やらこうやって迎えろと言って……」
そう言いながら苦虫をつぶしたような表情を見せる。
「で、父上は?」
「この大事な瞬間に、魔道具で何やら連絡が入ったらしく、部屋から出てきてくれない」
「阿呆か!」
「本当は、この中央に立って『よくぞ帰ってきてくれた、息子よ!』とか言いたかったんじゃないかなぁ……」
そのやりとりにミリアが目を瞬いていると、どこかの一室から荒っぽい声が聞こえる。どうやら二階からなのに、その声は案外と大きくエントランスにも響き渡った。
「うるさいうるさいうるさい! お前が何と言おうが、お前の娘さんは、俺の息子の嫁にするからな! レトレイド家に戻りたくなくなるぐらい、めちゃくちゃ大事にしてやるぞ! ざまあみろ!」
ええ? とヴィルマーはミリアを見る。ミリアも驚いて口を半開きにして、だが、その直後にきゅっと引き結ぶ。
「待て待て、親父は誰と話をしてるんだ!?」
大慌てでヴィルマーは使用人たちが作った花道を走って、エントランスから二階に続く階段をかけあがった。
しばらく一同は呆気にとられてその様子を見ていたが、仕方がないな、とミリアは長男に向かって礼をする。
「丁重なお出迎え、感謝に堪えません。ミリア・レトレイドと申します。この度、サーレック辺境伯よりご招待をいただき、馳せ参じました。このような姿で申し訳ございませんが、お許しいただけますと忝く」
「ああ、これはご丁寧にありがとうございます。ハルトムート・サーレックと申します。このサーレック家の長男です。ようこそ、ミリア嬢。父のわがままにお付き合いいただいたようで、大変申し訳ございません」
「いえ、わがままだなんて」
などと話をしていると、バタン、と大きな音をたてて一室の扉が開いたようだった。ヴィルマーがずかずかと出てきて「ミリア!」と二階から声をかける。
「なんでしょうか?」
「君のお父上に、俺の父親が何やら喧嘩を売ったようだぞ!」
「……それは、それは」
「なんでそんなに冷静なんだ!?」
「いえ、それだけ言われても……むしろ、わたしの父が喧嘩を買ったところを見てみたいのですが……買ったのでしょうか?」
「気にするのはそこじゃないだろ!?」
「いいえ。レトレイド家は武官の家門。レトレイド家に喧嘩を正しい形で売って、買ったのであれば、解決をするのは武によってのみ。場合によっては、サーレック辺境伯とわたしの父が決闘でもする可能性が」
そこへ、開け放たれた扉の中から「はあ!? 決闘!? 受けるわけないだろうが、バーカ! もう切るぞ!」と言う声が聞こえた。それを聞いて、ミリアは冷静に
「ああ、父は正しく買おうとしたのですね。なるほど」
と言うものだから、ハルトムートは
「ミリア嬢は変わった方だな……?」
と、いくらか呆れたように呟いた。
「ハルトムートってのは、俺の兄、次期サーレック辺境伯のことだ」
「ああ、そういえば、5人兄弟でしたよね?」
「そうだ。一番年が近い俺の妹は、もう結婚してとっくに家から出ている。兄貴ももうすぐ婚約者と結婚してこの家に住む。それから、弟妹が一人ずついるんだが、その2人は先日から王城方面のアカデミーに通うため、この家から出た」
そんな会話をしながら、ヴィルマーとミリアは馬から降りる。すると、2人の兵士が近づいてきて「馬はこちらに」と手を差し出したので、ヴィルマーは手綱を渡した。
「ああ。ミリア、馬は家のそっちに繋いでおいてもらうから」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
「はっ!」
ミリアがうっすらと微笑んで手綱を渡せば、若い兵士はわずかに頬を紅潮させる。それを見たいヴィルマーは
「ミリアは俺のだぞ」
と雑な釘を刺し、兵士は「は、はいっ!」と声を裏返した。
「ううん、君はそういう恰好をしても綺麗だからな……」
「ええ? それは勘違いかと思いますよ」
「勘違いじゃないよ。その、あれだ……顔か、と言われてしまうと困るが、俺は、その、ほぼ一目惚れみたいなもんだったからな」
「え」
「こんなに美しい女性が、あんな綺麗な剣を振るうのかと。惚れ惚れとした」
そう言うと、ヴィルマーは照れくさそうに「行こう」と雑に言葉を切って歩き出す。ミリアもまた、珍しくどう言葉を返していいかわからず「はい」と言って彼の後をついていった。
玄関を開ければ、驚いたことにそこはまるで花道のように使用人が並んでいた。ヴィルマーがそれを見て「はあ?」と声をあげたので、ミリアは「ああ、普段はこうではないんだな」と理解をする。
「なんだ、一体どうしたんだ? 兄貴、これは何だ?」
花道の先から歩いてくる男性の姿が。ヴィルマーによく似ているが、少しだけ年が上に見える。そして、少しだけヴィルマーよりも品があって落ち着いた印象をミリアは受けた。
「わたしもよくわからないんだが、父上が何やらこうやって迎えろと言って……」
そう言いながら苦虫をつぶしたような表情を見せる。
「で、父上は?」
「この大事な瞬間に、魔道具で何やら連絡が入ったらしく、部屋から出てきてくれない」
「阿呆か!」
「本当は、この中央に立って『よくぞ帰ってきてくれた、息子よ!』とか言いたかったんじゃないかなぁ……」
そのやりとりにミリアが目を瞬いていると、どこかの一室から荒っぽい声が聞こえる。どうやら二階からなのに、その声は案外と大きくエントランスにも響き渡った。
「うるさいうるさいうるさい! お前が何と言おうが、お前の娘さんは、俺の息子の嫁にするからな! レトレイド家に戻りたくなくなるぐらい、めちゃくちゃ大事にしてやるぞ! ざまあみろ!」
ええ? とヴィルマーはミリアを見る。ミリアも驚いて口を半開きにして、だが、その直後にきゅっと引き結ぶ。
「待て待て、親父は誰と話をしてるんだ!?」
大慌てでヴィルマーは使用人たちが作った花道を走って、エントランスから二階に続く階段をかけあがった。
しばらく一同は呆気にとられてその様子を見ていたが、仕方がないな、とミリアは長男に向かって礼をする。
「丁重なお出迎え、感謝に堪えません。ミリア・レトレイドと申します。この度、サーレック辺境伯よりご招待をいただき、馳せ参じました。このような姿で申し訳ございませんが、お許しいただけますと忝く」
「ああ、これはご丁寧にありがとうございます。ハルトムート・サーレックと申します。このサーレック家の長男です。ようこそ、ミリア嬢。父のわがままにお付き合いいただいたようで、大変申し訳ございません」
「いえ、わがままだなんて」
などと話をしていると、バタン、と大きな音をたてて一室の扉が開いたようだった。ヴィルマーがずかずかと出てきて「ミリア!」と二階から声をかける。
「なんでしょうか?」
「君のお父上に、俺の父親が何やら喧嘩を売ったようだぞ!」
「……それは、それは」
「なんでそんなに冷静なんだ!?」
「いえ、それだけ言われても……むしろ、わたしの父が喧嘩を買ったところを見てみたいのですが……買ったのでしょうか?」
「気にするのはそこじゃないだろ!?」
「いいえ。レトレイド家は武官の家門。レトレイド家に喧嘩を正しい形で売って、買ったのであれば、解決をするのは武によってのみ。場合によっては、サーレック辺境伯とわたしの父が決闘でもする可能性が」
そこへ、開け放たれた扉の中から「はあ!? 決闘!? 受けるわけないだろうが、バーカ! もう切るぞ!」と言う声が聞こえた。それを聞いて、ミリアは冷静に
「ああ、父は正しく買おうとしたのですね。なるほど」
と言うものだから、ハルトムートは
「ミリア嬢は変わった方だな……?」
と、いくらか呆れたように呟いた。
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