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結婚式への招待
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ミリアはグライリヒ子爵家の別荘を、夕方近くに訪れた。そこには、傍系の一家が彼女を待っていた。彼女はそう親戚付き合いはよくなかったが、新婦のリリアナとその一家とは、幼い頃には結構親しくしていたものなので、今でも覚えている。
「ミリアお姉様! 来ていただき、ありがとうございます!」
「リリアナ嬢。ご結婚おめでとうございます。式にお招きいただき、光栄です。父の代理となりますが、よろしくお願いいたします」
ミリアよりも3歳若い彼女は嬉しそうに笑って、ミリアの両頬に軽くキスをした。そして、ミリアもそれを返す。
「さあ、ミリアお姉さまのドレスを選びましょう!」
「リリアナ、ミリア様はここまででお疲れでしょうから、お茶でもしてからにしなさい」
と、リリアナの母親が言うが、ミリアは「いえ、大丈夫です」と笑って彼女についていった。リリアナはずっと笑顔で別荘を案内する。
「ミリアお姉さまが来てくださるかどうか不安だったのですが、よかったです。レトレイドの叔父様から、もしかしたらミリアお姉さまが行くかも、行かないかも、と曖昧なお返事をいただいて……」
自分に連絡が来た日にちを考えれば確かにそう答えざるを得なかったのだろう。ミリアは苦笑いを見せた。
「あのね、お姉さま。グライリヒ子爵から、とてもたくさんのドレスをご用意いただいているの。きっと、お姉さまが気に入るドレスがあると思うわ」
そう言って、彼女はひとつの部屋にミリアを案内する。そこには、彼女が言うように多くのドレスがずらりと並んでいた。
「子爵令息とは、以前からのお付き合い?」
「いいえ。2か月前からの、政略結婚よ」
けろりと答えるリリアナ。
「子爵家に伯爵家の血筋が入ることを子爵はお喜びだし、うちとしては子爵家とは商売でお付き合いがあるから、当然と言えば当然のことだわ」
「そう、ですか」
「お姉様。そんな表情をなさらないで。貴族の家に生まれたからには、政略結婚で嫁ぐことぐらい、よくある話でしょう。それに、そのう、わたしが嫁ぐご令息、ガスパル様っておっしゃるんだけど、とても可愛らしい方なのよ。うふふ。政略結婚だけど、あなたを幸せにしてみます、って言って指輪をくださったの!」
そう言って、本当に嬉しそうにリリアナは笑った。その笑みを見て、ミリアは少しほっと胸を撫でおろす。だが、ほっとしたのもつかの間、安堵の息を吐きだしたものの、彼女の胸の奥にはまた別のとげが突き刺さっていた。
「お姉さまにお似合いの色は何色かしら。銀髪に映えるドレスがいいわよね」
リリアナは何も気にせずに嬉しそうにクローゼットに並ぶドレスを物色している。その姿を見ながら、ミリアは彼女の言葉を反芻する。
(貴族の家に生まれたからには、政略結婚で嫁ぐことぐらい……)
よくある話だ。そう思えば、本当に自分の父は自分を自由にさせてくれている。そう思う反面、では、怪我を直して伯爵家に戻ったら、それから自分はどうなるのだろうか。あまり考えないようにしていた未来のことがミリアの気持ちを煩わせる。
(怪我が治って、伯爵家に戻ったら……その次は、きっと政略結婚になるのでしょうね。わかっていることだけれど)
リリアナと話したことで、少し曖昧だった自分のこの先のことが見えた。いや、見えてしまった。それは、本当はわかっていて、目を逸らしていた未来の話だ。
いつまでも、伯爵家で長女がのさばっているわけにはいかない。まだ代替わりをするような時期ではないため、当分は長女として残っていることは出来るだろうが、それだっていつまでかはわからない。長男が爵位を継いだら、自分は家を出ることになるだろうし……。
「ミリアお姉さま?」
「……ごめんなさい、ちょっとだけ考え事をしていて。ああ、これはとても良いお色ね。このドレスがいいわ」
「ね。これとてもお似合いだと思うの。あなたたち! このドレスに合う装飾品を持ってきて頂戴!」
リリアナはそう言って使用人たちを煽る。それから、彼女はミリアに向き直って
「あのね、お姉さま、明日わたし、式に使うブーケをお姉さまにお渡ししたいのだけど、良いかしら?」
とにこにこと微笑んだ。
「えっ……」
「駄目かしら? だって、わたし、他に独身の女性を知らないの。ほとんどがグライリヒ子爵家の家門の人たちばかりだし、伯爵家からほかに来るのも、傍系の方々で、みなご結婚なさっているのよ」
結婚式のならわしで、最後に参列者に新郎と新婦が一輪ずつ花を手渡しながら退場をするという流れがある。それをミリアも知っていた。最近はそういうならわしにとらわれない者も多かったが、どうやら「それ」を行うようだ。
そして、選ばれた者には新婦からのブーケが手渡される。勿論、それは、次に結婚式をあげるのはあなた、という意味がある。
「でも、わたしは馬車ではなく馬でヤーナックに帰るので、ブーケをいただくわけには」
「馬車を手配するわ! ね、お願い、お姉さま! そうじゃなかったら、グライリヒ子爵側の、初めて会うよくわからない人に渡すことになっちゃうから!」
そこまで言われてしまっては、断れるものも断れない。ミリアは仕方なく了解したが、どうにも心の中にもやもやが広がって、明日の式を楽しみにする気持ちが半減してしまったのは事実だった。
「ミリアお姉様! 来ていただき、ありがとうございます!」
「リリアナ嬢。ご結婚おめでとうございます。式にお招きいただき、光栄です。父の代理となりますが、よろしくお願いいたします」
ミリアよりも3歳若い彼女は嬉しそうに笑って、ミリアの両頬に軽くキスをした。そして、ミリアもそれを返す。
「さあ、ミリアお姉さまのドレスを選びましょう!」
「リリアナ、ミリア様はここまででお疲れでしょうから、お茶でもしてからにしなさい」
と、リリアナの母親が言うが、ミリアは「いえ、大丈夫です」と笑って彼女についていった。リリアナはずっと笑顔で別荘を案内する。
「ミリアお姉さまが来てくださるかどうか不安だったのですが、よかったです。レトレイドの叔父様から、もしかしたらミリアお姉さまが行くかも、行かないかも、と曖昧なお返事をいただいて……」
自分に連絡が来た日にちを考えれば確かにそう答えざるを得なかったのだろう。ミリアは苦笑いを見せた。
「あのね、お姉さま。グライリヒ子爵から、とてもたくさんのドレスをご用意いただいているの。きっと、お姉さまが気に入るドレスがあると思うわ」
そう言って、彼女はひとつの部屋にミリアを案内する。そこには、彼女が言うように多くのドレスがずらりと並んでいた。
「子爵令息とは、以前からのお付き合い?」
「いいえ。2か月前からの、政略結婚よ」
けろりと答えるリリアナ。
「子爵家に伯爵家の血筋が入ることを子爵はお喜びだし、うちとしては子爵家とは商売でお付き合いがあるから、当然と言えば当然のことだわ」
「そう、ですか」
「お姉様。そんな表情をなさらないで。貴族の家に生まれたからには、政略結婚で嫁ぐことぐらい、よくある話でしょう。それに、そのう、わたしが嫁ぐご令息、ガスパル様っておっしゃるんだけど、とても可愛らしい方なのよ。うふふ。政略結婚だけど、あなたを幸せにしてみます、って言って指輪をくださったの!」
そう言って、本当に嬉しそうにリリアナは笑った。その笑みを見て、ミリアは少しほっと胸を撫でおろす。だが、ほっとしたのもつかの間、安堵の息を吐きだしたものの、彼女の胸の奥にはまた別のとげが突き刺さっていた。
「お姉さまにお似合いの色は何色かしら。銀髪に映えるドレスがいいわよね」
リリアナは何も気にせずに嬉しそうにクローゼットに並ぶドレスを物色している。その姿を見ながら、ミリアは彼女の言葉を反芻する。
(貴族の家に生まれたからには、政略結婚で嫁ぐことぐらい……)
よくある話だ。そう思えば、本当に自分の父は自分を自由にさせてくれている。そう思う反面、では、怪我を直して伯爵家に戻ったら、それから自分はどうなるのだろうか。あまり考えないようにしていた未来のことがミリアの気持ちを煩わせる。
(怪我が治って、伯爵家に戻ったら……その次は、きっと政略結婚になるのでしょうね。わかっていることだけれど)
リリアナと話したことで、少し曖昧だった自分のこの先のことが見えた。いや、見えてしまった。それは、本当はわかっていて、目を逸らしていた未来の話だ。
いつまでも、伯爵家で長女がのさばっているわけにはいかない。まだ代替わりをするような時期ではないため、当分は長女として残っていることは出来るだろうが、それだっていつまでかはわからない。長男が爵位を継いだら、自分は家を出ることになるだろうし……。
「ミリアお姉さま?」
「……ごめんなさい、ちょっとだけ考え事をしていて。ああ、これはとても良いお色ね。このドレスがいいわ」
「ね。これとてもお似合いだと思うの。あなたたち! このドレスに合う装飾品を持ってきて頂戴!」
リリアナはそう言って使用人たちを煽る。それから、彼女はミリアに向き直って
「あのね、お姉さま、明日わたし、式に使うブーケをお姉さまにお渡ししたいのだけど、良いかしら?」
とにこにこと微笑んだ。
「えっ……」
「駄目かしら? だって、わたし、他に独身の女性を知らないの。ほとんどがグライリヒ子爵家の家門の人たちばかりだし、伯爵家からほかに来るのも、傍系の方々で、みなご結婚なさっているのよ」
結婚式のならわしで、最後に参列者に新郎と新婦が一輪ずつ花を手渡しながら退場をするという流れがある。それをミリアも知っていた。最近はそういうならわしにとらわれない者も多かったが、どうやら「それ」を行うようだ。
そして、選ばれた者には新婦からのブーケが手渡される。勿論、それは、次に結婚式をあげるのはあなた、という意味がある。
「でも、わたしは馬車ではなく馬でヤーナックに帰るので、ブーケをいただくわけには」
「馬車を手配するわ! ね、お願い、お姉さま! そうじゃなかったら、グライリヒ子爵側の、初めて会うよくわからない人に渡すことになっちゃうから!」
そこまで言われてしまっては、断れるものも断れない。ミリアは仕方なく了解したが、どうにも心の中にもやもやが広がって、明日の式を楽しみにする気持ちが半減してしまったのは事実だった。
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