弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長?に甘やかされる

今泉 香耶

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手紙

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「ヴィルマーさんはお嬢様の前でかっこつけたかったんですかね!?」

 警備隊のもめごとからようやく解放されて、2人は一旦家へ戻った。戻るやいなや、ヘルマは少しばかり頓珍漢なことを口に出す。彼女からすれば「自分たちだけで解決できたのに!」という気持ちがあるのは事実だ。

「そうではないと思うわ」

 否定をするミリアの声を打ち消すように「おおい、手紙があんたたちに届いていたぞ!」と窓の外から声が聞こえた。見れば、町長のところで下働きをしている男性が、手に手紙を持っている。

 ヤーナックの町は、ギルドがない。おかげで郵送をするための組合もないので、まとまって町長の元に届けられる。実際、その手紙の量は少ない。そもそも、識字率もそう高くない上に、町の外のものとやりとりをしている人間なぞ数える程度。ほとんどが町長あてに届くものだ。

「ありがとうございます」

 窓から手を出してそれを受け取るミリア。見れば、確かにミリア宛の手紙らしい。

「あら」

 封蝋を見て気づく。これは、レトレイド家からのものだ。彼女は慌てて封を開けた。

「伯爵家からの手紙ですか?」

「ええ……ヘルマ、グライリヒ子爵の領地って、サーレック辺境伯の領地から近かったかしら?」

「ええっと」

 ヘルマは奥の部屋にいって、地図を持ってくる。地図といっても、街道の要所要所に売っている、手書きのこのあたりの大雑把な地図だ。

「あっ、サーレック辺境伯領地の東側に面していますね。多分、グライリヒ子爵家は、この川沿いにあったと思うので、辺境伯領地に近いと思われますよ。一体どうしたんですか?」

「そちらに、レトレイド伯爵家の傍系の子女が嫁ぐらしいわ。父が行く予定だったのだけれど、あいにく今腰を痛めてしまって馬車に乗っていくのが難しいというお話で」

「えっ、まさかお嬢様が行かれるんですか? ドレスも何もありませんよ……?」

「グライリヒ子爵家がその傍系の子のために開放をしてくれた別荘に立ち寄って、そこで着替えなどを整えてくれっていうお話ね。ここからだと馬に乗って……」

 とはいえ、今ヤーナックを自分とヘルマの両方が離れることはよろしくない。今日の今日で、あれだけ警備隊の件で揉めたのだ。こういう時に「逃げた」と思われるのは勘弁したい。

「ヘルマ。申し訳ないのだけれど、3日。3日間、どうにか一人で切り盛り出来るかしら?」

「お嬢様お一人で行かれるんですか? ううん……」

 ヘルマは一瞬戸惑いの表情を浮かべた。が、すぐに「大丈夫です!」とはっきりと告げる。

「ザムエルさんがいますし、わたしは一人じゃないですからね。3日間、きちんとお嬢様の留守をお守りいたしますよ!」

「ありがとう。3日後にここを出るわ。これの返信は不要とのことだけど、返信をしていたら確かに間に合わないものね……」

 一応、傍系の子女ということで、そちらの両親は式に参加をするとのことだ。とはいえ、嫁ぎ先の子爵家は本家なので、そうなればこちらも伯爵家の本家の代表が行くことが望ましい。

(あくまでも望ましい、という形だけれど、新婦のリリアナのことは、小さい頃からよく知っているし、それに、こういう時ぐらいはお父様のお役に立ちたいものね……長女のわたしが、結婚もせず、それどころか婚約破棄をされて、挙句に騎士団長を辞めて、なんて、本当に苦労ばかりをかけている)

 とはいえ、形ばかりでも返信は出しておこうとミリアは簡単に走り書きをした。あっという間に書き終わった手紙だが、その筆跡は美しい。

「ヘルマ。これを町長のところへ」

「はい」

 町長のところにやってくる郵便屋、と呼ばれる者は、翌日まで滞在をする。何故なら、そう頻繁に彼らはヤーナックを行き来するわけはなく、町長からの返信の郵便物を翌日まで待って持って出ることになるからだ。

 ヘルマは明るく返事をして、その封筒を持って出ていった。

(ドレスなんて久しぶりだわ……)

 このヤーナックに来てからというもの、すっかり楽な恰好に慣れてしまったと思う。

 ミリアは奥の部屋に置いてある姿見に近づいた。そうやってしみじみと自分の顔を見るのは久しぶりだ。彼女は貴族令嬢ではあったものの、騎士団の遠征などでそんな風に姿見をみない生活を送ることもあった。

 騎士団員の多くは貴族出身者で、長男長女ではないもの、傍系ではないもので占められている。が、それ以外は平民出身者、そしてその中から騎士の称号を得た者で構成されている。

 その中でも、第二騎士団は他の騎士団より遠征が多かった。勿論、王城を離れることは彼らの本意ではない。とはいえ、仕方なく王城への依頼が来た時に動くのは第二騎士団だ。何故なら、第一騎士団はまず何をもってしても王城、王族を守るために王城から離れることがないからだ。

 本来、第二騎士団も第一騎士団と共に王城にとどまるべき騎士団だったが、第三騎士団の騎士団長が「下々のものと共に遠征をするなんて」と、裏で手をまわしていたことが後々発覚をした。発覚をしてからは失脚をしたものの、彼が騎士団長でいる間、なんだかんだで第二騎士団長のミリアの部隊が遠征に行くことが増えていた。

「どうも、そのころの癖が抜けないようですね……」

 自分の顔に興味がない。そんな日々を送っていたことを思い出す。

(騎士団長になるまでは、それなりに家で着飾ったりもしていたのですが……)

 姿見で見ると、髪も伸び放題だ。そうだ。そろそろ髪を整えてもらおうと思ったが、この町で髪を切れる者はいるだろうか……。

「あと3日で整えようとしても、無理というもの。まあ、なるようになるでしょう……」

 とはいえ。貴族が集まる場に行くのだ。それも、伯爵家の代表として。ミリアはううん、と唸った。

 彼女は「そういった」貴族の生活から離れてしまっていた自分に対して、かすかに苦笑いを見せる。これが当たり前、これが普通。今の生活が馴染んでしまっている。それは、騎士団の遠征が長引いた時のような感触だ。

 けれども、今の生活も、騎士団の遠征のように終わりがすぐに来る。そうすれば、自分はレトレイド伯爵領に戻るのだ。あと2ヶ月で。帰ればきっと、毎日ドレスを身に纏い、社交界に出てあちらこちらの貴婦人たちとの会話を楽しむ日々が待っているに違いない。こんな風に髪の心配をすることもなく、毎日顔だって綺麗に化粧を施してもらえる。

 なんとなく、ミリアは「その日が近づいているのね」と思い、小さなため息をひとつついた。それも、無意識に。
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