弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長?に甘やかされる

今泉 香耶

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プロポーズと招待と(3)

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「っ……」

 ミリアは、自分の手を彼の両手からそっと抜き取ろうとした。だが、彼はそれを許さず、ミリアの指に自分の指を絡める。彼の大きな手に包まれる自分の手を見ながら、ミリアは「いつもそうやって守ってくださっていたのだ」となんとなく思う。きっと、それを口に出せば、彼は「そんなことはないが」と言うに違いない。

 だが、ヤーナックに来てからというもの、ずっとヴィルマーはミリアたちのことを気にかけてくれていた。町長との間も取り持ってくれて、スヴェンも紹介をしようと、ヤーナックの滞在を彼らは延ばしてくれていた。それだけではなく、警備隊での諍いも。いや、もっと本当は細かなことをたくさん。

 それに、彼は気づいていなかった。だけど、考えたらわかったのだと彼は言う。今後は「わかられてしまった」ことが無性に恥ずかしい。ミリアの心境は忙しかった。

(甘えているってわかってくれないことにがっかりして、でも、甘えているってわかったと言われては、恥ずかしい。自分でもどうしようもないとは思うけれど……)

 こんな、本当は面倒な自分でもよいと彼は思ってくれるのだろうか。そう思って、ミリアはじっとヴィルマーを見つめた。彼はミリアと目線があったことにいささか照れくさそうに「なんだ?」と言って、右肩だけ軽くあげた。

「それで? 君は、そんな理由で、俺からのプロポーズを断ろうとしているのか?」

「いえ……違います。あなたのプロポーズを受けるのに……もう一度、どうしても……わたしが、うまく自分を変えられない部分を、飲み込んでいただけるのかどうかを」

「何も。変える必要はない」

 ヴィルマーはそう言うと、軽く肩を竦めた。

「人は、誰かと恋人になったり家族になったら、まあ互いに譲り合ったり、何か変わったりもするだろうが、変えられないものがあることも俺はわかっているつもりだ。君が言う『それ』は、変えられないものなんだろう?」

「そうかもしれません」

「だから、いいよ。いつか、自然に変わる可能性もあれば、いつまでたっても変わらないかもしれない。また。君が突然変えたい、と言い出す可能性だってある。俺は、その全部を尊重するさ。で、どうだ? 俺のプロポーズをいい加減、受け入れてくれる気になったんじゃないか?」

 ヴィルマーはそう言って、少しだけそわそわとする。その様子がおかしくて、つい、ミリアは笑い声をあげた。そして、彼女のその声で、今度はヴィルマーも笑う。

「もう、いいだろ。俺へのお伺いはこれぐらいで許してくれないか」

「そうですね。ごめんなさい」

「謝罪なんていらない。な、欲しいのはさ……」

 そう言って、彼は体をそっと前に倒して、ミリアの顔を覗き込む。手は彼女の指と自分の指を絡めたまま、もう片方の手は彼女の頬に伸びてくる。

「キスだ。話すより、そっちの方がいいだろう?」

 それにミリアは頷かず、ただ瞳を閉じて軽く顎を上に向けた。彼の唇があっという間に彼女の唇を奪う。浅く重なり、角度を変えて何度も、軽く音を立てながら与えられるキス。ミリアは彼になされるがまま、すべてを受け入れた。

 やがて、彼が「もう少し、いいか」と言うので「はい」と答える。彼女は、それを「もう少し今のキスを続けてもいいか」という意味だと捉えたからだ。

 だが、彼からのキスは深かった。唇を重ねる前に、彼の指がミリアの上唇と下唇にそっと当てられる。そして、わずかに上下にそれを開くように動いた。

 かすかに開いたミリアの唇に、彼の唇が重なる。深いキスをミリアは知らない。ああ、彼は知っているんだ……そんな風に思った瞬間、ちりりと胸の奥に軽い痛みが走ったが、それはどこか甘い。彼の過去に自分が思いを馳せるなんて、そんなこと……。

(駄目だわ……思考が、とりとめもなくなって……)

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