24 / 50
24話 次の計画
しおりを挟む
次はアルトゥール様の発案で学校を作ることになった。
この国の貴族は16歳から3年間王都にある貴族学校に行く。
それまでに各家で家庭教師を雇い、勉強するので、特に学校に行く必要性は感じないのだが、あわよくば高位貴族に見初められ玉の輿に乗ろうとする家や、横のつながりを作っておきたい家などには嬉しいシステムかもしれない。
私は面倒なので最初に卒業試験を受け、飛び級卒業したので学校には在籍したことになっているが通ってはいない。アルトゥール様やコンラート様、ブルーノ様も飛び級組みらしい。
アルトゥール様は王都の貴族学校に行った時、あまりの無意味さに開いた口が塞がらなかったそうだ。
それなら辺境の地に学校を作ればいいと思ったが、行く者がいるのかと疑問に思い、他の忙しさにかまけ、そのままになっていたそうだ。
「私はこの地に学校を作ろうと思う。王都の貴族学校など行く意味が私にはわからない。それならここで専門的なことを学べる学校を作ればいいと思ったのだが、今まで忙し過ぎて着手できなかったのだ」
夕食のあと、みんなでサロンでお茶を飲んでいる時に、アルトゥール様が突然言い出した。
「しかし、この領地の貴族の人数は知れている。それに王都に行きたい者もいるのではないか?」
義父は眉をしかめる。
私は思っていたことを告げてみた。
「それなら、貴族とか平民とか関係なしにこの領地の者なら誰でも行ける学校にしてはどうですか? この地は王都とは違い貴族とか平民とかという垣根があまりありません。平民でも学びたい者は学校で学べるようにすれば、人材発掘にもなると思います」
「だったら……」
アンネリーゼが口を開いた。
「前世いた世界では、全ての人が小さい頃から学校のようなところに通います。そこで読み書き、計算など基礎的なことを習うのです。いっそ、この領地に学校を作るなら、貴族も平民も関係なく、全ての領民が平等に教育を受けられるようにしてはどうですか? そして16歳になった時に、王都の学校に行きたい者は行けばいいし、ここの学校に行きたい者は行く。選べるようにするといいと思います」
すごい。アンネリーゼの前世いた場所ってすごいわ。どんな子供もみんな学べるなら、みんなちゃんとした仕事につける。それ、絶対やりたい。
頷きながら話を聞いていたアルトゥール様が考えながらぽつりと呟いた。
「それいいな。16歳までに基礎を学べば、そこで働きに出ることもできる。それ以上学びたい者は、例えば騎士や、家令や侍女、ガヴァネスやチューター、医師や看護師、薬師、商人や技師など専門的な勉強ができる学校を作るのもありだな。他の領地の者も真剣に学びたいのであれば受け入れるのもいい。王都の学校は貴族しか入れないが、グローズクロイツ領の学校は身分問わずだ」
なるほどそれは良い。
「でも、金銭的な問題で通えない者もいるのではないか?」
「父上、それなら義務づけます。7歳から15歳までの9年間はグローズクロイツ領の子供は全て学校で学ばなければならないと。学費は無料にします。
家の事情で行けないという者はその事情を解決します。グローズクロイツ領の全ての領民は読み書き、計算ができる。働きやすく、暮らしやすい。今までは辺境の地というだけで、顔を顰められることが多かったが、これからは、皆に行きたいと思われるような地にしたい。そう思うのです」
アンネリーゼが説明をはじめた。
「いいと思います。そして、16歳からの専門的な学校も成績の良い物は授業料を無料にしたり、卒業したらそこで働くという約束をした者はそこから授業料を払ってもらったり、グローズクロイツ家が授業料を貸し出すというやり方などいろんなやり方で貧しい家の者も学べるようにしましょう。前世生きたい国ではそんな制度が色々ありました」
アルトゥール様やみんな目を見張る。
「貧しい家を無くさなくてはならないな。今まで、魔獣討伐に明け暮れていてできなかったことをやろう。リーゼ、父上とブルーノに、そういう色々な制度を話してくれ。父上とブルーノはそれを精査して、まとめて提案書を作ってくれ。よろしく頼む」
「承知」
ブルーノ様もやる気に満ちた顔をしている。
「それからもうひとつ」
アルトゥール様は人差し指を立てた、
「魔獣の被害は我が領地だけでなく、他の領地にもある。今までも討伐の手伝いを依頼されていたのだが、手が回らず断っていた。これからは騎士団をそんなところに派遣する事も考えている。そんな地に結界を張るのもいいと思っていたのだが、我が領地の結界と同じような強固な結界にするためには色々な条件があり、他の領地では難しいとアンネリーゼに言われたのだ。結界のことはまだ内密にしておけと国王陛下にも言われたし。それならば騎士団を派遣しようと思ったのだが、コンラートどう思う?」
「いいと思う。グローズクロイツの騎士は最強だからな」
コンラート様は胸を張りガハハと笑う。
最近は毎日こんな感じで家族で盛り上がっている。
◇◇◇
「ねぇ、リーゼ、うちと同じような結界って張るの難しいの? 条件って何?」
私は子供部屋でリーンハルトを寝かしつけながらアンネリーゼに聞いてみた。
「簡単よ。条件なんてないわ」
「でも、さっきアル様が……」
「そう言わないとお父様は人がいいから、いくらでも張っちゃうでしょ? 利用しようって思うやからもいるのよ。だからああ言ったの。他領地に張るなら、それなりの対価をもらって仕事にしなきゃ。善意でやってはダメよ。騎士団の派遣もビジネスにしましょう。そうやって稼いだお金で自領の領民達の教育やインフラ整備なんかに使えばいいのよ」
アンネリーゼは凄い。私はダメだわ。国中に張って、皆で幸せになればいいと思っていた。
「国王陛下が結界の事を内密にしろと言ったのも何か思惑があるのかもよ。とにかくうまく利用されないようにしなくちゃね。まずはグローズクロイツ領を豊かにしましょう。あの女が捨てたこのグローズクロイツ領を王都より栄えさせてみせるわ」
アンネリーゼはニヤリと笑った。
平気な顔をしているが、やはり、傷ついて、恨んでいるのだな。
「私はやられたらやり返すわ。あの女が悔しがるくらい私達は幸せになるのよ。協力してね」
するわよ。するけど。それより先にアンネリーゼの心を癒してあげたいな。
私はこっそりアンネリーゼの心に回復魔法をかけた。
この国の貴族は16歳から3年間王都にある貴族学校に行く。
それまでに各家で家庭教師を雇い、勉強するので、特に学校に行く必要性は感じないのだが、あわよくば高位貴族に見初められ玉の輿に乗ろうとする家や、横のつながりを作っておきたい家などには嬉しいシステムかもしれない。
私は面倒なので最初に卒業試験を受け、飛び級卒業したので学校には在籍したことになっているが通ってはいない。アルトゥール様やコンラート様、ブルーノ様も飛び級組みらしい。
アルトゥール様は王都の貴族学校に行った時、あまりの無意味さに開いた口が塞がらなかったそうだ。
それなら辺境の地に学校を作ればいいと思ったが、行く者がいるのかと疑問に思い、他の忙しさにかまけ、そのままになっていたそうだ。
「私はこの地に学校を作ろうと思う。王都の貴族学校など行く意味が私にはわからない。それならここで専門的なことを学べる学校を作ればいいと思ったのだが、今まで忙し過ぎて着手できなかったのだ」
夕食のあと、みんなでサロンでお茶を飲んでいる時に、アルトゥール様が突然言い出した。
「しかし、この領地の貴族の人数は知れている。それに王都に行きたい者もいるのではないか?」
義父は眉をしかめる。
私は思っていたことを告げてみた。
「それなら、貴族とか平民とか関係なしにこの領地の者なら誰でも行ける学校にしてはどうですか? この地は王都とは違い貴族とか平民とかという垣根があまりありません。平民でも学びたい者は学校で学べるようにすれば、人材発掘にもなると思います」
「だったら……」
アンネリーゼが口を開いた。
「前世いた世界では、全ての人が小さい頃から学校のようなところに通います。そこで読み書き、計算など基礎的なことを習うのです。いっそ、この領地に学校を作るなら、貴族も平民も関係なく、全ての領民が平等に教育を受けられるようにしてはどうですか? そして16歳になった時に、王都の学校に行きたい者は行けばいいし、ここの学校に行きたい者は行く。選べるようにするといいと思います」
すごい。アンネリーゼの前世いた場所ってすごいわ。どんな子供もみんな学べるなら、みんなちゃんとした仕事につける。それ、絶対やりたい。
頷きながら話を聞いていたアルトゥール様が考えながらぽつりと呟いた。
「それいいな。16歳までに基礎を学べば、そこで働きに出ることもできる。それ以上学びたい者は、例えば騎士や、家令や侍女、ガヴァネスやチューター、医師や看護師、薬師、商人や技師など専門的な勉強ができる学校を作るのもありだな。他の領地の者も真剣に学びたいのであれば受け入れるのもいい。王都の学校は貴族しか入れないが、グローズクロイツ領の学校は身分問わずだ」
なるほどそれは良い。
「でも、金銭的な問題で通えない者もいるのではないか?」
「父上、それなら義務づけます。7歳から15歳までの9年間はグローズクロイツ領の子供は全て学校で学ばなければならないと。学費は無料にします。
家の事情で行けないという者はその事情を解決します。グローズクロイツ領の全ての領民は読み書き、計算ができる。働きやすく、暮らしやすい。今までは辺境の地というだけで、顔を顰められることが多かったが、これからは、皆に行きたいと思われるような地にしたい。そう思うのです」
アンネリーゼが説明をはじめた。
「いいと思います。そして、16歳からの専門的な学校も成績の良い物は授業料を無料にしたり、卒業したらそこで働くという約束をした者はそこから授業料を払ってもらったり、グローズクロイツ家が授業料を貸し出すというやり方などいろんなやり方で貧しい家の者も学べるようにしましょう。前世生きたい国ではそんな制度が色々ありました」
アルトゥール様やみんな目を見張る。
「貧しい家を無くさなくてはならないな。今まで、魔獣討伐に明け暮れていてできなかったことをやろう。リーゼ、父上とブルーノに、そういう色々な制度を話してくれ。父上とブルーノはそれを精査して、まとめて提案書を作ってくれ。よろしく頼む」
「承知」
ブルーノ様もやる気に満ちた顔をしている。
「それからもうひとつ」
アルトゥール様は人差し指を立てた、
「魔獣の被害は我が領地だけでなく、他の領地にもある。今までも討伐の手伝いを依頼されていたのだが、手が回らず断っていた。これからは騎士団をそんなところに派遣する事も考えている。そんな地に結界を張るのもいいと思っていたのだが、我が領地の結界と同じような強固な結界にするためには色々な条件があり、他の領地では難しいとアンネリーゼに言われたのだ。結界のことはまだ内密にしておけと国王陛下にも言われたし。それならば騎士団を派遣しようと思ったのだが、コンラートどう思う?」
「いいと思う。グローズクロイツの騎士は最強だからな」
コンラート様は胸を張りガハハと笑う。
最近は毎日こんな感じで家族で盛り上がっている。
◇◇◇
「ねぇ、リーゼ、うちと同じような結界って張るの難しいの? 条件って何?」
私は子供部屋でリーンハルトを寝かしつけながらアンネリーゼに聞いてみた。
「簡単よ。条件なんてないわ」
「でも、さっきアル様が……」
「そう言わないとお父様は人がいいから、いくらでも張っちゃうでしょ? 利用しようって思うやからもいるのよ。だからああ言ったの。他領地に張るなら、それなりの対価をもらって仕事にしなきゃ。善意でやってはダメよ。騎士団の派遣もビジネスにしましょう。そうやって稼いだお金で自領の領民達の教育やインフラ整備なんかに使えばいいのよ」
アンネリーゼは凄い。私はダメだわ。国中に張って、皆で幸せになればいいと思っていた。
「国王陛下が結界の事を内密にしろと言ったのも何か思惑があるのかもよ。とにかくうまく利用されないようにしなくちゃね。まずはグローズクロイツ領を豊かにしましょう。あの女が捨てたこのグローズクロイツ領を王都より栄えさせてみせるわ」
アンネリーゼはニヤリと笑った。
平気な顔をしているが、やはり、傷ついて、恨んでいるのだな。
「私はやられたらやり返すわ。あの女が悔しがるくらい私達は幸せになるのよ。協力してね」
するわよ。するけど。それより先にアンネリーゼの心を癒してあげたいな。
私はこっそりアンネリーゼの心に回復魔法をかけた。
237
お気に入りに追加
3,040
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる