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23話 農地改革
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農家の方々との説明会は特に問題もなく終わった。皆さん興味津々だったようで、説明会の後、個々に私達に質問をする人が沢山いて驚いた。
今日はいちばん広い農地を持つカイさんの農地の土壌改良をする。他の農家の方々も見学に来る。
森に近いカイさんの畑は何度も魔獣の被害にあっている。収穫間近になって焼かれたり、踏み潰されたりした時は辛いさより呆然となったそうだ。
「息子達はもう、この領地で農業をやるのは無理だと出ていってしまいました。何度も被害を受けたせいで畑は痩せて力がない。でもなんとか作物を実らせ、利益を出して、息子達を呼び戻し、この地で一緒に暮らしたいのです。ここは先祖代々受け継いできた土地なのです」
「カイ、もう心配はいらない。必ず作物の実る土地になる。信じてほしい」
「信じます。領主様、奥様、お嬢様、お願いします」
カイさんは私達に頭を下げた。私が思っていたよりずっとこの領地の人達の傷は深い。回復魔法は心に効くのかどうかはわからないが領地全体に回復魔法をかけたくなった。
私は大きく深呼吸をして、カイさんの土地に手を置き魔力を込める。私の手から魔力が放出され縦にも横にも広がり、地中の奥深く流れていく。
地面がまるで生きているかのように勝手に動き始めた。カイさんや奥さん、見学に来ていた農家の皆さんだけでなく、アルトゥール様やマグダレーナもその光景を見て驚いているようだ。
土が変わってきた。土壌改良が粗方済んだようだ。
「次は私の番ね」
アンネリーゼはそう言うと、空に向かって両手を上げた。
「祝福!」
農地の上にだけ雨が降り始めた。雨水が農地に染み込む。
「これは祝福の雨、土壌改良した農地がより作物にとっていい環境になるように祝福の魔法をかけました。これで本来の作物が持つ栄養価や美味しさが倍増します。そしてすくすく育ちます。あとはカイさん達が愛情を持って、育ててください。愛は作物にとって何よりのご馳走です」
カイさんは農地に入り、土を触っている。
「す、凄い! 土が全く違う。この土なら作物が実る! みんなも触ってみろ!」
カイさんの言葉に他の農家の人達も農地に入り、土を触る。
「本当だ。凄い! うちもお願いします!」
「この土なら良い作物が育つ。領主様、奥様、お嬢様、ありがとうございます」
「早く! 早くうちもお願いします」
みんな歓喜の声を上げている。
「種や苗にも増強魔法をかけることができるので、必要なら言って下さいね」
私のそう言うと農家の人達は皆頷く。
「強固な結界は、もう破られる事などない。これで安心して仕事に励んでくれ。これからこのグローズクロイツ領内の全ての農地の土壌改良だけでなく、温室栽培や水耕栽培にも取り組む。果実の加工や綿や麻の栽培にも力を入れるつもりだ。皆で力を合わせ、良い領地にしよう」
「「「「はい!」」」」
アルトゥール様の声に皆も気合いが入る。
魔道具師達はアンネリーゼが提案した、農家が楽になる魔道具を開発している。
果実を育てて、果実酒や果実水も作り始めた。アンネリーゼがなんとかチートという魔法で、今まで見たこともない果実の種や苗を作り出し、希望する果物農家に配布をした。
アンネリーゼが前世に生きていたところではりんごと呼んでいた果物は、赤い皮で剥くと白い身がでてくる。しゃりしゃりとした食感。生でも、加熱してスイーツにしても美味しいらしい。
そして黄色っぽいみかんという果物は手でむいて食べられるもので甘酸っぱいらしい。
温室で育てられる苺というものは小さくてひと口でぱくりと食べられる甘い果物らしい。どれも実のが楽しみだ。
カイさんの弟のキースさんは今まで作っていた果物としてはあまり美味しくなかった葡萄を使いワインを作ることにした。
今までやっていたことを、魔法で発展させる者、新しいことを始める者、色々だが、皆楽しそうだ。
私達は今日の作業を終え、屋敷に戻った。
◆◆◆
「私、綿や麻を栽培して布地を作り、気軽なドレスを作りたいの。この地では、王都みたいなドレスはいらないでしょ?」
夕飯を食べながらアンネリーゼが言う。
ドレスか……。
「ドレスなら、領地の外れで以前、養蚕をしていた人達がいたけど、魔獣に襲われて辞めちゃったわ。またやってくれたら絹ができるから、貴族向けのドレスも作れるわね。ビアンカ様に夜会やお茶会で着て宣伝してもらったら売れるかもしれないわ」
義母は楽しそうに微笑む。
「私は前世でドレスメーカーで働いていたから、ドレスの作り方やワンピースなんかの作り方はレクチャーできますよ。領地の奥さん達の仕事にできるかもしれないですね」
アンネリーゼがぽつりと呟く。
「それと、趣味でお菓子を作っていたから、前世のお菓子を紹介することもできます。農業、服飾、そしてスイーツこのあたりに力をいれてみてはどうでしょう?」
アンネリーゼはどれだけ凄いんだ。
私は剣や、乗馬や、体術、魔術くらいしか教えられない、
アンネリーゼに弟子入りしようかしら?
今日はいちばん広い農地を持つカイさんの農地の土壌改良をする。他の農家の方々も見学に来る。
森に近いカイさんの畑は何度も魔獣の被害にあっている。収穫間近になって焼かれたり、踏み潰されたりした時は辛いさより呆然となったそうだ。
「息子達はもう、この領地で農業をやるのは無理だと出ていってしまいました。何度も被害を受けたせいで畑は痩せて力がない。でもなんとか作物を実らせ、利益を出して、息子達を呼び戻し、この地で一緒に暮らしたいのです。ここは先祖代々受け継いできた土地なのです」
「カイ、もう心配はいらない。必ず作物の実る土地になる。信じてほしい」
「信じます。領主様、奥様、お嬢様、お願いします」
カイさんは私達に頭を下げた。私が思っていたよりずっとこの領地の人達の傷は深い。回復魔法は心に効くのかどうかはわからないが領地全体に回復魔法をかけたくなった。
私は大きく深呼吸をして、カイさんの土地に手を置き魔力を込める。私の手から魔力が放出され縦にも横にも広がり、地中の奥深く流れていく。
地面がまるで生きているかのように勝手に動き始めた。カイさんや奥さん、見学に来ていた農家の皆さんだけでなく、アルトゥール様やマグダレーナもその光景を見て驚いているようだ。
土が変わってきた。土壌改良が粗方済んだようだ。
「次は私の番ね」
アンネリーゼはそう言うと、空に向かって両手を上げた。
「祝福!」
農地の上にだけ雨が降り始めた。雨水が農地に染み込む。
「これは祝福の雨、土壌改良した農地がより作物にとっていい環境になるように祝福の魔法をかけました。これで本来の作物が持つ栄養価や美味しさが倍増します。そしてすくすく育ちます。あとはカイさん達が愛情を持って、育ててください。愛は作物にとって何よりのご馳走です」
カイさんは農地に入り、土を触っている。
「す、凄い! 土が全く違う。この土なら作物が実る! みんなも触ってみろ!」
カイさんの言葉に他の農家の人達も農地に入り、土を触る。
「本当だ。凄い! うちもお願いします!」
「この土なら良い作物が育つ。領主様、奥様、お嬢様、ありがとうございます」
「早く! 早くうちもお願いします」
みんな歓喜の声を上げている。
「種や苗にも増強魔法をかけることができるので、必要なら言って下さいね」
私のそう言うと農家の人達は皆頷く。
「強固な結界は、もう破られる事などない。これで安心して仕事に励んでくれ。これからこのグローズクロイツ領内の全ての農地の土壌改良だけでなく、温室栽培や水耕栽培にも取り組む。果実の加工や綿や麻の栽培にも力を入れるつもりだ。皆で力を合わせ、良い領地にしよう」
「「「「はい!」」」」
アルトゥール様の声に皆も気合いが入る。
魔道具師達はアンネリーゼが提案した、農家が楽になる魔道具を開発している。
果実を育てて、果実酒や果実水も作り始めた。アンネリーゼがなんとかチートという魔法で、今まで見たこともない果実の種や苗を作り出し、希望する果物農家に配布をした。
アンネリーゼが前世に生きていたところではりんごと呼んでいた果物は、赤い皮で剥くと白い身がでてくる。しゃりしゃりとした食感。生でも、加熱してスイーツにしても美味しいらしい。
そして黄色っぽいみかんという果物は手でむいて食べられるもので甘酸っぱいらしい。
温室で育てられる苺というものは小さくてひと口でぱくりと食べられる甘い果物らしい。どれも実のが楽しみだ。
カイさんの弟のキースさんは今まで作っていた果物としてはあまり美味しくなかった葡萄を使いワインを作ることにした。
今までやっていたことを、魔法で発展させる者、新しいことを始める者、色々だが、皆楽しそうだ。
私達は今日の作業を終え、屋敷に戻った。
◆◆◆
「私、綿や麻を栽培して布地を作り、気軽なドレスを作りたいの。この地では、王都みたいなドレスはいらないでしょ?」
夕飯を食べながらアンネリーゼが言う。
ドレスか……。
「ドレスなら、領地の外れで以前、養蚕をしていた人達がいたけど、魔獣に襲われて辞めちゃったわ。またやってくれたら絹ができるから、貴族向けのドレスも作れるわね。ビアンカ様に夜会やお茶会で着て宣伝してもらったら売れるかもしれないわ」
義母は楽しそうに微笑む。
「私は前世でドレスメーカーで働いていたから、ドレスの作り方やワンピースなんかの作り方はレクチャーできますよ。領地の奥さん達の仕事にできるかもしれないですね」
アンネリーゼがぽつりと呟く。
「それと、趣味でお菓子を作っていたから、前世のお菓子を紹介することもできます。農業、服飾、そしてスイーツこのあたりに力をいれてみてはどうでしょう?」
アンネリーゼはどれだけ凄いんだ。
私は剣や、乗馬や、体術、魔術くらいしか教えられない、
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